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第二十話 黄金仮面と漆黒の騎士の活躍

 サガミノクニ生活協同組合の表で救国騎士団と直接対峙しているのは漆黒の騎士と黄金仮面である。

 

「この敷地内は通さない!」


 強く睨む漆黒の騎士と黄金仮面を見て救国騎士達は浮足立つ。

 それは先程、このふたりの実力を思い知ったからだ。

 

「ええい! 何をしている。相手は所詮ふたりだぞ、こちらは一万騎いるんだ。数の力で襲い掛かれば、負ける事も無い!」


 ライゴ・フェイル卿からそんな発破が掛けられるが、自ら進んで漆黒の騎士と対決する下級騎士はいなかった。

 業を煮やしたライゴ・フェイル卿は自ら戦斧を持ち前線へと繰り出す。

 こういうところは元クリステ貴族として勇猛な性格の貴族である。

 ライゴは重量級の戦斧をおもいっきり振り回して、遠心力を高めて漆黒の騎士に向けて投擲する。

 

ブン、ブン、ブン


 まだ少し距離のある状態であったが、狙い違わず漆黒の騎士を目掛けて一直線で戦斧が飛ぶ。

 

「むっ!」


 当然、そんな投擲攻撃を察知した漆黒の騎士は魔剣エクリプスを抜き迎え撃った。

 

ガキーーン!

 

 重量級の金属がぶつかる音が鳴り響き、漆黒の騎士は二、三歩後退る。

 しかし、影響などそれだけ。

 至って無傷。

 だが、無敵の漆黒の騎士を後退させたという事実だけで、ライゴ・フェイル卿の活躍はこの局面で一目以上置かれる演出となった。

 

「おお!」

「貴族主流派の貴族の中でもライゴ様の武勇は本物だ!」


 下級の騎士達から少ない喝采も起きたが、それは決してやらせではない。

 そんな反応に気を良くするライゴ・フェイル。

 

「よし、漆黒の騎士よ。ここは俺との一騎打ちを所望するぞ!」


 (いにしえ)の戦の礼儀と同じような一騎打ちの申し出をする。

 これには味方から反対意見も出た。


「ライゴ・フェイル卿。いけませぬ。この場の総大将であるアナタが敵兵と交えるなど・・・」

「煩い! ガングル・ルミナス卿! ここは戦いの要。我が出なくてどうする!」


 ライゴ卿はここが勝負処であると判断してガングル卿からの勅言を棄却する。

 その判断は概ね間違っていない。

 救国騎士団の下級騎士達が浮足立っている現状、ここで総大将が弱腰姿勢や迷いを見せてしまえば、総崩れとなる可能性は高かった。

 加えて、武功に強いライゴ卿は自らも戦いたいという欲求もある。

 こんなライゴ卿の対応に迷惑しているのは漆黒の騎士であり、黄金仮面もである。

 

「面倒くさい男ね・・・私達が手加減して相手してあげているのに・・・」

「なんだとっ! 女は下がっていろ!」

「その暑苦しい態度が嫌いなのよ。知性を全く感じないというか・・・力で全てを解決しようする姿勢が前時代的ね」


 黄金仮面がライゴ卿の性格を見下す。

 当然だが、ライゴ卿は良い気はしない。


「煩い女め。貴様のような魔女は武人が何たるかを理解できまい! 不愉快だ。消えろ!」

「私もアナタのような猪は興味ないけど・・・ハイ、そうですかと簡単には引き下がれないわ。何せ、私達を毒殺しようとした輩はね!」


 その黄金仮面も言い方にライゴは引っ掛かるものがあった。

 

「毒殺とは? 貴様と関係ないではないか! 毒殺はエリオス国王やマチルダ王女を狙ったものであり、其方には直接関係ないだろう」

「・・・あら、そうね。でも周囲の者も関係なしの暗殺だったじゃない。サガミノクニ生活協同組合の幹部やエストリア帝国の皇女までついでに殺すのはあんまりじゃない?」


 その実、黄金仮面の正体とはシルヴィア皇女である。

 自分が殺されかけた真犯人の関係者が目前にいるこの現場を、正直あまり良い気分でない彼女であった。

 

「黄金仮面さん、止めておきましょう。無駄に話してはボロが出ますよ。それにライゴ・フェイル卿も、もういいでしょう。直接対決を望むのであれば、私は拒みません。その代わり、約束してください。アナタが負ければ、この救国騎士団を撤退させてください。無駄な争いはしたくない」

「ふん、もう勝った気でいるな。そんな奴が戦場では真っ先に負けていくのだ!」


 ライゴも碌に相手からの返答も待たずに、ここで従士からハルバートを受け取って突進してくる。

 

「その攻撃は承諾と見なします! 黄金仮面さん、手出しは無用。ライゴ・フェイル卿からの一騎打ちはこの僕が受ける!」


 漆黒の騎士はそう宣言して魔剣を構えた。

 そこにライゴが突進してくる。

 ハルバートを槍のように突き出し渾身の力で突撃してくる姿は戦場でもなかなか見られない迫力があった。

 

「来るっ!」


ガンッ!


 先程の戦斧の時と同じような衝撃音が鳴り響き、巨漢のライゴの荷重が一気に華奢な漆黒の騎士目掛けて撃ち込まれる。

 普通考えると、こんな力勝負は体重で勝るライゴの勝利である。

 漆黒の騎士は予想どおり、重圧と衝撃で押し潰されて、踏ん張る両足の土が捲れる。

 

ドガ、ドカ、ドカッ!


 大量の土埃が舞い、突撃された漆黒の騎士は土煙の中へと姿を消す。

 

「やったか・・・」


 戦いの推移を見守る救国騎士の誰かがそんな事を口走る。

 それに対して、脇にいた黄金仮面は下らなそうな顔を崩していない。

 その事実は・・・攻撃を仕掛けたライゴが一番解っていた。

 

「・・・なんだと?」


 土煙がゆっくり晴れて、中の人影が周囲にも見えてくる。

 そうすると・・・そこには非現実的な光景が目に入ってきた。

 

「えっ!?」


 救国騎士団の下級兵士の誰もが驚くのは無理もない。

 そこで見えてきたのは、ハルバートの先端を一点で抑える漆黒の騎士の姿があったからだ。

 しかも、普通に耐えたのではない。

 ハルバートの槍の刃先の本当に一点を漆黒の騎士の黒い魔剣が切り裂いていた。

 先端の刃先が微妙に左右へと広がり、そこで亀裂は止まっている。

 ライゴは力任せにそれ以上押し込もうとしているが、それをさらに上回る力で漆黒の騎士が押さえ込んでいる図であった。

 

「これで実力の違いが解ったでしょう。負けを認めて下さい。まだここで止めれば、アナタ方の罪は問われない。毒殺を企てた者だけが処罰されて、事態を収拾できます」


 漆黒の騎士はもう十分であった。

 国王が暗殺されたという事実に釣られて現れた彼ら――実力行使部隊が表立って姿を現したところで幕引きをはかりたかった。

 そこまでの事実さえ得られれば、後は毒殺を免れたライオネルがこの場を鎮めてくれるだろう。

 しかし、事を起こした救国騎士団側はもう後に引けない。

 彼らはここで力任せにサガミノクニ人を犯人に見立てて成敗せねば、立場を得られないのだ。

 

「ふざけんなーっ! 俺は、俺達は負けを認めねぇ~ぞ!」


 ライゴは使い物にならなくなったハルバートを捨てて、帯剣した短刀を抜く。

 その短刀を手元に構えて、漆黒の騎士へと突っ込んでくる。

 接近して刺し殺す構えだ。

 しかし、そんな力業など漆黒の騎士に利きようもない。

 漆黒の騎士は落ち着いてハルバートの剣先に刺さったままの魔剣エクリプスを手放すと、両手でライゴの短刀の刃先を捉える。

 いつか、兄ウィルとの勝負で見せた真剣白刃取りだ。

 そして、万力のような怪力で突進するライゴを短刀ごと捩る。

 

「ぐおっ!?」


 捩じられたライゴは空中を半回転。

 軽く飛ばれて地面へと叩き付けられる。


ドカッ!


 落ちた瞬間に怪我しないよう短刀は漆黒の騎士が奪う。

 そんな優しさに呆れるのは隣にいた黄金仮面だ。

 

「アナタは優し過ぎます。悪党はこうしないと」


 黄金仮面は地面に転がっているライゴを足蹴にする。

 そうすると、そこから魔法の雷撃が発せられた。


バリバリバリーッ!


「ぐぉぉぉぉーーっ! アバババっ!」


 ライゴは感電して黒焦げになった。

 殺してはいないが、明らかに戦闘不能に陥る形だ。

 

「黄金仮面さん・・・これは一応、一対一の決闘なのですが・・・」

「あら? ごめんなさい。もう決着ついたのかと思ってしまいましたわ・・・私って早とちりね、えへ!」


 軽く舌を出して可愛くお道化る姿がワザとらしい。

 そんな黄金仮面のあざとさが、相手から見ると恐ろしく映る現場であった。

 この決闘は居合わせた救国騎士達のほぼすべてが着目しており、ライゴの圧倒的負けにより一気に戦意が喪失する。

 まるでそれを見据えたかのように、ここで上空に巨大な像が魔法投影された。

 

「あれは?」

「な、なんで、生きているんだ!?」

 

 救国騎士団の面々が驚きに包まれる。

 それはそうだろう・・・そこに投影されたのは毒殺された筈のライオネル・エリオス国王の像が映っていたからである・・・

 

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