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第十五話 魔窟(前編) ※

今回は普段と違い登場人物の視点より描写させていただきます。いつも違う描写をお楽しみ頂ければ幸いです。


 私はイルダ。

 貴族主流派の長エイダール・ウット様に仕える一番の魔術師。

 現在、私は特殊任務を得て、敵の中枢のひとつであるフーガ魔導商会の内部へ侵入し、内偵している。

 ここは最近エクセリア国に寄生しようと企んでいるサガミノクニ人の一派が支配する魔法商会。

 彼らが何を考えているかを調査する事が今回の侵入調査の主目的である。

 この商会はフーガ伯爵(自称)という人物が支配している。

 だが、この会長という人物は一言で言うと『俗物』、それが現在の私の評価だ。

 

「うぐっ! イルダ、もっと気持ち良くしてくれ!」


 今も会長室でこの男は私の舌技を堪能し、加えてそんな厭らしい要求もしてくる。

 貴族社会で鍛えられた私の技に喜ぶこの男は、だらしない顔を見ればすぐに解る。

 私は相手の敏感な部分を舌で攻めてやるが、その度に男がピクピクと反応するのは妙に若々しい反応だ。

 これは私がこの会長付けの秘書に就任してから続いている卑猥な行為。

 今日もこの男の三人の奥方が外出すると、すぐに求められたので、仕方なく応じてやっている。

 私はここで舌の動きを一旦止めて愛撫を中断した。

 

「ど、どうした? イルダ!?」


 男の顔を見れば、困惑・・・更なる快楽を求めているのが確実であった。

 良い傾向だ。

 私の価値はこの男の中で十分に高まっている事だろう。

 

「教えて欲しいことがあります」

「何だ? 何か買って欲しい物でもあるのか?」

「いいえ。現在、来年度の予算をまとめているのですが、来年度に多額の収入を見込む事業はどこから利益を得るのでしょうか?」

「その件か・・・お前はそこまで知る必要は無い」

「・・・私をまだ信用されていないのですね? こんなにご奉仕をしているのに・・・」

「うっぐっ・・・」


 私は愛撫を再開する。

 ねっとりと舌の先端を使い敏感な所を擽るように攻めてやる。

 そうすると男の身体が喜んでいるのが解った。

 老体に似合わず、敏感な反応。

 そして、また愛撫を止める。

 私もその手のプロだ。

 ただ気持ち良くしてやるだけが能ではない。

 

「うむ、なんと切ない事をするヤツめ~ ここまで盛り上げておいてぇ」

「フーガ様ぁ~、教えて欲しいのです。フーガ様がお稼ぎになるその秘訣を知りたくなるのは秘書としての務めぇ・・・」

「うぐ・・・しかし、あのプロジェクトは我が商会でもトップシークレット・・・あまり易々と他人に伝えるなとカミーラからも言われているのだ・・・」


 ここで出てきたカミーラと言う名前。

 フーガ伯爵の第一夫人にして、この商会で最も力を持つ魔女。

 最近の調査から、この女性はボルトロール人だと思われる。

 そして、このカミーラという魔女がこのフーガ魔導商会を牛耳る真の実力者であるのは明白。

 このフーガ伯爵が唯一の頭が上がらない存在でもある。

 カミーラ夫人の魔力は恐らく私よりも上。

 何を考えているか解らない所も多く、私が最警戒している人物。

 

「そうですか。私よりもカミーラ夫人を選ぶというのですね」


 私は愛撫を放棄した。

 

「おい! ここまでしておいて止めるのか!」

「だってぇ~ 教えて頂けないのならば、私よりもカミーラ夫人を選ぶのであれば、萎えますわぁ」


 私はとっておきの厭らしい顔でフーガ伯爵を睨み返す。

 意図的なお預けだ。 

 この男の特性(キャラクター)は大体解ってきた。

 とんでもなくスケベで、自分の欲望には素直な人物。

 ここで私が止めれば、より迫ってくるに違いない。

 

「勝手に萎えるな。俺は盛り上がってんだよぉ! ここまで興奮したのを、どうやって収めてくれるんだ?」


 伯爵は私の頬を両手で抑えて、懇願に近い接吻の要求をしてくる。

 それでも、私は口を開かなかった。

 そんな駆け引きで先に譲歩してきたのはフーガ伯爵である。

 

「あぁ~、解った。教えてやるよ。どーせ、しばらくすれば、この商会の全職員が知る事になるんだ。少々早く話しても構わないだろう」


 よし、これでミッション・クリア。

 莫大な利益の収入先を知る事でこの商会の実体が解明できる。

 そんな事を思った矢先、店舗の方から大きな声で連絡が入る。

 

「大奥様達が戻られました~!」

「げっ!? カミーラ達が帰ってきた」


 私よりもフーガ伯爵の顔が焦る。

 この状況をどうするかのと、悩んでいるようである。

 私としても、求められた情報が得られそうなこの状況で邪魔が入ったのは、不満な表情になるだけだ。


「早く、イルダは去れ。続きがして欲しいならば、また空いている時間にやってやる」


 私がこんなことを喜んでやっているのだとこの男は勘違いしている。

 しかし・・・今はそれでいい。

 

「解りました・・・」


 私は心の底で芽生えかけた殺意を押し殺し、この部屋から足早に去る。

 まあいいだろう・・・今晩は絶対にその先の情報を聞き出してやるのだから・・・

 

 

 

 

 

「只今、戻ったわ」


 イルダが俺の私室から去った数瞬後、カミーラとエリ、ミスズの三人の妻達が部屋に入ってくる。

 俺はそれまでの行為がバレていないか、少し焦るが、それでもカミーラ達は何も気付いていない様子だ。

 ホッとして平静を装った。

 

「三人一緒に帰ってきたのか?」

「ええ。ちょうどエリと買い物を終えた時に、店の軒先からミスズの乗った馬車が見えたものですから」


 ミスズと街で会ったのは偶然だとカミーラは言う。

 彼女の言うとおり、本日、カミーラ達とミスズは別行動だった。

 確か、ミスズの今日の予定はサガミノクニ生活協同組合で開催されるスポーツ大会の応援者として参加していた筈だ。

 

「それよりも、今日は良い食材を仕入れたのよ」


 ここで能天気な声で俺に報告してくるのはエリだ。

 こちらの世界に来て、娯楽は圧倒的に少ない。

 最近のエリの趣味は異世界の珍しい食事に興味を持ったらしい。

 

「何だ? 何か面白い物を見つけたのか?」


 俺も適当に合わせてその話題に乗ってやる。

 女に合わせて莫迦なフリをするのも亭主の器量のひとつだと思う。

 

「そうなの。やっと見つけたのよ。辺境の珍味、ゴールド・ワルター・エイプよ!」

「ゴールド・ワルター・エイプ?」

 

 その名前に全くピンと来ない。

 

「ほら。以前に料理長が言っていたじゃない。年に数回しか市場に出ないと言われている幻の珍味があるって」

「そんな事を言っていたか? 言っていたような気もする・・・」

「そうなの。そして、今日、私が市場で見つけたのよ! とても高価だったけど競り勝ったわ。八十万クロルも使っちゃったの。エヘ」


 可愛くそうお道化て見せるエリだが、彼女の実年齢は・・・やめておこう、どう考えても野暮な話題になるだけだ。

 俺はエリの本性をよく解っている。

 この女は嫉妬深く、そして、残忍な女である事実も・・・

 それに比べで可愛く振る舞う今の彼女の方が十分マシ。

 恐らく機嫌が良いのだろう。

 それを態々(わざわざ)悪くはすまい。

 

「早速、料理長に調理をお願いしてきたわ。ミスズも食べるでしょ?」

「私は・・・」


 ここでミスズは遠慮しがちだ。

 ミスズはゲテモノ食いに走る最近のエリの趣向に辟易としているのは知っている。

 こちらの世界の珍味の類は、味は悪くないが、見た目がどうしてもアレであり、食欲が湧かないモノが多い。

 ミスズがここで敬遠したがっているのも理解はできる。

 

「私は遠慮しておきます」

「はぁ? ミスズってノリが悪いよねぇ!」

「エリさん、私は忙しいのです。製品開発が予定よりも遅れているので、進めなくてはなりません」

「開発が遅れているって? そりぁ、アナタが今日の昼間、スポーツ大会で遊んでいたからでしょ?」

「そのスポーツ大会にはボルトロール姫君も来賓していたのですよ。齟齬(そご)にできる訳ないじゃないですか! それに私にも同じ研修生として参加しなくてはならない体面もありますし」

「下らない言い訳をするわよね!」

「おい! エリ、止めておけ!」


 ヒートアップしてきたエリを止める俺。

 彼女は自分の思いどおりにならない事があるとすぐに癇癪を起す悪癖があった。

 

「だって、アキヒロ・・・コイツ・・・」

「止めておきなさい、エリ。ミスズには新製品の開発を急いで貰わなければならないわ。ミスズの進めている新製品には既にお客さんもついているのよ」


 カミーラもエリを止めてくれた。

 それぐらい、現在のミスズが進めている新製品は顧客から注目も受けている。

 ミスズはサガミノクニ生活協同組合に出向してから、急速に魔道具師としての実力を高めている。

 それは汎用型魔法陣の使い方をマスターした事も大きいが、それによって現代人のミスズが魔法という技術を意のままにコントロールできる事が増えたためである。

 汎用型魔法陣を元にした応用製品を次々と開発しているミスズ。

 使い手の細かい要望に応えるカスタムメイドの魔道具はエクリセンの富裕層にはウケが良かった。

 

「チッ・・・まぁ、売り上げに貢献している事は否めないわね」


 エリも渋々ミスズの有用性を認めて、悪ノリを止めた。

 

「仕方ないわ。今回は見逃してあげる。だけど、食後のアレもお預けにするわよ」


 妻達が最近定番にしているひとつの儀式があった。

 それは豪華な食事の後には盛大な乱交パーティをするのだ。

 娯楽の少ないこの世界で楽しみなどこれぐらいである。

 少なくともエロな営みを娯楽として捉えている第一夫人、第二夫人と俺にとっては楽しみにしている事でもある。

 第三夫人のミスズはと言うと・・・

 

「解りました。私も疲れています。夜はご同伴できませんけど、エリさんとカミーラさんとでお楽しみください。それに珍味の探求もいいけど、エリさんはお腹を壊さないように注意をしてくださいね。こちらの世界の人には平気な料理でも、私達には不衛生な場合もありますから」

「忠告、ありがとう」


 厭味ったらしくエリは応答するが、それで本日のやりとりは終わりになった。

 ミスズは独りで会長室を後にする。

 彼女としては本当に仕事を済ましておきたいのだろう。

 俺としてもそれについては大助かりだ。

 そして、この部屋には俺とカミーラ、エリだけが残る。

 

「・・・最近のミスズって生意気じゃない?」


 まだ不満の残るエリが俺達にそんな同意を求めてくる。

 

「エリ。アナタが不満に思うのも解るけど、ミスズはああ見えて仕事ができるし、ウチとしては稼ぎ頭なので頑張って貰わないといけない存在なのよ」

「そうやって甘やかすから図に乗るのよ」

「それでもアナタが代わりに新商品開発をできないでしょ? 私も魔法技術だけならば負けないけど、アナタ達の世界の科学技術は解らないわ。それにチマチマと働くのは性に合ってないし・・・」

「・・・それもそうね。私も金勘定は本来の仕事じゃないし、疲れるだけなのよねー」


 エリがそう言うのは彼女の元の仕事が報道番組のディレクターだったからだ。

 研究所やこの商会で経理事務をやっているのは自分の有用性を俺にアピールするもの。

 そして、金庫番という経理の仕事は組織を制御する要だという役割をエリも気付いているからだ。

 尤も、細かい仕事はエリの舎弟であるレイカとカオリに丸投げしているのは知っている・・・

 

「でしょ? 私達にはストレス発散が必要よね?」


 カミーラは厭らしい笑みを浮かべる。

 それは自らの性欲を認めて、それを発散したいという誘いでもある。

 この趣味だけに関しては今この部屋に残る俺達は同志とも言えた。

 エリも釣られて同じようなエロい笑みを浮かべてくる。

 

「そうだな。儂も最近忙しくて随分と溜まっているからなぁ~」


 俺は食後の(ねや)の時間が待ちきれなくなり、俺も己の性欲を強調する。

 それに応えるようにカミーラが早速俺の身体に触れてきた。

 

「あらら、アナタ・・・食前の運動がしたいのかしら?」


 カミーラは遠慮もせずに俺に迫ってきて・・・

 そして、カミーラは眉を(しか)める。

 

「んん? 知らない女の匂いがするわねぇ?」


 怪しんでくるカミーラ。

 そうすると俺は反射的に視線を逸らしてしまった。

 

「・・・」

「・・・」


 完全にばれた。

 

「アナタ・・・」

「い、いや、これは違うんだ。彼女の方から迫られて・・・そんな好意に応えてやるのも会長の務めかと・・・」


 苦しい言い訳をする俺。

 

「アナタ、ココからイルダの匂いを感じたわよ!?」

「えっ!? あの最近ウチに入ったあの秘書の女? とんだ泥棒猫ね!」

「・・・」


 一瞬でカミーラに俺の遊びを見抜かれてしまった。

 

「違うんだ・・・迫ってきたのはアッチで・・・俺からは決して手を出してない」


 俺も苦しい言い訳をする。

 この状況で新たな女性を妊娠でもさせれば、さすがに自分の立場は最悪になってしまう。

 只でさえ、三人も妻がいて、幸か不幸かまだ誰も妊娠できていないこの状況に、別の女性を妊娠でもさせれば、現在でも微妙なバランスの上に成り立つ夫婦関係が(こじ)れてしまう可能性も否めない。

 俺はいくら自分の性欲が強くても、現在の立場を失ってしまうような莫迦なリスクを冒すまでには至っていない。

 だから遊びの感覚で楽しんでいたつもりなのだが・・・

 

「アナタは莫迦だわ」


 カミーラから落胆の声が響く。

 隣のエリも軽蔑――と言うよりも嫉妬の眼差しだ。

 

(ああ、終わった・・・)


 今までの経験からそんな離婚の予感を感じてしまう俺であったが・・・

 

「あの女はアナタを利用しようとしているのよ」

「・・・へ?」


 てっきり離婚を突き付けられるかと思っていた俺は、カミーラの口から出てきた予想外の言葉に、話の脈絡がつかめず、直ぐは応答できないでいた。

 

「あの女・・・こちらの貴族連中から送られてきたスパイだわよ。使用人達から噂には聞いていたから、間違いない」

「何!? スパイだと!」

「そんな女、すぐに排除ね。クビにしましょう!」


 エリも清々してそんな事を進言してくる。

 しかし、カミーラが首を横に振った。

 

「いいえ、それは得策じゃないわ。その女を逆に私達が利用してやりましょうよ」

「利用?」

「そう。クビにしても、また新たなスパイが送り込まれてくる。ここは私達にとって異国の敵地よ。ココを縄張りにしているクリステの貴族連中からすれば、私達こそ排除したくて仕方がない筈」

「・・・」

「そして、私達にはこちらの伝手、人のつながりや後ろ盾が無いわ。あるのはアキヒロの持つ資金だけ。その莫大な金で当面の立場は手に入れたけど、まだまだ安泰ではない」

「・・・」


 カミーラの述べる的確な状況分析に何も言い返せない俺とエリ。

 

「だから、その女を逆に利用してやるの。寝返らせて、この地の人脈と有益な情報を手に入れられるチャンスよ、これは!」

「チャンスって、そんな上手く行く訳が・・・」

「あるわ。そこでアナタが頼りになるの。アナタの技で彼女を虜にしなさい」

「俺の?」


 俺はとても無理な話だと思う。

 

「大丈夫よ、自身を持ちなさいよ! アナタは自覚していないかも知れないけど、アナタの精力は英雄クラスよ。相手を妊娠させるぐらい(たら)し込んでも問題ないわ。もし子供ができたとしても、それを金で解決できるぐらいの資金もある。あんな小娘ひとり、アナタがガンガンと犯してアナタの事を忘れられない身体にしてあげなさい!」


 カミーラは自信満々にそんな事を進言してくる。

 確かに俺は愛の行為に飽くなき探求心を持つのは凡人の範疇では無いと心の片隅で思っていたが・・・そこまで真面目に考えた事はない。

 それでも、カミーラに言われて改めて考えてみると、少し自信も出てきた。

 

「そう。だからアナタの技で、あの小娘を滅茶苦茶にしてあげればいいの。そうすれば、スパイを逆のスパイに仕立てられるわ」


 カミーラはそんな誘いを俺の耳元で囁いてきた。

 そんな悪魔のような提案により、俺の心の奥に潜む悪戯心が高まっていく・・・

 

 

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