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第十七話 最後の晩餐会?

 こちらの世界の常識からすれば毎日贅沢な生活をしているようにも見えるサガミノクニ生活協同組合であるが、彼らの認識では毎日質素な生活を心がけているつもりである。

 それが、今宵のサガミノクニ生活協同組合の夕食は少々赴きが異なっていた。

 食堂棟の一角には特別な仕切りが設置されて、一般人が入れないようにしている。

 そこには大きくて贅沢なテーブルが持ち込まれて、清潔なテーブルクロスが敷かれ、専用の給仕と上等な料理、高級なワインが出されようとしている。

 さながら高級レストランに相応しい空間のようにも見えるが、今宵はそれに見合う来客者が招待されていることも理由のひとつ。

 本日の夕食会に招待されているのはライオネル・エリオス国王夫妻と、マチルダ・カイン・ボルトロール王女、そして、それぞれの警護を受け持つ者達、勿論、リューダ、シュナイダー兄弟も招かれている。

 

「明日はマチルダ王女が帰国される日ね。細やかだけど晩餐会を企画させて貰ったわ。今日はこれからいろいろ(・・・・)とありそうだけど、まだ大丈夫よ。今はリラックスして楽しんで頂戴」


 現場を仕切るハルからはそんな意味ありげな挨拶が行なわれた。

 そして、食前酒のワインと前菜として新鮮なサラダが運び込まれる。

 給仕はサガミノクニ生活協同組合の社会維持部が担っているが、それでも現地で採用した人は相当に緊張している。

 何故ならば、ここに介しているのが一国の王侯貴族ばかりだからだ。

 先に述べたエリオス国王夫妻にマチルダ王女もいるが、それに加えて招かれているのがシルヴィア・ファデリン・エストリア皇女。

 言わずと知れた隣国エストリア帝国の第一皇女。

 エストリア帝国とはエクセリア国民にとっても宗主国でもあり、正に王の中の王、帝皇の娘なので緊張するのも仕方のない話である

 ついでと言っては申し訳ないが、ここには研修生達も全員出席している。

 これは研修生の中にマチルダ王女と懇意にしている白エルフ族長の娘シルヴィーナ、それに加えてバリチェロを初めとした第一期研修生達もそろそろ卒業・解散時期となるため招待されている。


「ほら、ミスズさんも緊張しないで、今はまだ(・・・・)安全だから・・・」

「だってハルさん・・・」


 本日のハルは珍しく眼鏡姿であるが、勿論、眼が悪くなったわけでなく、その理由は後ほど語ろう。

 そんなハルからの意味深な問いかけに対し、不器用に顔を引き攣らせているミスズの姿が対照的であった。

 ここに一石を投じたのは招かれたマチルダ王女である。

 

「楽にしてよいぞ・・・そもそも普通(・・)の晩餐会程度で緊張する事もあるまい。今は(・・)まだ楽しい宴じゃからのう!」


 マチルダも何かを知っているようだが、敢えてその核心には触れずにいる。

 

「それに、今回、皆に良くしてもらったこの恩は忘れぬぞ。(わらわ)は義理堅い為政者なのじゃ」


 そんなマチルダ王女の態度に、同席するリューダは我慢しきれずに笑いを漏らす。

 

「ウフフ」


 彼女が上品に笑う姿は嫌味が籠っておらず、この場の雰囲気を柔らかくするのに役立った。

 

「おい、コラ! リューダよ。わらわは何か変な事を言ったのかな?」

「ハハハ」


 マチルダ王女からのそんな言葉に笑いの輪が広まる。

 笑っているのはエクセリア国の関係者も含まれていた。

 このように和んだ雰囲気になれたのも、ハルの企画したスポーツ大会の影響によるところが大きい。

 あの大会で雄姿を魅せたボルトロール王国チーム。

 それまでは戦争好きの残忍な国家だというのがエクセリア国民のボルトロール人に抱いていた印象だ。

 しかし、あのスポーツ大会で内容の良いサッカー試合を魅せられて、ボルトロール王国も普通の人間の国家だと認めるようになっていた。

 エクセリア国の英雄ウィル・ブレッタと張り合って良い働きを見せていたシュナイダーとイアン・ゴート氏には一定の尊敬の念が集まっていたし、美人で格別な活躍をしたリューダに至っては非公式のファンクラブまであるようだ。

 いずれにしても両国の関係改善には役立っていた。

 そんな事実はライオネルやハルにとって喜ばしい事でもある。

 何故なら、彼らはこれからボルトロール王国と交易して利益を得ようとしているからだ。

 貿易相手国の印象が良くなる事はプラス以外にない。

 

「先日、行われたサッカーという競技はエクセリンでも話題沸騰しております。見よう見真似でサッカーを始めている国民もいるようです」


 そんな噂がライオネルの耳にも入るぐらい、先日のスポーツ大会で行われたサッカーは愛好者を増やしていた。

 

「ハルさん、是非ともその版権を売ってください! 我が国家でもっとサッカーを広めたいのです!」


 とはスパッシュ・ラッドリアからの弁だ。

 ハルは笑って応える。

 

「別に良いわよ。お金なんて取らないから好きに進めて・・・もし、必要だったら隆二をサッカー指導に当ててもいいから」

「何を言ってんだよ! 人を牛馬のように扱いやがって・・・俺はサッカー指導者じゃねーぞ!」


 リズウィは文句を言いながらも、その顔は満更じゃない。

 彼はボルトロール人を初めとして、今まで多くの人々にサッカーを指導してきていた。

 人から先生と呼ばれるのも悪い気じゃないようだ。

 少なくとも人の役に立っているという実感はあったりする。

 ボルトロール王国から国外追放された時に比べると随分と顔色は明るくなったと思うハル。

 これには人から必要されるようになった事に加えて、エリザベスとの結婚がリズウィにとって心の支えとなっているのだろう。

 このように前向きに生きられるようになった人物も多い。

 リズウィの結婚相手であるリーザもそうだ。

 他にもまだぎこちないがフーガ魔導商会の一員としてサガミノクニ生活協同組合と袂を別ったミスズ女史も自信を取り戻しつつある。

 

(それぞれがプラス思考で生きていければ、それが一番幸せよね・・・)


 ハルはそんな事を思いつつも、ある意味核心となる今宵のメイン・ディッシュ料理が運ばれてきた。

 こちらの食文化を考慮してメイン・ディッシュは牛肉ステーキである。

 アツアツに焼いた肉は食堂店長ススム氏特製のソースで絡められており、スパイスと相まって香ばしい香りを放っている。

 研修生の若者数人が待ちきれず、手を出そうとするが・・・

 ハルの眼鏡が魔法光を発する。

 

「ダメね・・・これは完全にクロだわ・・・残念ながら」


 ハルはそう述べて彼らが食事に手を出すのを止めた。

 若者も事前にその理由を聞かされていたので、顔では残念そうにしながらも食事には絶対に手を出さない。

 それなりに腹を空かせた者もいるが、ここでハルの指示に逆らう者はいなかった。

 何故ならば・・・

 

 

 

 数刻後、夜半に衝撃の一報がエクセリア国内を駆け巡ることになる。

 

 

――ゴルト歴一〇二五年三月二〇日、エリオス国王夫妻暗殺事件が起きた。場所はサガミノクニ生活協同組合。死因は毒殺。サガミノクニ生活協同組合内の権力争いに起因するものと思われる。首謀者は現時点で不明だが、実行犯は同時期に服毒して自殺したらしい。晩餐会で毒物を食事に混入させる事で殺害を実行。被害者はエリオス国王夫妻と、サガミノクニ生活協同組合の幹部達、ボルトロール王国のマチルダ王女、エストリア帝国のシルヴィア皇女、英雄ブレッタ家と同席したエルフ、研修生などこの晩餐会に参加した主だった者が軒並み死亡する大事件が発生した――



え? 皆、毒殺されちゃったって!? その真相は次話に・・・


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