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白い魔女と敬愛する賢者たち(ラフレスタの白魔女・第三部)  作者: 龍泉 武
第十二章 ボルトロールからの使者
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題二話 勇者と英雄の結婚式

 秋晴れの続く、エクセリア国。

 サガミノクニ生活協同組合、本日は休日となった。

 それはハル組合長の弟リズウィと派遣魔術師職長リーザの結婚を祝うためである。

 本日夫婦になろうとしているのは彼らだけではない、トシオ博士とヨシコ、ハヤトとアケミと言ったハルと同世代のカップルがゴールインとなる。

 それならば全員で祝ってしまえと、今日一日を休日にして、盛大な結婚パーティが開かれる事になったのだ。

 

「本日はお日柄も良く・・・」


 と腰の低い態度で祝辞を述べるのはこの国の国王ライオネル・エリオスである。

 ハルとアクトには見慣れた腰の低い姿ではあるが、彼ら以外の人々にはまだまだ意外に映るようで、どう対応していいのか困惑しているのはある意味でここ最近の日常でもある。

 

「ライオネル、本当に助かったわ。リーザの移民の受け入れと、結婚の手続きを早く進めてくれて。お陰で式典に間に合ったわね」

「あれぐらい、お安い御用です。それに帝国側も移民手続き処理を急いでくれましたからね。ハルさんは帝皇デュラン様に手を回したのでしょう?」

「ええそうよ。帝皇デュランも快諾してくれたわ。なんだか、ケルト家の内情も政治派閥の争いでバタバタしているそうよ。娘が帝国から出奔すれば親の頭も冷えるだろう、って言っていたわ」

「なるほど・・・その帝皇デュラン様から伝言を請けています。汎用型魔法陣について使者を出すから、その使用法を教えよ、と・・・」

「いつもながらに情報が早いわね・・・ま、帝皇デュランらしいわ。大方、ロッテル辺りが情報を漏らしたんでしょうけど、特に秘密にしている訳でもないし、私達としては使用者が増えるほど、儲けられるからね」


 ハルはそう納得を示し、近々帝国から研修名目で魔術師が派遣されてくる事を予感した。

 

「いずれにしてもリーザの件で便宜を図ってくれたのだから、借りができたわ・・・と言っていたら新郎新婦のお出ましのようね」


 ハルがそう言うと同時に、結婚式会場に着飾ったリーザとリズウィが姿を現した。

 彼らを迎えた人達からも歓声が起きる。

 

「ああ! 今日のリーザ様はなんと、お美しいのでしょう! 最高品質の純白の花嫁ドレスに負けずとも劣らない完ぺきなお姿!」


 絶賛を贈るのはリーザの下で派遣魔術師として働く女性魔術師のひとり。

 彼女にとってリーザとは国防の英雄魔術師であり、憧れの存在であった。

 何を着させても映えるリーザが現在纏っているのは白エルフの持ち込んだ辺境奥地でしか産出できない特殊な蚕より造られた最高級のシルクを素材にした純白ドレスである。

 この日のためにリズウィとハルがローラとシルヴィーナに頼み込んで準備して貰った特別な衣装。

 現在、エルフの駐在地となっているスケイヤから衣装仕立ての為に態々専門のエルフを呼んで作って貰った。

 生地が高品質なのは見た目だけでも解るが、それ以上にこの生地には魔法が重畳されており、衣装単体でも魔法素材として成り立っている。

 これだけでも恐ろしい金額になりそうだが、ローラとシルヴィーナからは人間とエルフの友好のためにと格安で提供して貰っている。

 同じくそんな純白で繊細な衣装を纏う花嫁は三組。

 リーザ、ヨシコ、アケミの三人は本来の美しさ以上の強化(ブースト)を得て、会場の人々を魅了している。

 そんな三人はハルの姿を見つけると、早速近寄ってきた。

 

「ハル、こんなに綺麗な衣装を手配してくれて、本当にありがとう!」


 異世界人のアケミでも解るこの衣装の価値。

 ハルには感謝を伝える以外にない。

 

「本当・・・私達、ハルに何とお礼を言えばいいのか・・・」


 ヨシコは感謝を超えて困惑している様子。

 純白の衣装に加えて、ティアラに似た髪飾りや豪華な指輪――これはエザキ魔道具製作所製である――はまるでどこかの王族のような着飾りとなっている。

 結婚披露宴という女性の一生で一番の大舞台で着させて貰うには憧れ以上の感動があった。

 

「ヨシコ、アケミ、綺麗よ。私も素敵な姿を見られて嬉しいわ。そして・・・リーザもね」

「今後はハルさんの事を義姉(あね)様とお呼びすればいいのかしら?」


 リーザにとってハルは義姉(あね)である事に間違いない・・・しかし、その呼称で呼ばれ側のハルには違和感があった。

 

「そうね。アナタとは家族になるなんて・・・想像もしていなかった事・・・だけど義姉(あね)様の呼称は止めておきましょう。私とアナタは同級生よ。義姉(あね)なんて呼ばれても違和感ありまくりよ。私にとってはリーザと呼ぶのも違和感があるのだから・・・」

「そうですわね。実は私も義姉(あね)様と呼ぶように強要されればどうしようかと、困っていたところですわ。オホホホ」


 優雅に笑うリーザの姿は自然であった。

 今の彼女は学生時代のような傲慢な貴族令嬢ではない。

 ハルにとってごく普通の女友達・・・それも幸せに満たされた不満や不幸などを一切感じさせない女性のように映る。

 

(エリザベス・・・あなた・・・変わったわね)


 心の中でそう静かに囁くハル。

 そんなハルに夫のアクトが静かに手を肩に乗せてくる。

 アクトも同じ事を思っているのが心の共有で解った。

 

「リーザさん、今日のアナタは一段と美しい。リズウィ君とお幸せに」

「・・・はい」


 リーザの笑顔は輝いていた。

 女性の幸せを満点に示す彼女。

 そんな幸せの絶頂期に、その相手となる夫衆三人も会場に現れる。

 この時、現れた新郎のトシオとハヤトは自分の妻となる女性の美しさにあまりにも感激したりする。

 

「アケミ・・・今日のアケミは滅茶苦茶凄いなぁ~!」

「ヨシコも素敵だよ!」


 嘘偽りのない男性陣からの賛辞の言葉。

 それもそうである。

 このエクセリア国は宗主国であるエクセリア帝国の文化を踏襲している。

 つまり彼女達の装着するドレスの形状は女性の美を追求した帝国式ドレスとなる。

 女性達の絞れるところは極限まで絞り、豊かにするところを極限まで脚色する。

 そうすれば、普段はグラマラスなスタイルではないヨシコとアケミも、グラビアアイドル顔負けのスタイルに変身だ。

 これはエクセリア国の着付け師が頑張った結果であり、エストリア帝国の結婚パーティではありふた光景だが、娯楽の乏しいサガミノクニの成人男性にとってはまぶしい刺激でもある。

 

「うふふ。誘惑しちゃうわよ」


 アケミはお道化てそんな仕草をしてみるが、相手のハヤトは今すぐにでも飛びつきそうである。

 そんな男性陣の中で唯一冷静を保っているのがリズウィだった。

 女性に対する興味はハヤトに決して負けない助平のリズウィだが、リーザがスタイル良いのは解っていたし、今回の衣装以上にエッチな体験を既にしている彼は、いろいろな意味で耐性があったりする。

 

「隆二も立派になって・・・私、嬉しいわ」


 そんな感動に浸るのは母親のユミコ夫人だ。

 夫人の脇には車椅子に乗せられた父親タダオもいる。

 

「おお、おお!」

「アナタも・・・興奮しているのね」


 息子の晴れ姿に感動しているのか。

 それとも、周囲のお祭り騒ぎの雰囲気に乗せられているのか。

 タダオも普段と違い興奮気味である。

 そんな非日常の姿を穏やかな感動と共に万感に浸るハル。

 

「平和っていいわね」


 思わずそんな呟きが・・・

 ここまで来るのは苦難の連続とまでは言わなくても、それなりに山あり谷ありであった彼女の人生。

 自分の結婚式の時はエクセリア国を戦争から解放したり、銀龍が現れたりとバタバタだったので、落ち着いていろいろ考える猶予も無かったのだが、こうして実弟と幼馴染の結婚パーティに立ち会えば、幸せな気分を実感できた。

 脇に立つアクトもそんなハルの心情が解るので、労いの言葉をかけてくる。

 

「ハル・・・本当にお疲れ様」

「アクト・・・ありがとう」


 アクトの胸にそっと頭を預けるハル。

 幸せの瞬間だったが、それも長くは続かない。

 

「ん?」


 急に彼女が感じた浮遊感・・・それも全身ではなく胸の部分だけ。

 気付くと誰かがハルの豊かな乳房を下からポンポンと突き挙げて弾ませていた。

 

「キャッ! 何よっ?」

 

 ハルは驚いて自分の胸を守り、後退る。

 そうするとそこには車椅子に乗ったタダオの腕が・・・

 

「にひひひ!」


 悪巧みの成功した悪ガキの如く、その顔はニタついていた。

 

「ぐっ、何するのよ!」


 当然だが、父親の狼藉に怒りを露わするハル。

 怒りで周辺の空気がバチンと電気が走った。

 無意識で警戒のために雷魔法を発動させた結果である。

 そんな彼女の怒りが解る行動はタダオを恐れさせるだけだ。

 

「わわわわ」


 タダオは車椅子から転げ落ちて、後退り、近くに居たシーラに縋る。

 最近のダダオはシーラから治療(?)を受けていたので、妻のユミコの次に信頼のおける女性なのだ。

 タダオはそんなシーラに抱かれてブルブルと震えた。

 

「まったく、こんな時に何するのよ!」


 そうやって怒り続けるハル。

 これにはシーラから宥めの言葉が出てくる。

 

「ハルさん。落ち着いてください。これもタダオさんの治療が進んでいる証拠なのですよ」

「治療が進んでいるですって? ただのエロ親父になっただけじゃない!」

「いいえ、人間の一番の欲求・・・それは性欲です。異性に興味を抱いて、相手と深く関わって、そして、性関係を営み、子を得る。これは生物の営みとして最も重要な事です。増えて子孫を残すという基本原理。これがタダオさんにも戻ってきているという事は人として脳の機能が回復してきている事を示しているのです」

「ふ~ん。私にはただのエロ親父にしか見えないわねぇ~。隆二もお父さんのこの辺が似たんじゃない。お母さん、どう思う?」


 あまり納得してない様子のハルは母にも意見を聞く。

 そんなユミコは・・・

 

「タダオさんは・・・いや、何でもないわ」


 何かを言いかけたユミコだが、それは結局この場で彼女の口から余計な事は出さなかった。

 代わりに、現在シーラに甘えているタダオを引き取る。

 

「うぅぅぅ」

「あらあら、怖かったの? それはアナタが春子のおっぱいを触ったからよ。この子のおっぱいはもうアナタの物じゃないの」


 ユミコはそう言って自分の胸にタダオの顔を抱く。

 

「うー」


 その胸に顔を埋めて甘える姿はまるで子供のようだ。

 

「けっ、何だよ。気持ち悪りぃーな!」


 そんな父親の姿に嫌悪感の沸くリズウィ。

 しかし、この時、そんなタダオに慈愛を示したのはエザキ家の妻となったリーザからであった。

 

「タダオさん。リズウィの父様が望まれるのでしたら治療のために私の胸をお貸ししますわよ」


 そう言ってリーザは迫力の乳房をタダオに示す。

 ただでさえ大きいリーザの乳房は本日、帝国式ドレスの正装によって攻撃的な弾みを得てタダオを挑発した。

 

「うぉっ!」


 それを見たタダオはそんな奇声を発する。

 目をパッと見開いて、リーザ乳房の全貌を把握しようとするタダオだが・・・

 しかし、それは一瞬で阻止された。

 直後、母ユミコによってタダオの視線が手で遮られたからだ。

 

「まったく、駄目よ。今日は隆二の晴れ舞台。アタナは花嫁に触れてはいけません」

「うぅぅぅ」


 軽い抗議の声がタダオから漏れねが、結局、その直後は大人しくなる。

 強烈な性欲を見せたかと思えば、次の瞬間に大人しくなってしまう。

 まるで情緒不安定なダダオは、やはりまだ病人であった。

 そんなタダオを優しく抱く母ユミコはリーザに言う。

 

「リーザさん、ごめんね。タダオは私が責任以て面倒を観るから、これからのアナタ達の人生に迷惑はかけないわ。だから、タダオを許してあげて」

「ユミーさん、誤解しないでください。私はダダオさんの存在をマイナスには感じていません。それはリズウィのお父様だから、家族を大切にしたい・・・そんな気持ちだけです」

「ありがとう、リーザさん。アナタって優しいのね・・・アナタが隆二のお嫁さんになって貰って本当に良かったわ」


 ユミコはリーザに手を差し出す。

 リーザもその手を取り、互いに何かを感じて感動している様子だった。

 そんな妙な雰囲気にハルは咳払いする。

 

「ハイハイ。感動の場面はここでするものじゃないわ。ほら、司会のクマゴロウ博士が私達を探しているわよ。これから愛の誓いの儀式をしないと式が進まないじゃない!」


 埒が明かないとハルが言ったところで、一同はこの式典のプログラムを思い出した。

 彼女達は小走りに壇上へと移動し、こうして結婚パーティが進展する。

 新郎新婦の家族友人からの祝辞、新郎新婦の愛の宣言と、この式典で最大の見せ場へと急ピッチで場面が進行していく。

 こうして、全員の視線が集まる中で、新郎と新婦は永遠の愛の宣言をした。

 会場からは満場の拍手を貰い、リズウィとリーザは正式な夫婦となる。

 今日夫婦となったのは彼らを含めて三組。

 幸せがここから始まる・・・サガミノクニの人々はそんな雰囲気で満たされるのであった。

 

 


もっと一杯いろいろと書きたかったのですが、いろいろ制約があってこれで勘弁・・・あとは読み手の想像に委ねます。


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