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白い魔女と敬愛する賢者たち(ラフレスタの白魔女・第三部)  作者: 龍泉 武
前半編 第一章 黒い稲妻の勇者の冒険
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プロローグ:黒い稲妻の勇者リズウィの誕生


「う・・・」

「うう・・・」

「ねぇ? リズウィ、大丈夫?」

「ねぇねぇ!」

「・・・煩せえー!」


 ここでリズウィと呼ばれた青年が飛び起きる。

 その直後、リズウィ自身は自分が白昼夢でうなされ、現在は馬車の座席に座していたままなのを自覚した。

 

「うわっ。驚いた!」

「何よ! 驚くのは私の方じゃない!」


 プンスカと現状に不満なのはリズウィとは対面側の席に座る少女だ。


「すまねえ、アンナ。昔の夢を見ていた」

「昔? どんな夢?」

「・・・う~ん・・・忘れた」


 素っ気なく答えるリズウィにアンナは溜息を吐く。

 

「まったく。馬車旅で暇なのは解るけど。こんな美少女を放ったらかしにして、転寝(うたたね)するのはどうかと思うわ」

「美少女って、自分で言うなよ! 」


 リズウィは呆れてそう答えると、大きく伸びをする。

 自分で美少女と宣言するこの大胆不敵な少女にも呆れた訳だが、それでも、美少女と言うのはあながち嘘では無い。

 アンナは小柄で勝気な性格の女性だが、それでも顔立ちは整っており、栗色の肩口で切り揃えられた髪型はブルーの瞳と相まり、リズウィの基準からしても白人美人の女性である。

 そんな少女とふたりで旅している勇者リズウィ。

 リズウィは自分が馬車で旅する羽目になった理由について思い返す。


――告、

 勇者バーティ『黒い稲妻』は直ちに招集し、

 東のリースボルトへ迎え。

 そして、そこで猛威を振う災害級魔物を速やかに討伐せよ。

 ボルトロール王国発行最上位命令書 セロ三世・ボルトロール国王 ――

 

 そんな国王の署名で書かれた命令書により、勇者リズウィは西の国境の紛争地から招集を受けたのだ。

 

「まったく、やってらんないぜ。いきなり西のグラハイルのおっちゃんのところから東海岸のリースボルトに行けだなんて・・・国の端から端じゃねーかっ!」


 愚痴を溢すリズウィ青年は彼自身のアイデンティティを示す黒髪をクシャクシャとさせる。

 

「まったく、リズウィ。私にまで苛付かないでよ。これはしょうがないじゃない。王命に従うのはボルトロール国民の務めでしょ! それにあなたは特等臣民なのよ。少しは自覚しなさい! この王国の勇者なのだから、有無言わず命令に従うの。いいわね!」


 愚痴り続けるリズウィ青年に対し、それ以上の負けず劣らずの態度でそう諭してくるのはアンナ・ヒルトという名前の少女。

 近代的な魔術師の衣装を纏うアンナは幼く見えても、れっきとした魔術師。

 年齢も勇者リズウィと同じ十七歳。

 この世界の基準からして立派な成人女性。

 しかも、勇者パーティの魔術師を担うのだから、見た目には身長の低い可愛らしい少女であっても、ボルトロール軍の中での階級はかなりの上位である。

 それが解る馬車の御者はこのふたりの会話に積極的に関わらないようにしていた。

 もしかすれば、これが何らかの軍事機密に抵触する恐れがあるかも知れない、と彼なりにそう察したからである。

 触らぬ神に祟り無し、の精神で無干渉を貫く御者の彼。

 そんな寡黙に徹した御者により、勇者専用の馬車はリズウィとアンナのふたりだけの空間となり、ボルトロール王国東側の山道を王都エイボルトに向けて早駆している。

 

ガタン、ゴトン


 勇者パーティ移動専用の特別仕様の高級馬車ではあるが、それでも吸収しきれない凸凹の山道。

 乗り心地は最悪だが、それでも普通の馬車より良いはずだ・・・

 リズウィがそう感じるのは、彼がこの世界で生まれたからではないからである。

 彼の元いた世界ではもっと文明が発達しており、もし、こんなに揺れる車に乗せられれば、相当に怒ったであろう。

 しかし、最近はこの世界の常識を理解しつつあるリズウィはもう慣れた様子である。

 

「しょうがねーな、解ったよ。グラハイルのおっちゃんには世話になったけど、セロ王様にも世話になっているから、それぐらいの義理は果たしてやるさ。それが勇者の務めと言うものだしなぁー」

「はいはい、解って貰えてうれしーです」


 全く気持ちの籠らないアンナとリズウィの会話が続く。

 ふたりとも面倒事が大嫌いな性格をしていて、似た者同士。

 面倒事とは、例えば、王命もそれに当たるが・・・しかし、これにいちいち逆らっても、何も良い事はない。

 だから、リズウィもここで大きな反抗はしない。

 そして、アンナとの付き合いも慣れてきた。

 アンナと深く議論しても、負けん気の強い彼女は減らず口である。

 リズウィにかつていた姉という存在から、口喧嘩では女性に敵わない道理をリズウィは既に学んでおり、さっさと自ら白旗を上げる事にした。

 だから、勝ち目の低い話題から少し変えてみることにする。

 

「それにしても、アイツらと会うのはグラザ戦役以来か・・・」


 ここで、アイツらと称したのは勇者パーティの仲間を示している。

 彼らと作戦を共にしたのは、数箇月前のゴルト大陸南洋に面したグラザ王国の戦いだった。

 あの戦いでリズウィが最後に相手したのは凄腕の女剣術士だった。

 一般兵には手に余る手練れで、最後にリズウィが一騎打ちを申し込んで、なんとか勝を得ていた。

 その勝利のお陰で敵の戦線が瓦解し、ボルトロール王国軍の勝利へつながっている。

 戦略的勝利を勇者リズウィによって貢献できた成果ある戦いでもあった。

 しかし、その勝負の結末として、リズウィは相手の女性剣術士の腕を切り落としていた。

 そこには後味の悪さもあり、しばらく休養を認めて貰い、休んでいたのだ。

 その間、アンナの父親の指揮するボルトロール王国西部戦線の陣中見舞をしていた。

 それがエクセリア国との戦争。

 その戦場である『境の平原』まで出張っていたのだ。

 

「そうねぇ。でも、私はリズウィとふたり旅でラブラブできたのは良かったのだけどねぇ~」


 少しは自分の恋に満足するアンナ。

 女性らしい姿を見られたリズウィは、コイツもこんな時だけは年相応の少女だ・・・と思えてしまう。

 

「あ、リズウィ! アンタ、今、失礼なことを考えたでしょう!」

「・・・まったく、どうして女という生物は余計なところで鋭いんだぁ?」


 呆れと共に、そんな愚痴が反射的に出てしまうリズウィ。

 アンナとの付き合いも長くなり、もうそれなりに気心知れた男女の仲となっているが、それでもこんなところで見せる幼さは微笑ましいと思ってしまう・・・

 

「煩い、煩い! アイツらは悪い奴じゃないけど。それでも、私がデレデレするのを邪魔ばかりするのよ!」

「当たり前だ。俺達は由緒ある勇者パーティだ。品行方正を保つのも大切だぜ!」


 リズウィはそう言いアンナからのアプローチをけん制してみる。

 そうしないと、アンナは最近特に自分にベタベタとしてくるのだ。

 彼女の事は嫌いじゃないが、それでも、リズウィは自分の理想としている女性とアンナは違う女性だと感じている。

 しかし、その事実だけは彼女に告げてはない。

 リズウィも年頃の男性であり、自分に好意を向けてくる女性を簡単に拒絶できるほど年齢と経験を重ねている訳ではない。

 彼としてもアンナを時々相手にするぐらいならば別に構わないと感じており、アンナの父母からは「いつ正式に結婚してくれるのだ」と半ば付き合いを公認されている仲でもある。

 アンナのことは嫌いではないが、溺愛するほどの恋に落ちたい相手でもなかった・・・そんな認識なのだ。

 しかし、『据え膳、食わぬが男の廃れ』と諺があるように、宿の一室でアンナに迫られた時、ちゃっかりと初体験を頂いているリズウィであったが・・・

 

「ともかく、日の当たる時間中でイチャイチャは禁止。俺にもイメージがあるから」

「何よ、イメージって? 私との関係を隠すなんて。そんなに他の女性からモテたいの?」

「・・・うん。モテたい」


 ・・・その直後、盛大なビンタが飛んで来たのは言うまでもない。

 御者は今でも馬車内で繰り広げられているふたりの派手な痴話喧嘩について、必死に見なかったように勤めているのは言うまでもない・・・

 

 

2021年9月28日。ラフレスタの白魔女、第三部の物語がスタートしました。

更新は毎週、金曜、火曜の朝6:00で行います。R15版の次の更新日は金曜日を予定しています。お楽しみに。


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