第一話 フーガ伯爵の欲望 ※
第十四章、第一話は困ったあの人の目線で始まります。
救国騎士団の襲撃事件があった数日後、今回の事件解決に主導的な役割を果たした俺達がエクセリア国の王城に集められた。
「・・・なので、今回のような事件を起こした原因は私が将来のロードマップを明確に示さなかった事もひとつだと考えています」
俺達を集めてそう力説しているのはライオネル・エリオス国王。
この先の展望について国王自ら俺達に説明するため、ここへ集められたようだ。
「やはり、民主化するプロセスを早めるべきです。この先、国家運営は議会が主導する民主主義としましょう。民意を代表する議会によって物事を決める事になりますが・・・しかし、まだまだこの世に民主主義の前例は無い。そこで、ここにいる皆が第一期の議員として立候補して欲しいのです。勿論、私も立候補させていただきます」
まだ民主主義が何たるかを理解していないここの国民、いきなり議員になれと言われても話は進まないだろう。
かと言って、野放しに選挙を行ってしまうと、かつて支配基盤を持つ旧貴族が議会を独占しかねない。
なので、まずは現在の国王に近い人物が議会を運営し、民主主義が何たるかを一般民衆に示し、国民に実感して貰おうと考えているようだ。
傀儡と言えばそうなのかも知れないが、ライオネル国王はそこまでして民主化を早めたい理由がいくつかあったようだ。
回りくどい話を聞かされたが、それを要約すると、国民が政治に介入することで適正な競争が実現でき、経済と国家が健全に発展できるという思想だ。
(ふん、面倒な話だ。この国がどう発展しようと、俺には関係ない話だが・・・俺が政治家になるのも・・・悪くないか・・・)
そんな事を考えている『俺』とは、魔導商会を経営するフーガ伯爵様である。
元より経営者など俺に向いていない。
俺は口先三寸で物事を動かす政治家の方が向いていると思う。
そう考えてみると、現在の立ち位置は悪くない。
(イルダを裏切らせて貴族主流派から国王暗殺の情報を得て、それを流した俺の評価はプラスに働いているだろうし)
そうでないとこの会合にも呼ばれない。
俺の働きによって暗殺が阻止されたと言っても過言ではないだろう。
俺が政治家になれるチャンスは高いと思う。
選挙についても、まだまだ未熟な民主主義の経験しかないこのエクセリア国ならば法律の抜け穴だって結構ある筈。
票を集めるため必要になるであろう詭弁については自信がある。
「そして、皆さんはまだ民主主義が何たるかをよく理解できていないでしょう。今日は民主主義の仕組みと法律について掻い摘んで解説しますので聞いて頂きたい・・・」
ライオネル国王自ら民主主義の法の解説を始めた。
(既に民主主義の進む東アジア共同体国家に住んでいた俺にとっては退屈な内容だ。話を聞くだけで眠くなってくる・・・)
そんな愚痴を心の中だけで唱えて、何か刺激になるモノは無いかと周囲に視線を向ける。
そうすると、斜め前の席に座るサガミノクニ生活協同組合代表のハルの後ろ姿が目に入ってきた。
(先日双子を出産したらしいが、良い尻をしてやがる・・・)
見事なくびれと臀部が想像できる後ろ姿。
ゆったりと着る魔術師ローブ越しでも彼女のスタイルの良さが解る。
(この女を手懐ける事はできないだろうか?)
俺はハルを篭絡できないかと考察してみる。
先日、イルダを攻略できたように、ハルを同じく犯して性奴隷に仕立て上げ、彼女の持つ生活協同組合の覇権を乗っ取る事ができないだろうか・・・
しばらくして考えがまとまり、いけそうだと判断する。
そして、俺は国王の長い話が終わるのを静かに待った。
「・・・であるからして、皆さんにも是非とも一年後実施予定の総選挙に出馬していただきたい。本日はそのお願いをさせて貰いました」
ようやく、国王の長い話が終了した。
その後、ここに集められた人々は三々五々に解散となる。
その中で俺はハルに声を掛ける。
「ハルさん! お子様を出産されたそうですね。おめでとうございます」
「・・・あ、はい・・・ありがとうございます」
俺は自分でも白々しいぐらいの清々しさを絞り出し、ハルへ祝辞を贈る。
受けた側のハルも意外だったのか、一瞬どう反応していいものか解らない困惑を見せるも、常識的な返答を返してきた。
(俺を警戒するのも無理はない。生活協同組合から出て行った時は喧嘩別れだったからな・・・)
俺は冷静に彼女の心情を分析し、次に出すべき最も適切な言葉を選んだ。
こんな時でも、咄嗟に言葉が出る事が俺の特殊能力だと自覚している。
「是非、お祝いをさせてください。これから我が商会に来ませんか? 同じくボルトロール王国と取引する仲間として相談しておきたいこともありますし」
勿論、早急にサガミノクニ生活協同組合と直接話し合わなければならない事案などある訳がない。
適当なでまかせであるが、そうでも言わないとハルはフーガ魔導商会へ足を運ばないだろう。
「・・・どうしましょうか? 少しの時間ならば・・・」
渋々だがハルは承諾した。
よし、まずはハルを誘い出す事に成功した俺は心の中でガッツポーズをする。
真面目な性格なのは彼女の母、由美子と似ている。
実は俺、由美子とは知らない仲ではない。
彼女は元々サガミノクニ人でなく、俺の住むムサシノクニ出身者である。
そのムサシノクニの最高学府『ムサシノクニ中央大学』――つまり、俺と同じ大学出身だった。
過去に俺が『ムサシノクニ中央大学』の准教授だった時代にナンパした相手でもあるが・・・まあ、今はその話はいいだろう。
取り急ぎ、俺はハルを誘い出せた事に気を良くし、早々にこの場から去る事にした。
「どうぞ。楽にしてくれ。何か飲まれるか?」
俺は高級な調度品で埋め尽くされた我が自慢のフーガ魔導商会の会長室へ彼女を招き入れる。
まるで、高嶺の華の女性をデートに誘い出せたかのように心踊る情景だ。
ハルが由美子の娘である事も大きいのかも知れない。
(あの時は盛大にフラれたからなぁ・・・)
過去の自分の失敗を思い出してみた。
あの頃は、がっつき過ぎて、それが女性にも見抜かれていたのだろう。
由美子という女学生は俺が教えていた学生の中でも、美人と言うより才女として目立つ女学生だった。
当時の俺は学位の単位を餌にして女学生達と相当遊んでいたが、由美子にはその戦法が利かなかった。
由美子は学力が高いので、俺なんかの不正を当てにせずとも卒業に必要とされる学位は余裕で取れる。
そこらにいる莫迦な女学生とは違っていた。
だから、俺は彼女をどうしても落としたいと思ったものだ。
結局は上手く行かず、由美子は大学を卒業して隣国のサガミノクニ国立素粒子研究所へ就職し、そこでダサイ現在の旦那と結婚してしまった。
(その由美子の娘を頂くとなると・・・やばい、ちょっと興奮してきたかも!)
俺は久しく感じていなかった嗜虐心によるドキドキで興奮が高まるのを感じる。
「別に何も飲みたくないけど・・・それだと招かれて失礼に当たるわね。お茶を一杯頂けるかしら?」
ハルは無難にお茶を要求して来た。
これは俺が想定していたとおりの展開である。
俺は自らお茶を用意するふりをして別室へ消える。
そこでお茶のポットの中に密かに入れたのは例の特別製の媚薬。
「これは魔術師だけに効く。俺にはほとんど影響もないし・・・へへへ」
先日のイルダの乱れようを思い出して、思わず下品な笑みが零れてしまった。
「おっと、いかん・・・ガツガツしていると見抜かれてしまうなぁ~」
俺は気を引き締め直して、紳士の仮面を被り、再びハルの前に戻ってきた。
「これは高級な茶葉だ・・・ハルさんの口に合えばいいだが」
ワザとらしくそう述べて、俺と彼女の二人分のお茶をコップへ注ぐ。
そして、俺が先にお茶に口をつける。
少しの甘みと独特の匂いを感じるが、別に怪しい味ではない。
俺が先に飲む事で警戒心を消せるだろう。
そして、ハルは俺の期待どおり、そのお茶を口に運んだ。
・・・変化は直ぐに現れた。
「・・・な、何これ!? 身体が宙に浮く感覚・・・」
目がトロンとなり、顔が赤みを帯びる。
唇から熱い吐息が漏れて、酩酊に似た表情に染まった。
先日のイルダと同じ反応。
即効性の媚薬が作用したのだ。
現在のハルは魔力保有量が高い者ほど効く特別製の媚薬の影響を強く受けているのだ。
「おや、どうされたのか? この部屋が暑いかね?」
俺はワザとらしく何も解らないフリをして、そんな事を問う。
そして、ハルのローブに触れた。
「ローブなど脱いでしまえ!」
「嫌、やめて!」
彼女は抵抗の言葉を示すものの、言葉ほど身体は強い抵抗を見せない。
俺はそんな女性に邪魔される事も無く、魔術師のローブを剥ぎ取る事に成功した。
そうすると・・・均整の取れた完璧なボディが露わになる。
魔術師ローブの下には薄い生地のラフな格好の彼女が露わになった。
数日前に子供を出産したのが解らないぐらいに括れた腰と、ふたつの豊かな乳房、丸みを帯びた臀部・・・すべてが男の欲望を際限なく引き出してくれる完璧な雌の姿。
俺は自分の中で何かが盛り上がるのを感じた。
「おお、堪らん身体をしているじゃないか!」
薄い下服の上からハルの豊かな乳房を触る。
「やめて、私には子供と夫がいるのよ!」
「ほほう。そんな事を言うハルだが、お前は今、俺の息子を触って誘っているではないか。これをどう説明する?」
そんな矛盾を指摘してやるとハルがプイッと顔を横に逸らす。
心では不貞を嫌っているようだが、身体は欲望に正直って奴か?
媚薬の効果は改めて凄いと思う。
ハルは男のツボが解っているかのように、俺の興奮を高めてくる。
「うぉッ!? お前・・・解っているなぁ」
俺の下半身は早くも暴発しそうになる。
普段のハルとは堅物の女であり、性の世界とは無関係の世界にいるような印象の女性。
我が妻のカミーラやエリとは対極の価値観・・・どちらかと言うとミスズと近い立ち位置の女性。
そんな清純そうな女が乱れる姿に、俺の興奮は高まる。
そう考えると、俺は我慢できなくなる。
「うっ! 興奮してきたじゃないかっ! その身体を見せて貰おうか。へへへ」
「い、嫌っ! 私には夫と子供が・・・」
再び拒絶の言葉が聞こえるが、そんな言葉は俺の興奮を誘うための台詞でしかない。
襲ってくださいと言っているようなもの。
俺はハルの薄い衣服を剥ぎ取ろうと手を回した。
そこで、後ろから誰かに肩をトントン叩かれる。
誰かが俺を呼んだ。
「んん、カミーラか、それともイルダか? 駄目だ。今いいところなんだ。邪魔するな!」
俺は誰かが遠くで呼ぶ声を無視する。
しかし、その肩叩きは止まらなかった。
「くっそう。煩いぞ!! お、おい、ハル! 逃げるな」
ハルが俺の手から逃れていく。
俺は逃がしてはならないと思い、必死に手を伸ばすが・・・ハルはドンドンと遠くへ逃れて離れて行った。
「待てっ! 俺から離れるんじゃない。 これからが良いところだと言うのに!」
焦ってそう呼びかけるが、結局、ハルは暗がりへ消えて行き、俺の手の届かない所に行ってしまった。
俺は自分を呼び止めた存在に酷く腹を立てて、肩に置かれた手を激しく振り解いた。
「く、何をしてくたんだっ! お前が邪魔するからっ!」
するとその手は俺の肩を強く握り返して、俺の身体を激しく揺らしてくる。
酷く不愉快だったが、それに反して何かがゆっくりと覚醒していった・・・
「フーガ、フーガ卿・・・しっかりしてくだされ。フーカ卿!」
「はぁ!?」
急に景色が暗転・・・そして、俺は国王によって集められた部屋にまだいることを気付く。
「うっ、ここは??」
一瞬気が動転するものの、俺の肩を揺らす人物がライオネル・エリオス国王であると言う事実が解ると、急に状況が呑み込めてきた。
「フーガ卿。目覚められたか! 他の皆さんは既に退出していますよ」
「う・・・あ・・・遂、ウトウトとしてしまったようです」
どうやら俺はここで居眠りをして、国王に起こされたらしい。
最悪だ・・・と思いながらもハルの姿を反射的に探す。
そうすると、彼女は俺の目前にいた。
エレイナ王妃と何やら談笑しているようである。
「そうだ・・・ハルさん! これから私の商会に来ませんか? アナタとは落ち着いていろいろと話がしたい」
俺はめげずに彼女を再び誘う。
しかし、現実世界の彼女は白昼夢の中のように従順で無かった。
「その状況で・・・私を誘いますか? 私、これでも二児の母であり、夫もいる存在なのですけど・・・それ以上に女性なのですよ!」
その言葉と態度で俺を警戒しまくる彼女。
俺は何か拙い事をしたかと自問してしまう。
その答えはハルがすぐに教えてくれた。
「国王様の講演の場で居眠りをして、その上、股間を隆起させて・・・そんな、絶倫の状況で『俺の家に来い』と言ってくる男性について行く莫迦な女性なんて、歓楽街の女性でもいないわ!」
ハルの口元に手を当てて、俺を汚い物でも見るような視線を向けてくる。
隣のエレイナ王妃からも同じ視線を感じた。
そこで俺も気付いた・・・自分が盛大にもっこりしている事実を・・・
「やだ! あのおじさん。股間が恥ずかしい状態になっているし・・・」
まだこの部屋に残る知らない女性からもヒソヒソとそんな声が聞こえる。
俺は手でその膨らみを隠すが、既に遅かった。
ここで俺に向けられる視線の意味は痛々しいほどに解る。
こうして、俺はこのエクセリア国の上位社会で『変態』という名のレッテルを貼られてしまう・・・
以上、今回はカザミヤ氏の妄想が暴走の巻でした。チャンチャン。ちなみに社会的信用が地に落ちたカザミヤ氏ですが、この後、スーパー詭弁術でこの危機を乗り切り、結局は議員のひとりとして政治家デビューしてしまうのがこの男の凄いところであったりします。(笑)
勿論、ハルはこの一件で警戒心を高めてしまったため、強姦事件は未遂で終わりますが・・・