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第九話 鉱山都市アリハンと聖剣伝説 ※

 勇者リズウィの一行はアリハン山脈の街道を王都に向かって東に進み、その街道は一旦北に曲がって、アリハン山脈の北部の裾野へ出る。

 そこはアリハン街道で要衝となっている都市アリハンがあった。

 人口三万程度のボルトロール王国で中堅都市のアリハンとは鉱山で栄える都市である。

 戦争国家であるボルトロール王国は剣や鎧など武器の需要が高く、それを製造する鉄などの金属は有益な資源であり、鉱山都市アリハンの重要度と価値は戦略的に大きい。

 ゴルト大陸では砂の国で採取される鉄も有名だが、それはあくまで闇市場に流れる資源であり、表の市場の産地としてここアリハンが世界有数の鉄の産出量を誇っていた。

 王都エイボルトからもアリハンは一週間程度の旅程で位置しているので、鉄資源の重要生産拠点としてボルトロール王国直轄で治められている。

 そんな鉱山都市アリハンには軍の出張司令部もあり、勇者パーティはここを訪れていた。

 

「この魔道具を調べてみると、ご報告にあったように魔物を支配できる機能がありました」


 勇者パーティ達にそう回答するのはこの出張司令部の軍の高官である。

 この高官に今回の魔物騒動の証拠物件である魔物の支配に使用した魔道具を提出し、調べて貰っていたのだ。

 

「な、言ったとおりだろ? 姉ちゃんの見識眼は間違っちゃいねーよ」


 リズウィは自分の姉が鑑定した魔道具の機能を信用していた。

 元より自分の姉は幼少期より、科学的知見に基づき物事を判断する癖があるのをリズウィは覚えていた。

 今回の場面のように重大な判断が必要な物品の鑑定に対して、いい加減な事、自信のない事は絶対口にしないと思っていた。

 

「リズウィのお姉さんの言う事が当たっていましたね。それはそれで問題なんだけど・・・」


 アンナは未知の魔道具の本質を正しく鑑定できたハルの腕前自体が脅威だと言う。

 

「アンナも疑り深いな。それはハルさんが優秀な魔術師であるという意味だろう」


 ハルに好意を持つガダルは、疑り深いアンナこそ過敏になっていると言う。

 そんなふたりを見たリズウィは、アンナとガダルはどうしてこんなに仲が悪いのだろうと思ってしまう。

 

「ま、いいじゃねーか。重要なのはそこじゃねーよ。この魔道具を用いてエイドス村を占拠しようとした抵抗組織(レジスタンス)がいたって事実だ」

「そうですな。これは王国に対する明確な謀反を示す証拠となる物です。王都の軍本部に警戒すべき事案として報告しておきましょう。情報のご提供と魔物の大軍の征伐をありがとうございました。勇者様の活躍も含めて本部に報告させていただきます」


 勇者リズウィに恭しく礼を述べる軍の高官。

 そんな報告は勇者パーティ全員の評価にもつながり、彼らパーティ個々人の成果として中央に報告されるため、得点稼ぎにつながる。

 ボルトロール王国の中で成果報告とは市民レベルのランク付けにも直結するので、彼らにとって悪い話ではない。

 

「まぁ、俺はこれ以上得点を稼ぐ必要もないんだけど・・・あ、そうだ。今回の魔物の討伐にはエクセリア国からの旅人の一座も協力していたんだ。俺の姉ちゃんとその仲間だよ。それも報告書に記載しておいて欲しい」


 リズウィがそう付け加えたのは協力してくれたハル達にも得点を稼がせるためだ。

 彼らは現時点でボルトロール王国の市民ではないが、こうやって得点を稼いでおけば、いずれ彼女達が王国に帰化する時、有利に働くと思ったからだ。

 しかし、彼女達の事を報告書に載せるには別の情報も付け加えるべきとガダルは言う。

 

「そうだ。特にジルバという男は注意が必要です。魔法一撃で百匹以上の魔物の倒していました」

「魔法一撃で百匹以上・・・それは凄いですな。上級魔術師か何かで?」


 ガダルからの報告を聞いて、軍の高官の顔が青ざめる。

 それはボルトロール王国の領域内に敵国の戦略級魔術師が侵入してきたのと同じ意味になるのだから、ジルバという存在を危険視するのも当然である。

 

「おい、ガダル。確かにジルバさんの龍魔法は強力だが、危険視だけをするのは早合点ってもんだろう? ハル姉ちゃんの仲間だし、俺達を何度も助けてくれたじゃねーか。今回、彼らをこの場所に連れてきてねぇからと言って、そんな扱いは酷いと思うぞ!」

「リズウィ、甘い。私は冷静にあの男の危険性だけをだなぁ・・・」

「ははーん、解ったぜ、ガダル。シーラさんを取られたから気にしてんだな?」

「な、何を言っているんだ。そんな事は・・・関係ない」


 ガダルの目が一瞬泳ぐ。

 どうやら彼の進言に全く私情が入っていなかった訳では無いらしい・・・

 そんな遠慮ない会話ができるのも、今、この司令部にハル達を連れて来なかったからである。

 そのハル達は言うと、余所者として宿に残されていたのだ。

 

 

 

 そして、場面はハル達に切り替わる。

 

「なるほど。ここが鉱山の街と言う訳ね」


 窓に映る街の光景を目にしてそんな感想を述べるハル。

 

「大規模な人間の街ですね。そして、空気が悪い。私達はここにあまり長居したいとは思いません」


 この街が不評なのはローラを初めとしたエルフ一家。

 彼らは森や泉を住処としていたので、地下資源開発をしているこの街では環境が合わないのだろう。

 

「そうね。大気に粉塵が結構混ざっているわ。きっと暖房や鉄の精錬に石炭でも燃やしているのでしょう。春が進んできたとは言え、外はまだ寒いからね・・・」


 環境問題などの知識が皆無なこの世界ならば、長期的な影響など気にせず現在進行形で環境破壊をしているのだろうとハルは思う。

 そんなアリハンにマイナスイメージばかり言われるのが面白くないのは一緒に宿に残っていたフェミリーナ・メイリールだ。

 

「ここアリハンは我がボルトロール王国の誇る世界一の鉱山の街です。この場所で採れない鉱石などありません。魔力鉱石を含めて豊富な鉱脈が存在しています」

「本当に? 魔力鉱石ならば少し興味あるわ」


 魔道具師のハルにとって魔力鉱石とは有益な素材である。

 彼女はアークを伴い、この部屋から出て行こうとする。

 それをフェミリーナは止めた。

 

「どちらへ行かれるのですか?」

「ちょっと魔力鉱石を見に行ってくるわ。食材も買っておきたいし」

「でも、あまり外を出歩かないようにと、リズウィさんからも言われていますので」

「大丈夫よ。ここは人間の街。辺境の森の中を歩くよりも安全よ。それに万が一の場合は旦那様が守ってくれるから」

 

 ハルはそう言いアークの肩に手を掛ける。

 アークも任せろと胸を張った。


「・・・でも」

「フェミリーナ、心配しないで。街の観光も兼ねてチョット出かけるだけだから。ローラも何か欲しいものはない? 買ってくるわよ」

「それではハルさん、お願いしていいですか? 私は・・・」


 ローラから適当な要望が出される。

 エルフ一家の自分達は宿の外に出ない事に決めており、これでハルが代表して外に買い出しするのは決定事項となる。

 こうしてフェミリーナはハルを止める訳にもいかなくなり、また、ローラやジルバ達がここに残るならば、リズウィから「一行を見張っておいてくれ」と言われた事を破っている訳でないと解釈した。

 

「それじゃ、少し行ってくるわ。初めての場所だから、帰りが少し遅くなるかも、でも心配しないでいいわよ」


 それだけを言い残し、ハルはアークを伴いこの部屋を後にした。

 外に出たハルとアークは宿から見えなくなったところで、小走りで路地に入る。

 そして、隠し持っていた魔法の仮面を装着した。

 

シュイーン


 魔力が一瞬にして収斂し、あっと言う間に一組の仮面の男女が姿を現す。

 そして、ハル達は『消魔布』と呼ばれる気配を消す魔法の布を頭からすっぽりと被ると、一切の気配が消えた。

 こうして他者からの気配を絶った彼女達は隠密行動を開始する。

 向かうのは軍の司令部、リズウィ達勇者パーティが報告している施設を目指してアリハンの街中を駆けて行くふたりであった・・・

 

 

(アクト、あの部屋の向こうに隆二達がいるわ。壁抜けの魔法使える?)

(多分大丈夫だと思う。一応、ハルと手をつないでおこうかな?)

(ええ、行くわよ。えい)


 軍司令部の外部から魔法による覗き見を遮断するぶ厚い壁を難なく突破したハルとアクト。

 彼女達が仮面の力で強化(ブースト)すれば、そんなセキュリティなど無いに等しい。

 こうして、難なく軍司令部の最重要機密の部屋へ侵入すると、そこでは軍の高官へリズウィ達が現状報告を行う現場に遭遇した・・・

 

 

 

「・・・だから、ジルバという魔術師は強力で危険な存在であります。王都に向かう意図もいまいち曖昧ですので特別監視が必要だと思われます」


 ここでガダルはジルバの危険性について力説しており、ジルバを特別監視対象にするよう具申していた。

 その要望に対して高官は当然の処置だと納得する。

 

「解りました。上には特別監視対象にするよう報告しておきましょう。対象にするのはジルバという自称龍魔法研究者とその仲間であるスレイプ、ローラ、サハラ、そして、ハル、アークでいいですね?」

「いや、ハル姉ちゃんはパスだ。彼女は俺の実姉だからな」

「なるほどフーガ一族(いちぞく)の方でしたか? あ、いや、研究所関係の賢者という意味で、他意はありません」


 リズウィの顔色が変わったのを察した高官はそう訂正した。

 勇者リズウィはフーガ一族(いちぞく)と同じとされるのをひどく嫌っているのは有名な話である。

 この高官は下らない理由で勇者から不興を買ってしまうのを由としなかった。

 それぐらい理解できないと、彼がボルトロール軍という組織の中で高官と言う立場を続ける事などできない。

 

「しかし、賢者の関係者ならば、未知の魔道具の正体を看破できた真実性が増します。あの支配の魔道具の機能を見事に見破ったのですから」

「だろ? 姉ちゃんは現在『魔道具師』らしいが、昔から頭は良かったんだぜ」


 リズウィはハルの自慢話をする。

 これで少しは機嫌が直った。

 自分に対しては短気な姉であるが、それでもハルは家族である。

 成績優秀だった姉のお陰で、サガミノクニの小学校でも隆二は周りから一目置かれる恩恵にあやかれたので、そういう意味では自慢の姉だったりする。

 

「解りました。ハルさんは特別監視対象から外しましょう。ある程度の行動の自由は認められます」

「ああ、ありがとう。しかし、姉ちゃんの旦那のアークさんには気を付けておくれ。奴はどこか胡散臭い」

「胡散臭いとは?」

「何かを隠しているような気がするんだ」

「おいおい、今度はリズウィまで私情かよ。先程私に言った台詞をそのまま返してやろうか!」

「ガダル、うるせぇ! しかし、ジルバのおっさんとアークさんには同じく危険な匂いがするんだよ!」


 リズウィは自分の直感に従い、彼らから気を抜いてはならないと言う。

 

(隆二ってなんだかムカつくわよね。私のアクトに因縁をつけて・・・)

(ハル耐えろ。現在、君の弟君はボルトロール軍の中で精鋭のようなものだ。敵国の強者の脅威を感じての思考だと思うよ)

(それが愛国心だというの? しかし、その方向は間違っているわ。こんな酷い国に愛国心を注いでも利用されるだけじゃない!)

(まあ、今のところはそれでいい。ほどよい警戒心を持ってくれた方が自然だ。君の家族と出会うまでは我慢しよう)

(・・・そうね。ごめんね。本当はアクトが一番怒りそうな事案なのに。ここで私が怒っていては駄目だったわ)


 ハルは条件反射的にリズウィの頭を引っ叩いてやりたい衝動に駆られたが、それでもその怒りを鎮める。

 自制できたハルを見たアクトはひとまず息を吐いた。

 もし、ここでハルが暴れ出せば、折角の隠密の行動が大無しになってしまうからだ。

 ハルをもっと落ち着かせるよう掌を握り、そして、報告会の成り行きを見守る。

 

「それでは、王都ではジルバ氏を含めて旅の一座に監視を付けることを進言しておきましょう」

「うん。よろしく頼む」

「そして、魔物を操ったとされる黒ローブの男の存在も調べておきしょう」

「そうして欲しい。姉ちゃんは抵抗組織(レジスタンス)じゃねーかって言っていたんだよな」

抵抗組織(レジスタンス)ですか? 大きな組織など存在しない筈ですが、このような魔道具をどうやって入手できたのか、そこが気になります。詳しい捜査を致しましょう」

「それもよろしく頼むな。何か解ったら報告して欲しい。俺は自宅もしくは師匠のところにいるつもりだから」

「ええ、解りました。本部へ連絡しておきます」


 こうして、軍部への報告会は終わった。

 その全容をハル達が聞いているとも知らずに・・・

 

 

 

 軍の司令部を出た彼らは行動を二手に分ける。

 

「ん? どうした。アンナとリズウィは何処に行くんだ?」

「ガダルさん。アンナ達はこれから魔法の触媒を買い足しに行くのですよ」


 シオンはここでそう述べて、アンナに目配せする。

 

「え、ええ。そうよ。この前の魔物騒動で火炎魔法の触媒を使い果たしちゃったから・・・」


 決り悪くアンナがそう応える。

 

「なんか、怪しいな」


 パルミスは怪しいと言うが、それでも触媒が切れているのは真実である。

 ただし、それはこの前の魔物襲撃ではなく、そのずっと前からである。

 つまり、今すぐここで買い足さなくても状況はあまり変わらず、王都で購入すればそれで十分であったが、今回はアンナから要望によりここで別行動する口実が欲しかったのだ。

 

「パルミスさん、余計な詮索はいいですから私達は宿に戻りましょう。アンナとリズウィさんは魔法の触媒を買ってくる。それでいいですね。しかもここはアリハンの街、迷子になってしまうかも知れません。二人が宿に戻ってくるのは明日の朝になっても慌てないであげてください」


 意味深な事を言うシオン。

 パルミスはここで諸手を挙げる。

 

「あぁー、解った、解った。ここでふたりの逢瀬を邪魔するなんて言わねーよ。リズウィ、明日の朝は早い。体力(・・)は万全で戻って来い」


 もっと意味深な事を言うパルミス。

 ここで訳が解っていないのはリズウィだけであった・・・

 

 

 

 こうして別行動となったアンナはリズウィを連れて街の中心部から少し離れた魔法素材屋を訪ねる。

 

「お、あったぜ。アンナ。コレだよな。イーフリートの欠片(かけら)は」


 リズウィはアンナの探していた炎の魔法の触媒を先に見つけ出し、店主にその値段を聞く。

 彼自身魔法は使えないが、それでも以前アンナの購入したい魔法の素材は覚えていた。

 

「四万ギガになります」

「高けぇな。まけてくれよ」

「別にいいじゃない。私達勇者パーティなのだから。その値段で買うわよ」


 気前よく、店側の言い値で買うアンナ。

 自分達が勇者パーティなので値切るなどのセコイ真似をするなとリズウィに示した。

 

「お姉ちゃん達が勇者パーティなのかい? 気前良いね。まいどあり」


 高値で売れてホクホク顔の店主。

 アンナにしてもこんな茶番は早く済ませたかったので、惜し気無く十万ギガの価値がある大金貨で支払う。

 

「さぁ、終わった、終わった。帰るぜぇ。んん?」


 リズウィの台詞の最後が疑問符になったのは、その腕をアンナに強く取られたからである。

 

「ええ、終わったわ。店主さん、ここから一番近い宿はどこかしら? できれは清潔で雰囲気の良いところを紹介して欲しいんだけど」

 

 アンナはおつりを受け取らない代わりにそんな事を聞く。

 店主も厭らしい笑みを浮かべて、若い男女のそれ(・・)に相応しい、とびっきりの宿を紹介してくれた・・・

 

 

 

 裏路地にひっそりと佇むその宿は入口こそひっそりとしているものの、石造りのシッカリとした建物である。

 まるで屋内で行われる行為を外には絶対漏らさないような頑丈な遮音構造の造り。

 裏路地にひっそりと建つのも、利用者を目立たなくするための配慮。

 もうここまで来れば、幾らこちらの世界の事情に疎いリズウィでもここがいかなる場所か解ってしまう。

 所謂、連れ込み宿だ。

 

(ハル、どうする。ここから先はどう考えても男女の営みの場所だぞ)

(勿論、潜入するわ。こういう二人っきりになれる場所で秘密の会話をするかも知れないじゃない)

(いや・・・しかし・・・)

(怖気てないで、行くわよ!)


 明らかに尻込むアクトの手を引いて、消魔布で気配を消したハルとアクトは宿内に侵入して、リズウィとアンナの後を追う。

 廊下を進み、そして、リズウィとアンナの部屋が閉じられる前にハルとアクトも同じ部屋にサッと入る。

 仮面によって身体能力が無駄に強化されているので、簡単に侵入することができた。

 そして、中に入れば、リズウィとアンナは既に抱き合っている。

 

「ああん、リズウィ。我慢できない」

「アンナ、どうしちまったんだ。今日は一段と積極的じゃないか」


 そう言うリズウィも今日は気分が乗っているのか、アンナを愛撫するのを躊躇わない。

 唇を重ねて、そして、リズウィの掌がアンナの近代的な魔術師の衣装の上から、彼女のコンパクトにまとまった柔らかい乳房を触る。

 

「あん、リズウィ、好き、好き!」

「アンナ・・・発情しているな。何かあったのか?」

「私・・・リズウィのお姉さんが羨ましいのぉ」

「姉ちゃんがか? 訳解んねーぞ?」

「あなたのお姉さんに聞いたのよ。生まれた世界が異なるアークさんとどうして結婚しようと思ったのかって・・・」

「そうしたら?」

「お姉さんは言っていたわ。愛に世界の違いなんて関係ない。私が好きになったのがアーク。その結果こそすべてだって・・・異世界人同士じゃなきゃ結婚しちゃいけないルールなんて存在しないとも言っていたわ・・・そして、例え世界がふたりを別つ事があったとしても、私は絶対にアークを離さないって言っていたの」

「・・・ふーん、そうか・・・」


 甚く感激しているアンナに対して、リズウィは冷めていた。

 しかし、この時のアンナは自分の中で盛り上っており、リズウィの冷めた様子など気に留めない。

 

「お姉さんとアークさんの愛は素晴らしいと思った。そして、とても羨ましいと思ったの!」


 そしてアンナは情熱的なキスをリズウィに返す。

 溜まっていた欲望をぶちまけるようにしてリズウィの意識を溶かす。

 それで完全に悦に入ったふたりの愛の行為は次の場面へ移る。

 リズウィが慣れた手つきでアンナの服を脱がしにかかった。

 スルスルスルという擬音が聞こえてきそうなぐらいスムーズな所作でアンナの衣装が床へと落ちた。


「私だけ脱がされるなんてズルいわ」


 アンナがそんな抗議の声を挙げて、リズウィのシャツのボタンを外していく。

 露わになったリズウィの鍛えられた厚い胸板をアンナも愛撫する。

 

「うおーーっ、もう我慢ならなねぇ~!」


 リズウィも欲望に屈服して、自らのズボンを脱ぐ。

 すると彼の逸物が露わになる・・・

 

ブル~ン

 

(何っ!)

(ええっ!?)


 ここで戦慄したのはアクトとハルであった。

 野に放たれたリズウィの逸物を見てその規格外に身が震えた。

 

(デ、デカイ!!)

(そ、そうね。我が弟ながら、これはチョット大き過ぎるんじゃない!)


 そこまで見たハルは・・・

 

「アクト、帰るわよ」

「え、ええっ!?」

「今、一瞬、これからが良いところなんて思ったでしょ?」

「べ、別に・・・ただ、これからふたりきりで秘密の事を話すんじゃないかと」

「そんな訳ないでしょ! 彼らがこれからスルのことは男女の営みだけよ。ここで覗き見していてもこれ以上有益な情報は得られないわ」

「そう・・・だけど」

「いいから帰るわよ。アクトも自分の肉親の濡れ場なんて見たくないでしょう?」


 そんなことを問われてアクトはここで自分の妹のティアラがどこかの知らない男性と睦合う姿を想像してみる。

 

「・・・なるほど、それは嫌だ・・・」

「だったら、帰るわよ。こら、残念がらない。ここに良い女が居るでしょう!」

 

 こうして、ハルより急かされてアクト達は連れ込み宿を後にする。

 盛り上がるふたりに悟られないように壁抜けの魔法を上手く使ったのは言うまでもない・・・

 

 

 

 結局、その夜、リズウィ達は宿に戻って来なかった。

 姉としていろいろ説教してやろうかと宿で待ち構えていたハルであったが、その苦労は無駄に終わってしまう。

 言いあらわしようのない疲れだけが蓄積された。

 そして次の日の朝、すっきりとした顔でリズウィとアンナが帰ってきたが、その姿を見たアクトはハルへ密かに言う。

 

「うん、隆二君は本当の勇者だね。あんな凄い聖剣(・・)を持っているのだから、とても敵わない」

「何を言ってんのよ! バカじゃない! アレでどれだけの女性を泣かせてきたか、それを考えただけで呆れるわよ」


 女たらし男として間違った方向に育ってしまった隆二と、そんな隆二をこよなく愛するアンナに何かを言ってやりたい気分のハルだが、昨日のことは隠密に尾行していたため、どうしてそのことを知っているのかと問われたときに上手い言い訳がすぐに考え付かなかった。

 結局、ハルは何も言えず、不満だけが溜まってしまうのであった・・・

 


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