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第十八話 救国騎士団の襲来

 エリオス国王が毒殺されたという一報は驚きを以てエクセリア国内を駆け巡る。

 人々は落胆し、口々に卑劣な暗殺手段を用いたと思われるサガミクニ生活協同組合を恨んだ。

 そして、その負のエネルギーは有志による討伐隊をあっという間に結成する運びとなる。

 現在、夜明けとともに広大なサガミニクニ生活協同組合の敷地を包囲できるほどの大群が取り囲んでいた。

 

「我らは救国騎士団。悪辣なサガミノクニ生活協同組合を決して許さない。お前達が不当に占有している旧ファインダー伯爵跡地を放棄し、投降せよ」


 拡声魔法でそんな降伏勧告を送ってくるのはその救国騎士団の代表者。

 自称『救国騎士団』は現在、広大なサガミノクニ生活協同組合の敷地周囲を取り囲み、その敷地内で暮らすサガミノクニ生活協同組合をひとりも逃がさない構えだ。

 ここで救国騎士団のそんな主張に反論してくるのはリーザ。

 彼女は現在のサガミノクニ生活協同組合の緊急代表者として就任していた。

 ハル・ブレッタを初めとした生活協同組合の幹部が軒並み毒殺されてしまった事になっている(・・・・・・・)故の処置である。

 リーザはサガミノクニ国生活協同組合の母屋内に緊急対策本部を置き、遠見の魔法水晶で外の様子を伺いながら、遠隔拡声魔法で相手へ返答した。


「救国騎士団・・・聞かない騎士団ね。そんな怪しい騎士団の横暴には応えられません。それに毒殺されたのは我々も同じ、どうして我々だけを罪人のように扱うのですか? 違法な捜査には対応しかねます」


 リーザは毅然とそう応える。

 現在のサガミノクニ生活協同組合に残されているのは女性や子供が多い。

 戦闘力など皆無に等しいから戦闘のような事態は極力避けるべきである。

 現在、生活協同組合を取り囲む救国騎士団の総勢は一万騎以上。

 それはこの救国騎士団の中核となっている貴族主流派の私兵以外に有志の協力者が大勢いたからである。

 国王殺害と共にサガミノクニ生活協同組合が悪の枢軸であると噂が広まっていたためであり、それに乗せられた人が多かった。

 だから戦力のある救国騎士団の代表者は自信高々にこう反論してくる。

 

「我らはエクセリア国の正義だ。旧クリステの誇りを受け継ぐ元貴族でもある。現在、この国は国王が暗殺されるという前代未聞の一大事。それは一刻の猶予もならない危機。この危機を脱するのに、いち早く犯罪者を捕らえて処断し、新しい秩序体制を整える必要がある」

「いけしゃあしゃあとよく喋る口ですね? だから、我々を悪者に仕立てて、その後の地位獲得を狙っているのね」

「この猪口才な魔女め! 『炎の悪魔』と恐れられた英雄リーザも、サガミノクニ人を贔屓する女に成り下がりよって、この裏切者めがっ!」

「つまらない事を言いますわね。ただ私には貴族の都合ってものがよく解りますわ! それよりも、アナタ達のしている事に法的根拠はありません。ここは法治国家エクセリア国。街の治安維持の主権は警備隊が持ちます。こちらにはエクセリア国警備隊のフィーロ隊長も在籍しているわ。現在、公正な捜査が行われている。物騒で違法な騎士団達はお引取り願いたいのだけど・・・」

「フィーロと言えばラフレスタ領にいた奴ではないか! 余所者の警備隊隊長など信用できぬ! そもそもサガミノクニ人を贔屓している野郎だ。公正な捜査など期待できるはずがない!」

「酷い事、言うわよね、ローリアンどう思います? アナタの夫はあちら側には不評のようよ?」


 ここでリーザの隣にいたローリアンに対応が替わる。

 ローリアンは水晶玉に映る救国騎士団の代表者の顔が見えた。

 

「あら? 誰かと思えば、ライゴ・フェイル卿ですね・・・それと隣にはガングル・ルミナス卿ですか?」

「むむ!? その声はローリアン・アラガテ夫人か?」


 このエクセリア国へアラガテ夫妻が移住を決意した時に彼らとは挨拶回りで面識があった。

 

「アラガテ家の貴女ならば解るはずだ。現在、エリオス国王夫妻とエストリア帝国のシルヴィア皇女も殺された一大事だぞ。ここで貴族が介入しなくてどうするのだ!」

「あら? いつの間にエクセリア国の貴族制が復活したのですか? 国家の治安を維持するのは警備隊の役割だった筈。騎士団は国外からの戦争に対する守備力であり、アナタ達の私兵ではありませんよ。そもそも『救国騎士団』なる組織は正式な騎士団として存在しません。非公式の組織が無力な国民に対して暴力を振るうのであれば、それは立派な内乱と認定されます」

「煩いっ! その秩序を強いた国王が毒殺されては始末に負えんわ! 警備隊の力が無いからこんな暴挙を許してしまったんだぞ! だから我々は常日頃から進言していたんだ、国家から貴族を排除するのは悪法であるとっ!」


 ライゴは興奮混じりに唾を飛ばして、そんな暴論で反論してくる。

 警備隊だけに治安維持を任す事を不安視する意見があったのはローリアンも知っていた。

 しかし、それは貴族が支配しても同じ事。

 特に過去の不安定な時期にはエリオス国王がその職に就くのを良く思わない貴族勢力もあったと聞くので、早めにそんな勢力を排除したライオネル国王の決断は貴族社会に詳しいローリアンからすると間違った措置ではないと思える。

 

「それは詭弁です。事件の真相解明は我ら警備隊の仕事です。現在、実行犯を捕らえて黒幕を吐かせているところです、あとはこちらにお任せください」

「何っ! 実行犯は自殺したのではないのかっ!」


 聞かされていた情報と違い、救国騎士団内部に動揺が走る。


「あら? どこでそんな情報を得たのでしょうか? 実行犯はしっかりと捕らえていますよ。我が夫は優秀な警備隊です。必ずや昨日の事件の黒幕は明らかになるでしょう。どこぞの貴族でなければいいですねぇ~」

「ええい。見え透いた嘘をつくな! その実行犯もでっち上げだ。国王暗殺の汚点を誤魔化すためのものであろう。我らが突入して犯人共々を皆殺しにしてやるっ!」


 ライゴは大声でローリアンを否定する。

 その声で一瞬浮足立った救国騎士団の心がまた敵意に染まった。

 

「悪知恵だけ回るサガミノクニ人の味方達など信用するな! 忌々しいこの門を突破するぞ! ええい、攻城隊、前へっ!!」


 ライゴがそう号令をかけると、予め準備されていた歩兵部隊が攻城用の大木を抱えて現れた。

 大木をぶつけて鉄の門を破壊する作戦だ。

 ここは城ではなく、元々は貴族屋敷の敷地。

 攻防設備など一般国民に対しては効果あっても、攻城兵器を持つ騎士団に対しては大した障害では無い。

 敷地内には防衛のため、警備を担う鉄魂ゴーレムが入口門付近に集結していたが、それでもこれは対人用の警備。

 完全武装した騎士にとっては些か迫力に欠ける警備体制だ。

 

「いくぞーーーっ。壊せーーーっ!!」


ドーーーン! ガシャーーン!!


 夜明け直後の清々しさに全く似合わない物騒な破壊音で、入口門に設置されていた鉄柵は簡単に破壊されてしまった。

 

「よしっ! 一気に攻めろ! 謀叛人を許すな! 国賊はすべて殺せ! サガミノクニに与する女や金品を奪うのも多少は目を瞑ろう。我らがクリステの地を穢した罪はそれに値する!」


 ライゴ卿の脇にいたガングル・ルミナス卿がそんな許可を出す。

 その言葉で救国騎士団下級端騎士の欲に火が点いた。

 

「うぉおおー! 俺が先だ!」

「逃がしてはならねぇ~ぞ!」

「大金持ちになってやる!」

「俺は女だっ!!」


 騎士達は一気にサガミノクニ生活協同組合の敷地へ雪崩れ込んで行く。

 その姿は統制の取れた騎士というよりも欲丸出しの盗賊のようでもある。

 既に彼らの頭の中に崇高な任務など存在しない。

 彼らの意識の中で優先しているのは略奪と欲、暴力・・・

 自ら持っていたのは正義のために何をしても良いという意識もあり、ここでの戦闘など自らの要望を満たす前の些細な障害だとしか思っていない。

 彼らは持ち前の槍や戦槌で矮小な鉄魂ゴーレム達を薙ぎ出す。

 鉄魂ゴーレムも弱い訳ではないが、それでも彼らは一般人を相手に警ら活動する前提で作られたゴーレムであるため、攻撃手段や殺傷能力は低い。

 そんなゴーレムは完全武装した騎士団の鉄の鎧に攻撃が利く訳でも無く、少しの時間をかけて数の多い救国騎士団達に圧倒されて行く。

 その戦闘の成り行きを後方より見守っていたライゴ達は早くも自ら陣の勝利を確信した。

 しかし、こんな強行展開となる事を予想していたのはサガミノクニ生活協同組合も同じである。

 ここで彼らの次の手が発動した。

 

シュタッ!

ボンッ!


 どこからかふたりの人影が現れると、直後に火炎魔法による爆発が起きた。

 

「ぐわーーーっ! 痛えーーっ」

「なんだ。なんだ!? 何が起こった!?」

「魔法だ。魔術師による攻撃だ!」 


 それまで攻勢を保っていた軍勢が一気に止められる。

 強力な魔術師とは戦略クラスの魔法を放てるのだ。

 騎士団一個師団分の働きをする。

 そんな魔術師が敵側にいるなんて聞いていない。

 混乱する救国騎士団の面々。

 そして、彼らの前に立ちはだかったのは・・・

 

「偽りの騎士団よ。ここから去れ!」

「何っ! アナタはっ!!」


 襲撃しようとノリにノッていた救国騎士達の勢いが止まる。

 そして、彼らの顔は驚きに包まれていた。

 何故ならば、ここで登場した人物のひとりが黒い紳士服の身を包んだ仮面の男性騎士――エクセリア対ボルトロール戦争の終盤で銀龍と共に大活躍した伝説の英雄、『漆黒の騎士』だったからである。

 


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