第二話 認知
ハルがトシオに襲われていた頃、場面はアーク側に移る。
アークはいつもどおり屋敷の裏庭にて午後の修練をしていた。
「とうっ!」
ブォンッ!
木製の模造剣が空を斬る。
彼の実力はもう他者にバレてしまっているので、最近はあまり遠慮していない。
空間を鋭く斬るアークの太刀は彼の剣術がパワーではなくスピード重視である事を示している。
一週間前と違うのはここでアークひとりだけが修練しているのではないことだ。
「そりゃっ! そりゃっ!」
アークの脇で我流の剣を振っているのはリズウィ。
彼は白魔女ハルによって所々の記憶を消されていたが、イアン・ゴート師のところでアークの披露した剣技までは覚えている。
あの現場では多数の目撃者がいたので、リズウィだけの記憶を消せば不合理が生じてしまう。
一度、本人がその不合理を認めてしまえば、消した筈の記憶が雪崩を打って蘇ってしまう事もあるらしい。
だからハルはリズウィの不合理になってしまう可能性のある記憶をそのままにしていた。
つまり、アークが素晴らしい剣術士であるという事実はリズウィの記憶にもしっかりと残っている。
リズウィがアークの剣術を認めているところはそのスピード、そして――どこの流派だか解っていないが――基本型がしっかりとしている事である。
我流のリズウィの剣はトリッキーな動きとパワーで今まで戦火を切り抜けてきた。
その実績から本番の戦いというイベントではアークにも負けないと自身で思っているが、それでもアークの技を目にして思うところがあったらしい。
こうしてアークが陰で修練しているのを聞きつけた彼は自分もアークの脇で同じように修練。
更に、最近はリズウィに加えてガダル、パルミス、シオン、アンナの勇者パーティが勢揃いだ。
これは先日の反乱事件が発端となっている。
あの反乱事件の時、彼らは非番だったという事もあり、全く活躍できなかった。
その事実が勇者パーティの上司的な立場である中央軍務司令補佐アトロス・ドレインにはあまり気に入らない様子だったようで、彼らは小言を貰っていたのだ。
活躍できなかった事を大いに反省した彼らは、こうして勇者の屋敷に集合し、リズウィの修練――この場合はアークの修練と言った方がいいのかも知れないが――に付き合っている。
「ふう。よくもまあ、そんな同じ動作が何度もできるもんだなぁ~」
アークが毎回決まった動作――所謂、型――しているのを半ば呆れでそう述べるのはリズウィだ。
「リズウィ君。飽きたかい? 別に僕の修練に付き合わなくてもいいんだよ」
「そうはいかねぇ。最近、アークさんにばかりに手柄を奪われているんだ。とことん付き纏ってやるぜぇ!」
リズウィはそう言うが、アークはその本当の理由をハルから聞かされている。
(私達は疑われている。白魔女と漆黒の騎士の正体がバレかかっている・・・)
そんなことだから、アトロスから四六時中アークの傍に居ろと命令を請けたのだろうと思っている。
その命令を受けたのは勇者パーティだけではない。
アトロス直属の部下であるリューダにも当然に同じ命令が下っている。
リューダは前にも増してアークの傍にいる機会が増えた。
そして、その彼女は・・・
「はぁ・・・」
フラフラになっていた・・・
いつもクールなリューダであるが、あからさまに今日の修練は彼女にとって厳しいのを隠せない。
「リューダさん。息が乱れています。僕に合わせずとも遠慮なく休んでください」
アークが疲れの隠せないリューダを労う意味で彼女の肩にポンと手で叩く。
そうすると、木刀がすっぽ抜け、どこかへ飛んで行ってしまった。
「あ・・・アークさん・・・申し訳ありません」
リューダは五分前にも同じ指摘をアークから受けたばかりだ。
「リューダさんは魔術師なのだから、無理して僕ら剣術士の修練に付き合わなくても・・・休憩した方がいいですよ」
「いや、駄目です。私も身体を動かして体力をつけておかないと情報部員としての務めを果たせないので・・・」
リューダはアークから提案された休憩を断り、修練を続けようと木刀を拾いに行く。
元々魔術クラスである彼女は剣を振るうなど体力面からして苦手で当たり前である。
しかし、今日はリューダ自身の希望もあり修練に参加していた。
それは身体を動かす事で、彼女の心の中にある不安を忘れたいという願いもあったようだ。
彼女の弟シュナイダーはまだ敵の支配魔法を受けたままの状態であり、失踪中であったからだ。
その結果、リューダは急に孤独を感じるようになってしまった。
父親が殺されて、失意の元、故郷を離れたリューダにとってシュナイダーとは唯一の身内。
急に引き離された事で、これほどまでに不安に苛まれるとは自分でも予想していなかった反応である。
そんな不安を感じたリューダは自分がこれほど弱かったのか、と本人が一番驚いている。
そんな失意の彼女だが、不思議な事にアークの元で一緒に身体を動かしていると、その苦しみが和らぐのだ。
特にハルのいないこの瞬間、その効果は大きい。
(私ってアークさんに依存し始めている? 私って本当にアークさんに恋しているのかしら?)
そう考えると、顔が赤くなる。
まるで一途な想いを募らせる乙女のような反応をしてしまう自分自身が急に恥ずかしくなる。
「ええぃ!」
甲高い発奮をしたリューダはここぞとばかりに木刀を一振る。
それは自分の中で生じた煩悩を断ち切るような太刀。
「おおっ、リューダさん、鋭い! このままじゃ、アークさんの影響で魔法戦士にクラス替えしちまうかもなぁ~ 姉ちゃんが居ない間にこの不倫野郎めっ!」
リズウィがふざけてそんな事を言う。
リューダもそれを聞いて、不意にアークと自分が夫婦となってしまったことを想像してしまう。
手をつないだ夫アークと、そして、自分の幼子を抱いた自分・・・そんな未来を想像すると心が熱くなってしまう。
(駄目よ、リューダ。彼は監視対象者。私が夢中になってはいけない相手だわ!)
自分に与えられた仕事を思い出し、無理やりそう考えて、自分の顔がニヤついていないか気になる。
「えいっ、えいっ、えいっ!」
余計な事を誤魔化すように木刀を力一杯振る。
ブンッ、ブンッ、ブンッ!
「おっ! いい振りだ」
その姿を見たガダルがリューダの太刀を褒める。
「何を褒めているのよ! 人の事を見てないで自分もしっかりとやりなさい!」
アンナがガダルにサボるなと指摘する。
そのアンナ自身はとっくに修練を止め、自らは魔術師だからと諦めていたのは、正に自分の事は棚上げ状態であったりする。
「それにしてもリューダさんが、ここまでアークさんの影響を受けるなんてねぇ・・・」
人の事をよく観察しているアンナはリューダの淡く抱いているかも知れない恋心の存在を察知していた。
もし、これを演技としてやっているならば、情報部の女性として彼女は超一流だと思う。
その可能性も捨てきれなかったが、それでもやはりとアンナは女の勘で、十中八九リューダはアークの事を本気で好いていると思った。
女子とは他の女子がどの男子を好きか、そんな感覚には鋭いものである。
同じく修練に参加していたシオンがアンナに目配せを送る。
アンナは合図に気付きシオンの近くでヒソヒソ話を始めた。
「リューダさんて、アークさんを狙っているのでしょうか?」
「シオンにも解る? まあ、あからさまよね~。それでもリューダさんは情報部の女よ。おそらく上から命令を請けてアークさんを誘惑しようとしているんだと思うけど・・・」
「本当にそうですか? 私には本当に愛情が芽生えているように見えます」
「だよねぇ~。私にも命令抜きでアークさんを好きになっているように見える。確かにアークさんは紳士だけど、私ってあの人苦手なのよねー」
「アンナは下品・・・いや、活発なリズウィさん推しですから。ジャンルが違うのでしょう。リューダさんはどこかの王族出身だと噂に聞きます。アークさんのように上品な人を好きなってしまうのは解るような気がします」
聞きようによって少々失礼な事を言うように聞こえるシオンからの指摘だが、アンナはその意見で大いに納得してしまった。
それほどにリューダがアークに好意を抱いている姿は同性から見ても解り易い。
「ケッ、アークさんの野郎・・・モテやがる!」
ヒソヒソ話が聞こえたリズウィはそんな愚痴を言う。
彼はアークがモテるのを心のどこかで許せない。
「あら、リズウィ、妬いてるの?」
アンナはふざけてそんな事を述べる。
「うっ、うるせぇ!」
リズウィは揶揄われたと思い、すぐに機嫌を悪くする。
そんなある意味彼らの日常であったが、ここでアークに突然の変化が・・・
「うっ・・・!」
突然の衝撃が彼の心を襲い、前後不覚となり、ふらついて木刀を落としてしまう。
「えっ? アークさん、どうされました? 大丈夫ですか?」
近くのリューダはアークの異変に気付き、ふらつくアークを支えた。
見ればアークは顔面蒼白・・・急に具合が悪くなってしまった。
「・・・」
「アークさん? アークさん!」
「・・・だ、大丈夫・・・です」
突然の事で慌てるリューダだが、もう大丈夫だとアークは気を持ち直す。
「どうしたのですか?」
「・・・解らない。上手く説明できない・・・だけど、もう大丈夫・・・」
アークはハッキリと説明しない。
それもその筈、ここでハルとの心の共有が途絶えたからだ。
いろいろ考えを巡らすアークだが、今は変に慌てる訳にもいかない。
アークは立ち上がって、注目の集まった皆に自分が健全である事を示した。
「ちょっと激しい修練を続け過ぎたようです。本日はもう終わりにしましょう」
「ケッ、これぐらいで立ち眩みが起きるようじゃ。鍛え方が足んねーんだよ!」
リズウィは皮肉を言うが、それにリューダが抗議した。
「リズウィさん! そんな事を言ってはいけません。アークさんは連日活躍していますから、疲労が蓄積しても不思議じゃありません。適切な休養も剣術士には必要な事です。さあ、アークさん、休憩しましょう。私がお茶を淹れて差し上げます」
リューダはそう述べてアークの腕を率先して引き、こうしてこの修練は強制終了となった。
彼らは屋敷のリビングへ移動して休憩する事となった。
それまで屋敷の敷地内で別行動していたローラ、サハラ、スレイプ、ジルバ、シーラにも声を掛けて、今は広いリビングで一同に介して休憩と歓談をする彼ら。
彼らは一時結成していた星屑劇団の仲間でもあり、リューダやこの屋敷の使用人とも仲が良い。
リューダの宣言どおり自らが動いてお茶を淹れ、各人がその味を愉しんでいると、そこにユミコと執事が入ってくる。
「隆二、アナタにお客さんよ!」
「え? 俺に?」
それまで「体力のない奴め!」と散々にアークを揶揄っていたリズウィが、その話を止めて立ち上がった。
アーク以上に機嫌の悪くなったリューダが額をピクピクとさせていたので、絶妙なタイミングだと思うアンナであったりする。
「誰が、何の用事だ?」
「フェミリーナ・メイリールさんとそのご家族が来られています。この書面を渡されて、重要なお話があると言われました」
執事はそう言いひとつの封書をリズウィへ渡した。
それを受け取ったリズウィは封を切り、書面を確認するが、彼もゴルド語の文字は理解できない。
立ち位置がたまたま近くのアークが代表してその書面に目を通したが、そこには衝撃的な事が書かれてあった。
「リズウィ君! こ、これは・・・妊娠証明書だぞ!」
「えっ?」
それまで和んでいた雰囲気が一瞬にして凍り付く。
特にアンナは顔面蒼白。
「嘘でしょ・・・」
彼女は現実を受け入れられない様子だった。
当然ながら、母親であるユミコはこれで相手の家族総出でここに来た理由をすぐに察する。
「まったく、隆二、アナタは何をやっているの! 早く、相手方のご家族をこちらに呼びなさい」
こうして、フェミリーナ・メイリールとその家族は急遽、来客用の応接へ通される事となる・・・
その来客用の応接室には当事者のリズウィとユミコ、そして、相手方のフェミリーナ・メイリールとその父母の全五名で話し合いが始まった。
そこは静かな会談であり、外に声が漏れる事は無かったが、それが逆に密室内で何が話し合われているのかが気になる。
特に気が気でないのはアンナ・ヒルトだ。
「これって、なんかの間違いよね・・・」
アンナが祈るようにそう述べる相手は幼馴染のシオンに対してだ。
彼女は首を横に振る。
「残念ながら、リズウィさんはフェミリーナさんと肌を重ねた事実があります。これで妊娠証明まで見せられれば、言い逃れできないでしょう」
「そんなっ!! だって、リズウィは私の彼氏よ。私と一緒になる運命は決まっているの! それをあんなどこの馬の骨とも解らない女に取られるなんて・・・」
「メイリール家は名門です。アンナさんのお父様の専属秘書に就任されていた女性もフェミリーナさんの姉・・・王国ではそれなりの立場を持つ家系。それにあの妊娠証明書は神殿が発行した正式なもの。覆す事も難しいでしょう」
「・・・くっそう!」
それを聞き更に苛立つアンナ。
ここでシオンはその妊娠証明書を発行した教会について、あまり良い噂を耳にしていなかったが、その情報をアンナに希望を与えるのは躊躇した。
それは不確定な情報でもあり、希望的観測でアンナに間違った希望を与える事は危険だと判断したからだ。
そんな訳でアンナは失意の底・・・と言うよりも怒りで腸が煮えくり返っている。
これで、自分が狙っていた勇者の妻という座をまんまと他者に取られてしまうのだから。
「これって修羅場よねぇ~。勇者はどんな選択をするのかしらぁ?」
「さあ? 私は興味がない。誰かが誰と番になろうと、それは人間として自然な摂理であり、通常の繁殖活動の範囲内だ。そうやって人間は増えていく・・・ただそれだけである」
他人事のように面白がったり逆に無関心でいられるのはシーラとジルバのふたりである。
彼らの意見は腹立たしくも聞こえるが、このふたりは普段から通常の人間の感覚よりも超越した別の次元にでもいるような話を時々するので、居合わせた人々は「またか・・・」と思うぐらいである。
こうして、重い話し合いは終わり、ドアが開かれる。
密室から出てきたリズウィとフェミリーナの顔を見ると、それは対照的である。
フェミリーナは晴れやかな笑顔であり、対するリズウィは思い悩んだ暗い顔をしている。
この交渉で、誰が勝者で、誰が敗者なのかは一目で解る構図であった。
それでもアンナは事実を言葉で確かめる。
「リズウィ! どうなったのよ!!」
鬼の形相で迫る彼女に対し、リズウィは弱弱しく事実だけを手短に述べる。
「アンナ・・・ごめん。俺は・・・」
「いい。それ以上言わないで。その先の言葉なんて私は聞きたくないわっ!!」
パシンッ
そして、リズウィは彼女に打たれた。
それは当然の仕打ち。
リズウィもアンナに打たれる事を受け入れている。
それは今回の交渉結末を暗に語っていた。
フェミリーナ・メイリールとの間にできた子供を勇者リズウィは認知し、彼女を妻として認め、婚姻する事に合意したのだと・・・
だからアンナの怒りは収まらない。
彼女の次の標的は相手の女性――フェミリーナに対してだ。
「こ、このーーっ! 下種女ぁーーーーっ!」
ここでアンナの平手打ちには火炎が宿っていた。
強烈な怒りが彼女の炎の魔法を具現化させたのだ。
そんな平手打ちなど受けてしまえば只では済まない。
「止めろ。アンナっ!」
「キャッ!」
パンッ!
冷静を失ったアンナに止めろと言うのはリズウィだが、殺人級の彼女の平手打ちを実際に止めたのはアークであった。
シューーーッ
「アンナさん、止めてください!」
アンナの怒りの炎がアークを焼くが、彼の魔力抵抗体質の力によってその魔法は黒い霞へ分解される。
危ないところだった。
あと数歩後ろにアークが離れていたならば、アンナを殺人者にするところだった。
肝を冷やしたのはフェミリーナ本人とリズウィ。
しかし、これでフェミリーナが危惧していた最大の障害を乗り切った事になる。
「アンナさん。申し訳ありませんけど、私とリズウィさんの婚約は成立しました。アンナさんは私の事を嫌いになるかも知れませんけど、私はそうでもありません。ですから、第二夫人の座で我慢してください」
フフと浮かべる笑みは、どこか挑戦的であり、敗者のアンナの心をひどく揺さぶる。
「私が第二夫人ですってぇ! ふざけんなっ! この女、ぶっ殺してやるっ! 離せっ!」
「止めるんだ。アンナさん、冷静になって・・・リズウィ君も彼女を止めて」
アークはそう応え、まだ固まっているリズウィにアンナを落ち着かせろと言う。
「アンナ・・・本当にゴメン。でも、俺はこうなっちまった事の責任を果たさないといけないんだ・・・」
勇者がアンナにそう述べる姿は情けなかった。
アンナはそんなリズウィの姿なんて見たくない。
彼女は・・・泣いた。
「うぅぅ。リズウィ・・・やっぱ、アンタって大馬鹿よ。そのフェミリーナと寝たのは何回よ。たった一回じゃない。不公平よ。私なんか何回もアンタと寝たのに・・・どうして、どうしてよっ!!」
まだ納得のいかないアンナ。
「アンナさん。ちょっと落ち着きましょう」
ここで彼女を落ち着かせてようとするのは幼馴染のシオン。
彼女はアークが抑えていたアンナの手を引き継ぎ、別の部屋へとアンナを導きこの場から去っていく。
負けた女性の哀れな退場。
それを心の中であざ笑っているのはフェミリーナ・メイリール。
本日の全てが彼女の描いた筋書き通りに進んでいる。
最大の難関は今のリズウィの彼女であるアンナ・ヒルトの存在であった。
最悪、自暴自棄にかられて殺されてしまう危惧もあったが、それを守ってくれたアークには感謝しかない。
「ありがとうございました。興奮したアンナさんを止めてくれて」
「いいえ。そよりも体調に変化はありませんか?」
「大丈夫です。おなかの中の子供も無事です」
「解るのですか? 見たところ、まだ大きくなっていないようですが・・・」
「ええ。それはまだ妊娠初期ですからね」
そう簡単に応えるところに少し違和感を得るアークであったが、ここで何かを言うつもりは無かった。
「もう少しすれば、アークさんのことを義兄と呼ぶことになりそうです」
「・・・そうですか・・・」
ここで笑みを浮かべるフェミリーナの顔を見て、一瞬彼女から邪悪な気配を感じてしまったが、それは気にし過ぎだとアークは思った。
アークにしてもアンナとはそれなりに付き合いのある女性である。
無意識にアンナの肩を持ってしまうのも人情からくるものであると思う。
もし、義弟が本心でフェミリーナを選んだとするならば、それをサポートするのも義兄の役割だと思った。
そんな修羅場だったが、ここでこの雰囲気を一新する新たな情報が入ってくる。
ジリリリ!
それはリューダの持たされている魔法の連絡魔道具からの呼び出し音である。
それは高価な魔道具ではあるがボルトロール軍の高官に配給されている魔道具。
「はい。リューダです」
それは軍本部から連絡が来たのだろう。
普段は隠れた場所で受信応答するのだが、今は反乱組織に即応するための特別体制中だ。
リューダは隠さず直ぐに応答対応する。
「はい・・・・解りました」
そして、すぐに通信を切った。
リューダの顔色は引き締まっており、今来た連絡が普通の連絡ではない事の表れである。
そして、彼女の声がこの修羅場となっていた重い雰囲気の場に転換点となる。
「こんな状況で、誠に申し訳ありませんが、皆さん、力を貸してください。反乱組織『名もなき英傑』の潜伏先が解りました」




