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第一話 帰ってきたローラ

 ハルが研究所に潜入してから一週間後の夜、エクセリアに一時帰国していたローラとジルバが戻ってきた。

 そして、ハル達は互いの情報公交換のため、その日の夜のうちに密談のできる部屋へ集まる・・・

 

「ローラさん、ジルバ。お疲れ様。痩せた?」


 ローラがげっそりしているのを目にしたハルから思わずそんな事を問う。

 

「ええ、ハルさん。本当に疲れました・・・」


 ローラにしては珍しく弱音を吐く。

 それほどまでに今回の彼女は疲弊していた。

 その理由はこうだ。

 

「エクセリアに辺境を超えたエルフ達が到着していて、彼らは交易の代表団として訪れていたのですが、その代表の座を妹のシルヴィーナが乗っ取っていました。そして、彼女は横柄な態度で人間と交渉していました。私は彼女を諭して、本来の交渉代表者に権限を戻し、そして、エクセリア国南部スケイアにエルフ経済特区を開設できたのを見届けて、ようやく戻ってきました」

「その話、情報多過ぎねぇ~ ・・・やはり前情報どおり、妹のシルヴィーナさんがいたようね」

「はい・・・しかもそこにエストリア帝国の第一皇女シルヴィア・ファデリン・エストリアが絡んできて・・・」

「えっ!? あのお転婆皇女様、まだ帝国に帰っていなかったの!? 名前もシルヴィーナさんに似ているから余計に面倒くさい」


 嫌な顔になるハル。

 第一皇女シルヴィアとハルはそれなりに顔見知りであった。

 エクセリア国の結婚パーティで彼女に絡まれた経験が過去にある。

 第一皇女シルヴィアは勝気な女性であり、ハルとしてはあまり相手にしたくないのだが、向こうは何かと顔出しをしてくる女性であった。

 帝王デュランの計らいで黄色仮面を譲った相手のひとりでもあり、あまり放置できない相手でもあるから付き合わざるを得ない・・・

 非常に面倒な女性だと思っている。

 

「はい。人間とエルフ間の問題を自分が解決してやろうとして、火に油を注ぐ結果になって・・・本当に大変でした」


 そんなローラのげっそりした様子からこの調整が如何に大変だったかが想像できる。

 

「なるほど、詳しく聞かなくても大体想像できるわ。私がエクセリアに戻った時、きつく(・・・)抗議しておきましょう」

「そうして貰うと助かります。現在、あの(・・)皇女に説教できるのはハルさんぐらいですから」

「そうね。帝王デュラン陛下や第一第二皇子はもう帰ってしまったからね」


 呆れと共にそんな事を言うハル。

 ここで事態の推移を傍観していたジルバもそれが良いと言う。

 

「うむ。私も彼女には意見できなくないが、ここで私が前に出てしまうとエクセリア国の上層部が委縮してしまうのだ」


 その台詞にハルが納得を示す。

 

「当り前よ。銀龍が怒っている・・・と解れば、国家間の問題に発展するわ。エクセリア国は良くても、エストリア帝国の中にはエストリア国の失敗を喜ぶ人もいるそうよ。それを口実に国交断絶とか言い出しそうだしね」

「浅ましい人間の考える事よな」

「それも人間だわ。弱き者の宿命なのよ」


 銀龍ジルバの力はあまりにも強い。

 か弱き人間から見れば、それは神にも等しい存在。

 人間の力ではとても太刀打ちできない。

 だから銀龍から怒りを買うのを恐れる。

 しかし、それは人にとって必要な恐れであるとハルは思う。

 銀龍が存在していれば、権力者の中でも傲慢な考えに至る者は少なくなるだろう。

 うまく活用できれば、抑止力としてエクセリア国やエルフ達には有利な状況が得られる筈だ。

 そんな政治的な事を考えてしまうハルであった。

 

「こちらの状況も報告するわね」

「そうですね。ハルさんは研究所に侵入していたんですよね」

「そうよ。どこから話そうかしら・・・」


 話す順番を少し迷うハル。

 しばらくして整理のついたハルは話をまとめて現状を簡潔に説明した。

 

「研究所には同胞が約百名所属していて、今のところ転移事故からの落伍者や死亡者はいなかったわ」


 それはトシオより聞き出した情報である。

 

「研究所ではやはり兵器開発をしていた。その兵器開発を主導しているのは魔法技術研究をしている第二研究室と、機械技術研究を進める第三研究室ね。それ以外は周辺技術や社会維持組織だわ」

「社会維持組織?」


 聞き慣れない言葉にキョトンとするローラ。

 

「ええ、社会維持よ。彼らは研究所と呼ばれる組織をサガミノクニの小社会に見立てて、この世界の中にサガミノクニの文化を再現させているわ。その主たるところが食文化よ。それ以外に衣食住の環境をこの異世界で再現しようとしている。まだよく解っていないけど、彼らなりの法律やそれを守らせようとする自治組織もあるらしいわ」

「それは・・・小さな世界として維持されている組織ですね。よほどそのリーダーが優秀なのでしょうか?」

「そうでもなさそうよ。所長の風雅(ガザミヤ)は、研究所創立時にはいろいろと口を出していたようだけど、最近はメッキリと影が薄いようね。彼らはリーダーなどいなくても自発的に組織だった協力活動ができる集団だと思うわ」

「俄かには信じられません。組織をまとまるためには強力なリーダーの存在が必要ですよ」

「こちらの世界常識ならばローラさんの考えが正しい。しかし、私達の世界ではよく言われる事よ。サガミノクニの人々は元々が農耕民族だからとかいろいろと言われるけど。本当のところは私達にもよく解らない・・・だけど、私達サガミノクニを初めとした東アジア民族は集団生活を維持するため自発的に協力できるところが得意な民族だと良く言われる」

「そうなのですか・・・それは少し羨ましいですね」


 ローラは遠い目をしてそんな事を述べる。

 それは自分達エルフという種族が閉鎖的であり、今まで特に白黒エルフの差別意識が強いことを嘆いていた事もあるからだ。

 今回、エクセリア国に行った時もエルフへの対応でその独特の差別意識に苦労したばかりである。

 自発的に協力できる民族・・・その存在自体が羨ましく映る。


「ええ、だから私は彼ら全員をエクセリアに連れて帰りたいわ。今は兵器製造に協力しているのも、きっとこの王国で自分達の立場を得るために仕方なくやっているのだと信じているから・・・」


 ハルは故郷の人々が善なる存在である事を願っている。

 ここでハルの考えを大きく支持したのは、やはり夫のアクトである。

 

「ハルがそう思っているならば、僕もそれを信じる・・・だけど」


 しかし、彼はここでひとつだけ気になる事を敢えて聞いてきた。

 

「たげど・・・そのトシオって男だけは気になる。本当に仕方なく兵器を開発しているのかい?」


 そんなアクトからの指摘にハルは笑って誤魔化す。

 

「嫌ねえ~ アクトったら、彼に妬いているの?」

「・・・」

「トシ君は良い人よ。今の彼の心は私の魔法でも良く見えないけど、きっと大丈夫。魔力が観察できる能力を持った事で私の魔法が上手く通らないのだと思う・・・しかし、彼の心の綺麗さは私が保証しているから」

「・・・それを心配しているんだ」

「やっぱり、妬いているみたいね。でも安心して。私の中の一番はアナタよ」

「ああ、それは疑っていない・・・だけど」


 それでも不安なアクト。

 ハルから聞くトシオの様子にアクトの勘が無意識のうちに警鐘を鳴らしているのだ。

 しかし、そんな悪い予感はすぐに当たる事もなく、ハルの中でトシオは救うべく人間のリストに入っていた。

 こうして、ハルの研究所潜入はまだ続く事になる。

 ここで最近見えている変化としては、翌日よりハルの送り迎えがシュナイダーへと変わり、リューダがこの屋敷で待機する事になっただけである・・・

  


しばらくはハルの勤める研究所から目線が離れて、アクト側のターンとなります。


2022年2月25日


この部話でローラとジルバがひと仕事終えてハルとアクトのもとに帰ってきました。彼女達は一章分この地にはおらず、エクセリア国にて素晴らしい活躍していました。特にローラは結構活躍しています。その話自体は本編で重要度が低いため、話をスムーズに進めるため割愛する判断をしていますが、物語的には面白い内容であったりします。これについては今後、外伝などで披露したいと企んでいます。準備ができれば別途ご連絡いたしますので、密かに期待しておいてください。



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