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第十三話 親愛する賢者たちのエピローグ

 異世界人のハルがエクセリア国で立ち上げたサガミノクニ生活協同組合。

 後々の歴史の評価ではこの時にゴルト大陸が大きな変曲点を迎えたとして謳われる事になる。

 サガミノクニ生活協同組合の人々がこの時代に発明した魔道具により、ゴルト大陸に住む人達の生活レベルは大きく向上させる事につながる。

 時計や清潔で豊かな食文化の生活に始まり、鉄道・交通、上下水道などのインフラ、そして、議会制民主主義に代表される政治思想やスポーツという概念など、多くの文化をこのゴルト大陸にもたらしてくれた。

 その最も大きい成果と言えば、やはり鉄道インフラの整備だろう。

 初めはボルトロール王国エイボルトとエクセリア国エクセリンを結ぶだけの鉄道だったが、それは瞬く間に拡張された。

 十年で東はボルトロール王国の新王都が予定されているリースボルトを超えて南洋半島のシーンズまで伸びた。

 シーンズにはサガミノクニの人々が愛して止まない米穀物の産地なので、ここまで伸びた理由は明白だ。

 そして、西はエストリア帝国のアルマダ、マース、トリア、そして、ラフレスタと帝都ザルツを経て、西洋の港町クレソン、南洋の港町ユレイニまでをつなぐ大路線。

 中央ゴルトの鉄道はエストリア国から南へ延伸して辺境内部の白エルフの村をつないだ。

 これによってエストリア帝国、エクセリア国、ボルトロール王国、辺境の亜人種族は大きな経済圏に包まれる。

 物流と貿易が盛んになり、人物金の往来が盛んになった。

 因みに、この鉄道網に南の神聖ノマージュ公国の参加はない。

 それは神聖ノマージュ公国内にボルトロール王国に対する心象の悪さが影響していたとされているが、その実は今代の法王に就いていたプロメウス・ヒュッテルトが、頑なにボルトロール王国を許さなかったからだ。

 そんな強情な法王の態度に国民の反感が蓄積される。

 同時期に神聖ノマージュ王国内に蔓延った宗教原理主義によって、遂に国内で内乱が起きていた。

 結果的にこの反乱を巧みに利用したボルトロール王国によって神聖ノマージュ公国は滅ぼされてしまうのだが、それはまた別の機会に話そう。

 それほどまでにゴルト大陸の歴史に多大な影響を与えた鉄道はエクセリア国内に開発拠点があった。

 鉄道運営自体は国営だが、車両に関しては民間のエクセリア重工業が支配的である。

 サガミノクニ生活協同組合の敷地内でエクセリア重工業の規模は拡張されて、車両工場が一大産業となる。

 当然、そこで働く人物はサガミノクニ人だけでは足らなくなり、エクセリア人や亜人も多くが働く巨大工場。

 そうなるとサガミノクニ生活協同組合の敷地をサガミノクニ人だけで占有するのは難しくなり、結局、一般人にも解放する事になった。

 元々そこはハルが心血を注いで生活インフラを整備した土地だ。

 結局、一般開放されたその地はこの世で類ない完璧な衣食住が提供され、清潔で安全な街へ発展する。

 そして、いつしかそこは『シャングリラ』――理想郷――と呼ばれる事になる。

 エクセリア国エクセリンの一等地として治安も万全であり、ゴルト世界で最も発展した中心都市として機能していく。

 そのシャングリラの中でも一等地の邸宅に住むのは元からここを安住の地として定めたサガミノクニの人々。

 その後、やはり彼らは別格として扱われ、ここエクセリア国で特権を与えられていく。

 後にエクセリア重工業の会長に就任し、同時にエクセリア国の鉄道省の総裁にも就いたクマゴロウ・ヤマオカ博士。

 晩年の彼は自分の近しい者にこう述べている。

 

「俺は異世界転移という事故に巻き込まれてこちらの世界に飛ばされる大変不幸な事故に見舞われた訳だが、それでも今の俺の人生はどうだろう? 大好きな鉄道を造れて、こちらの世界の人々の生活にも貢献できている。その上に恵まれた生活と安定した地位。これは人生マイナス分を差し引いてもプラス過ぎるのではと神から怒られるかも知れん・・・」


 そんな発言からしてクマゴロウ氏は現在の人生に満足していた。

 そして、こちらの世界に飛ばされたサガミノクニの人々の大部分で無欲な者は多い。

 必要以上に権力や富を求める者は少なかった。

 クマゴロウ博士は総裁に就任した後も現場での設計と実務監督に精を出し働き続けたとされる。

 同じように技術現場の世界に留まったトシオ・サイトウ博士も同じだ。

 ただし、トシオとヨシコの息子であるアカツ・サイトウは違っていた。

 アカツは若い頃からこのサガミノクニ生活協同組合の組合長の座を意識しており、その座を巡ってハルの長女ユキ・ブレッタと激しく対立する事になる。

 紆余曲折あって、最終的にユキと和解したアカツは次代の生活協同組合の共同代表に就任した。

 アカツの出世欲は共同代表に就任できた事で満足したのか、それ以上は求めなかった。

 次のアカツの代になってもサガミノクニ生活協同組合は引き継いだ技術を上手く活用して、繁栄を続ける事になる。

 こうして、このサガミノクニの子孫達はこのエクセリア国を第二の故郷と定めて、末永く繁栄していく。

 

 


次話は明日(木曜日)更新します。

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