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第十一話 魔獣使いとの対決


「っで、その『魔獣使い』ってのは何んだ?」


 今、隆二が聞いているのは自分が討伐する相手に関する情報であった。

 現在の勇者パーティは馬車を進ませて、北西の最前線『ハマナス』の近くに布陣した王国軍の司令部にいる。

 それは王都エイボルトから山越えした隣のアリハン地域から西に馬車で二週間進んだところだ。

 隆二が現在聞いている相手とは西部戦線軍団のトップである総司令グラハイル・ヒルト。

 言わずと知れたこの人物とはアンナの父親である。

 その風貌は過去の戦闘で負傷したのか片目眼帯姿であり、隆二は心の中で勝手に「独眼竜司令官」と呼んでいたりする。


「リズウィ君。『魔獣使い』とはその名のとおり魔獣――獣系の魔物を使役する技能を持つ者。ハマナス国の防衛のみに存在している特殊部隊のようだ。勿論、一般的な属性クラス名称ではないので我々が勝手にそう呼んでいるに過ぎないがね」


 グラハイルは簡潔に『魔獣使い』について簡潔にまとめて隆二達へ教えてくれた。

 そこに威圧する姿はなく、ごく自然な姿で接している。

 これはアンナの父である事も加味されていた。

 グラハイルはその部下の実力を認めるまでは相手を名前で決して呼ばない総司令として有名であった。

 今回は現時点で実績ゼロの隆二を『リズウィ』と呼んでいる事はガダルやパルミスには驚きを与えていた。

 それはグラハイル総司令が勇者の存在を既に認めている証左である。

 

「ふーん。つまり魔物を使役する奴なんだな。それじゃ、その魔物を倒せばいいって事か。よし、なんだか勇者っぽくなってきたぞー」

「リズウィ君は魔物と対峙した事があるかね?」

「いや、ねーよ。俺たちの世界に魔物なんて存在しなかったし。だが、魔物なんて猿や狼のようなもんだろう? 人間様には敵わねーよ!」

「それは早計というものだ。魔物と動物の違いは魔法を使うか否かだ。魔物を舐めてはいけない。彼らは生き残るために手段を選ばない。相手が弱みを見せれば、そこを弱点として遠慮なく突いてくる。仲間同士の連携も自然にやってくれる。だから撤退時期も間違えない。本当に厄介な相手だよ」


 グラハイルはそう述べて眉を(ヒソ)めた。

 彼の軍団が魔物に最近辛酸を舐めさせられているのがよく解る表情である。

 

「そうか。ま、俺は戦ってみるまでよく解んねーからな。とりあえず、迫り来る魔獣を倒しつつ、それを操っている奴を見つけて、そいつも倒せばいいんだよな?」

「簡単に言えばそうだが・・・」

「まっ、グラハイルのおっちゃん、ここは俺に任せてくれよ」


 隆二は自分に任せろと気軽に啖呵を切る。

 

「おっちゃんって・・・」


 隆二が馴れ馴れしく話している相手は西部戦線軍団総司令である。

 軍隊組織於いては国王に継ぐ偉い人物。

 そんな大物に対して馴れ馴れしい態度を続ける隆二に戦々恐々としているのはガダルとパルミスを初めとした軍属関係者であった・・・

 

 

 

 

 

 

 こうして、ハマナス国軍との戦争に場面は進む。

 大した作戦らしい作戦は立てられなかったが、隆二はなんとかなるだろうと軽く考えていた。

 グラハイルも勇者パーティは今回が初陣であるため、まずは様子見でいいだろうと部隊の後方へ配置する。

 しかし、敵はそんな不運を突いてくる。

 

「おい! 後ろから敵襲だぞ!」


 部隊の兵からそんな声が挙がる。

 

「何っ!? 行動を読まれたか?」


 部隊の中央部に陣するグラハイルは予想外の敵の襲撃に顔を歪ませた。

 

「くっ、敵は後方に潜んでいたか・・・勇者リズウィ君、奇しくも君には苦しい初陣になってしまったようだ。アンナを・・・生き残らせてくれよ!」


 グラハイルは戦場では滅多に見せないが、この時ばかりは神に祈るような仕草をするのであった・・・

 

 

 

 

 

「チッ、後ろに隠れてやがったかっ!」


 ガダルがそう悪態をつき、大剣を抜く。

 戦士の彼らしく(パワー)で敵を撃破する戦い方である。

 

「ぐわっ!」


 味方の悲鳴が聞こえて、その周辺には黒い影が素早く動いている。

 

キー、キー


 耳障りな鳴き声が聞こえて、それが魔獣の鳴き声であるのは隆二にもすぐに解った。

 

「猿の魔物か?」

「そうね。鳴き声からして『ワルターエイプ』ね。鋭い爪の攻撃と素早く動いて風の魔法も行使してくるから気を付けて」


 魔物の情報を何も知らない隆二にアンナがそれを伝える。

 

「とりあえず、猿の魔物だろう? それだけ解りゃいいよ!」


 そう述べると隆二も剣を抜いた。

 その直後、味方の人間の軍団の間をすり抜けた三匹のワルターエイプが近付いてきた。

 敵も誰が強者か解るのか、それとも偶然か、ここで勇者パーティを標的としたようだ。

 

「いいぜ。俺が成敗してやるさ!」


 隆二は剣をふらふらとさせて魔獣を挑発する。

 

ギギッ!


 ワイルターエイプも自分達が挑発されたのを理解して、牙を剥く。

 

「それっ!」


ヒュン、ヒュン


 先手必勝とばかり、パルミスがナイフを投げた。

 

ドス、ドス


 ナイフは空中を滑るように進んで、見事に一匹のワイルターエイプの両目に命中する。

 

ギャーッ!


 魔物は悲鳴を挙げて倒れた。

 

「ひゅー、これが暗殺者の腕か。初動がほとんど感じられなかったぜ。これは俺も頑張らねぇーと、なっ!」


 まだ距離があると思っていたワルターエイプが隆二に向かって飛んできた。

 それは不自然な跳躍だったので、これは敵が風の魔法を使ったのだろうと解る。

 しかし、隆二も既に素人ではない。

 自らに迫る硬質の爪攻撃を剣で見事に受け流す。

 左へと薙ぎ、地面に転がったワルターエイプにここでとどめをさせたのはガダルの剣だ。

 

「おぅらぁ!」


ドンッ!


 ガダルの重質の剣が転倒したワルターエイプの脳天を割る。

 鮮血が迸り、この一撃でワルターエイプは即死。

 

「あと一匹だっ!」


 隆二は残された一匹へと視線を移す。

 そうすると、それはシオンが退治した後であった。

 

「えいっ!」


 可愛らしい声とは裏腹に戦槌(メイス)と呼ばれるイガイガの生えた鋼鉄の金槌のような鈍器でワルターエイプの顔面を殴っていた。

 肉が抉れ、頭蓋が陥没している。

 即死級の一撃だ。

 

「すげーねーちゃんだな。聖職者は刃のある武器を使わないと聞いていたけど、果たしてアレはアリなのかね?」


 隆二はシオンの持つ凶悪な戦槌(メイス)を見てそんな感想を口走る。

 撲殺・・・自分ならば絶対にそんな方法で殺されたくはないと思える攻撃方法。

 しかし、ここは戦争。

 殺らなければ殺られる世界。

 中途半端な情けは自分の死に直結する。

 一瞬そんな考えに浸っていた隆二にアンナから警告の言葉が届く。

 

「リズウィ、危ない! 避けて」


 直後、隆二は自分に向けて何かが発射された気配を感じ取る。

 隆二は自分に迫る飛来物を剣で往なそうかと思ったが、ここはアンナの進言に従って回避を選択した。

 今回はそれが正解だった。

 隆二を一直線に狙った灰色の液体。

 それをサッと避ける。

 それはイアン・ゴート師から学んだ急速移動の体術の技を会得したお陰だった。

 目標を失った灰色の液体は隆二がいた場所を通り過ぎて、その周囲に残っていた味方数名にかかってしてしまう。

 

「ぐわーーーーっ」


 悲鳴を挙げたのは液体をかけられた男性。

 その後、身体に変化が・・・

 

ピキピキピキ


 まるで凍り付くかのように肌が灰色へと変わっていく。

 

「石化の毒よ。やったのはアイツ。『軍隊石サソリ』だわ」


 アンナが指さす方向を見てみれば、人ほどの大きさがある灰色のサソリがいた。

 その大サソリは一匹だけではなく、数匹が隊列を組んで尾を振り上げている。

 その尾の先にある毒針から石化の毒が射出されたのは想像するに容易い。

 第二射を予感して隆二は対応を迷う。

 しかし、ここで次への行動が早かったのはアンナであった。

 

「雷よ、我に召喚されて敵を撃てっ!」


 素早く詠唱して、標的の軍隊石サソリを指す。

 

ドーン、ドーン、ドーン!


 アンナの詠唱に従い、複数の魔法の雷が軍隊石サソリの頭上に落ちた。

 これで軍隊石サソリは見事に黒焦げとなり、沈黙した。

 

「おぉー、この味方の多さの中で正確に敵だけを標的にして雷魔法を落とす技術を持つとは素晴らしい。アンナさんが上級魔術の資格を持つのは伊達じゃないようだ」

 

 ここでアンナの技量を素直に褒めたのはガダル。

 彼もいろいろな戦場を経験していているが、これほど鮮やかに攻撃魔法を決められる魔術師など今まで見た事が無かった。

 

「へぇー、アンナって意外とヤルんだなぁ。翻訳魔法だけが得意な訳じゃねーんだ」

「リズウィ。私のことを感心してないで、魔物を操っている術者を探しなさいよ。絶対に近くにいるわよ」


 隆二から褒められるのが実は少し嬉しいアンナであったが、彼女は照れさからそんな減らず口を吐いてしまう。

 しかし、それは結果的に良かった。

 隆二が術者らしき人間を見つけられたからだ。

 

「あそこだっ! 怪しい紫色の光を放つ男がいるぞ!」


 目と勘の良い隆二は周囲を見渡して、そこに杖の先端が紫色に光る水晶を掲げて意識集中している男性を偶然発見する。

 しかし、その姿は不思議であった。

 影はしっかり映っているのにその本体の像は陽炎のように揺らいでいたからである。

 

「どこ? リズウィ」


 アンナは隆二の示す方向を見ても気付かない。

 もし、解ればすぐにでも火炎の魔法を叩き込んでやるのにと、気持ちだけが焦る。

 

「解んないのか・・・ちい、なんらかの方法で気付かれないようにしているんだな。しょうがねぇ、俺が突撃してやらぁっ!」


 隆二が怪しい男性に向かって駆け出す。

 

「うぉぉぉぉぉぉー!」

 

 駆け出して剣を上段に構える。

 男性との距離はまだあったが、ここで俊足を見せてその距離を一気に詰めた。

 男性も自らに迫る剣術士の存在を認めて、その顔が焦っているのが解った。

 

「何!? コイツ、俺の姿が見えるのか!? ええい、グリーダ。奴を排除せよ!」


 男の召喚を応じて突然空より一匹の鳥が飛来する。

 それは大型の禿鷲のような鳥の魔物であり、爪で隆二に襲い掛かってきた。

 

「捕まるか! 遅せぇーんだよ!!」

 

 隆二は鳥が目指している落下点を測り、タイミングを外すためにバックステップを取る。

 結果、誰もいない地面をグリーダの爪が抉る。

 隆二への攻撃が空振りに終わってしまい不満の鳴きをするグリーダ。

 そして、地上へと飛来したグリーダのがら空きとなった頭部に隆二が飛び蹴りを放つ。

 

ギャピッ!?


 隆二の飛び蹴りがグリーダの頭部に炸裂。

 予想外の人間の攻撃により一瞬頭をグラッとさせるグリーダ。

 脳震とうに近い状態であった。

 これでグリーダを沈黙させられたと判断した隆二は、勢いのままにグリーダを飛び越えて男性へ迫った。

 

「ば、馬鹿な!!」


 予想外の行動に驚く男。

 それはまったくの無防備な姿であり、これで勝負がついたように見えた。

 しかし、隆二が男性に最後の攻撃をしようとしたところで、予想外の方向から攻撃が加えられる。

 ここで背中に激痛が走った。

 それは鳥の足の攻撃、辛うじてこの攻撃を剣で防げたのは偶然。

 何故かそのとき、そこに剣を持って行かないと拙いような気がして、後方からの爪による致命的な一撃を防げたのは奇跡に等しかった。

 しかし、それは最低限の防御でしかない。

 鋭利な刃のような爪の先端が背中の一部の肉を切り裂いた。

 

「ぐわっ!」

 

 遅れてやってきた痛覚に苦悶の声を挙げる隆二。

 しかし、ここで隆二も負けてはいない。

 

「こなくそっ!」


 身体を強引に()じる。

 強引にそんな動きを実行したので、敵の爪に剣が絡められたままである。

 そうすると剣の中心に負荷がかかり、結果的に中央部分でポキンと折れてしまう。

 しかし、この時、それは有利な方向へと働いた。

 これで身体を()じる抵抗が無くなり、隆二はくるりと容易に回転できた。

 結果的に身体の方向のみをグリーダ側へ向ける事ができた。

 

「この鳥野郎ーめっ!」


 隆二は折れた剣をグリーダの頭部目掛けて投てきする。

 そうすると折れた剣がグリーダの目へ突き刺さり、その傷は脳にまで達する。

 

ギョーーーーーッ!!!


 グリーダからは轟音の悲鳴が発せられる。

 それがグリーダの断末魔となった。

 

ドサッ!


 こうして、グリーダの生命の灯は消えた。


「やった・・・か・・・」


 対する隆二も気絶しそうであった。

 背中に鋭利な爪攻撃を食らった上に、鳥の魔物の大音響の断末魔を聞かせられて頭がクラクラしている。

 あとはこの魔物を操っていた奴を無力化するだけ・・・

 最期の力を振り絞って、唖然としている敵の男性に迫り、その男性が着ているローブの裾を掴んだ。

 

「捕まえたぜ」

「ヒッ!」


 男の顔が恐怖に染まる。

 それは自分に対して鬼の形相で迫る隆二が死神に見えたからだ。

 男性のローブを掴んだ直後に繊細なガラス板が割れるような感覚を得た。

 その直後、揺らいでいた男性の像は定まる。

 

「おっ、あそこに術者が潜んでいる。リズウィが隠ぺい魔法を破ってくれたんだ」


 ガダルの叫ぶ声が聞こえた。

 しかし、この時の隆二は意識朦朧の状態。

 

「パルミス、捉えろ!」


 ガダルの指示に従ってバルミスがナイフを投げた。

 

ドン、ドン、ドン


 パルミスの投げたナイフは男に命中した。

 しかし、隆二がしっかりと意識を保てたのはここまで。

 

「キャーー!! シオン、早く隆二を救って!!」


 意識を手放そうとする直前に、アンナからそんな悲鳴が聞こえたような気がした・・・

 

 

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