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第十二話 新しい命


『ハル、倒れる・・・』


 夜中だと言うのに、その一報はサガミノクニ生活協同組合中を駆け巡った。

 それはアクトがパニックとなり大騒ぎしたからだ。

 一時は浴室で意識を失い倒れてしまったハルだが、その後に意識を取り戻している。

 それでも心配だと言う事で、寝室へと移されて安静にしていた。

 そして、ハルの容体を診断するヨウロウ博士とキリア。

 

「これは・・・ハルさん、おめでたですね」


 キリアのそんな結論に納得を示すのはハル本人だ。

 

「やっぱりね・・・最近、生理が来ないなぁ~と思っていたところよ」


 ハルには思い当たる節があったようだ。

 

「簡単な診断による結果だが、健康上に大きな問題は無さそうだ。今回、昏倒したのは妊娠による貧血が原因だろう。まぁ、あまり負荷のかかる仕事は避ける・・・十分な休養を取り日々安静にして暮らす。できる対処としてはそんなところだろう。大丈夫、妻のユウは助産師の資格も持つから安心して妊娠して欲しい」


 と、ヨウロウ博士からも付け加えられる。

 ヨウロウ博士の夫人ユウは産婦人科病院の職員だったので、助産は経験豊富だ。

 勿論、キリアも神聖魔術師としてこの世界で医療技術を持つエリート。

 万全の体制である。

 

「皆さん、お騒がせしました。アクトが騒ぎ過ぎるから・・・」

「だって・・・急に倒れれば焦るだろう、普通」


 アクトはそう言い訳する。

 

「そうだな。風呂場で今日に姉ちゃんが倒れた時は、さすがに俺も焦ったぜ」


 リズウィもそう追従し、大事に至らなかったのは本当に良かったと思う。

 

「ふたりとも、お騒がせしちゃったみたいね」

「ハルさん、アクト様・・・先を越されてしまいましたね。それでも、おめでとうございます」

「ありがとう、リーザ。まさか、私がこんな事になるなんて・・・いや、自覚もあったので、いつかはこうなると思っていたけど・・・」


 ハルはいつの時に授かったのかと考えてみる事にする。

 

(ボルトロールの時・・・いや、あの地は気の抜けない日々だったから、ほとんどしていないし・・・それじゃ、やはりこの屋敷でエクセリア国に来た直後ね・・・)


 エクセリア国でこの土地と母屋を購入して新婚生活を始めた頃、人目もあまり無かった状態なので調子に乗っていた自覚もある。

 アクトとは毎晩毎晩、愛を確かめ合ったものだ。

 

(私もリズウィとリーザの行動を非難できないわよね。男と女の関係は結局、こういうところに行きつくものなのよね~)


 心の中でちょっぴり反省してみる。

 

「ともかく。私、産むわ。これはアクトと私の愛の結晶だもの」

「それならば、しっかりと休養して頂戴。お店は私が代わりに見るわ」

「駄目よ。お母さんじゃ、魔法を解らないでしょ?」

「こんな時にこそ、親を頼りなさい。魔法が解らなきゃ、勉強すればいい。アナタにできたんでしょ。私にできない筈は無いわ。レヴィッタさんやローラさんに教えて貰うから」

「お母さん・・・ありがとう。でも頼るならば、リーザと隆二にしてくれる。もうすぐ私達の家族になるし」

「ええ?」


 ここで驚くのは母ユミコ以外の人物。

 当のリズウィとリーザの反応とは・・・

 

「おう、俺達に任せとけ! 魔道具じゃんじゃん売ってやるよ」

「そうですね。ハルさんの頼みとあれば、断れませんわ。トシオ博士、私の配属をしばらくエザキ魔道具製作所に切り替えてください。代わりはレヴィッタさんに就いて貰います」

「え、ええ・・・了解です」


 トシオはまだ衝撃を受けたままの様子でそんな返ししかできていない。

 彼はリーザがハルと家族になる事よりもハルが妊娠したことによるショックが大きいようだ。

 その心情が解るヨシコは軽くトシオを抓る。

 

「い、痛っ・・・何するんだ、ヨシコ!」

「はい、はい、トシ君。固まってないでハルに言う事あるでしょ。おめでたよ」

「そ、そうだった・・・部長、ご懐妊おめでとうございます!」


 頭を九十度下げて祝辞を贈るトシオの姿は固かったが、それでもその誠意は確かに伝わる。

 

「ありがとう。トシ君。そして、ヨシコ」

「ふたりだけじゃないよ。私からもおめでとう。ほら、ハヤトも!」

「あ、ああ!」


 アケミやハヤトも続いて祝辞を贈る。

 

「アケミ達もありがとう。それでもまだ気が早いわ。産まれるまで、まだまだ先よ」


 ハルはそう言って自分の胎を触る。

 その膨らみはまだ目立たず、外見からは彼女が妊婦しているとは解らない。


「とにかく、夜半に集まって貰ってお騒がせしたわね。もう解散にしましょう」


 ハルは自分のために集まってくれた人々に心配かけたとして解散を希望した。

 時間が夜半だった事もあり、また、ハルが倒れた原因は妊娠後の貧血などの症状と解ったので、ひとまず安心できた人々はその言葉に従い順々に解散する。

 そして、この部屋に残ったのはアクトとリーザ、リズウィ、トシオ、ヨシコ、ハヤト、アケミ、そして、母のユミコだけになった。

 

「ハル、本当に大丈夫か?」

「大丈夫よ。アクト、心配をかけたわね。それよりもリーザと隆二の件を進めなきゃ」

「ハルさん、私達の事は、それほど急ぎません。それよりも自分の事を優先しなさい」

「何を言っているのリーザ! 私はアナタと約束したわ。隆二と結婚するならば、ちゃんと後見人になってやるって」

「姉ちゃん。それは嬉しいが、今は自分の子供の事を考えた方が・・・」

「駄目よ、隆二。そんなことで誤魔化していては。アナタ達は今のような関係を続けるでしょ? そうすれば、遅かれ早かれ、私のように妊娠してしまうわ」

「に・・・妊娠」


 ゴクリと唾を飲み込む音がリーザから聞こえたような気がした。

 それは女性としての憧れか、それとも未知の領域に対する不安か・・・

 詳しい意図は解らなかったが、そんな反応を見せるリーザとリズウィに、母であるユミコの勘は鋭く働く。

 

「まったく、これはどういう事なのかしら?」

「お母さん、聞いて欲しいの。リーザとリズウィが結婚したいらしいのよ。認めてあげて」

「・・・本気なのね、リーザさん・・・それと隆二」

「ああ、本気だ。俺はリーザを妻として迎えたいんだ」

「リズウィ・・・」


 リズウィの手を取り幸せそうにしているリーザを目にして、彼らの判断は本気だとユミコも感じる。

 

「・・・解ったわ。いつかは、こんな事になるんじゃないかと予感はしていたから・・・」


 ユミコは半ば諦めてそう応える。

 

「それでも、確認しておきたいのだけど、隆二の父、私の夫のエザキ・タダオは廃人なの。家族にそんな人がいても平気なの、リーザさん?」

「・・・ええ、その事はリズウィから既に聞いています。私にも看護をさせてください」

「大丈夫、そこまで求めないわ。あの人の看病は私の仕事だから・・・」


 ユミコは夫のタダオの看病をリーザに押し付けるつもりは無かった。

 彼女がここで示したかったのは廃人が家族の中にいる事に対する了解だけであった。

 それさえ肯定してくれれば、彼女の中で隆二の結婚の条件は他に課さないつもりだ。

 

「ありがとう、リーザさん。隆二との結婚を決断してくれて。私も隆二の親として感謝を伝えるわ」

「それじぁ?」

「ええ。私も反対しない。隆二をよろしくね。リーザさん」

「は、はい!」


 リーザは思わず、リズウィに抱き着いた。

 それは幸せな女性の笑顔。

 時刻は深夜であったが、まるで春の昼間のように温かい雰囲気が室内に広がる。

 

「なんか、いいな・・・俺達も結婚しようか?」


 雰囲気に押されてハヤトがそんな事を呟いていしまう。

 

「えっ? ハヤト、今、何て?」

「い・・・いや、何でもないよ」


 聞き返したアケミに、誤魔化そうとするハヤトだが、一度口に出してしまえば、それが世間だ。

 ハルはここでニヤッて顔になった。

 

「はい、ハヤト君。プロポーズ完了。アケミもお幸せに~」

「ばっ、莫迦野郎!」

「あら、否定するの? アケミをいつまで待たせておく気? ひょっとして好きじゃないのかしら?」


 ハルはそんな事を述べてハヤトを煽る。

 

「嫌いな訳、ねぇーだろ!」

「じゃあ、結婚しちゃいなさいよ。ここは異世界、ふたりで助け合って暮らしていかなれば我々に未来は無いわ」

「・・・そうか・・・それじゃあ、結婚しちゃう?」


 ハヤトがこの場の雰囲気に流されてそんな事をアケミに伝える。

 アケミのその答えは勿論・・・

 

「いいわよ、ハヤト。告白としては六十点だけど、私もそんなハヤトが好きよ! ハルには先を越されてばかりだったけど、私達も幸せになろう!」


 幸せの連鎖はこうやって起きる。

 その後、トシオとヨシコのカップルも周りからの圧に押されて、結婚の約束へと発展したのは言うまでも無い・・・

 この地に飛ばされたサガミノクニの異世界人は、こうやって次の世代へとつながる婚姻を果たしていく事になる・・・

 


どんどん幸せが広がるところで第十一章は終わりです。登場人物は既に更新しました。

次の章からは新たな展開が待っていますのでお楽しみに。


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