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第十三話 冬のスポーツ大会(中の二編)

 初戦のトーナメント方式の試合が終わり、勝ち抜いたチームが戦う準決勝となる。

 準決勝の一戦目はエザキ魔道具製作所チームと重工業チームだ。

 

「うむ、相手にとって不足なしだ!」

「互いにベストを尽くしましょう!」


 それぞれのチームの顔となっているクマゴロウ博士とアクトが互いの健闘を誓う。

 ちなみに、エザキ魔道具製作所の正式なリーダはリズウィであったが、周囲からあまり認知されていない・・・

 やはりハルの夫であるアクトの方が雰囲気的にリーダとして認識されているのである。

 

「うおーーっ! 重工業、頑張れーっ!」

「ウィル様ーっ! 素敵よーっ!」


 互いのチームのファンから声援が溢れて場は盛り上がる。

 ここで満は持したと判断したレヴィッタより試合開始の合図が告げられる。

 

「それでは、準決勝第一戦を開始しま~す。キック・オフッ!」

 

ピッ!


 笛の音と共にボールを蹴り始めたのはクマゴロウ博士。

 ここはスピード勝負だと判断した。

 その判断は間違っておらず、直線的にパワフルにサッカーコートを進むクマゴロウ博士はなかなか止められない。

 

「そのお年で技術職なのにこの体力・・・素晴らしい」


 ウィルはクマゴロウ博士のスタミナに賛辞を送る。

 

「若い者にはまだまだ負けんよ! そらッ!」

 

バスンッ!


 挨拶代わりに放ったシュートは正確にゴールを狙う。

 学生時代スポーツで鍛えられた博士の肉体は伊達じゃない。

 強烈なシュートだが・・・

 

パシーーン


 派手な音を立てたパンチングでショート阻んだのはキーパーのスレイプだ。

 

「くっそう、簡単には決まらないか・・・」


 シュートを放ったクマゴロウ博士もそう簡単に決まる相手でないのは解っていた。

 ここでシュートを止めたスレイプも痛そうに手を振う。

 

「クマゴロウ博士のシュートはパワフル。些か、精霊魔法無しではキツイかもなぁ・・・」


 そう何回も止められないと言うスレイプ。

 そして、弾いたボールはラインを割り重工業チーム側のコーナーキックとなる。

 重工業チームの若手がキッカーとなるが、彼はとても緊張していた。

 

「緊張するな。思い切って行けっ!」


 緊張で動きが硬い若手にそんなアドバイスをするクマゴロウ博士。

 それで何かが吹っ切れたのか、若手の顔色は変わった。

 

「それっ!」

 

バスンッ


 緩い軌道のコーナーキックは絶妙な放物線を描き、中央のピッチにボールが飛んでくる。

 

「そりゃぁっ!」


 そのパスボールをうまい具合に奪ったのはリズウィである。

 

「へんっ! ついてきなっ!」


 重工業チームを挑発するように一瞬挑戦的な笑みを浮かべたリズウィは相手陣地に向かって一気に駆けだす。

 パスを取られた若い技術者はそんなリズウィの挑発に乗ってしまう。

 

「この若造めっ! 生意気なっ!!」

 

 自分と五つしか違わないリズウィに莫迦にされたと感じたのだろう、必死にリズウィを追いかける。

 しかし、それこそがリズウィの狙い。

 リズウィはサッカーコートを軽快なドリブルで縦横無尽に走り、追ってきた若者を疲弊させた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・この野郎。ちょこまかと・・・」

「ハハハ、とろいなぁ。お前達、今まで散々俺達の事を莫迦にしていたよなぁ~。悔しかったら俺様に追いついてみろよ!」


 リズウィは汚い言葉で相手を挑発する。

 ボルトロール研究所時代にエザキ家が散々虐げられていた恨みをここで晴らそうとしていた。

 相手の若い技術者もムキになってリズウィを追いかける。

 しかし、勇者として常に戦場で活躍していたリズウィと、研究所で温々(ぬくぬく)と過ごしてきた若者とでは基礎体力に雲泥の差があった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、もう駄目だぁ~!」


 若い技術者は苦しさのあまり倒れ込んでしまう。

 リズウィもここが頃合いだと判断する。

 それまでサッカーコート上で走り回っていたのを止めて、重工業チームのゴールに襲い掛かる。


パスンッ!


 リズウィの落ち着いて蹴ったシュートはキーパーと一対一、狙いどおりにキーパーの手の届かないところにシュートを決めて、あっさりと点を取ってしまう。

 その後、そんなリズウィの作戦が嵌り、体力の劣る重工業選手を疲れさせて足を止めてゴールをもぎ取る一方的な試合展開となった。

 

ピーーッ!


「試合終了~っ。五点、対、〇点、エザキ魔道具製作所チームの勝ち!」


 試合終了と共に勝利宣言が成される。

 喜ぶエザキ魔道具製作所チームと、悔しがる重工業チームが対照的であり、その姿の対比が印象的に映る。

 

「ぐ・・・申し訳ありません。僕らが体力無いばかりに・・・」


 重工業チームの若手選手はリズウィの策に乗せられた責任を感じていた。

 

「うむ・・・これも仕方がない。我々は技術者だ。体力には限界ある事を想定していなかった私の作戦ミスだ。この現実を受け入れよう。君達はよく頑張ってくれた」


 落ち込む若手を責めないクマゴロウ博士。

 しかし、それをあざ笑う声が・・・

 

「へんっ! お前らは全然頑張る方向が違うんだよ。体力が無いって自覚するならば、普段から走り込みぐらいしておくんだな。過去に散々と俺達を莫迦にしてくれた罰だぜぇ!」


 今回の勝利をこれ見よがしにアピールするリズウィ。

 この若手達からは過去に虐げられた記憶もあるので、リズウィはここぞとばかりに仕返しをしてしまった。

 

「ぐ・・・」


 リズウィの罵る言葉に、何も言い返せない若手。

 いい気味だとリズウィは思った。

 しかし、そんなリズウィの行動を快く思わないハルがここで手を打ってきた。

 

パシンッ!


「うぉっ!」


 小規模の雷がリズウィの足元に落ちる。

 勿論、これを放ったのは無詠唱魔法を行使したハルである。

 出力は小さいが、それでも調子に乗るリズウィを黙らせる効果はあった。

 

「こら、隆二! スポーツマンシップに恥じる行為をしてはいけないわよ! 試合が終われば、他の皆と同じように対戦相手としっかり握手を交わし、互いの健闘を称えるの! 我々に必要なのは勝敗に拘る事でなく、仲間との分断でも無い。今回のスポーツ大会で我々に必要なものは交流と友好の精神よ!」


 矢継ぎ早に注意してくるハルの言葉でハッとなるリズウィ。

 それまで態度が悪かったリズウィは姉の言葉で本来の目的を思い出した。

 

「すまねぇ。悪かったな」


 多少に不承不承なところもあったが、それでも自らの悪態を詫びる。

 

「いや・・・」


 変わり身の早いリズウィに困惑しながらも、握手に応じる重工業チームの若手。

 そんな微妙な雰囲気になったが、それでもエザキ魔道具製作所チームの勝利に間違いはない。

 その後、特に女性からの盛大な声援が続き、選手達は勝利の結末を実感する。

 敗者となった重工業チームは代表のハルの気遣いに気付いて、「ハルさんも大変だなぁ」と誰かが静かに呟いていたのが印象的であった・・・

 

 

 

 そして、次の準決勝試合はボルトロール招待チーム、対、研修生チームとなる。

 

「試合開始ーっ!」


 試合開始の合図と共にボルトロールの怒涛の攻撃が始まった。

 元より体力差のあるチームどうしの対戦であり、ある程度予想された結果なのだが、それにしても一方的な試合展開となった。

 その結果・・・

 

「試合終了。六点、対、〇点、招待チームの勝ち」

「うぉーーー、いいぞ、ボルトロール人! そのパワーは見ていて気持ち良さがある!」

 

 清々しいほど次々とゴールを決める彼らの姿に、観衆の中に少しはボルトロールチームを称えるファンが増えた。

 そんな変化を見ることができたハルが少しホッとしていたのは否めない。

 そして、サッカーコートの上では・・・

 

「ぐ・・・私達は負けましたけど、バリチェロさん。アナタは本来、こちら側のチームではありませんか?」


 エリーは納得いかないと敵の選手団にいるバリチェロに文句をつける。

 

「私はボルトロール王国出身者。こちらのチームに入る事に何ら問題は無い。そして、勝利という結果も享受できた事は利点」


 バリチェロはその薄い胸を張り、得られた勝利という成果に満足していた。

 そんな余裕の姿がエリー達には余計に納得いかない。

 

「バリチェロさん、アナタってそれほど活躍していなかったじゃない。ただ、勝ち組に乗っかっているだけよね?」

「それでも、結果はすべて。私達が勝ち、アナタ達が敗者!」


 フフフと不敵に笑う姿には嫌味が籠っており、この安い挑発をビヨンドが買ってしまう。

 

「悔しいーっ! 私達は魔術師です。魔法さえあれば、ボールだってこんなにも強力に飛ばせるのに!」


 ビヨンドは素早く風の魔法を詠唱して、ボールを飛ばす。

 勿論、狙う先は憎たらしい嫌味の顔を見せるバリチェロ。

 

バンッ!


「ゲッ!」


 風の魔法で勢いのついたボールはバリチェロの顔面目掛けて一直線。

 ビヨンドが抜群の魔法の才能を発揮させた事によるものだが、そのボールの勢いは激しく、直撃すればシャレにならない威力があった。

 いきなりなので避けるのも難しい。

 バリチェロが怪我してしまう・・・誰もがそう思ったが、ここでもハルが活躍する。

 

バフンッ!


 新たな風の魔法が起こり、ボールの軌道が変わった。

 ボールはバリチェロの頭上を通り過ぎ、サッカーコートの外で休んでいたリズウィに当たったが、そこは誰も着目していなかった。

 

バシーン、バシーンッ、バリバリッ!


 直後に複数の雷魔法が炸裂してビヨンドの周囲に落ちる。

 先程のリズウィの時よりも威力が強く、ビヨンドが驚いて腰を抜かしていた。

 

「この大莫迦者っ! 大会で魔法は禁止って言っていたじゃない。ビヨンド! アナタもスポーツマンシップに反する行為だわ。バリチェロが怪我したらどうするのよっ! これはスポーツ。楽しくしないといけないわ!!」

「あわわわ・・・ハル様、ごめんなさい・・・」


 ハルの逆鱗が見えて、顔が青くなるビヨンド。


「謝る相手が違うわよっ!」

「・・・」


 しばらく自失呆然としていたが、それでもハルの言わんとしている事に気付くビヨンド。

 

「・・・バリチェロ、ごめん・・・」


 彼女は絞り出すように謝罪を口にする。

 ビヨンドはいきなりの魔法攻撃に驚いていたようだが、それでも謝ってきたビヨンドを不承不承で許す事にした。

 それぐらいは周囲の空気が読める。

 

「ふん・・・まぁいい。私達は勝った。その結果に免じて許してやろう」


 しかし、バリチェロの口調は悪かった。

 そんな挑発的な姿に再び眉を顰めるエリーとビヨンド。

 さすがに味方のそんな尊大な態度は拙いと感じたのか、リューダが間に入ってくる。

 

「バリチェロさん。それでは相手に悪い印象を与えてしまいます。エリーさん、ビヨンドさん、ハルさん、この()はこちらで叱っておきますので許してあげてください」


 まだ何か言いたそうにしていたビヨンドだが、リューダが頭を掴んで拳でこめかみをぐりぐりやってバリチェロを折檻する。

 そんな姿はどこかコミカルであり、ハルはふぅと息を吐く。

 

「本当にそうね。リューダ、バリチェロにスポーツマンシップとは何たるかを教えてあげて。もし、あまり理解できないようであれば、魔法あり(・・・・)で私とサッカー勝負して貰いましょう」


 そんな言葉に青くなるバリチェロ。

 バリチェロはハルとの魔法対戦を想像してしまった。

 ハルの実力を正しく評価しているバリチェロ。

 無詠唱魔法を得意とするハルと魔法の早打ち競争をやっても自分に勝てる見込みはまったく無い。

 雷魔法を初めとした無数の無詠唱魔法が降り注ぐサッカーコートを想像してしまい、地獄を連想した。

 そんな狼狽した姿に邪悪な笑みを浮かべて喜んでしまうのはエリーとビヨンド。

 

「エリー、ビヨンド。その時はアナタ達も連帯責任として参加して貰うわ。勿論、私の敵としてね」

「「ひっ、嫌ーーーっ!」」


 悲鳴を挙げて慄くビヨンドとエリーの姿に周囲が笑ってくれたのがせめてもの救いであった。

 そんな妙な雰囲気に陥りながらも、最低限の秩序を保ちながら決勝戦へとコマが進むのであった・・・

 


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