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第一話 帰ってきたリズウィ ※

 リズウィが屋敷を飛び出した翌日の朝、当のリズウィはアンナを伴い屋敷へ戻ってきた。

 所謂、朝帰りというやつだが、このふたりの帰りをリビングで出迎えたハル達はひとまずホッとする。

 ハルはひとまずアンナに礼を述べることにした。

 

「アンナちゃん、ありがとう。アナタが隆二を連れ戻してくれたのね。いろいろと説得してくれたんでしょう? お礼を言わせて」

「い、いえ・・・」


 アンナはバツが悪かったりする。

 その実、ハルの事をやり玉に挙げて、リズウィと自分が肌を重ねる口実に利用した身だ。

 彼女はそこまで自分の神経が図太い訳ではない。

 それが解っているのかいないのか、ハルは優しくアンナの手を取り、友好的な笑みを返す。

 自分はアナタの敵じゃない・・・まるでそんなことを伝えているようでもある。

 そうすると、ここで意外な事にリズウィが謝ってくる。

 

「姉ちゃん。悪い・・・俺、カッとなっちまったんだ」

「いいわ、隆二。私も言い過ぎた。アナタがよく頑張っているのは解っている。その年でお父さんとお母さんの生活費を稼いでいるからね」


 ハルも謝る。

 そうするとそれまで緊張の続いていた雰囲気は緩み、姉弟(きょうだい)のやり取りを脇で見ていたユミコもホッとしている。

 こうして昨日の夜から続いた江崎家の姉弟(きょうだい)の喧嘩は表面上解決した。

 

「よかったわ。ふたりとも喧嘩早いからお母さんも気が気じゃなかったの。さあ、朝ご飯にしましょう」


 ユミコはそう述べて朝ご飯の支度にかかる。

 ここでハルの仲間達も呼ばれて、全員が食堂へ集合する。

 ちなみに、ジルバとローラは昨日深夜にエクセリアに向けて出発したので、ここにいるのは幻体(ダミー)だ。

 しかし、あまりにも精巧にできていてハルですら本物と見分けがつかない。

 彼らは自立的に喋り、周囲と普通にコミュニケーションが取れている。

 恐ろしいほどの再現性。

 ジルバの龍魔法の脅威を再認識するハルであった。

 

「それで姉ちゃん。これからどうするんだ?」


 美味しい朝ご飯を食べ終わるとリズウィの機嫌はもう元に戻った。

 食欲が満たされたので、深刻に悩んでいた昨日の問題など忘れてしまったようだ。

 これが隆二の能力だわ・・・と密かに感心するハル。

 

「私はね。研究所に行ってみたいの。良子とか明美にも会ってみたいし・・・」

 

 そんな要望に対して、明らかに嫌な顔へと変わるリズウィ。

 リズウィは研究所――正確にはそこを根城としているサガミノクニの人々と良い関係じゃないのだから、悪い印象を持つのは当然の事である。

 

「俺は二度と研究所に行くつもりは無かったけど・・・斎藤(サイトウ)さんと長浜(ナガハマ)さんと(ジュン)には多少世話になったからなぁ・・・」


 悩むリズウィ。

 ハルは静かに待ち、ここはリズウィの決定に任せる。

 

「・・・よし、解った。俺が連れてってやる」


 しばらく悩んだ末にリズウィは姉の願いを叶えてやる事にした。

 それが昨日のアンナとの情事でハルを虐めた事を思い出し、それに対する罪滅ぼしだと考えての事らしい。

 

「構わないか? リューダさん」

「・・・」


 研究所の警備体制もよく解っているリューダに訪問の許可を求めるが、ここでリューダから明確な反応は無かった。

 何だか変だと思い、リズウィが再び聞く。

 

「リューダさん?」

「・・・あっ、はひっ!」


 彼女はしばらく呆けていたようたが、二度目のリズウィからの呼びかけで飛び起きたように反応した。


「リューダさんにしては珍しい。寝不足か?」


 そのリューダを見ると白目の部分が充血しており、昨日の夜、彼女は一睡もしていないのが解った。

 その原因は、昨晩密かにジルバ達を見張っていた事によるものだ。

 彼女が見張っていたのは本物のジルバではなく幻体(ダミー)であったが、夜に突如始まったシーラとの愛の行為に目が釘付けとなってしまったのだ。

 勿論、それはシーラの巧妙な悪戯の結果であったが、精巧な幻体(ダミー)との愛の行為は本物さながら、いや、凡そこの時代の人間界では想像もできない過激な行為の連続であったようで、そんな光景から目が離せなくなってしまったようである。

 その激しい行為は朝方まで続き、結局リューダは一睡もできていない・・・それ以上に身体が火照っている・・・

 もし、リューダに特定の異性の相手がいれば、任務を忘れて溜まった鬱憤(うっぷん)を晴らしていたところだろう。

 そんないろいろな意味で参っているリューダであった。

 

「あ・・・いえ、大丈夫です。はい・・・何でしょうか?」

「全然、大丈夫じゃねぇーようにも見えるが・・・もう一度言おう。ハル姉ちゃんが研究所訪問をご希望だ。許可を貰えるか?」

「え? ・・・ええ、全員は無理でしょうけど、ハルさんひとりならば・・・恐らくは問題ないかと思います」

「ならば、午後に連れてってくれ。俺も同行しよう」

「・・・解りました」


 まだキレの悪いリューダだが、了解する旨は伝えられた。

 元々彼女は優秀なのだ。

 こうして、ハルとリズウィは研究所へ訪問する事になる。

 


今回は短いです。第四章の幕開けですのでプロローグのようなものだと思ってください。


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