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第七話 史上最強のカップル誕生

 ジルバがシーラより密室にて強制的な逢瀬を命令されている頃、アクトとハルは自室に籠り、本日の顛末について話し合っていた。

 

「まったく、魔物の襲撃があったりして、まるで辺境の中にでもいるような状況だったわね」

「本当だね。しかし、弱い魔物ばかりの集団だったから、自分達ならばそこまでの脅威じゃあなかったけどね」

「私達やスレイプさん、ジルバなら問題無いでしょうけど、一般人ならば今回は相当の脅威よ」


 ハルが言うように辺境を突破してきたハルとアクト、そして、辺境に住むスレイプ達にしてみれば雑魚に等しい相手であったが、人間社会の一般人ならば対処しきれない可能性もある襲撃だ。

 

「だけど、隆二君達も『勇者パーティ』を名乗っているだけあってそれなり(・・・・)の戦闘力だね」

「そうね。困った事に中途半端に強いのよ。だから恨みを買うこともあるんじゃない?」


 ハルもアクトもリズウィ達の戦いを見ていた。

 勇者パーティは各々個人の強さもあり、連携もできていて、戦いは上手いと評価できた。

 ボルトロール王国の中で軍隊出身の彼らは特殊な軍事訓練を受けているのだろうとハルは思う。

 しかし、それはあくまで人として出せる実力の範囲の話である。

 自分達が仮面の力で強化(ブースト)したものには遠く及ばない。

 今日の戦闘を見ていてそんな事を思いつつも、アクト、ハルやジルバは大幅に実力を隠して戦っていた。

 スレイプ、ローラやサハラまでも精霊魔法を極力使わずに対処していたので、そう言う意味で彼らも実力を隠していたと言ってもいいだろう。

 そして、戦いの最後に今回の騒動の黒幕らしき人物をジルバが発見している。

 詳細までは解らなかったが、あの時感じた悪意により、その人物から魔物を(けしか)けられたと見ていいだろう。

 

「恨み・・・か」

「そうね。抵抗組織(レジスタンス)なんて、遺恨があるからこそ生まれるものよ。ボルトロール王国も一枚岩ではないようね」


 ジルバが発見できたと言うならば、その敵の心を完全に見透していたに等しい。

 人間如きが銀龍の索敵から逃れるなど不可能なのだ。

 ジルバに見つかったその人物からはボルトロール王国の勇者に対して強い恨みを懐いているようだ。

 それは彼個人が勇者リズウィ個人に向けた感情というよりも、勇者という存在そのものを恨んでおり、自分達は反ボルトロール王国の勢力―――つまり、抵抗勢力(レジスタンス)に所属している事を示していた。

 その情報は念話を通じて一瞬のうちにハルへ伝えられ、そして、アクトと共有している。


「どうやら、しばらくすると、王都で大きな反乱が計画されているようね。そのときに勇者パーティが王都に居れば面倒だと抵抗勢力(レジスタンス)が判断しているようよ」

「なるほどね。だから隆二君ら勇者パーティが国境近くの村に移動しているタイミングで、途中の山岳地帯の街道を魔物に占拠させて分断しようとしたのか」

「そう考えるのが妥当ね・・・隆二はボルトロール王国では勇者として活躍しているようだけど、一部の人間からは相当危険視されているようね。本当に困った状況だわ」


 参ったと言うハル。

 彼女が危惧するように、勇者リズウィは一部の人間から恨みを買っているようだ。

 

「ボルトロール王国も一枚岩ではない訳か。大国として急成長した国家なので内政的に無理があるのかも知れない」

「そうね・・・国家を構成するのは大多数が平民よ。それを一部の支配者が支配している・・・典型的な独裁国家の構造だわ」

 

 そんなハルの言葉には彼女の主観に満ちた悪意が籠っていた。

 彼女の中でボルトロール王国の印象が悪くなるばかりである。

 

「ともかく、私達は一日でも早く、お父さんとお母さんに出会うことにしましょう。あまりボルトロール王国と関わりたくないわ。研究所と呼ばれる施設に軟禁されているサガミノクニの仲間とも接触する。そして、彼らを解放してボルトロール王国から手早く脱出する。それしかないわ」


 ハルとしてはこのボルトロール王国がこの先にどんな国家になろうと知った事ではない。

 悪い印象しかないので、自分の身内を手早く縁切りさせる事だけを優先的に考える。

 

「それにしても・・・シーラさんの事をどう思う?」


 ここでハルは突然話題を変えて、今後行動を共にすることになった美人の楽師の事について尋ねてきた。

 

「どう思うって・・・いい人っぽいけど」


 アクトはどう答えるかを少し迷い、現在自分の持つ彼女に対する印象をそのまま答えた。

 

「やっぱり、そうよね・・・私もそう思う・・・だけど少し引っ掛かるのよねぇ」


 本来ならば他人を疑り深いハルは自分の性格を客観的に分析して、こうも簡単にシーラのことを信用する自分に疑いの目を向けていた。

 全く以て不自然なほど自然な事が、不自然なのである。

 しかし、自分達に魔法が掛けられた兆候など感じられない。

 自分はともかく、アクトは強力な魔力抵抗体質者であり、そこに魔法が作用すれば何らかの反応があって然るべきなのに、痕跡は何もない。

 つまり、ここで魔法は作用してないと見るべきである。

 逆に自分の無詠唱魔法でシーラの心を観ても、彼女の心からは悪意のかけらも感じられない。

 全てがシロなのだ。

 だから余計に変だと思う。

 

「私ね、何だか、過去にシーラさんと会ったような気もするのだけど。それを考えても思い出せないし、あまり深く考えなくてもいい、と思えてしまうの・・・」

「そうか。俺は帝都ザルツでシーラさんと会った時、白魔女役に嵌り過ぎている女優だと思ったぐらいさ。中身はともかく外観はある意味で女性としての理想形じゃないかな?」

「あら、アクトはシーラさんの事が気になる?」

「気になるかと問われれば、気になる。しかし、ハル・・・君の方が素敵さ」

「まぁ、話を逸らすのが上手くなったわね」


 ハルはここでだらしなく笑みを浮かべる。

 自分がシーラより上だと言われて、嬉しくなって照れたのだ。

 

「まったく、ここでそんなに褒めても、今日の夜の相手はほどほどだわよ」

「仕方ないね。現在はボルトロール王国の侵入作戦の真っ只中だから、互いに余力を残す・・・程度に楽しもう」


 これはアクトとハルとで予め決めていたことだが、この旅が継続する間は夜の営みを全力で行わない事にしていた。

 全力で愛せないことで互いに不満は溜まってしまうだろうが・・・

 しかし、それでも軽く済ませる範囲ならば、夫婦の営みとして不自然じゃない範囲ではそれでよしとしていた。

 互いに新婚であり、お互いの深い接触を身体や心が欲しているのだ。

 男女の行為で得られる快楽が深い愛情と同義的に得られる。

 

「ハハハ、俺達も隆二君をあまり否定できないかな?」

「違うわよ。私は相手がアクトだから満足できるのよ。隆二は気持ち良ければ誰でもいいと思っている節があるわ」


 ハルの厳しい評価だが、アクトは男性として隆二の気持ちも解らなくはない・・・

 その心の揺らぎはハルにも見透かされて、軽く抓られたのは致し方ない。

 

 

 

 そして、次の朝、朝食を摂るために食堂で一同介したが、そこでは驚きの光景があった。

 

「そ、そんな・・・シーラさんが、ジルバさんと同伴しているなんて!」


 口をパクパクさせて驚くのはガダルである。

 今のシーラはジルバと腕を組み、その大きな乳房にはジルバの肘が埋まっている。

 短い期間で二度目の恋に落ちたガダル。

 その恋の対象である女性が早くも他人のものとなってしまった光景が見せつけられた。

 その衝撃にガックリとするばかり。

 

「ジルバって素敵な(オス)だわよ。特に持久力あるところが男らしいと思うの」


 シーラからそう言われ、見せつけるようにしてジルバの服の上から逞しい胸板をシーラの細い指が這い回る。

 その行為にジルバは黙って耐えていた。

 傍から見れば、恥ずかしくてポーカーフェイスを貫いているようにも見えるが、その実はシーラから拒絶するのを事前に禁止されていた。

 耐えると言う意味だけは共通している。

 ジルバの沈黙・・・それを周囲は肯定と受け止める。

 

「シーラさん、手が早っ! いつの間にアークからジルバに乗り換えたの?」


 ハルは呆れてそう言う。

 

「ジルバは素敵な男よ。私達は正式に付き合う事にしたわ」

「ギャフン!」


 シーラからの付き合う宣言に、ガダルの心は打ち砕かれて悲鳴を挙げた。

 

「ち、ちくしょーーーーー!」


 ガダルは泣きながら、脱兎の如くこの場から逃走を図ってしまった。

 完全に負け犬なその姿にリズウィは冷たく罵り言葉を贈る。

 

「ガダル・・・・お前、やっぱり純情すぎる男だぜ。ジルバさんが相手じゃ分が悪すぎるだろう。もう諦めな!」


 リズウィの言葉に続いてアンナが、べぇー、と舌を出しガダルを煽っている。

 普段から自分達の逢瀬を邪魔するガダルに、この時ばかりは復讐したかったようだ。

 そんなやりとりを見たハルは、この勇者パーティ達は果たして本当に仲が良いのか悪いのか・・・と思えてくる。

 いや、少なくとも隆二とアンナは仲が良いのだろう。

 ガダルを罵るのも息がぴったりだ。

 

「まったく・・自由人なシーナさんはもういいとして、ジルバはそれでいいの?」


 その誰何には、ジルバが人間種族でない意味も含まれていたが、それをこの場で明らかにする訳にもいかない。

 いろいろと言葉の内容を飛ばしてそう言ったが、その真意はジルバに正しく伝わったようだ。


「・・・それは大丈夫だ、ハル。シーラには私の特殊(・・)な事情を話して納得して貰っている。世間知らずで偏屈な辺境の研究者である私だが、それでも構わないとな」

「ええそうよ。ジルバが人間社会で世間知らずなところは、逆に私の得意なところ。今までいろいろと人間社会を見てきたこの私の豊富な経験が役に立つでしょう。ジルバは強力な龍魔法を持つけど、私も強力な人間社会のコミュニケーションの能力を持っている。ふたり合わせれば、人類史上最強のカップルに成れると思うわ。ウフフフ」

 

 楽しそうにコロコロと笑う姿は妙な自信が感じられた。

 

「解ったわ。ふたりが同意して付き合うならば、私からこれ以上何も言わない」


 そう言いハルは納得の態度を示す。

 ここでジルバとシーラの言葉には微妙な嘘が混ざっていたが、次の事実だけは本当である。

 『人類史上最強のカップル』

 銀龍として膨大な英知と魔力・破壊力を有すゴルト大陸の最強の管理者であるジルバ。

 そして、その銀龍を支配し、人間、いや、その管理者である神さえも格下扱いにするシーラ。

 このふたりがタッグを組むのは、この世界の歴史が始まって以来の出来事であったりする。

 


 謎多きシーラと言う女性。実はこの物語の第一部からちょくちょく顔を出しています。彼女は世界の歴史を裏から支えるのが信条でしたが、もう我慢できなくなり表に出てきたようです。果たしてこの女性の正体とは・・・詳しく明かされるはまだまだ先の話となります。それまでは彼女らが何か無茶をしても「流石はシーラさんとジルバ。規格外やわ~」として扱われます。(なぜか関西弁!?)彼らの活躍も含めて、今後の展開に乞うご期待下さいませ。


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