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第十四話 ふたりの愛情 ※


「くっそう、姉貴め! 俺の苦労なんて何も知らないくせに!!」


 酒場で悪態をつくのはリズウィ。

 ちなみにこの酒場は喧騒に溢れた安酒場ではない。

 高級品のみを扱う品の良い酒場だ。

 入店できる人物も厳選されており、二等臣民以上でなければ入店を許されない。

 リズウィは特等臣民であるため特に問題なく入店可能で、ここを紹介したアンナも一等臣民であるため入店可能である。

 入店は問題ないが、佇まい・・・つまり、資質は問われる・・・

 品の良い酒場・・・それは上流階級人の嗜み場所。

 騒いでいると悪目立ちするのだ。

 

「嫌だわ。何あれ?」

「王国の勇者『黒い稲妻』のようだ」

「下品ね。ま、しょせんポッと出の野蛮人よ」


 散々な言われようだが、この時のリズウィは他人からの悪評など耳に入らない。

 それほどまでに怒り・・・いや、落ち込んでいたのだ。

 

「リズウィ、元気を出して。アナタがしっかりと仕事しているのはいつも傍にいる私が解っているから・・・」


 アンナはここぞとばかりリズウィを励ました。

 それは気落ちしているリズウィを励ましたいという想いもあったが、それ以上にここは自分の得点を上げるチャンスだとの算段もある。

 困っている人間、しかも、その対象が異性であった場合は助けてあげる事自体が互いの距離を縮める事に有効な手段であるのは恋の経験の少ないアンナでも解る事である。

 

「姉貴は俺の事を人殺しだと・・・確かにそうだよな。一般人から見れば、俺のやっている事なんて戦争に(かこつ)けて殺人を合法化して・・・」

「リズウィ、そんなことないわ。アナタの成し得た事は誇って良い事よ。それに王国法で戦争期間中の敵国への殺人行為は犯罪とならないわ。相手も戦争で殺されたくなければ、早期に降伏して和平交渉でもすればいいのよ。過去のアリハン戦ではそうだったと聞いているし、戦争をしているのだから、私たち一般人がいちいちそんな事で気を揉む必要はないわ」


 アンナはボルトロール王国の常識を述べる。

 彼女も必死に喋っているので興奮して熱を帯びてきたのか、手元にあった酒をがぶ飲みしている。

 リズウィはそこに着目した。

 

「アンナ、それ以上飲むのは止めておけ。お前が酔っぱらっちまうとどうしようもなくなる」


 以前エロエロのキス魔になった事を思い出す。

 しかし、今日のアンナは違っていた。

 

「私だって酔いたい時もあるのよ!」


 彼女のイライラはリズウィと関係が最近進まないことに原因がある。

 リスヴィとアンナとは既に男女の仲となっているが、言い換えればただそれだけである。

 彼らは彼氏彼女という関係よりも、リズウィが性的興奮した時にアンナがその発散の受け皿となっているだけとも言える。

 因みにアンナはリズウィの事が大好きであり、彼と鬨を重ねるのは年中大歓迎だ。

 つまり、関係が進まないことに問題あるのはリズウィ側にあり、彼がアンナの事をどう想っているのか、そこがいまいち解らないのである。

 もしかすれば、自分を性欲発散にしか使っていないのではないか?

 そんな事実を女の勘で察しているアンナはリズウィとの関係をもっと深めたいと常に思っていた。

 そこに現れたのが、彼の姉の『ハル』という存在である。

 ハルの出現によってリズウィに微妙な心境の変化があった。

 それは安心である。

 口ではいろいろとハルに対して嫌がるそぶりを見せるリズウィだが、それでも彼はハルを尊敬し、大好きである事実がアンナには解っていた。

 リズウィが姉の夫であるアークに対して反感を持つのも、そんな気持ちの裏返しだと思っている。

 結局、リズウィがハルに再会して、彼はこの世に希望を持ってしまった。

 自分が正しい行為で――ハルが基準とする正義に――生きる事に対して意義を見出そうとしている。

 それ自体はリズウィが人間として正常に生活するに当たり悪くない行動だ。

 しかし、アンナは焦っている。

 リズウィの興味が自分へと向かなくなってしまう事の危惧だ。

 彼の中で姉への憧れがどんどんと大きくなっているような気もした。

 ここ数年のリズウィとの付き合いで、そんな事を感じているアンナ。

 

(駄目よ。リズウィは私のもの。ハルさんになんか渡さない!)


 リズウィが想っている事は家族の情愛だとしても、ここでアンナは引けないのだ。

 自分には勇者リズウィを王国に引き留める使命があると思っている。

 そう言い聞かせてアンナはここで勝負に出る。

 

「リズウィ。アナタは間違っていないわ。お姉さんから言われている事も解るけど、ここはボルトロール王国。エストリア帝国とは価値観が違うのよ。この国は成果を示さないと生きていけないし、良い暮らしもできない。王国もそうしないと発展を続けられないの」


 そう述べて自分の唇を指で撫で、そして、その後、同じ指でリズウィの頬を触った。

 それは暗に私とアナタは同類だと示すような愛撫であり、リズウィの深い所を擽る。

 そして、アンナは顔を近付けてきた。

 リズウィがここでアンナの顔を見てみれば、彼女の顔は熱を帯びており、赤い恍惚のような何かを纏っている・・・それはリズウィに何かを求めているような表情だった。

 

「アンナ・・・」


 自分を必要としていると感じたリズウィは彼女の懇願に負けてアンナの身体を引き寄せる。

 既に互いの身体はアルコールで熱を帯びており・・・いや、内に秘める熱い想いが表面に引き摺り出されてしまったのだと互いに理解した。

 

「リズウィ・・・慰めてあげる。アナタの空いた心の隙間をワタシが埋めてあげる」


 そんな誘いの言葉をリズウィは・・・拒否しなかった。

 ここでアンナが目配せをすると、髪形をオールバックで決めたバーテンダーからひとつのカギが渡される。

 それはこの酒場の奥は高級宿となっていて、この高級酒場で盛り上がったふたりが逢瀬を楽しむために用意されている部屋もあるのだ。

 それは高級酒場では暗黙の了解となっているが、ここに来る客の大半の目的は身分の高い人どうしの交流(・・)であるから、そんな施設が存在しているのはある意味当たり前である。

 アンナもその部屋の利用を想定して、ここへリズウィを連れてきたのだ。

 自分の想いがリズウィに上手く伝わったとしてリズウィを抱き返す。

 そして、自分の身体を彼に預けるようにして奥の部屋へと進む・・・

 

 奥の部屋に入ると、そこは密室となっており窓などない。

 それも当たり前。

 今から行われる行為に窓などは必要ない。

 快適さを求めるならば、普通(・・)の高級宿に行けばいいのだ。

 ここで行われる行為は密室である事、防音が効いている事が重要。

 それは高貴な人達の秘密の遊戯(・・)には大切な事だからである。

 もし、何か用事があれば、ベッド脇に置かれた魔法の呼び鈴を鳴らせば、宿泊者の大抵の用事を済ますこともできる。

 それはここが高級宿と同じ価格設定の宿泊施設であるから、準備されて然るべきサービスだ。

 彼らはここを利用するには年齢的にも若かったが、それでも一級と特級臣民というレベルがここを利用する資格あると判断された。

 少なくとも彼らの経済力では一泊分の費用など大した消費ではない。

 

「ああ、リズウィ、好きよー」


 部屋に入るとアンナは待ちきれず、リズウィにキスをする。

 それは濃厚な接吻で、今日のリズウィはそれを特に遠慮することなく味わう。

 彼も今晩は誰かに抱かれたかった。

 自分を肯定してくれる誰かと深く接したかった・・・

 

「アンナ・・・俺は・・・俺は」

「リズウィ、あなたは間違ってないわ。アナタはボルトロール王国の勇者よ。私の勇者なの!」

 

 アンナはリズウィを欲する。

 それはリズウィにとって自分を肯定してくれる者。

 自分を認めてくれる者・・・彼にとっての味方である。

 

「ああ、待ちきれない・・・」

 

 こうしてアンナはリズウィと深い関係になっていく・・・

 興奮を高めるリズウィだが、ここでアンナから思いもよらなかった事を言われる。

 

「今日は私をアナタのお姉さんだと思ってヤッて」

「えっ?」


 リズウィはここでアンナがどうしてそんな事を言うのか訳解らなかった。

 

「だって、リズウィはお姉さんに恋している・・・アナタはお姉さんの事が大好きなのよ」

「おいっ、俺はシスコンじゃねーぞ」

「そんなことないわ。リズウィってお姉さんの事を深く慕っているでしょ?」

「それは・・・家族として当たり前じゃねーか」

「いいえ、アナタがお姉さんに抱いているのはそれ以上の感情よ。だからアンタは、アークさんの事が嫌いなの・・・アークさんにお姉さんを取られたと思っているのだから・・・」

「そんな事は・・・」


 リズウィは全面否定したかったが、その声は段々と小さくなっていく・・・

 それは自分の心の片隅にそれを肯定したい気持ちが垣間見えたからだ。

 それは極々小さな可能性。

 しかし、そこにフォーカスしてみれば、その考えが益々大きくなってくる。

 大好きな姉を凌辱しているゴルト世界の男性・・・それがリズウィの目線で見たアークの存在である・・・その男に対する憎しみが強まるのを感じた。

 

「ちくしょう。ちくしょう!」


 リズウィは唸るものの、それは空虚。

 既に自分の手の届かない所へ行ってしまった姉・・・しかし、そこでアンナから魅惑の誘いが来た・・・

 

「今日は私をハルさんだと思って・・・して・・・」


 そして、アンナは服を脱ぐ。

 こうしてリズウィは悪い魔法にかかってしまったようアンナに誘われていく。

 リズウィの愛の方向が自分に向いていない事は解っていた。

 彼の興奮は自分が愛された結果ではないのは解っている。

 しかし・・・

 

「ま、負けない・・・私、ハルさんには負けない、わ!」


 そして、二人の仲は深まっていく・・・そこでのふたりの会話はこうだった。


「俺が姉ちゃんに依存している・・・?」

「だから、私がアナタからお姉さんという存在を奪うわ。私がアナタの中でそれ以上の存在に成ればいい」

「・・・アンナ」

「私、負けないんだから・・・」


 再びそんな事を述べてみるアンナ。

 自分のライバルだと思われる存在に密かな敵意を抱くアンナであった・・・


リズウィ君は秘められた気持ちとは重度のシスコンでしたねぇ~。尚、今回の際どいシーンは年齢制限のため大幅カットしております。ご容赦ください。第三章はこれで終了となります。登場人物の章を更新しました。


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