第十話 過去の物語
その日の午後、リーザは近くのエクリセン王都警備隊の詰所へ赴き、簡単な調書に応じた。
その時に対応してくれたのがローリアンであったので、大幅に便宜を図られて恐ろしく簡素な手続きで済まされたが、それでも主張すべきものは主張し、リーザの満足できるものになった。
加害者側の調書はこれからとなるが、こちらの世界には真偽の魔法を初めとした嘘を見抜く技術はサガミノクニよりも発展している。
ここまで状況証拠が揃っているので、この先はリーザやハルが不満を抱くような結末にならないだろう。
そして、リーザはサガミノクニの母屋に戻ってくる。
もう不満は無かったが、リーザが少し残念に思ったのは、本当は今日この時間、リズウィと楽しいデートをしている筈であった。
それが台無しになってしまった事を残念に思うが、それでもこれから母屋でリズウィとは会える。
それだけでもリーザは楽しみだったりする。
そして、母屋の前ではリーザの期待どおり帰りを待つリズウィの姿が見えた・・・
「よう、終わったか?」
「ええ、まったく手間ばかり掛かったわ。替えのブラウスも取りに戻ったりもしたので・・・」
「本当に、俺らの同族の碌でも無しが迷惑を掛けちまった。すまねえ~」
「この件でリズウィが謝る必要は無いわ。謝って貰うのはこの組織の組合長のハルさんの役目でしたから、それにリズウィはまた私を助けてくれた。感謝はあっても、逆の感情は無いわ」
「そう言ってくれると嬉しいぜ。俺もリーザが犯されそうになって、頭にきていた。チョットばかり殴り過ぎたかも知れねぇ~」
「そんなことないわ。あんな奴ら、死んでもいいぐらいの屑よ」
現在のリーザは本当の気持ちで話している。
ハルのいない状態のこれが彼女の本音だ。
そんな感じでストレスなく話している自分を自ら感じ、ハッとなる。
(今の私はリズウィの前で本音の話をしている・・・コレだったんだわ)
ハルが「女の子は話を聞いて貰いたいのよ」と言っていた意味をリーザは理解できた。
現在のリーザは真の意味でスカッとした。
そう思えば、リズウィに対する信頼度が上がった。
もう、彼には何を話してもいい気になる。
何の話をしたとしても受け入れて貰えるような気になった。
彼の事を恋人としてよりも、もっと長い人生のパートナーとして共に歩みたいと思った。
「どうした、リーザ? 顔が赤いぞ。疲れたのか?」
「違うわよ。馬車の中が熱かったのよ」
そう言って誤魔化してしまう。
真実の愛を互いに語るにはまだ時刻は早い。
少なくとも陽光の日がある昼間からこんな話題をするには恥ずかし過ぎた。
「とりあえず、休憩にしようぜ。今日は災難ばかりだったから母屋で休んでいい。姉ちゃん達がお茶を準備している」
リズウィはそう述べて、リーザを母屋のリビングへ案内した。
どちらかと言うと母屋のリビングはここに住んでいるサガミノクニ人の公的共有スペースと化していたが、今日だけはリーザのために貸し切りになっている。
それはハルの計らいであり、今はあまり多くの人とリーザが接しないようにしている。
それは性的暴行――未遂だが――を受けた女性に対する配慮であったりする。
リビングに併設されたキッチンでハルが給仕しており、同性の話し相手としてやレヴィッタやアリスもここに呼ばれていた。
リーザが戻ってきたのを知ったレヴィッタとアリスはリーザとリズウィを席に招き、遅めの昼食を摂る事を勧めた。
彼女達は同じ時期にボルトロール軍の虜囚となっていたので、ある意味結束力が高い。
そして、ハルは給仕に徹し、彼女達の会話にはあまり入ってこない。
それは自分の事を苦手に思っているリーザへの配慮なのか、それともまだリズウィと付き合う事を反対しての行動なのかはリーザには解らなかった。
「・・・ホンマに今回は焦ったでぇ。サガミノクニの人の中にも悪い人が潜んでいたなんて・・・もし、私が襲われていたら助からへんかったかも知らんなぁ」
方言丸出し状態のレヴィッタとは完全にリラックスしている証拠だ。
翻訳魔法が働いていても彼女のイントネーションが独特な会話のテンポはリズウィを愉快にさせてくれた。
「本当に今回もまたリズウィさんに助けられましたね。リーザさん、やはりアナタ達には運命的な何かがあるのかも知れません」
「そ、そうかしら? あんな奴ら、リズウィの手を煩わせなくても私だけでなんとかなったかもよ。少なくともボルトロール兵よりは軟弱な感じだったし」
リーザは強がるが、それでリズウィが少し悲しそうな顔になってしまい、慌てて否定した。
「あ、でも、リズウィが助けてくれて、被害が最小限で済んだわ。破かれたのはブラウスだけだったし・・・」
「本当にすまねえ。今度いいやつをプレゼントする。姉ちゃんが言うにはエルフ達が品質の良い生地を持っているんだって、ローラさんと交渉して最高級の服を買ってやるさ」
「ありがとう。リズウィ、嬉しいわ。楽しみにしているわ」
リーザも素直にリズウィの好意に甘える事にした。
そんな彼女の姿は年頃の乙女であり、アリスやレヴィッタにも微笑ましく映る。
「エリちゃんも、そんな顔ができるのねー」
「レヴィッタ先輩もふざけるのをやめてください。フフ」
リーザも緩やかに笑って返すのが微笑ましい。
リズウィもリーザを無事に救えて良かったと思う。
ここで、リズウィは姉とリーザの会話を思い出す。
「リーザ、ちょっと教えてくれねーか?」
「えっ、何?」
「リーザは前にアクトさんの事が好きだったのか?」
「え・・・ええ」
リーザは微妙に視線を逸らす。
前の男――それは片想いに終わったが――の話など現在の男の前でするものでない。
普通ならば、そんな心理だ。
「教えて欲しいんだ。姉ちゃんの学校の話、そして、アクトさんの事も・・・」
リズウィがここで求めたのはリーザの視点から見たハルの学園生活の情報だった。
以前にハルから同じ話を聞いていたが、すべてを話して貰っていないと認識していた。
それは彼女が白魔女としての秘密を隠していたからである。
「勿論、一番知りたいのはリーザのことだ。学校からここまでの物語も知りたいんだ」
昔の男の話を問いかけられてギョッとしてしまうリーザ。
そんな様子を察したリズウィから一応そんなフォローをしてくるが・・・
どうしようか迷うリーザ・・・周囲を見渡すと給仕に徹していた筈のハルは知らぬ間に居なくなっていた。
(職場に戻ったのかしら? でも、居ないならば・・・)
リーザはどこから話を始めるか少々考えた後に、ゆっくりと当時の様子を振り返り話しを始める。
「そうね。ハルが頭角を現したのはアストロで四年生の初めの頃ね・・・それまでのあの娘は、本当に目立たない娘だったわ。今、思えば、敢えて目立たないようにしていたのかも知れないわね・・・」
そんなリーザの語りを興味深く三人が聞く。
こうして、リーザの過去の話はアストロの四年生のところから始まった。
自分が学年筆頭に選出されて、ラフレスタ高等騎士学校との合同授業の試みが始まる噂を聞きつけ、そこで相手校にアクト・ブレッタが存在する事を語る。
ブレッタ家とはエクセリア帝国でも有名な英雄系譜の家系であり、まだ汚れを知らない当時のエリザベスはこの情報に心踊ったものだ。
そんな描写に多少面白くないリズウィを察したリーザはこの話題を早めに切り上げて、当時のハルに焦点を合わせて過去の話を進めていく。
当時のハルは他人を寄せ付けず、孤独に魔法技術を探求する研究者だった。
グリーナ学長には評価されて、独自の魔法研究室を持ち、昼夜問わず己の研究に没頭する。
年頃の女子には似合わず、研究の虫であり、周囲の学生と全く交流しない女学生。
まったく以て近寄り難い存在であった。
今、思えば、ハルはこの時既に彼女の魔道具技術の真骨頂である『精密魔法陣』の基礎理論を確立していたのかも知れない。
ラフレスタの街にはその精密魔法陣を用いて造られた『懐中時計』が出回り始めていた。
噂で『懐中時計』はアストロ魔法女学院研究組合の成果だと言われていたが、どうやらそれはエリオス商会ライオネル会長とアストロ魔法女学院グリーナ学長の画策した情報操作だったのだろう。
そして、時を同じくしてラフレスタの街には夜な夜な白魔女なる謎の魔女と『月光の狼』と呼ばれる義賊団が出没していた。
これも今、思うとハルとライオネル・エリオス、懐中時計の販売で得られた資金を元に活動を活性化できたとすれば、話が合う。
「へー、姉ちゃんが白魔女だって事はこっちの研究所では割と公然の秘密だけど、エストリア帝国やエクセリア国では完全に秘密にしているのかぁ~」
「リスヴィ、当たり前よ。あれほど派手な活躍をしたのだから、ラフレスタでは英雄的存在の超有名人よ。それにハルさんは異世界人。目立つ事を嫌っている・・・ある意味でそれは正しいですわ。帝国の上層部貴族にはそんな力を利用したい人なんてごまんと居るのですから」
リーザはそんな事を述べるが、その最も急先鋒に当たる者が自分の父親だと思っている。
魔法貴族派閥の重鎮・・・そんな父に膨大な魔力を持つ白魔女と言う存在は女神に等しい。
その力を自分の味方にできたのであれば、計り知れない利益が得られる。
今のライオネル・エリオスのように帝皇と渡り合って独立国家を樹立する事も可能だろう。
そして、リーザの話題は合同授業でアクトとハルが接近する事に移る。
「人工精霊討伐の授業を一日で終わらせてしまったあのふたりは私達とは別授業になり、共同研究を進める事になりましたわ。今、思えば、あれが運命の別れ道・・・ハルとアクト様を深く結びつけて、私と決定的な差をつけられてしまう事につがってしまいました」
淡々とそう述べるリーザは当時ほどの執着をアクトに見せていないようであった。
それは彼女の中でこの恋心はある程度吹っ切れたからである。
そんな調子で淡々と話し、彼女の話題は白魔女との対決に移る。
「あの時の私は完全に調子に乗っていたのです。自分の力を過信し、白魔女をただの魔道具で強化した一介の魔術師だと舐めていたものですわ・・・」
当時の様子を振り返るリーザは白魔女からの手痛い仕返しを受け、彼女自慢の高価な改造ローブと長い髪を失った事を伝えた。
「姉ちゃんって、酷でぇ事やりやがる。髪は女の命だぜぇ!」
そんな仕打ちに不快感を露わにするリズウィだが、リーザはそれを制した。
「いいのです。あれは本当に私が調子に乗っていた事が主原因でしたから。あの時のハルさんは私の命を奪おうと思えばできました。それが、あの時の私とハルさんの関係です」
自分が悪かったと言うリーザに、少しは落ち着きを取り戻すリズウィ。
リーザがそう思っているのならば、リズウィの姉に対する怒りも少しは抑えられた。
そして、彼女の語りはしばらくの失意の後に学業復帰した事に移る。
それは合同授業で郊外活動になった時であった。
そうすると、アクトとハルの仲は完全にでき上がっており、もう自分の入る隙が無いまでに育っていた。
それでもまだ自分の負けを認められない若きの日のリーザ。
アクトに何度かアプローチしてみるも悉く成功しない。
リーザの中で諦めかけたアクトの事だったが、この時の郊外授業でまた事件が起きる。
フェルメニカと呼ばれる悪の魔術師に囚われてしまったのだ。
そのままだと人材実験の材料にされるところであったが、ここはアクト・ブレッタの機転によって救われる。
後で知ったが、そこにもハルが白魔女として介入していた。
それでも、この時のアクトはまだ白魔女の正体がハルである事を知らなかったようだ。
リーザは密かに落ち込む、それまで自分は魔術師としてかなり上位の存在だと思っていた。
しかし、悉く敵に敗れて敗北の連続・・・そんな彼女の前に颯爽と現れたのが、稀代の第三皇子ジュリオ・ファデリン・エストリアの存在。
彼はラフレスタに有望な学生達がいると噂に聞き、将来の配下を得るため、ラフレスタ高等騎士学校へ転入してきたのだ。
当時のリーザはあまり関係の進まないアクトを諦めてジュリオへ興味を抱く。
「お前、愚かな女だな。そうやってコロコロと狙う相手を替えやがって」
そんな尻軽のリーザを遠慮もせずに揶揄するリズウィ。
それはリズウィの中で多少に嫉妬の気持ちもあるからだ。
「煩いですわね。あの頃の私は若かったのですわ! それが間違いだったと後ほど後悔していますから」
リーザもそう応えて、あっさりと自分が愚かだったと認められるのは、いろいろと経験した彼女だからだ。
そして、後ほど問題となる獅子の尾傭兵団がラフレスタにやって来る。
ここでこの存在に眉を顰めるのはアリスだ。
「あの憎っくき、獅子の尾傭兵団め! ここでラフレスタに食指を伸ばしていたのですね!」
アリスが口を挟んだのはここがまだエストリア帝国クリステ領と呼ばれていた当時、この地の秩序破壊させたのがこの『獅子の尾傭兵団』だからである。
後ほどの調査でそれがボルトロール王国からの差し金だと解る。
「あの頃のボルトロール王国は東と南、北の作戦がほぼ完了し、次は西だと国内で囁かれていた時期だったからな」
リズウィは勇者と言う立場からそんな戦略的な情報を得ていたが、それを口にしてアリスに睨まれてしまう。
これには頭を掻いて誤魔化すしかないリズウィだった。
そんな国の悪意溢れる中でリーザの話は進んでいく。
ある日、彼女は傭兵団の魔女に襲われて、攫われてしまう。
そこで、忌々しい魔法薬『美女の流血』を飲まされて敵に洗脳されてしまった。
「その魔法薬を飲ませたのが、イドアルカ独立部隊に所属していたカーサって奴か?」
リーザの話を聞き、犯行相手の名前を確認するリズウィ。
怒りを露わにしていた。
「ええそうよ。でも、最終的に彼女は非業の死を遂げた」
「・・・そうか、そして、そのイドアルカって組織も今は存在しない。解体されたよ」
「えっ?」
まだボルトロール国の内部でその秘密組織が活動していると思っていたリーザは意外な事実を聞かされ、そんな反応をしてしまう。
「姉ちゃんとアクトさんがぶっ潰したようなもの・・・まっ、俺もそれに少し関わっちゃいるがぁ・・・まぁいい、その話はまた今度で教えやる」
リーザが興味を示したので、リズウィはそんな結論だけを述べて話題を逸らす。
今はリーザからの話を聞くのが先だと思ったからである。
リーザもその求めに応じて、自らの話を続ける事にした。
「その魔法薬で心を支配された私ともうひとりは敵の言いなりになってしまったわ。敵の配下の一員となり、多くの帝国民を傷付けた。それにジュリオ皇子の夜の相手もされられて・・・」
苦しくそう暴露するリーザ。
自分の意思とは関係のない夜伽の相手・・・それは彼女の中でもなかなか心の整理がつかないトラウマとなっていた。
もし、リズウィと関係を持たなければ、決して他人には暴露できなかった事実。
今ではリズウィとの関係がある意味自信につながり、他人に話す事もできている。
しかし、その話題は昼下がりの時刻には過激すぎる話題。
「エリちゃん・・・」
レヴィッタもリーザの事を心配してそんな声を掛ける。
「ありがとう。レヴィッタ先輩。でも私はもう大丈夫です。リズウィがここにいるから・・・これは過去の私にあった事実、リズウィにも聞いて貰いたかった話でもありますわ」
それを口に出してみると不思議と勇気が沸いてくる。
女にとって明らかにマイナスの情報なのだが、リズウィが傍に居てくれるならば心が強くなった。
マイナスも含めて、今の自分の真の価値を見て欲しいと思った。
「リーザ・・・」
案の定、リズウィはテーブルの下でリーザの手をぎゅっと握ってくれた。
「ありがとう、リズウィ。でも、もう大丈夫よ。これは愚かだった私への高い授業料だと思う事にしているわ」
「そんな・・・リーザは何も悪くないのに・・・」
リズウィは怒っている。
しかし、その怒りは相手に対してであり、リーザには向かっていない。
リーザの女としての価値が下がったなんて微塵も思わないリズウィ。
リズウィのそんなところが益々と好きになるリーザ。
そんなふたりのやり取りを見せつけられてレヴィッタとアリスは軽く咳払いした。
「・・・すまねえ。リーザ、先を聞かせてくれ」
リズウィは照れてそんな応対をして、リーザもそれに従う。
「それからは・・・」
死闘の末に白魔女とアクトを初めとした解放同盟に自分達は敗れてしまった事。
その後、獅子の傭兵団の団長ヴィシュミネと副団長カーサは悪鬼に変貌してしまった事――これは当時のリーザが気絶していたため、後から聞かされた情報でもある。
その悪鬼を白魔女のハルとアクトが倒し、ラフレスタの乱は平定される。
「ヴィシュミネって奴は悪鬼になったのか・・・確か魔剣ベルリーヌを使っていたって言っていたよな」
「ええ、そう言っていたわ」
「なるほど・・・俺も魔剣『ベルリーヌⅡ』を持っていた・・・そして、俺も悪鬼になりかけた」
「え?」
驚く一行。
しかし、何でもないとリズウィは首を振る。
「たいした話じゃないさ。それに俺はこのとおり無事・・・まぁ、姉ちゃんとアクトさんに助けられたようなものだ」
その話も後ですると促し、自分がリーザの話の腰を折った事を詫びるリズウィ。
リズウィ側の話も興味深いと思うリーザであったが、それでも求められていた自分の話を続ける。
「その後、私は罪人として収監されて、そして、治療を受けたわ・・・」
そこからの話が辛かった。
これまでの生活とは百八十度異なり、罪人として扱われて哀れな日々を過ごす。
そして、薬の副作用と戦いながら、徐々に回復していくリーザ。
「悪い話ばかりじゃないわ。この通り、無詠唱で火炎魔法を操る事もできたからね」
リーザはあっけらかんとそう応えるが、一行は彼女の課せられた苦労の日々に共感させられた。
彼女で最も辛い話は、家族に捨てられてケルト領に軟禁され、そこで強引に結婚させられそうになった事だ。
「俺がその変態野郎をぶち殺してやるっ!」
興奮するリズウィ。
ここで、夕食の時間となってしまったので話は一旦お開きになった。
思いのほか長い話をしていたため、一行は時間経過を忘れてしまったようだ。
夕食は母屋で摂り、特別にハルとススムが母屋のキッチンまでやって来てここで調理をしてくれた。
ここでもハルは調理と給仕に専念し、一言も会話に入って来なかったのはリーザに気を使ったからである。
そして、食後のお茶と共に会話は再開される。
もう、リーザをケアすると言う領域から通り越した話題となっていたが、それでも一同はこの先のリーザの身の上話がもっと知りたかった。
特にリズウィは彼女の事を知る事が自分の役目だと思っていた。
その後のリーザの物語はエクセリア国まで来た話、そして、ボルトロール軍との戦闘。
そこで話は終わる。
「ねぇ、次はリズウィの話をしてよ? 私だけ暴露させるのは狡いわ」
「えっ? 俺の話か・・・俺のはあまり面白くないぜ。チョット血生臭い話ばかりだ」
そう応えるもリズウィは求められるままに自分の話をした。
過去の転移事故よりも前のサガミノクニの頃から話を初めたので、結構長い話になってしまったが、それでも一同は調味深く聞いてくれていた。
「そう・・・アンナさんて、あの時の彼女よね? リズウィ、泣かないで・・・今のアナタには私がいるじゃない」
過去のアンナとの別れ話をして感極まって涙を見せてしまうリズウィ。
「そ、そうだな・・・俺とした事が情けないところを見せちまった。悪り~ぃ」
リズウィはその事を話してしまった自分に今更に驚いていた。
しかし、その話しておかないとリーザに対して不義理だと思ったからだ。
こうして夜はふけて行く・・・もう就寝の時間になり、寝所の準備ができたと告げられる一行。
夜半まで続いていた会話はこれで完全に開きとなり、今晩はアリスも泊っていく事になった。
リーザに宛がわれた寝所までリズウィだけが同伴し、戸口の前で立ち止まる。
「ど、どうした。リーザ」
「・・・一緒に寝て・・・今日はひとりで寝られる気がしないわ」
そう言いリズウィの手を引く。
いつも強がるように見せていた彼女は、今晩は俄かに震えていた。
現在のリーザは暗闇の人生に怯えるうら若き乙女のようにリズウィの目に映る。
そんな彼女の求めに抗えるリズウィでは無かった。
「・・・解った」
リズウィは観念してリーザの肩を抱き、一瞬周囲を気にして、そして、宛がわれた寝所へと素早く潜り込むのであった。