第十五話 歴史家の好奇心
私はラフレスタの白魔女を研究している歴史研究家ダン・マール。
ラフレスタの白魔女の謎を追い、ゴルト大陸の方々を旅しているが、本日、私が訪れた場所は中央ゴルトに座すエクセリア国。
言わずも知れたゴルト大陸で最も栄えている都市エクセリン。
街中を魔動馬車が行き交い、魔導街路灯が完全に整備されていて、列車工場という最先端産業も育ち、国土は狭くとも豊かで人口が多い。
そればかりか中央ゴルトの辺境領域に住む亜人達との交流も盛んであり、街中を普通にエルフや小人族が歩いている。
何とも異国情緒に溢れたこの街だが、この国にこれほどの繁栄をもたらしたのが、エクセリア国首都エクセリンの一等地に居を構えるサガミノクニ人だという事実はゴルト大陸では有名な逸話だ。
優れた技術力を持つサガミノクニ人。
彼らはその技術力を以て、このエクセリア国を発展させ、莫大な富を築いた。
そのサガミノクニ人のリーダーであった人物がハル・ブレッタと言う女傑だ。
ラフレスタの乱を研究している私にとって夫のアクト・ブレッタは有名過ぎる存在だが、今回の調査対象はその妻となったこの女性に関してである。
彼女はあのラフレスタの乱の時期にアストロ魔法女学院に在籍していた記録もある。
戦乱時の彼女は全く目立つ存在ではなかったが、しかし、その後、大英雄アクト・ブレッタの妻の座に収まった人物でもある。
そんな彼女は私が目星を付けているラフレスタの白魔女の最有力候補者でもある。
その後にハル女史はアクト・ブレッタと共にこのエクリセンへと移り住み、魔道具師として存在感を出していくのは他の史実でも有名な事実だ。
勿論、彼女の活躍した時代はもう百年前の話。
既に存命でないことは百も承知だが・・・その子孫に話を聞く事により彼女の足跡を辿れる可能性は十分あると考えている。
「ヒトミ様、本日はお忙しい所、私のような者にお時間を取っていただき、ありがとうございます」
「いいえ。現在は決算時期ではないため、差し迫った仕事はありませんので、お気になさらず。それよりもラフレスタから遠路遥々おいで頂き、お疲れかの事かと思います。サンガ、お客様にお茶を出してあげて。そう、最高級のロジアン茶でいいわ」
下働きの者に指示を出す現在の生活協同組合の組合長はヒトミという名前の女主人。
物腰柔らかそうな中年の女性であり、私も直ぐに好感が持てた。
「それで、ダンさんだったかしら。アナタは私からおばあちゃんの何を聞きたいのかしら? 私もおばあちゃんの事については幼小児の頃しか記憶に残っていないのだけど・・・」
「私が聞かせて頂きたいのは・・・」
そう言って私はひとつの書物を出す。
それは私なりにまとめたラフレスタの乱の資料、それにはいろいろな人物の活躍を時系列ベースでまとめた資料であり、どの時間、誰が何をしていたか一目で解るものである。
「これは・・・何でしょうか?」
ヒトミは目を丸くした。
それもそうだろう、何も説明なしにこの資料を広げても怪訝に思う方が普通だ。
「私はラフレスタの乱を研究している歴史研究家です。単刀直入に聞きましょう。サガミノクニ生活協同組合の初代組合長だったハルさんは白魔女と呼ばれる仮面の装着者ではないかと思っています」
「・・・はあ?」
ヒトミさんは本気で訳が解らない反応を示す。
これが演技であるとすれば、たいした者だ。
だから私は今回のインタビューで核心となる事案について率直に聞いてみた。
「ハルさんから家宝のようなものを引き継いでいませんか? もしかすれば、ハルさんの夫だったアクトさんからも仮面や魔剣などを代々引き継ぐような事はありませんか?」
「・・・一体何の事を言っているのか? まったく理解できませんが、そのような物はおばあちゃんや先代からは引き継いではおりません」
ヒトミさんはきっぱりと否定してきた。
「・・・そうですか・・・残念です。私がここに探しに求めてきたのはそんな事です」
「残念ながら、お力になれなかったようですね。私達が先代より受け継いだのはハルおばあちゃんが独自に編み出した魔法の秘伝書とか、技術指南書の資料のようなもの。あとは組合長の心得のような書物。これらは一応、一族の秘匿の技術として指定がかかっていますのでお見せする事はできません。あとそれと・・・これぐらいでしょうか?」
ヒトミさんはそう言って自分の腕を捲り、ブレスレットのような装飾品を見せてくれた。
「これはハンズ・スマートと言い、我々がサガミノクニ人の末裔だと言う事実を示す証拠のようなもの。過去の国の記憶と英知が詰まっています。これだけは親の代から子供へ譲り受けるようにと言われていた物です」
ここでヒトミさんが何かを念ずると、この世界では見た事の無い街の光景が光魔法で投影される。
「これは・・・サガミノクニの光景。やはり、サガミノクニは本当にあるのですね・・・」
伝説に聞く、サガミノクニの光景に眼を輝かせる私。
しかし、これに懐疑的なのはヒトミさんの方であった。
「これも実は本当に街の映像なのかはよく解りません。巧妙な光魔法だと言う人もいます。そもそもサガミノクニが何処にあるのか我々にも解らないのですから」
ヒトミさんは諦めに似た表情を零す。
それもそうだ。
公にサガミノクニ国とはゴルト大陸東海岸から離れたユニ海のどこかにあるとされている。
しかし、その所在を見た者はまだ誰も居ない。
サガミノクニ人が嘘をついていると言う者もいるが、サガミノクニ人の持つ高度な技術は本物であり、それはゴルト大陸にある既存の技術とは異質なものである。
それ故にサガミノクニ人が単に嘘をついているとも言い切れない。
だが、これは気を付けなくてはならない話題でもある。
特に私達のような歴史研究家の仲間内ではひとつの噂が蔓延していた。
それは『サガミノクニ人について研究をしてはならない。彼らは不可侵な存在である』との噂である。
その噂についてはかなり気を付けなくてはならない。
何故ならば、この噂を無視して研究に没頭し、最終的に消息不明となった研究者が三人もいるからだ。
いずれも、サガミノクニ人のルーツを探る過程で行方不明となった。
サガミノクニ人の特に幹部はエクセリア国、エストリア帝国、ボルトロール王国の上層部とも親交が厚いとされている。
国家諜報機関に目を付けられて消されたのではないかとも言われている。
それ故に我々歴史研究家の仲間内でサガミノクニ人のルーツを積極的に研究している者は少ない。
皆、自分の命は惜しいのだ。
私も余計な好奇心に唆されて、危ない橋を渡る気もない。
それに私が研究するのはラフレスタの白魔女の事であり、サガミノクニ人のルーツとは直接関係が無い筈。
(だが、私が目星を付けているハル女史はサガミノクニ人であり、ここの初代組合長だった人物でもある・・・共通点もあるがギリギリで引き下がれば問題ないだろう)
と勝手に線引きして、新たなハル女史の情報はないかと求めた。
「そのブレスレットは初代組長ハル・ブレッタさんの物ですか?」
「・・・ええ、そうです。見た目は対象痛んできていますが、ハルおばあちゃんが使っていた物を私が引き継いでいます。私はこう見えても現在の組合長ですので・・・それでも、初代や次代ほどの成果は出せていませんが・・・」
謙遜を示すヒトミ女史は、何処にでもいる商人の女主人ようにも見える。
しかし、彼らの謙遜する姿に騙されてはいけない。
彼らはそうやって周囲を油断させて、世界がビックリするような発明を繰り返してきた経緯があるのだ。
「そんなことありませんよ。サガミノクニ生活協同組合――いいえ、現在はシャングリラ生活協同組合とお呼びした方が現代的でしょうか?――貴方達の活躍はエストリア帝国の帝都ザルツにまで聞こえてきます。新型の魔動馬車を発売したじゃありませんか、あれは帝都で貴族達がこぞって買っていますよ」
「そうでしたね・・・あれがヒット商品なのは否定しませんが、それでも初代が作られた魔導式蒸気機関車の機構、魔動モータの技術、汎用型魔法陣の技術の応用に過ぎません。我々は模倣して、学び、改良しただけですから」
新型の魔動馬車は馬車と名が付くが、動力に馬など存在せず、魔動モータなるものが機関となっている。
過去から存在するゴーレム馬車とは全く着眼点が異なる代物であり、魔力消費量も恐ろしく少ない。
乗り物として革命的と思えるぐらいの発明品であり、ひと馬車当たり数百万クロルする高級品だが、その利便性が故に飛ぶように売れている。
それが造られているのがここシャングリラの重工業だけである。
その発明品が一体どれほどの利益を上げているのか、商売が素人の私でも解る事実だ。
エクセリア国内でも列車製造に続く大産業として注目の的であろう。
そのシャングリラ生活協同組合のボスが私の目の前にいて、それで歴史調査と言う名目の与太話に付き合わせている事自体が、畏れ多いとも思えてしまう。
部屋の隅で控える秘書と思わしき女性が私に目立たぬよう時計を気にしているのも解った。
「最後にもう一度教えてください。初代組合長のハル女史が仮面を使っていたのを貴女は見たことがありませんか?」
「・・・ありません」
それだけはハッキリと答えるヒトミ女史。
彼女の秘書は無駄な質問を続けてくる私に少々不快な印象を持つようだ。
そんな苛つきを示す姿が視界の隅に感じられた。
(ここが潮時・・・関係が悪化する前にここを去るべきだろう)
そんな事を感じて会談を締めくくろうと思ったが、ここでヒトミ女史が何かを思い付いたようだ。
「私はありませんが・・・もしかすれば、森のエルフならば何かを知っているかも知れませんね」
彼女はそう言って手早くひとつの書を私に託してくれた。
「これは?」
「白エルフの族長に面会できる紹介状です。あの方はハルおばあちゃんと一緒に冒険をした方。もしかすれば、何かご存じなのかも知れません」
渡された書類を見れば、それは白エルフの族長ローラに宛てた紹介状であった。
「ありがとうございます。これは貴重な紹介状を頂きました」
「ええ、辺境の奥地に住む白エルフの里。今では辺境鉄道のお陰で日帰りも可能です」
「それでも白エルフ村は閉鎖的な社会だと聞きます。彼らはプライドが高く、一般人が族長に面会など、まずは応じて貰えないと言われていますが・・・」
「大丈夫ですよ。その紹介状を持って行けば、ローラおばさんは話の解る穏やかな人です。ハルおばあちゃんの盟友だった人物でもありますから、昔話をいろいろと聞ける事が期待できるでしょう」
「本当にありがとうございます。ハル女史の有意義な話を聞ければ、是非とも記録に残しますので、ヒトミ女史にもお伝えします」
「それは楽しみですね。忙しい私に代わりいろいろと話を聞いて来て下さい」
それで会談は終わりとなった。
このときに見せてくれたヒトミ女史の本当の笑顔を私は生涯忘れる事はできないだろう。
次の日、朝一番で私は辺境鉄道へ飛び乗り、辺境の白エルフ村へ向かう。
人類が辺境の森に入る事など百年前は考えられなかったのだが、それも今は昔の話。
魔物避けの仕掛けある鉄道の敷設により、現在は簡単で安全に行けてしまう。
初めは産業振興のために敷設された路線であったが、エルフの貴重さから観光路線として一大ブームとなったのは少し前の話。
初めは歓迎していた白エルフ達だったようだが、それでも人間がこぞってその地に訪れる事で辟易としたのだろう。
現在はあまり歓迎されないと聞く。
それでもこの路線は観光産業として最も有名であり、私は満員列車の旅をする事になった。
「これから族長に会うのか・・・」
私はいつになく緊張している。
白エルフの族長に会うなど、相手はひとつの種族の頂点の存在である。
人間社会に例えれば、帝皇と直接面談が叶うようなものだ。
当然、普通ならばそんな面談などできない。
今回、特別に面談が許されるのはシャングリラ組合長であるヒトミ女史からの紹介状を持つお陰なのだ。
「人間よ。こちらでしばし待たれよ」
偉そうな態度で長身美形の警護者からそう告げられて待たされる事になる。
まるで胴長短足の私を見下すような態度の白エルフの警護者。
悔しいが、白エルフが種族的に美形揃いなので、こればかりは卑下されても仕方が無いと思ってしまう。
少々卑屈になってしまった私だが、他にやる事も無く、大人しく控室で待たされること三十分。
そして、しばらくすれば件の族長がやってきた。
「人間と喋るのは久しいな。私が白エルフの族長ローラである」
護衛車の男性と同じように少し上から目線の態度で喋る女性エルフが入ってきた。
なんだかヒトミ女史から聞かされていたのと違う印象なのだが、為政者などそんなものだと思い直すようにした。
「少し席を外して貰えるかしら?」
「いや、それでは御身が・・・」
護衛男性に席を外すよう求める族長。
護衛男性も簡単には応じない。
「紹介状によるとこちらの方はハルさんの事を聞きたいようです。あの方は我々エルフにとっても英雄です。アナタが簡単に聞いて良い話じゃないかも知れないわよ」
「ですが・・・」
まだ渋る護衛男性だが、族長の求めに根負けしたのか結局は退場する。
退場した途端に族長の態度は一変した。
「はぁ~、疲れるのよね~、この仕事。申し訳ありませんね~、お客人。白エルフとして人間の前では毅然と接せよとの父の遺言を守る人物が多いのよ、ここには。本当はそんなに偉そうにしても良い事なんて少ないのにねぇ。それでも一定の威厳が必要な事も理解しているのだけど・・・あ、いいのコレは私の愚痴。聞き流して頂いて結構だわ」
初老の女エルフは一気に愛好を崩し、私へ友好的に接してくれた。
そのお陰で私もホッとする。
「それでハルさんの何を聞きたいの? 答えられる事と答えられない事がありますわよ。ああ見えてハルさんはエクセリア国、エストリア帝国、ボルトロール王国すべてで最重要人物でしたから」
「それでは単刀直入にお聞きしましょう・・・ハルさんは白魔女だったのでしょうか?」
「・・・それは・・・」
ローラはどう答えようか悩む。
やはりこれは敏感な質問だったようだ。
でも、彼女が答えに窮すというのは私が考える事が正解に近い事を示していると思った。
私はそれだけでも良い機会だったと思う。
実に収穫があったとも言えるだろう。
「・・・それは私にとって答えられない質問事項だけど、アナタはその事実を知ったとして、どうするの? 世間に公表をするの?」
「私は歴史家です。過去の真実を正しく後世へ伝える事を仕事の信条としています・・・」
言葉を濁しているが、それは公表する意味と同義である。
私は今回の調査結果を製本して歴史書として整える予定だ。
歴史家としてはまっとうな仕事だか、政治の世界に生きている族長はそんな回答をお気に召さなかったのか、顔を顰めるだけだ。
「そうなると・・・これは私に判断できる事案ではありません。あの方を呼びましょう」
「あの方?」
誰を呼ぶのだろうか?
もっと史実を知る的確な人物を紹介してくれるのだろうか?
私はシャングリラ組合長から続くこの幸運に目を輝かせる。
しかし、彼女が呼んだのは私が想定している以上の大物であった。
ここで族長は魔法を行使して左腕に装着されたブレスレットに話しかける。
それはサガミノクニ人が持つ通信機器に似ていた。
「・・・サハラ。今、大丈夫? こちらにハルさんの事を調べている研究者が訪れているのだけど・・・ええ、そうよ。まだ、暴食の魔神には襲われていないみたい・・・好奇心って危険よね・・・はい、解った。ありがとう。銀龍様にお礼を伝えておいて・・・それじゃあ、待っているから」
断片的に聞こえてくる会話からは全貌を読み取れなかったが、何者かをここに呼んでくれる事だけは解った。
「あの・・・どなたをお呼び頂けるのでしょうか?」
私は恐る恐る聞く。
「ハルさんを最も知る方よ。大丈夫、心配しないで。あの方ならば暴食の魔神と違ってアナタを悪いように扱わないわ」
その『暴食の魔神』が何者なのかは答えて貰えなかったが、あまり良い予感はしない。
しばらく待つと、部屋の雰囲気が変わった。
魔力に鈍感な私でさえ、感じる事のできるこの重圧感。
ガチャッ!
正面から正々堂々と扉を開けて部屋に入ってきたのは妙齢のエルフ女性に連れられたひとりの男性。
長身の人間の男性のようにも見えたが、彼が纏う雰囲気が尋常ではない。
私も歴史家であり人の資質については感じ取れる能力は高いと思っている。
そんな私が見ても只者ではないと一目で解る人物。
招聘された男性の正体については白エルフ族長より明かされた。
「この方は銀龍スターシュート様です。失礼の無いように」
「えっ!」
私は腰を抜かしそうになる。
そんな滑稽な私の姿を、矮小な人間を見るが如く男性は嘲笑ってきた。
「ふふ、ローラよ。よくぞ私に声を掛けてくれた。こやつがハルの秘密を探ろうとしている者だな?」
爬虫類のように縦に走る男性の瞳孔は私を獲物として見ているようであり、震え上がってしまう。
「スターシュート様。彼の名はエストリア帝国に所属する人間の歴史家ダン・マール氏です。純粋にラフレスタの乱の史実を研究しており、善良な方だと思われます」
族長からはそんなフォローがあったが、私はもう自分の死期を覚悟した。
人間の姿に扮した銀龍の瞳が私を射殺さんばかりに睨んでいる。
永遠の時間それが続くようにも感じられたが、実際は数瞬で睨みが終わっていた。
「・・・ふむ。大体解った。ローラの申し出に嘘は無さそうだ。人は時として好奇心に支配される・・・それがどれほど危険なのかは解らないが故の蛮勇だがな・・・この男は幸運にもまだ真実の核心には迫っていない。もし、核心に近付いていれば『暴食の魔神』が現れただろう」
「ぼ、『暴食の魔神』とは?」
私は恐る恐るその存在を聞いてみる。
「世の中、知らぬ方が良い事も多いのだ。私と同じ主人に仕える同僚と言えば単純だが・・・しかし、私は彼女をあまり好かない。何でも食べてしまう奴だからな。美意識が合わない冷徹な始末人だ」
「し、始末人・・・」
「そう。最強の殺し屋だと思えばいい。今まで『暴食の魔神』に狙われて生き残ったのは勇者リズウィと我が巫女サハラの夫ぐらいだ。特別な技術や徳を持たぬ貴様ではまず生き残れないだろう」
「ヒッ!・・・」
私は震えあがった。
「選択肢はふたつやる。真実を知り、生涯その魔神に狙われるか。それともすべてを忘れて安息に生活するか? どちらかを選べ」
「・・・」
回答に窮す私。
歴史家としては真実を知りたい欲求がある。
しかし、それを選択すれば、確実に死ぬと言われているようなものだ。
(どうする・・・しかし、私も歴史家の端くれ・・・プライドもあるぞ!)
よし決まったとして言葉を発しようとしたが・・・
「私は・・・」
「よし解った。やはり命は惜しいからな、ハハハ」
「いや、私は・・・」
「大丈夫だ。私はハルや一部の人間と同じく、人の心が読めるからお前の真の気持ちなど完全に理解しておる。いちいち言葉にまで発する必要は無い。何、恥ずべき事ではない、人の命は有限だ。これからは一秒一秒を大切に生きろ」
「いや、私は・・・うわぁーーー!」
一方的に私が諦めると決め付けた銀龍に対して正しい意思を伝えようとしたが、それを聞く耳を持たない銀龍は私に魔法の光を浴びせてきた。
そして、私の記憶はここで曖昧となる・・・
「・・・という訳で、彼の記憶を書き換えた。この白エルフ村に来てから、美女エルフの接待にうつつを抜かして酔っ払ってしまい、族長との面会は叶わなかった。結局、何も解らないという結論だ。そこで調査が止まっていれば、『暴食の魔神』が現れる事はないだろう。サハラよ、この男をエクセリア国まで送り届けてやれ」
「・・・はい」
「久しぶりに里帰りするのも悪くないのではないか? 現在のリーダーであるヒトミ女史はまだサハラの事を忘れてはおるまい」
「・・・解りました」
無表情に徹していた今代の森の巫女のサハラに感情の色が現れる。
彼女としては幼少期を過ごしたあの生活協同組合は故郷のような感覚も持っている。
自分の残してきた鶏達の様子を見るのも悪くないだろう。
そんな笑顔を覗かせるサハラに族長ローラから追加要件が加えられる。
「ならば、シルヴィーナにも言って頂戴。そろそろ大使の役を別の者に引き継いで戻ってきなさいと・・・姉が寂しがっているわ、と伝えて欲しいわ」
ローラもそう言って微笑む。
まるで昔を懐かしがるような姿。
久しく見ていない母の笑顔が見れたとサハラは感じるが、自分が同じ笑顔をしている事には気付けないものである。
ラフレスタの白魔女 第三部 『敬愛する賢者達』 完話
いゃ~、終わってしまいましたね。ラフレスタの白魔女の初回を投稿したのは2019年2月17日でしたから、約4年半の長き物語でした。一緒にお付き合い頂きました皆様には感謝です。週末に登場人物を巻末に差し替えれば小説のステータスを「完話」にします。今後の事についても週末頃に活動記録に載せようと思っていますので、もし、よろしければ覗いてやって下さい。