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白い魔女と敬愛する賢者たち(ラフレスタの白魔女・第三部)  作者: 龍泉 武
第十二章 ボルトロールからの使者
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第六話 ブレッタ流剣術道場エクリセン支部への訪問

 イアン・ゴートが休みを取って訪れたのはエクセリア国の王都エクセリンに最近開業した剣術道場『ブレッタ流剣術道場エクリセン支部』だ。

 当然、彼の目的は過去より親交のあるレクトラ・ブレッタを頼った訳ではあるが、何故かマチルダやリューダ、シュナイダー兄弟もついてくる始末。

 

(観光ではないのに・・・)


 そんな思いは心の奥底に沈めて、剣術道場の門を叩く。

 

「頼もう!」


 イアン・ゴートの清々しい声は呼び鈴よりも轟き、道場内の誰かに届いたようだ。

 

ドタ、ドタ、ドタ・・・


 誰かが門まで小走りに走る音が聞こえ、相手の誰何もせずその門は開かれる。

 そんな思い切りのよい行動によってイアンの前に姿を現したのは・・・

 

「あれ?」

「んん? どうしてリズウィが居る?」


 互いに見知った顔の師匠と弟子。

 異国の地での再会であった・・・

 

 

 

 

 

 

「ワハハハ、なるほど。そうか、レクトラの奴は居らんのかーっ! 残念、残念」


 豪快に笑うのはイアン・ゴート。

 彼はかつての同門の友、レクトラ・ブレッタがこの道場にいるものと思い訪問したが、結果的に当ては外れた。

 

「折角お越しいただいて申し訳ありません。父は祖国に帰ってしまいました」


 現在この道場の切り盛りしているのはレクトラの息子であり、ブレッタ流剣術の免許皆伝を受けた長男のウィル・ブレッタである。

 

「ワハハ、そのようだ。リズウィから聞いたよ。娘の学業が心配だから帰国したのだとか・・・あの剣術の鬼だったレクトラが家族のため・・・時代は変わるものだ。ワハハハ」


 何が面白いのかイアンはゲラゲラと笑う。

 イアンの中でのレクトラという人物はウィルの知る親の像とは少し違うようである。

 

「おっさん、笑い過ぎだぞ」


 流石のリズウィも他人に失礼と感じたようでイアンを注意する。

 しかし、そんなリズウィの態度がまたイアンの笑いのツボに入った。

 

「お前こそ。どうして、丁稚のような事をやっているんだ!?」

「そりゃ、俺だってブレッタ流の剣術道場に来たのは今日が初めてなんだよ。姉ちゃんから生活協同組合内でダラダラしているぐらいならアクトさん達を手伝えと言われて・・・」


 リズウィはバツ悪そうにそう応える。

 それに補足をしてくるのはアクトだ。

 

「イアン・ゴートさん、リズウィ君を借りてきたのは僕達です。このエクリセンには今まで正当な剣術道場が無く、今回新たに父が開所したところ、多くの入門希望者が集まってしまい。僕達ふたりだけでは手が回らなくなってしまい・・・」

「そうか・・・確かにエイボルトにも勝手に剣術流派を立ち上げる者は多いが、正式な剣術道場となるとその数は少ない。そして、アーク君、君はブレッタ家の者だったのだな?」


 イアン・ゴートはアクトの事をそう再確認する。

 そう、それはエイボルトでのイアン・ゴートの道場ではアクトは『アーク』と名乗っていた過去があったからである。

 

「その節は申し訳ありません。私が彼の国であの状況・・・ブレッタ家だとは名乗る事ができず、お許しください・・・私の本当の名前はアクト・ブレッタです。こちらは兄のウィル・ブレッタ。いずれもレクトラ・ブレッタの実子となります」


 アクトは素直に自ら身分を明らかにする。

 もうこの地では自分を秘密にする理由は無いし、イアン・ゴートの後ろで何だか感極まっているリューダには本当の事を言っておきたかったからだ。

 

「ま、道理だな・・・ここにレクトラがいなくて残念が、その息子達と戦場以外で会えた事は興味深い」


 イアンの鋭い眼光が光る。

 一瞬にして緊張が場に広がった。

 若いブレッタ流の門下生達が不穏な客人の気配に気付き、前に出たが、それをウィルは制する。

 

「レクトラさん、父は不在となりますが、もし私で良ければ手合わせを・・・」

「・・・フフ、ハハハ、ムハハハ!」


 イアンは豪快に笑う。

 

「嬉しい申し出だが・・・今日はやめておこう。私は戦闘狂ではない。無下に剣を振るうほど若くもないのでな。その心意気だけは受け取っておこう。だから、シュナイダーも昂るのはよせ!」


 イアンの後ろで名立たる剣術士と戦闘が経験できると気持ちを昂らせていたシュナイダーを諫めた。

 何となく、流派の違う剣術士の訪問によりこれから模擬戦になる展開を覚悟していたウィルは肩透かしを食らった気分だ。

 それでも、彼も無益な戦闘は好まない。

 ウィルもまた戦闘狂ではないのだ。

 

今日(・・)は止めておこう。だが、いつの日か正式に対戦したいものだ。このイアンもあちらのシュナイダーもボルトロール王国で順位の高い戦人(たたかいびと)。模擬戦といえども互いに得るものがあるだろう」


 どうやら、模擬戦は後日に持ち越しになるようであった。

 そんな宣告にウィル・ブレッタもフッと笑みを浮かべる。

 イアン・ゴートやシュナイダーの噂話はアクトより聞いていたし、本日、ウィルが直感的に感じられた剣術士の勘から、イアン・ゴートとシュナイダーは本当に強いと感じていた。

 もし、彼らと模擬戦ができるのならば、自分にも得られるものが多いだろうと直感する。

 

「そうですね。もしそのような機会がありましたら、遠慮なく模擬戦させてください」


 そこにあるのは剣術士同志の強さへの追及。

 見栄や虚栄は無い、清々しさがあったりする。

 そんな彼ら剣術士達の実直さに感心したのはこの訪問に同行したマチルダである。

 

「ふむ。何やら面白そうな話をしておるのう」


 喜々とした表情でイアンの肩をポンと叩く若い女性。

 若さよりもその立ち振る舞いで彼女はイアンよりも上位者であると察するウィル・ブレッタ。

 

「あなたは?」


 そんな問う声にマチルダは笑みを深める。

 

「よく聞いてくれた。わらわはマチルダ・カイン・ボルトロール。ボルトロール王国の第一王女ぞ」


 そんな大物の登場に頭を抱えたくなるウィル。

 彼にとって王女身分の女性とは厄介者である。

 独身時代にグイグイと関係を推して来たシルヴィア・ファデリン・エストリア第一皇女がウィルの印象には強い。

 

「なんじゃ? もっと驚くかと思ったが・・・」


 意外なウィルの反応にそんな言葉が出るマチルダ王女。

 これにはアクトが弁明した。

 

「マチルダ王女様・・・申し訳ありません。兄は第一王女という存在にあまり良い思い出がございませんが故に」

「そうか・・・その理由は、まっ、追々聞くとしよう」


 マチルダの発言からして彼女はここでの長期滞在も視野に入れている事が解る。

 姫と名乗る女性の登場に、トラブルが発生する予感しかしないウィルであった・・・

 

 

 

 

 

 こうして、イアン・ゴート達、ボルトロール組はブレッタ流剣術道場のエクセリン支部を後にする。

 帰りの馬車の中では、今後の方針について話し合われた。

 

「レクトラが居なかったのは残念でした。もし居れば、久しぶりの手合せ(・・・)ができたものを・・・」

「残念な割には随分と嬉しそうな顔をしておるではないか?」

「フフフ、エストリア帝国の英雄か・・・我が弟子リズウィよりも彼らの腕は達つのでしょう。アーク、いや、アクト氏の剣の腕はエイボルトで観ていますからね」

「なるほど、アークはエイボルトでの大反乱を鎮めた者だからな」

「エイボルトの大反乱の鎮圧は銀龍や白魔女の働きによる要素も大きい。それにアークはあの時、黒仮面を装着していたと聞く。仮面を被れば増強(ブースト)される。それはベースとなる剣術以上の力が発揮されるという意味だ。そうであろう? リューダよ」

「ええ・・・あ、はい」


 何かを思い出して、だらしない顔になっていたリューダに話を振るイアン・ゴート。

 それでリューダは現在、ボルトロール王国のために行動しなければならない自分の立場を思い出させた。

 

「まあいい。ここも楽しくなりそうだ。兵装魔法陣の件でしばらくは滞在する事になる。雪が降れば、山岳街道は閉ざされるだろう。そうなると否応なしに春になるまではエイボルトには戻れん。(わらわ)はボルトロール領の端のフロスト村のようなつまらぬ場所で過ごすつもりは無い」


 時間はたっぷりあるとマチルダは全員に告げた。

 

「往路で同行したマルーン商会は明日帰るそうです。それには同乗しないと?」

「そうじゃ。兵装魔法陣を持ち帰るため、それが最低限の実績。ここに滞在する理由として全く問題はない」

「解りました。有難きご配慮です。マチルダ姫。しばらくは退屈しなさそうです」


 喜々とした顔をそんな言葉を自発的に喋るのはシュナイダーからであった。

 いつも冷徹で感情を表に出さない豪傑者として有名な彼からすると珍しい反応だ。

 この馬車の面々からはこの国に残る状況に文句は出ないだろうと思うマチルダ。

 

「本当に面白くなりそう。こんな状況で成果を出すのがボルトロール王国人よ。各自はそれを忘れぬように」


 檄を飛ばす王女は周りに期待というよりも自らを鼓舞しているようにも見えた。

 


今回はイアン氏の道場破りイベントは発生しませんでした。彼らがアクト達との対戦イベントは少し先となります。乞うご期待!


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