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第五話 魔道具師の活動

 研究所の臨時職員として採用が決まったハルは一旦屋敷へ帰る。

 研究所内での共同生活も勧められたが、ハルはアクトと結婚しており、それを理由に屋敷で夫婦生活を満喫したいと希望をしてみれば、それが認められた形だ。

 こうして異邦人の中でハルだけが外部の屋敷から通勤する事を許された。

 そんな状況の中、次の日、研究所への通勤の最中・・・


「本当に申し訳ないわね」


 ハルからそのような言葉をかけられたのは、通勤馬車の御者をするリューダである。

 

「いいえ、これも警備の仕事ですので」

「リューダさんには朝早くから夜遅くまでお世話になりっぱなしね。これからもよろしく」


 ハルがそう応えるのも多少に嫌味も混ざっている。

 リューダは彼女の上司から自分やジルバ達を監視しろと命令を請けているのは解っていた。

 その監視対象であるハルは自分の技量でリューダ達の監視の眼を躱せると判断しているので、もう好きに探らせるようにしていた。

 その方がハル達は動き易かったし、今のところボルトロール王国の利益を損なうような行動はないとリューダが判断しているようであり、これ以上警戒を抱かせないためにも不自然な拒否はしていない。

 

「ええ」


 そして、応えるリューダは少し寝不足だ。

 それは彼女がジルバも監視しているのだが、そのジルバの部屋にはシーラが夜な夜なやって来て、彼女から求められて夜の活動が始まってしまうらしい。

 リューダはその行為に興味津々となっているようであり、どうやら覗きを率先して行っているようであった。

 その覗きの行為とは、現代で例えるとアダルトビデオを見る感覚に似ているのかも知れないとハルは思う。

 

(あぁ・・・リューダさんが変な娯楽に目覚めなきゃいいけど・・・)


 そんな下世話な事を心配するハルであった。

 こうして、寝不足気味のリューダが御者を行うが、多少居眠りをしたところでほぼ自動運転で進む魔動馬車はハル達を研究所へ安全に送り届けてくれる。

 そんな状況の中で、ハルの研究所勤務が実質的に始まった。

 

「おはようございます。グロートさん、レイチェルさん。本日からよろしくお願いします」


 職場に指定された第四研究室に入ったハルはここで改まり朝の清々しい挨拶をする。

 グロートとレイチェルは(関係が良いか悪いかは別にして)既に顔馴染みであるが、この研究室を統括する室長とは本日が初めての顔合わせとなる。

 その室長とは少し肥満気味の髪が薄い男性であり、鈴木(スズキ)(アキラ)博士と言う名前だ。

 見た目から人の良さそうな笑みを浮かべるスズキ博士は新職員となったハルに歓迎の意向を示した。

 

「うん。君は優秀な魔術師のようだけど、それでも江崎教授の長女らしいね」


 スズキ博士はそう言うが、ハルが江崎家であることに大きな問題を感じている訳ではないようであった。

 

「そうです。それは否定しません。あの転移事故でひとりだけ飛ばされて、これまでエストリア帝国で生きてきました」

「その話はとても興味深いね。エストリア帝国ってボルトロール王国よりも教育の進んだ国として聞いているからねぇ~」

「ええ、そうです。帝国の教育制度は充実していました。初等・中等の義務教育、高等・大学の高等教育が整備されています」

「ほう、それは現代教育とほぼ変わらない教育体制じゃないか。まさかハルさんは大学にまで進学していたんじゃないだろうね?」

「進学できた訳ではありませんが、一時期、帝都大学に研究補助員として在籍していました」

「おお、それは本当に興味深い話だ。こちらの世界の大学の話も聞かせて欲しいよ」

「私が帝都大学に在籍していた期間は三箇月ほどです。それもアルバイトのような経験です。博士にあまりお話しできるような内容は無いと思います・・・」

「それでも僕はハルさんに興味あるよ。あ、この世界を広く見てきたアナタの経験を聞きたいという意味だよ。これでセクハラしたなんて言わないでくれよ。アハハハ」


 そう陽気に笑うスズキ博士は本当にハルが江崎家出身である事を本当に不問にしているようであった。

 心を観る事のできるハルからしても、このスズキ博士が悪い人間とは思えない。

 そんな彼と対照的に硬い表情を崩さないのが実務担当の魔術師グロートである。

 

「ともかく、ここに採用されたからにはハルさんにも働いて貰わねばなりませぬ。優秀であるところを証明して貰う必要がありますな」


 少し意地悪な声でそう苦言を呈するグロート氏。

 それを聞いたスズキ博士はハルにあまりきつく言うなと助け舟を出す。

 

「という訳だ。ハルさん。ひとつよろしくお願いするよ。我々サガミノクニの人々はこちらの世界に来てもう六年も経つと言うのに『魔法』という学問に対して余りにも無知なんだ。現時点でもこの魔法の力を理解しているのはトシオ君ぐらいなのだから。素材製作についても、高度な機械が手に入らないこの世界の現状においては魔法による精錬の力だけが頼りだよ。我々の知識や要求が上手く現地人の魔術師に伝えられないもどかしさもあるので、そういった部分も含めて私達を助けてくれると助かるよ」


 ここでスズキ博士からの要望は切実なものを感じさせられた。

 

「解りました。私の力が及ぶ限りここで頑張らせて貰います」


 ハルはそれを快く引き受け、そして、仕事が始まる。

 

「本日の素材制作依頼内容はこれだ」


 グロートはそう言い素材の製作依頼書をハルに見せる。

 

「何々・・・純鉄、純アルミ、そして、鉄の合金――鉄をベースとして十八パーセントのクロムと八パーセントのニッケルが混ざせること・・・ああ、これってステンレス合金の事ですね。それを二十キログラムずつ精製せよって依頼ね・・・」


 グロートはハルがこのオーダーを見てさぞ顔が青くなると予想したが、ハルの顔色はまったく変化しない。

 それよりもこれらの素材の精錬はハルも過去にした事もあり、それほど珍しい合金ではなかったりする。

 

「解ったわ。原料になる鉱石はあるの? 炉は既に火が入っている? 午前中に下処理ができれば、夕方五時までにすべてを終わらせられるわ」

「はぁ? ハル殿・・・この依頼内容(オーダー)はひとりでできるものではないぞ。我々、素材生成部がチームとしてやる事で・・・」

「大丈夫よ。私は一日でこの倍の量を作った事もあるから」


 ハルはそんな風に軽く応じると、自分ひとりで作業を始めてしまう。

 それに対して唖然としたままのグロートとレイチェル。

 そんなふたりを余所に、ハルは自分の魔法袋から金属精錬に必要な専用の炉を取り出す。

 こうしてハル自作の小型溶鉱炉が素材生成部の工房の片隅に置かれる事になる。

 

「さあ、火を入れるわよ」


 そんな宣言をして炎の魔法の呪文を唱えるハル。

 あっという間に炉が起動し、その内部は二千度以上の高温となる。

 ハルはそこに原材料の鉄鉱石を次々と投入した。

 

ゴン、ゴン、ゴン


 熱せられた炉の内部でそんな鉄の原石を打つ音が聞こえる。

 熱が通りやすいように鉄鉱石を粉々にしている。

 そして、赤熱化した鉄鋼石はあっという間に半液状のドロドロに溶けた状態となり、石から分離した液状の鉄が型に流し込まれる。

 こうして、あっという間に鉄のインゴットが作られた。

 

「凄い。この小型の溶鉱炉の魔道具はハルさんの自作なのですか?」


 レイチェルは生じた疑問を遠慮なくハルに投げかけた。

 グロートやレイチェルなどのこちらの現地人の常識では考えられない速さで精製されていく鉄にひどく驚かされている。

 

「ええそうよ。この溶鉱炉はコンパクトだけど魔法で稼働させているので高温状態を維持し易いし、どこでも持っていけるから便利なのよ」


 便利な小道具程度に言うハルだが、グロートは素材精錬のプロだ。

 だから、この魔道具にどれほど高度な技術が使われているのかが理解できた。

 通常ならば、複数人で数時間かけて鉄の溶鉱炉の前準備をするが、この装置でものの数分でそれができている。

 しかも、ほぼ一人作業である。

 これは驚きを通り越して、この技術を持つハルが果たして人間なのかと疑ってしまうぐらいである。

 

ガン、ガン、ガン


 型へと収められた鉄素材に魔法仕掛けの槌が打たれ、炉内で火花が飛び散る。

 これは鉄の中に混ざる不純物を飛ばす行為であるが、物理移動の魔法を魔道具に掛けられて作動している。

 魔法を利用した自動化技術である。

 

ブシュー、シュアアア


 最後に冷却の魔法が掛けられて、銀色に輝く純鉄のインゴットが完成した。

 その後、表面に透明の膜が被せられる。

 それが必要な理由についてはレイチェルに理解ができなかった。

 

「ハルさん。最後に透明の膜を被せているのはどうしてですか?」

 

 レイチェルはある意味純粋だ。

 生じた疑問を遠慮なくハルに問える事ができる。

 純粋な技術者なのだと彼女の事を評したハルは問いに正しく答えてやる事にする。

 これはハルにとって別に秘匿するほどの技術ではない。

 

「あ、これは酸化防止措置よ。解りやすく言うと鉄が錆びるのは空気の中に酸素という物質があって、それが鉄の表面が触れて鉄と酸素が結合して錆になるから、この膜は酸素の接触を阻害しているの。鉄は表面から錆びていくから空気中の酸素との接触を阻害してあげることが酸化防止になる訳ね・・・つまり錆びを防止しているの」

「へえー。私は鉄が錆びるのは鉄素材が劣化するからと習ってきました」

「劣化という考え方は間違っていないわ。基本的に精錬した瞬間が最も酸化度合いが低い、そして、時間経過とともに酸化は進行していくからね。そして、この酸化現象を抑えることは鉄の純度を上げる事にもつながるのよ」


 ハルは現在科学技術の押しつけはせず、こちらの常識で解り易いように伝える。

 レイチェルはハルの説明に納得を示し、こんな方法で精錬の純度を上げる事もできるのかと驚いた。

 そして、ハルは緩やかに冷却を行った鉄のインゴットを装置から取り出して、作業終了を宣言する。

 炉の中にはまだ赤熱した鉄が残っていたが、それは次の素材を精錬するために利用する予定だ。

 そんな効率の良い作業の進行を見たスズキ博士はハルの事を認めた。

 

「ほう。ハルさんの作業は早いですね。これまでよりも速く金属の精製ができています。それにしてもそんな小さな溶鉱炉が存在する事自体が驚きですね。この技術はエストリア帝国で一般的なのですか?」

「いいえ、これは私オリジナルの魔道具です。魔法技術を用いて局所的に加熱できるので、余計な熱の流出がない。少量多品種の金属素材を精製するのに便利だと思い造りました」


 そんな簡単な受け答えをするハル。

 まるで、自分で簡単に自作できてラッキー的な言い方だが、ハルにとっては本当にそれに等しい。

 しかし、科学の常識やボルトロール王国の魔法技術の常識で支配されているこの研究室でそんな発明品は驚愕に値した。

 

「もし、こんなコンパクトな溶鉱炉が出回れば、素材の価格そのものが破壊されかねない・・・」


 ボソリとそんな事を述べるグロート。

 それは彼の本音である。

 

「別にいいじゃない。とても便利な装置だし、私達だけで使うのならば市場価格に影響はしないわよ。加えて製造過程で消費される資源も私の魔力だけなんだから誰も損しない、損しない。それよりも作業を続けるわよ。時間は有限よ。私は残業しない主義だからね」


 まるで周囲を言いくるめるようにして矢継ぎ早に自分の正統性を主張し、ハルは次の素材の精錬作業へ進んだ。

 こうして、ハルは本日予定されていた全素材の精製を定時間内に完了させる事ができた。

 

「これで全てが完了ですね、グロートさん」

「う・・・うむ。ご苦労だった」

「はい。それじゃ、私はこれで帰ります。本当に残業しない主義ですので・・・失礼しま~す」

「あ、ああ・・・お疲れ様」


 呆気にとられるグロート達・・・

 実は彼らがハルに示したのは今日一日分の仕事ではない。

 これは一週間で完成する事を目途に計画されたものである。

 しかし、結局ハルは本日一日で終わらせてしまった。

 しかも厳しい要求仕様を全て満足する結果。

 これはもう驚きを通り越して笑うしかない・・・

 

「ハハハ・・・」


 乾いた笑い声が第四研究室の素材準備工房に響く・・・

 ハルの帰った後、顔面を引き攣らせて笑っている不気味なふたりがスズキ博士によって目撃されてしまい、後々まで笑い話になるのは余談である。

 

 そして、ハルの製作した金属素材のインゴットを台車に乗せて、第二研究室へ納入するのはスズキ博士の仕事だ。

 スズキ博士はここでトシオに会い、彼女の事をベタ褒めする。

 

「・・・そうか、この素材は部長があっという間に精錬してくたんですね」

「そうだよ、トシオ君。彼女は天才だ。まったく凄い人材が第四研究室に来てくれたよ。目に見える成果をこうも早く示してくれるとは・・・これでハルさんの採用の判断をしたトシオ君とエリ第二夫人は鼻高々に評価されるだろうね」

「スズキ博士、部長の才能がこれで済むとは思わないほうがいいです」

「ほう、トシオ君はハルさんの才能がこれじゃ収まりきらないと予想しているのかな?」

「そのとおりです。部長はでかい・・・本当に巨大な魔力に包まれています。僕の勘では彼女の保有する魔力がこの程度の成果で終わる筈がないと言っています」


 トシオはそう言い、自分の眼を指す。

 その意味もスズキ博士は解っていた。

 

「なるほど、トシオ君の魔力を測れるその眼が『ハルさんの実力はこんなものじゃない』と評価しているんだね」


 トシオは黙ってそう頷く。

 実はトシオの眼には魔力の流れや強さの解る能力が備わっているのだ。

 転移事故の際、謎の光線の直撃を受けた事により得られた新たな彼の能力である。

 それは直感的な感覚のため他人には上手く説明する事は難しいが、それでもその感覚からすると、トシオはハルの実力はまだまだ上にあると感じていた。


「確かにトシオ君の予感しているハルさんの可能性については僕もヒシヒシと感じるよ。あの娘の感性が良いよね。魔術師というよりは科学者として向いていると思う。考え方がとても論理的(ロジカル)冷静(クール)なんだ」


 スズキ博士も同じ科学者としてハルの資質を見抜いていた。

 

「そうですね。部長には魅力があります。本当は僕の研究室で力を貸して欲しかった・・・」

「君の研究室となると、本気の兵器開発となる。ハルさんは果たして請け負ってくれるのかな?」

「・・・いや、無理でしょう。あの人は正直だ。本当にお金が必要だとしても、自分の嫌がる仕事には絶対に手を出さないと思います」


 トシオはハルの性格をよく解っている。

 いくら技術的な好奇心が刺激されたとしても彼女の倫理観はそれよりも強い。

 トシオの担う兵器の研究開発分野に対して、絶対に手を貸してくれないと思った。

 

「なるほど。彼女の性格も見抜いている訳だね。いゃ~、トシオ君は大人だね~」

「それは僕の事を褒めてもらっているんでしょうか?」


 スズキ博士は朗らかに振る舞うように見えてその実は研究所の室長という立場である。

 第一研究室でトシオが何をやって成果を上げているかを正しく把握しているつもりだ。

 

「ああ、褒めているとも。君は我々のような普通の技術者では辿り着けない領域の研究をやっているからね。それは科学技術と魔術の融合だ。その仕事に対して君だけ(・・)が手を汚す結果になっていることが、私としても申し訳ない気持ちだよ」

「・・・」

「そんな君の研究室に優秀な助手が必要なのは確かだ。本来ならばハルさんは適任だと思う・・・しかし、彼女は君の仕事を快く思わないだろうねぇ~。彼女は普通の人間の感覚だから。あ、これはトシオ君の事を貶した訳ではないよ。そこは間違わないようにねぇ~。だけど、そんなハルさんのような逸材をこちらの研究室に譲ってくれた事に感謝だよね」

「・・・いいえ、これは彼女の希望ですので・・・」


 トシオは無表情だった。

 無表情だったが、そう短く答えるに留める事で、彼として本当に納得してハルを譲った訳ではないとスズキ博士も感じる。

 

「ま。成果も重要だけど、時々、トシオ君も息を抜いたほうがいいよ。甘いもの、美味しいものを食べる事が心のカンフル剤となるだろう」


 食べる事が趣味のスズキ教授は自分趣味をトシオに勧めようとした。

 トシオはこれにも少し呆れがあったが、それでもスズキ博士が自分の身体と心の事を心配して進言してくれたのだと思う。

 

「・・・考えておきます」


 そんなトシオの反応に少しは満足できたのか、スズキ博士はトシオの肩をポンと叩き、労う。

 こうして、スズキ博士はトシオの元から去った。

 時刻はもう遅いため、第一研究室に残るのはトシオひとりだ。

 静かになったところでトシオは改めて江崎(エザキ)春子(ハルコ)という存在について考えてみる・・・


「部長は美人で、頭も良く、魔法が使えて・・・これはもう完璧な女性」


 中学生の頃のトシオとハルの関係は科学クラブの部長と副部長の関係。

 同じ目標を達成するために協力して、科学者としても切磋琢磨する相手であったと言える。

 彼女の事は尊敬しているし、相手からも恐らく一定の信頼を得ているだろう。

 その時の関係は今の研究所仲間では得られないもの・・・今は成果を示す事に一辺倒。

 あの時のような独特の一体感は得られていないのだ。

 そんな一体感をまた得てみたい・・・

 トシオにはそんな欲求が密かに存在していた。


 同じ研究室でハルと共同研究を進める日々を想像してみる・・・


 自分がこれほどまで好奇心の刺激される研究テーマについて、ハルならば同じ気持ちを理解してくれるだろうか。

 彼女と自分は同類だ・・・ハルとは同じ楽しみを共有できると信じたいと心では願っている。

 そして、ハルは科学技術だけでなく、魔法技術も卓越したものを持つ。

 トシオと離れていた六年間という時間の意味は大きい。

 その時間、ハルは大きく成長していた。

 彼女が成長したのは魔法技術の会得だけではない。

 それは人間として・・・いや、女性として大きく成長していた。

 身長は伸びて足は長くなり、腰や臀部、そして、乳房の成長は彼女が雌である事をトシオに主張していた。

 閉じられた研究室の密室で彼女と二人っきりの時間。

 ある時、欲望のままに彼女を押し倒し、荒々しく彼女の豊満な乳房を揉む事を想像してしまう。

 その時、彼女はどのような反応をするだろうか?

 夫のいる身で背徳感に苛まれるのだろうか、それとも情欲に流されて自分をもっと誘ってくるのだろうか?

 そんな不埒な彼女の姿を想像していると・・・

 

「う・・・うわっ!」


 ここでトシオの下半身が大きく勃起してしまった。

 そんな反応に一番驚いたのがトシオ自身である。

 

「こんな事で興奮してしまうなんて・・・僕は溜まっているんだろうか?」


 論理的な思考を用い、何故興奮してしまったのかを自己分析してみる。

 

(僕は部長を犯したいのだろうか? 優秀な彼女に対する憧れが性欲へ発展した? きっと僕の遺伝子を彼女に残して貰いたい・・・そんな欲求が僕の心のどこかにあるのだろうか?)


 それでも下半身の興奮は収まらない。

 寧ろより硬く、より熱くなってきた。

 

(部長には現地人の夫がいる。そして、今の僕にはヨシコと言う存在が既にいるじゃないか・・・)


 そこまで考えると下半身の欲望はすぅぅーっと収まっていった。

 ここでフンと息を吐いて、まるで溜まった性欲を空気へ吐き出すようにしてみると平常心が戻ってきた。


「ふぅ~、本当に溜まっているようだね。こんな日は独りで研究を続けても碌な結果にならないだろう。もうヤメだ」


 トシオにしては珍しく本日の研究を早く打ち切り、宿舎へ帰る事にする。

 こうしてハルの存在がこの研究所の日常に微妙な影響を与えていく。

 ズレてしまった歯車のように、今後、この研究所の存続に大きな影響を与える事になる。

 その始まりがここであったのだが、このときは誰もがその変化に気付けていなかったりする・・・

 


ここの部話では鉄の精錬方法が語られていますが、実際の世界はこんな簡単ではありません。コークスや石灰石と反応させて酸化物を除去したり、不活性ガスを添加したりと・・・この物語はあくまでフィクションですので話のテンポから簡単に描いているところもあります。そして、私が金属材料関係の知識は専門外と言うのもありますので、書いている内容も稚拙なところがあります。あまり真に受けないでください。「このとおりやったけど上手く鉄が精錬できないじゃないかぁ~」と言われても責任を負いかねます(笑)


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