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第八話 レジスタンスの存在

 その後、勇者パーティを乗せた馬車はアリハン山脈の山間に設けられた街道を東へ進む。

 エイドス村を出た後、小さい集落が点在する山間部には碌に宿場など無い。

 そんなときは小さい集落の一部分を間借りして馬車で寝泊まりする、もしくは、野宿となる。

 人の住む集落以外で寝る場合は魔物の襲撃も警戒しなくてはならないため、交代で夜番することになる。

 そんな共同生活を続けていれば、否応なしに仲間意識が芽生えて仲良くなっていくものである。

 そうしてハルやアーク達も勇者パーティの面々と馴染んでいく。

 夜番でアークとリズウィが剣術の談議に花を咲かせてみたり、ハルとローラ、シオン、アンナは料理の話で盛り上がった。

 ガダルとパルミス、スレイプは遠くの的を狙う遊びに興じてみたり、サハラとフェミリーナはシーラの唄う恋の物語に夢中になった。

 ジルバはひとりでいる事が多く、それが自然であった。

 そんなある意味で平穏な旅が数日間続く。

 しかし、ハルはそんな平和などずっと続かないと思っていた。

 ハルの予想では勇者に恨みを懐く抵抗組織(レジスタンス)がこのまま引き下がるとは思っていなかったからだ。

 そして、その予想どおり敵の襲撃は急斜面の岩場の街道を馬車が進んでいる時に発生する。

 

(そろそろ来るぞ・・・)


 そんな念話がジルバより伝えられる。

 

(うむ。僕も感じるぐらいだよ。実に解りやすい行動をする奴らだね)


 ジルバの持つ超感覚による注意喚起にアークも続く。

 アークも辺境を突破して来た者だ。

 黒仮面など装着していなくとも、なんとなく勘で自分に危険が迫る気配は感じられた。

 そして、その感覚が正しいことを示す事件が起きる。

 

ゴ、ゴ、ゴゴ


 地に響く低い音、その音にまず御者が気付く。

 

「うわーっ、崩落だ!」


 山の斜面から馬車に向かって転がってくる大岩。

 そのまま転がれば馬車に直撃する軌道であるが・・・

 

ゴンッ!


 ここで風の魔法が炸裂し、大岩の落下軌道が変えられた。

 ジルバの放つ風の龍魔法が見事に命中させたのだ。

 

ゴロゴロゴロ、ドーン


 その大岩は斜めに転がり、馬車から後方の斜面を通って谷底へ落ちた。

 これに肝を冷やしたのは勇者パーティの面々である。

 

「ひゅー、危ねぇー。助かったぜ、ジルバさん」

「どうと言うことはない。それよりも岩を放った犯人が崖の上に潜んでいるぞ」

「ムム、なんだって!」


 リズウィは慌てて崖の上を見て剣を握る。

 これが自然な事故ではなく、自分達が狙われたと知れば、彼らの対処は早い。

 目を凝らして見ると、崖の頂上付近に人型の魔物が居るのが解った。

 

「あそこに大鬼(オグル)がいるぜ!」


 リズウィの指摘する方角に複数の大型の鬼の魔物がいた。

 それは怪力自慢の魔物であり、この魔物が岩を落とした犯人なのは明白である。

 

「厄介ね。群れているのかしら?」


 大鬼オグルとは魔法の利き難い体質に加えて、怪力で耐力には定評のある魔物だ。

 一般的には屈強な魔物として分類され、倒し難い魔物である。

 しかし、ここに集っているのは王国自慢の勇者パーティと、辺境の探索者――魔物の天敵のような存在である。


「距離があるな。弓矢で狙ってみよう」


 口下手なスレイプが珍しく言葉を発して、スレイブ一家が馬車より降りて弓を次々と引く。

 そして、スレイプ、ローラ、サハラの三本の矢が素早く放たれた。

 

ヒュン、ヒュン、ヒュン


 まるで地面スレスレで飛ぶ鳥のように弓矢が斜面を駆け上がり、魔物三匹に見事に命中した。

 

「グボッ、ギャビィ!」


 大鬼(オグル)は意味不明な悲鳴を発して胸を抑える。

 弓矢が見事に敵の急所の心臓へ命中した。

 一撃で絶命させられた大鬼(オグル)三匹は崖に転落して谷底へ落ちていく。

 

「おお、すげえ。やっぱ、この三人の弓はプロ級だぜ!」


 リズウィは卓越した弓の腕前を持つスレイプ一家の三人を賞賛する。

 

「隆二、感心しないで! この魔物を(けしか)けた奴がどこかに潜んでいるわよ! ジルバ探せる?」


 ハルからの要望に無言で頷くジルバは地面に転がる石をひとつ取ると、それをおもいっきり振りかぶり投げた。

 

ブォン、シュル、シュル、シュル


 空中を勢い良く回転する石礫(いしつぶて)は大きく弧を描き、岩の陰へと消える。

 そして、しばらくすると・・・

 

ゴンッ!


「ぎゃあ!」


 鈍い音と共に甲高い悲鳴がひとつ上がる。

 明らかに人間の発した悲鳴であった。

 

「ジルバ、命中したようね。ありがとう。あの岩陰に魔物を(けしか)けた犯人が潜んでいるわ」


 こうして、ハルの指差す岩陰より今回の襲撃の黒幕と思わしき黒ローブの男を捕まえることができた。

 

 

 

「おい、起きろ!」

「・・・ぐ・・・何、俺は捕まったのか?」

 

 リズウィに腹を蹴られて、その痛みで意識を取り戻した黒ローブの男。

 そして、自分がロープで縛られている現状を理解した。

 

「ああ、お前が魔物を操っていたんだよな? この紫水晶が高度な使役の魔道具であることはもう解っているんだぜ」


 そう言い黒ローブの男が所有していた紫水晶を没収したリズウィが問い詰める。

 ちなみに、この紫水晶の魔道具が魔物の心を支配できる魔道具であることを看破したのはハルである。

 彼女の魔道具師としての見識眼による結果であり、それをリズウィ達に報告していた。

 勿論、それは単純な魔道具の解析能力だけではなく、過去に銀龍を支配しようとした紫魔力の魔道具と気配が似ていた事による。

 詳しい内容までリズウィ達には伝えていないが、この紫水晶の魔道具がボルトロール王国の秘密の技術であることはほぼ確信していた。

 ただし、この紫水晶は銀龍を支配しようとするほどの強力なものではない。

 あの時の魔道具と比べるとその廉価版と見るべきだが、知能の低い魔物ならばこれで十分支配できる代物であった。

 そんな支配の魔道具の存在はボルトロール王国の表の世界では秘匿されおり、特殊部隊に所属する勇者パーティの面々でさえ知り得ない魔道具であるらしい。

 

「ぐ・・・死なせて貰う。絶対に情報を漏らす訳にはいかんのだ」


 黒ローブの男は忌々しくそう述べ、そして、口の中に忍ばせていた何かを噛む。

 

「やば・・・拙い・・・くそ! シオン、何とかならねーか?」


 リズウィが、顔色がドンドンと悪くなる男の症状に気付いた時には時既に遅く、黒ローブ男の口からひとつの鮮血が流れ落ちる。

 駆け寄ったシオンは首を横に振った。

 

「駄目です。即効性の毒を歯に仕込んでいたようです。この男の命の灯はもう消えてしまいました」


 神聖魔法による毒抜きと回復はもう間に合わないとシオンは判断し、この男の死亡を告げる。

 

「ちくしょう。これで俺達を襲った奴の真相は解らず仕舞いだ・・・」


 リズウィは自分達が襲われた理由について問い正したかったが、この男の自害を許してしまったので、これ以上何も情報は得られない。

 

「死んでしまった・・・それは残念だったわね・・・隆二、アナタは人から恨まれていることなんてある?」


 ハルはリズウィに思い当たる節はないかと聞く。

 

「俺は人から恨まれることなんて・・・山ほどあるぜ」


 リズウィは少し考えただけでも、数多の要因が考えられた。

 それほどに人の命を多く奪ってきたが、これまでの勇者リズウィの仕事内容を考えると、それは致し方ない話だ。

 

「そうなの・・・まぁ詳しくは聞かないでおいてあげる・・・」


 凡その事を察し、ハルはこの場で詳しく聞くのを止めた。

 今この場でそれを知ったとしても、自分が不愉快になるだけと思ったからである。

 だから、少しだけ自分がこの男の心を覗き観て得られた情報をバラしてみることにした。

 

「これは私の勘なんだけど・・・この男ってボルトロール王国に対する抵抗組織(レジスタンス)の一員じゃないかしら?」

抵抗組織(レジスタンス)だって? どうしてそう思った??」

「だって魔物を使役して村を占拠しようとしたり、執拗に勇者パーティを狙ってくるなんて、国家転覆を考えている輩のひとりじゃないかな?って思っただけよ」

「・・・抵抗組織(レジスタンス)か・・・ガダル、パルミス、どう思う? 本当にそんな組織が存在するのか?」

「・・・我が国に反旗を翻す抵抗組織(レジスタンス)は・・・存在するが、それは規模の小さい組織ばかりだ。昔は大きな組織があったとも聞くが、我々軍もそのままを赦す筈が無い。既に殲滅している。現在、組織だって活動しているもの、抵抗を続けている組織などは小規模なものばかりだと聞いている。この男がそんな数多の組織のひとりだという可能性はあるだろうな」


 ガダルは冷静に軍部で得られた情報を整理してそう結論付けていた。

 

「ハルさん、その紫水晶を渡してください。これは魔物を操っていた証拠品となります。ボルトロール軍で調べたい」

「ええ、渡すわ。抵抗組織(レジステンス)についても是非調べてください。隆二や私達まで狙われるのは嫌だから・・・ね」


 ハルは一応念を押す。

 

「解りました。このガダルの誇りにかけて調査する事をお約束します」


 ガダルは紳士っぽくそう応えて約束する。

 そんな姿を見て、リズウィが彼を茶化した。

 

「あ、ガダル。また、姉ちゃん好き派に鞍替えしたんだな」

「リ、リズウィめ・・・煩いぞ!」

 

 顔を真っ赤にして怒るガダルは可愛かったが、それでもハルはこの男が所属している抵抗組織(レジスタンス)は只者ではないと密かに思っていた。

 それはこの男の心を無詠唱魔法で覗き見た情報よりそう判断したからだ。

 その情報によると、ガダルが思うよりも規模は大きく根深い組織である事実が解っていた。

 

(隆二、気を付けなさい。この抵抗組織(レジスタンス)は単なる敗戦国の惨敗兵の集まりじゃぁ無いわ。悪とは自らの組織を蝕むものよ)


 得られた情報を簡単に口にする事はできないため、そのように心の中で唱えて、万が一の事態が起きた時は自分が仮面の魔女となりフォローするしかないと思うハルであった・・・

 

 

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