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第五話 迎撃


「な、なんだ!? これは!」


 魔物に包囲された村の様子を目にして驚くリズウィ達。

 

「何やってんのよ! もたもたしないで助けに行くわよ!!」


 慌てる勇者パーティに対して、ハル達は既に戦いの準備を終えており、すぐにでも馬車から飛び出せる状態。

 ハル達は勇者パーティと違い、感覚の鋭いジルバより早い段階で周囲を警戒する情報が念話で伝えられていたため対応が早いのだ。

 そんな場慣れ感の違いを見せつけられたリズウィ達。

 

「ちっ、これが辺境の探索者の実力って奴かぁ?」

 

 リズウィはハル達が場慣れしているのを、彼らが普段から辺境の探索をしているので魔物の襲撃に慣れているのだろうと思う。

 

「まだ本格的な戦闘は始まっていないわ。魔物は村を包囲し、威嚇している状況よ。やるならば今ね」


 ハルは今ならば迎え撃つ事ができると言う。

 

「解った。それにしても一体どうなっているんだ? 来る時はこんな兆候は見られなかったのに・・・」

「隆二。解らない事を今議論してもしょうがないわ。現実にここは魔物で溢れかえっている事を受け入れるべきよ。数は三百匹以上いるわね・・・戦える?」

「莫迦にするな! 俺達は勇者パーティだぜ。魔物相手じゃ五百匹でも負ける気がしねぇーよ」


 リズウィは大見栄を切る。

 彼らは確かに勇者パーティを名乗るほどの実力を持つが、それでも三百は敵として厳しい数字である。

 だが、ここエイドス村を包囲している魔物をパッと見ると、大蜘蛛、狼の魔物、木の魔物(トレント)と複数の種類で構成される軍団だ。

 これは何れもリズウィがこれまでこのアリハン山岳地帯で遭遇し倒した事のある魔物ばかりである。

 魔物の対処法もリズウィは解っているため、それが彼のこの時の自信の裏付けとなっている。

 

「この魔物の弱点は共通しているぜ。それは火だ!」

「解ったわ。火炎の魔法で対処できるのね」


 ハルがリズウィから魔物の弱点の情報を聞き、ジルバがそれに続く。

 

「よし。ならば先制攻撃は我からさせて貰おう。研究中の龍魔法の試射にはいい機会である」


 そう述べるとジルバはパッと車窓から外に飛び出す。

 ここで一瞬のうちに意識を集中させて、魔力を高める。

 収斂した膨大なジルバの魔力がその身体より飛び出し、一気に空間へ射出された。

 射出された無色透明の魔力は空中で赤熱化し、弧を描き、魔物の群れの中心に落下した。

 着弾する瞬間、大きな火の塊に成長する。

 

ドカーーーン


 そして、落下点で大きな火柱が上がり、複数の魔物が燃えながら吹っ飛んだ。

 

「ギャピーーー!」


 人間では意味の解らない魔物の悲鳴が周囲に響く。

 密集する魔物の群れの中心に、上級魔法級の火炎攻撃魔法が炸裂した結果である。

 この一撃で百匹以上の魔物が被害を受けた。

 

「ス、スゲェ!!」


 あまりの魔法の威力にリズウィを初めとした勇者パーティ達は驚いた。

 一流の彼らであっても、そうそう目にする事のない上級魔法級の攻撃であったからだ。

 しかも詠唱に殆ど時間を要していない――いや、無詠唱に近い魔法であった事も驚いた理由でもある。

 

「このおっさん、スゲェ・・・龍魔法って何だよ!」

「私にも・・・解らない」


 強力な攻撃魔法に脅威を感じつつ、アンナもリズウィの驚きに追従する。

 

「龍魔法とは伝説の技法による魔術らしいわ。古い文明で銀龍より伝承された、今とは系統の異なる魔法術式があるらしいの。ジルバはそれを研究しているのよ」


 ハルが龍魔法について補足説明する。

 勿論、出鱈目であるがそれでもリズウィ達は納得した。

 納得する以外にこの絶大な威力を説明できなかったからだ。

 

「そんなことよりも、これで敵の注意がこちらに向いたわ。来るわよ」


 ハルはジルバを詮索するよりも現状の脅威を述べる。

 勇者達もそこは間違わない。

 魔物の群れが自分達を新たな敵として認識し、向かって来るのが解った。

 これに対処しなくては自分達の命も無くなる。

 

「しゃらくせぇー。かかって来いやあ!」

 

 リズウィの発奮を合図にしてパーティメンバー各々が馬車から飛び出し、武器を握り締めて魔物を迎え撃つ。

 そして、次の攻撃は馬車の屋根より行われた。

 

ヒュン、ヒュン、ヒュン


 三本の矢を放ったのは馬車の屋根に登ったスレイプ、ローラ、サハラである。

 

ヒューーーーー、ドーーン!


 彼らの放つ矢はこちらに迫る蜘蛛の魔物の脳天を直撃し、その後、爆発が起きた。

 

「そうか、彼らも龍魔法の研究家だと言っていたか・・・しかし、こいつは頼もしいぜ。何せ今回は相手が多いからな・・・」


 リズウィはもうあまり驚かずにそう解釈する。

 これを聞いたハルは「上手く誤魔化せた」と密かに胸を撫で下ろしていたのは言うまでもない。

 ちなみに、スレイプ達がここで行使したのは正しくは精霊魔法であったが、ハルもいちいち訂正しなかった。

 今はそんなことよりも敵に対処する方が大切なのだ。

 そんな仲間達の活躍を見て、魔物の数が多いため、ハルも少しは手を貸すことにした。

 

「私も少しは魔法支援できるのよ・・・土よ、壁と成れ。そして、盛り上がれ!」


 ハルは素早く呪文を唱えて魔力を込める。

 そうすると敵よりも手前の土が盛り上がり、迫り来る魔物の正面に壁が立ちはだかる。

 

ドカッ、ドカッ、ドカッ


 いきなり現れた土の壁に制動が間に合わず、狼の魔物が正面衝突する。

 全速力でぶつかったので、魔物に大きなダメージを負わせることに成功した。

 

「姉ちゃんも戦い慣れてやがる・・・くっそう、なんだか悔しいぜ!」


 そう言うリズウィにも敵の魔物が迫ってきた。

 土の壁を巧みによじ登ってきた蜘蛛の魔物がリズウィを獲物として定めたようである。

 

「コイツめ!」


 リズウィは迫る敵に狙いを定め剣の柄を握り駆け出して、相手とすれ違いざまに一斬。

 

キンッ!


 硬質な高音が鳴り響き、蜘蛛の魔物が真っ二つになった。

 それは居合という技を真似て行ったものであり、ここで格好をつけて魅せただけにも見えるが・・・

 リズウィとしては、ハルの仲間に対して自分の実力をアピールする意味も含まれていた。

 

「へん。他愛もねぇ!」


 勇者リズウィにとって魔物とは単純攻撃してくるだけの烏合の衆だ。

 だから油断していた。

 その油断の隙をつくようにして、蜘蛛の魔物の陰に隠れていた木の魔物(トレント)から不意打ちを受ける事になる。


ブォーン


 ここで木の魔物(トレント)が蔦を鞭のように振り回して襲い掛かかる。

 一撃貰ってしまう事を予想して身構えるリズウィだが、ここで助けが入った。

 

ザク、ザク、ザク


 迫る蔦の攻撃を横薙ぎに防いだのはアークの剣であった。

 

「リズウィ君、油断しては駄目だぞ。魔物は野生生物。僕達を食料としか見ていない。確実に殺すまでは油断はしてはいけない。無駄に格好つける攻撃は控えるべきだ」


 それだけを述べて、(とど)めとばかりに木の魔物(トレント)を一刀両断するアーク。

 

「へん。解っているよ。それにても、まぁまぁの腕じゃねーか!」


 減らず口で返すも、アークの技量を認めるリズウィ。

 素早い蔦の砲撃を躱して確実に敵の本体を両断したアークの剣を見て、使える奴だと認める。

 そして、そんなリズウィの脇を火球の魔法が通過した。

 それはアンナの放った火炎魔法である。

 ここで、派手な中級魔法などを選択せず、短縮詠唱で攻撃に徹するアンナは魔術師としての近接戦闘に慣れている事が示された。

 そして、次の攻撃魔法を再チャージするアンナ。

 その隙を守るためにガダルとパルミスが彼女のフォローに入る。

 そして、シオンが全体の支援のため神聖魔法を唱えた。

 戦闘が動き出せば、場慣れした連携をする勇者パーティ達である。

 

「神の加護よ。全員の素早さを増したまえ!」


 シオンを中心にして同心円状に支援魔法が発動。

 その効果範囲にはハル達も含まれており、ここでハルは自分の俊敏性が上がるのを感じた。

 しかし、それをハルは厄介だと思う。

 何故なら同じ範囲内にアークが居たからだ。

 

ボワーーン


 アークの身体に達した支援魔法はそんな擬音をあげて黒い霞へと変換された。

 これは典型的な魔法無効化の様子である。

 

「えっ!? 私の神聖魔法が失敗した。抵抗された?」


 当然だが、自分の施す魔法の失敗に気付くシオン。

 本当は秘密にしておきたかったが、これはもう無理だとハルは判断する。

 

「アークは魔力抵抗体質者よ。彼には支援魔法は無意味よ」

「あ、はい・・・解りました」


 ハルからの指摘にそう短く応答するシオン。

 問い正したいことはいろいろあるが、それでも今は戦闘の最中。

 シオンは次の対処を優先した。

 そこに間髪を入れず、ジルバから二発目の広範囲火炎魔法が炸裂する。

 

ドーーン!


 勇者パーティの周囲に迫る魔物の群れはこれで一掃された。

 火炎の魔法の爆風に髪を靡かせ、リズウィは敵の殲滅以上に龍魔法の威力を脅威に思う。

 

「ち、仕事は早く終わりそうだが・・・この強力さはちと怖いぜぇ~」


 そんなリズウィの懸念を全く無視して、ジルバの上級魔法はあと四回炸裂した。

 こうして魔物の群れはほぼ壊滅し、撃ち漏らした少数の魔物をリズウィ達が殲滅させて一時間ほどで大きな戦闘は終了となる。

 

「ハァ、ハァ、ハァ・・・勝ったな」


 肩で息をするリズウィは、ジルバに次ぐ多さの魔物を殲滅したので疲れて当然の結果である。

 そんなリズウィにアークは涼しい顔で健闘を称える。

 

「リズウィ君、お疲れ様だったね。君が頑張ってくれたお陰で助かったよ」

 

 アークは自分の技量を隠すために手を抜いていた事は確かであるが、それでも相手は魔物である。

 自分達が死傷しない程度に頑張っていた。

 その戦う姿が一般的な剣術士よりも高い技量を示していたため、リズウィはここでアークの実力を素直に認める。

 

「俺ほどじゃないが、アークお前もなかなかやるじゃねーか」


 常に上から目線のリズウィだが、アークは元からリズウィ達に対して実力を隠す作戦であったので、ここで変な対抗心は出さない。

 それよりもリズウィの扱う剣に注目が行く。

 

「リズウィ君。君の扱うその黒い剣・・・それは魔剣かな?」

「おっ!? 解るか? これは俺専用の魔剣だ。どうだ? 格好良いだろう!」


 そう言い黒い魔剣を高々に掲げる。

 まるで玩具を自慢する子供のようだが、実にそのとおりだ。

 

「やはりそうか。リズウィ君が魔物を斬るとき、その剣の切れ味が普通の剣とは全く違うと思っていたけど・・・」

「そうさ。この魔剣の銘は『ベルリーヌⅡ』。勇者専用の装備で、魔法を吸収し、吸収した魔力を内包できる能力もある秘密兵器だ」


 でその『ベルリーヌ』という言葉に密かに眉を顰めるのはアークとハルである。

 彼らは勇者パーティに気付かれないようにして互いに念話で会話した。

 

(ハル、隆二君の持つ魔剣はあの獅子の尾傭兵団の団長ヴィシュミネが持っていた魔剣と同じ銘だ)

(ええそうみたいね。あの魔剣は危険な代物だったわ。今回も同じような魔力の吸収と身体能力強化の機能を持つのかは解らないけど・・・これは要注意の魔剣ね)


 彼らは互いにリズウィの持つ魔剣の危険性について共有する。

 過去に対決したヴィシュミネが持つ魔剣『ベルリーヌ』は、敵より吸収した生命力とか魔力とかを己の身体能力強化に使える魔剣であった。

 そして、その強化は安全性を無視した術式になっていて、やってはいけない脳の強化をしてしまい、その結果、悪魔のような姿になってしまった。

 今回も同じ機能を有している魔剣なのかは解らないが、それでも魔物の魂を魔力として吸収している様子は見られなかったので、少し違うのかもしれないと思う。

 ただし、要注意の業物と判断して、しばらく注視する事にした。

 ここで、リズウィはアークの持つ特殊能力について思い出す。

 

「魔法の吸収と言えば。アークさんよう、お前の方こそ、魔力抵抗体質者だとは聞いてなかったぜ。どうして初めに言ってくれなかったんだ!?」

「リズウィ君、すまない。別に秘密にしていた訳では無かった。もし、聞かれれば素直に答えていたさ。しかし、僕の持つこの能力はそれほど重要じゃないと思っていたのでね」


 しかし、そんなアークの言い訳をリズウィは快く思わなかったようだ。


「いいかい、アークさん。俺達は旅の途中で出会った人間だが、それでも同じ仲間として行動している。今回のように戦闘を共有することもあるだろう。そこでアークさんに魔法が利かないっていう意味は、回復魔法が掛けられねぇ事と同義なんだよ。もし、戦いで怪我でもされちゃあ、取り返しのつかねーことになるんだぜぇ!」

「・・・そこまで気が回らなかった。申し訳ない」


 アークはリズウィからの正論に上手く反論できず、素直に謝罪する事を選ぶ。


「リズウィ君は口が悪いけど、それでも僕の身体を気付かってくれる優しいところがあるようだね」

「いいや、それはお前が姉ちゃんの男だからだ。もし途中で死なれたら俺は姉ちゃんから一生罵られちまう。ただそれだけが理由だ!」

 

 そう応えて、目を逸らすリズウィ。

 明らかに自分の気遣いが相手にバレて恥ずかしかっている様子であった。

 

(隆二君って可愛いところあるよね。やっぱりハルの弟だよ)

(やめてよ。ただの阿保な愚弟よ!)


 アークのそんな念話にハルが恥ずかしがる様子もリズウィと似ていた。

 そんな緩い雰囲気になる旅の一座。

 彼らのやりとりを観れば、今回が緊張感あふれる戦闘を行った後でなく、まるで遊びの運動でもしたような朗らかな雰囲気である。

 そんな拍子抜けした様子を少し離れた林の陰よりこっそりと眺めるひとりの男・・・

 保護色の黒色ローブを纏った魔術師風の男は苛立っていた。

 

「何だ、アレは!? 少なくとも勇者達が帰路に着く情報なんて無かったぞ!! 聞いてない。こんなの!」


 納得のいかないその男は、右手に持つ紫色に輝いた水晶を地面に投げつけてやりたくなる衝動に駆られた。

 しかし、それを(すんで)のところで思い止まる。

 もし、癇癪起こして貴重な魔道具を壊してしまえば、後々、組織から咎められるのは自分になるからだ。

 

「くっそう。あの大男の魔法が規格外過ぎるのだ。一体何者なんだ、アレは?」


 この男が罵るように、その大男(ジルバ)さえ居なければ、こうもあっさりと自分達の仕掛けた魔物軍団が壊滅させられる事はなかった筈だ。

 当初の計画ではこのエイドス村を占拠して、アリハン山脈の街道を東西に分断し、勇者パーティの王都帰還を阻む計画であった。

 今回の作戦失敗の大きな要因となったその大男(ジルバ)の事をもっと詳しく見てやろうと目を細めたとき、その大男(ジルバ)と不意に視線が合う。

 

「拙い!」


 直感的にそう感じた男は大きくその場を飛び退く。

 その判断が正しかった。

 数瞬前まで自分の居た場所に弓矢が襲来した。

 

ダンッ! バルーーン


 矢が太い木を貫通して、突き刺さった衝撃で矢の軸が細かく振動していた。

 

「ヒッ!」

 

 正確無比な狙いと、その威力に慄く男は慌ててこの現場から立ち去る。

 こうして、この場で捕らえられる事なく、離脱に成功したこの魔物騒動の首謀者。

 それを逃してしまったのはローラである。

 

「ローラ、どうしたの?」


 ローラが遠くに矢を放ったので、何かあったのかと問い掛けるハル。

 

「ハルさん、ジルバ様から『虫が潜んでいる』と言われ、狙ってみたのですけど・・・申し訳ありません。逃がしてしまいました」

「なるほど()ね・・・だけど、逃がしてしまったものは仕方ないわ・・・」


 意味深にそう述べるハルであったが、この場でその言動が怪しいと思う者は勇者パーティの中には居なかった。

 

 

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