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白い魔女と敬愛する賢者たち(ラフレスタの白魔女・第三部)  作者: 龍泉 武
前半編 第一章 黒い稲妻の勇者の冒険
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第二話 勇者パーティの招集


ガタン、ゴトン


 勇者専用の馬車がホルトロール王国の街道を東に進むが、この馬車の乗客は王都エイボルトを過ぎてから増えている。

 増えた人間とは、髪型をビシッと決めたガダルと言う名前の青年の戦士。

 身体に合わせて仕立てられた軍服を身に着けているが、それでも身体を鍛えている事がよく解るぐらい浮き出た筋肉が目立つ職業軍人のような男性。

 そして、彼の隣には黒いサングラスをかけて、肌に張り付く黒いピチッとした衣服を身に着けた細身の男性が座る。

 それが暗殺者のパルミスだ。

 彼はこのサングラスを夜昼構わず装着している。

 それには生まれつき目が悪く、魔法付与された眼鏡を付ける必要があるためである。

 そして、その隣にはパルミスと対照的に白を基調とした清純な印象の軍服を着た女性、豊穣の神『ルクシア』を信奉する軍属修道女シオンが座っている。

 これで勇者パーティの全員が集合した形となる。

 

「それで、グラハイルのおっちゃんはどうなった?」


 現在、ここで話題となっているのは、次の任務であるリースボルトに出現した怪物の事ではなく、エクセリア国との戦争の結末だ。

 リズウィが出発した直後、西部戦線軍団がエクセリア国に惨敗したという驚きの情報が王都エイボルトを駆け巡っており、王国中がこの話題で騒然となっていたからである。

 戦争国家をしているのだから、時々戦いに負ける事もあり得る話なのだが、今回の負けが近年稀に見る大敗であった。

 

「西部戦線軍団は壊滅。死亡者は不明。帰国者もほぼゼロ、ほぼ全者が敵国の捕虜になってしまったらしい」


 俄かに信じ難い情報を淡々と伝えてくるのが軍の情報に詳しいガダル。

 ガダルは元々、軍の特殊部隊に所属していたので、この手の情報も入手しやすい立場にある。

 だから、ここでガダルの情報に注目が集まる。

 

「まあ、それは不幸中の幸いです。よかったですね、アンナ。あなたのお父様のグラハイル司令はまだご存命ですよ」


 アンナの幼馴染であるシオンは彼女の事を気遣い、そんな優しい声を掛けてくれるが、ここでアンナは不機嫌だ。

 

「まったく。お父様が敵の捕虜だなんて・・・恥ずかしい」

「アンナ、そんなことを言っちゃー駄目だぜ。グラハイルのおっちゃんはお前の親だろう。敵に捕まっても、生きている事を素直に喜べよ」

「リズウィは全然解ってねーんだよ。俺達、ボルトロール人にとって戦いに勝つ事がすべて。もし、戦いに負けて敵の捕虜になるなんて事は人生最大級の屈辱だぞ。もし、俺だったら自分で腹切って死ぬな」


 パルミスはそう述べてリズウィからの気遣いの言葉を否定する。

 

「パルミス、いけませんよ! 豊穣の神ルクシアは自決を美徳と認めませんからね」

「シオン、駄目なのはそこじゃねぇーだろう!」

「リズウィさん! 我らボルトロールの民の価値観は正しき成果の元で平等に評価されます。残念なことにアンナのお父様の仕出かした罪はボルトロール王国で決して許されるものではありません」

「そ、そうか?」

「そうよっ。ほんとーーに恥ずかしいわ。このままだと私達ヒルト一族が王国でいい笑い者になってしまうーっ! まったく、どうしてくれるのよーっ!?」


 涙目になるアンナ。

 本当にグラハイルの負けを恥じ、その狼狽ぶりは彼女が本気で恥じているのが十分伝わるものであった。

 これは文化の違いであり、ボルトロール王国で生まれた者と、王国外で生まれたリズウィとの価値観の差である。

 

「本当にお前らは負けたヤツ・・・特に失敗した奴に対しては厳しいよなぁ~」


 リズウィはボルトロール人の持つ独特の価値観に呆れて、そんな感想を述べる。

 

「何を言っているの、リズウィ! 親兄弟でも戦いに負ければ、罰を受けて当たり前なのよ。非難される事なんて常識。あなたは他者に対して甘すぎるの! これぐらい厳しくしないと皆が手抜きしちゃうじゃない。人間とは元々自らに甘く、常にサボろうとする者なのよ」


 アンナはそう言い切り、解釈のしようによっては自らを厳しく律するような言葉を告げる。

 

「解った、解った、アンナ。この作戦が終われば、グラハイルのおっちゃんを救出に行こう。敵に捕まり莫大な示談金を払って帰国させられるよりもその方が対面は良くなるだろう?」

「そ、そうね・・・これで高額な示談金まで払わされたならば、これ以上の恥の上塗りとなってしまうわ」


 アンナは嫌々ながらもリズウィからの救出提案自体は否定しない。

 彼女とて自分の父親には無事に帰ってきて欲しいのだ。

 それぐらいの人としての当たり前の感覚は持っている。

 

「まぁ、グラハイル司令の話はこれぐらいにて、次の俺達の任務についての話をしよう」


 ガダルはこの話題にそう区切りをつけると、セロ国王より示された命令書を持ち出して、改めて説明を始める。

 

「今回の目的はリースボルトに突如現れた正体不明の人食い魔物を討伐する事だ」

「魔物の討伐だけならば、楽な仕事だぜ!」

「リズウィ、侮っては駄目だ。その新種の魔物が厄介な相手のようだぞ。何せ、これまで相当の人数がコイツに食われたらしい・・・」

「そうか? 俺は人間相手の方が怖いぜ。知性ある敵と戦えば遺恨が残るからなぁ。知性を持たない、言葉の通じない魔物の方が後腐れないと思うぜ」

「だからと言って、侮るなと言っているんだ」


 ガダルは少し興奮して、自分の髪型が乱れてしまったのか、それが気になり直後に手で直す。

 彼の定まった反芻行動である。

 真面目で身嗜みをいつも気にしているガダルであり、大ざっぱな性格のリズウィは、そんなガダルの癖を見て無意識に苛つく。

 

「解った。解った。侮らない、侮らない。その恐ろしい怪物ってのは一体何だ?」

「それは・・・現時点で不明だ。この魔物と襲われた者は全て食われたらしいから、詳しいことが解らないんだ。それでも少し離れた所から襲撃現場を目撃している者もいて、その情報によるとこの魔物は人間の女性の格好をしていたらしい」

「女性?」

「ああ、突然肉が伸びて人を食うのだとか・・・」

「肉が広がって人を飲み込む?? 新種のスライムか?」


 軟体動物のスライムは高度なものになると、人に擬態する種類もあると伝説に聞く。

 リズウィはその事を覚えていた。

 

「解らない。でも、その可能性は高いと思う。リースボルトには中央部にリース川という大河が辺境より流れ込んでいる。辺境から新種の魔物が流れ着いたとは王都の学識者達の説だ」

「厄介ね。それに魔物が女の人の姿をしているのが気に入らないわ。きっとその姿で男を油断させているよ。これは淫魔の仕業ね」


 アンナは早くもその魔物を淫魔だと決めつけているようだ。

 淫魔とは空想上の魔物であり、妖艶な女性の姿をしていて、男性の精を吸う魔物。

 ここで、リズウィも嫌な予感がした。

 

「おいおい、アンナ。お前もしかして、その魔物を生け捕りにして見世物にでもするなんて言い出さないよな?」

「え? 解った?」

「阿呆だな。もしかして、貴重な魔物を捕まえて、親父の仕出かした失点を挽回するようなことを考えているだろう、お前?」


 リズウィからのそんな指摘にギョッとするアンナ。


「リズウィ、あなたって、もしかして心を観る魔法を使っているの?」

「んな訳ねーだろ。洞察力だよ、洞察力。アンナの考えていることなんて、すぐに解るさ。俺とお前の仲だぞ!」

「二人の仲・・・」


 何かを想像して、ゴクリと唾を飲み込むアンナ。

 きっと、彼女の中でどうでもいい妄想が駆け巡っているに違わない。

 そんな事を察する一同。

 

「はい、はい、アンナ、ご馳走様。勇者との逢瀬なら他所でやってくださいね」


 幼馴染のシオンが呆れてアンナを茶化す。

 

「シオン、そんなんじゃ・・・」


 何かを言い訳しようとして止めるアンナ。

 彼女はリズウィに好意を示しているが、それは些か中途半端である。

 まだ親友の前では恥ずかしさの方が勝っているようであった。

 彼女にしてそれなりの覚悟をして自分に迫っているのかと思っていたリズウィだが、こんな初心な姿を見せられると、逆にアンナの事を微笑ましく思えてしまう。

 

(もし、これで男心を知っていて演技しているとすれば、こいつはスゲーわ)


 男心を(くすぐ)る仕草を見せたアンナに思わずそんな評価をしまうリズウィ。

 

「とにかく・・・もっと情報が必要なのは確かだな。リースボルトに着けば、東部戦線の司令官が自分のところに顔を出せと言っているらしい。そこで情報を入手しようぜ。心配性のガダルを見習って、ここは慎重に行こう。俺達は失敗できないからな」


 リズウィはリーダらしくそうまとめた。

 これに異を唱える者は居なかったが、それでも心配性呼ばわりされたガダルは少々面白くない。

 自分が侮られたと思ってしまったからだ。

 内心苛つくガダルの肩を、ここでポンと叩いたのはパルミスである。

 「気にするな・・・」そんな意味だ。

 ガダルは親友からのそんな言葉のない形の気遣いに、ふぅーと息を吐いて応えるのであった。

 

 


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