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第一話 先進魔法技術研究所の発明品

 ハルはエクセリア国魔術師協会の担当代表であるアリス、リーザを引き連れて、サガミノクニ生活協同組合の内部を案内する。

 彼女達を最初に案内した場所はエクセリア先進魔法技術研究所。

 この生活協同組合の技術母体となる組織である。

 母屋から徒歩で三分ほど離れた場所に建つ研究所施設はまだできたばかりの真新しい石壁造りの三階建ての建物。

 これは白魔女ハルとアクトが仮面の力を用いて全力で建設したもので、こちらの世界では見た事の無いコンクリート外装の建物となっている。

 出入口の扉は硬質のガラス材であり、壁に設置された機械にカード状の身分証をかざすとガラス扉が左右にスライドして開く。

 

「あら? セキュリティーはアストロの魔法研究所を真似ているの?」


 カード型の身分証の掲示を見て、リーザがそんな感想を漏らす。

 

「細かく言うと少し違うけど、エリザベスがそう思うのだったら、そう思って結構よ。ハードウェアによるセキュリティーシステムなんてどこの世界でも似たようなものだから」

「ふん! 時々、ハルさんて私達を見下すところがありますわよね?」


 不満を述べるリーザだが、横を歩くアリスから突つかれる。

 

「駄目ですよ。リーザさん、仕事に私情を挟んでは!」

「うっ・・・それはハルの態度悪いからいけないのよ」

「私、そんなに態度悪かったかしら、気分を害したのならば、謝るけれど・・・」

「いいえ、大丈夫です。リーザさんはハルさんに対抗意識があるのでしょう。この程度の事は気にしなくていいです」


 アリスから図星を述べられて、リーザは顔を真っ赤にする。

 確かにアリスが言うように、ハルに対して少し厳しく当たっているとリーザは自覚した。

 そんなリーザの心の動きが心の透視で解るハルは気にしないように努め、一行を研究所内へ案内する。

 研究所内部は整然とした無機質な造りであり、現代に例えるとオフィスビルに等しい内装だ。

 

コン、コン


「入るわよ」


 研究所内部を進み、中央執務室の扉を開くと、そこには書類の山と格闘している研究所職員達の姿があり、その中にトシオを発見した。

 

「やあ」


 やや寝不足気味の線の細い男はハル達の来訪に気付くと軽く挨拶を返してくる。

 

「彼がサイトウ・トシオ博士。ここの研究施設の所長よ」


 ハルが先進魔法技術研究所の所長を紹介すると、アリスとリーザは怪訝な反応をする。

 

「魔法の先端技術の所長としては・・・若いわね」


 リーザは真っ先に思い浮かんだ疑問を口にする。

 

「そうね。確かに若いわ。私と同じ年だからエリザベスやアリスさんとも同じ年齢になるわね・・・それでも彼を侮ってはいけないわよ。トシ君は魔法の真理を理解している。彼の視力(・・)は魔法の根底部分を完全に観る事ができる。彼は魔術を使えないけど、その(ことわり)は完全に理解している。こちらの世界で例えると・・・そうねぇ・・・魔法陣学に精通する学者だと思えばいいのかしら? どちらかと言うとトシ君は学者肌だからねぇ」


 ハルはトシオの特徴をまとめてそのように紹介する。

 それに呼応してか、トシオのブルーに染まった瞳がリーザ達を見据えた。

 その視線に正直リーザはゾッとしたものを感じる。

 このときのトシオの視線には魔力が籠っており、彼女達の魔術師としての力量を見極めていたのだが、そんな魔力の籠った視線をリーザは直感的に『何かある』と感じていた。

 それはリーザも魔術師として一流の感覚を持つ事に由来する。

 

「ひっ!」


 まるで自分の裸でも見られてしまったような気になるリーザ。

 思わずそんな呻き声を挙げてしまった。

 

「どうした、リーザ? トシオさんが怖いのか? 確かにトシオさんはハル姉ちゃんとは同級生だし、姉ちゃん一派のようなものだからなぁ~」

「えっ? この人物はハルと同級生なのですか?」 


 そんなリーザの問いに律儀に応えてくるのが真面目なトシオだ。


「部長とは中学生・・・こちらの世界では中等学校と言うべきですね・・・同じ中等学校に在籍して、同じ科学クラブに所属していたましたから」


 トシオとしてはここで自分とハルは親密な関係であると暗にアピールする事も含んでいたのだろう。

 それはこのサガミノクニ生活協同組合で自分が幹部の近い人物であると示すよりも、単純にこちらの世界人々に自分とハルは近い存在だとアピールしたい欲求があったりする。

 

「なるほど、ハルの同級生で、カガク(?)クラブと言う趣向のグループに所属していた人物が、それがここの研究所の所長ですか・・・興味深いですわね。ハルの弱みを握れるかも知れません。フフフ」

「訳解らない事企んでいるのかしら? エリザベス」


 ハルは話が余計な方向に脱線したのを指摘する。

 

「隆二も余計な事を言わないでね。エリザベスは元々エストリア帝国の大貴族出身なので、私の素性をいろいろと知られれば厄介になるんだから」

「ハル、私を見くびらないでください。私もアナタと同じ魔法学院で学んでいた身です。私にも魔術師の矜持というものを持ちますわ」


 魔術師とは技術の塊であり、秘術に値するものは親兄弟であってもその技術は漏らしてはならないとの倫理感もある。

 ここでリーザはそれを強調したかった訳だが、それを違う角度で反応したのはトシオである。


「えっ!? 君は部長と同じ学校に通っていたのか?」


 トシオの目が再び見開かれる。

 しかし、それはリーザの魔力を測る眼ではない。

 彼女が一緒に過ごしたと述べるハルの学園生活に興味が沸いたためだ。

 

「ハイハイ、それこそ話題が逸れているわよ。エリザベスは確かにアストロ魔法女学院の出身者よ。私と同級生だったわ・・・だから魔法技術も一級品。この世界でトップクラスに入る魔術師、トシ君達の研究を遂行するのに大きな戦力となる筈だから期待しておいて」


 ハルはトシオ達研究員達にリーザが実力のある魔術師だと伝える。

 

「ハルさん・・・あのね。このエクセリアで私はリーザと名乗っているのよ。本名を出すと厄介ごとに巻き込まれるから止めて欲しいですわ」


 リーザがここで主張したかったのは自分の本名を隠している事、それは前回のガタハルトのような輩が現れて、自分を含め周囲に迷惑がかかる事を危惧していた。


「解った、解った。リーザね。アナタ達、リーザよ!」


 ハルはリーザが名前を変えている事情は理解できたので、周囲にもそれを通すように伝える。


「今更じゃねーか!」


 愚痴るリズウィだが、この意見はハルによって無視されて、話題を元に戻された。


「逆に、トシ君達は魔法を論理的に捉える事はできても魔法を扱う事はできないの。だからここで実際に魔法を施術するのはリーザ達に丸投げになると思うわ」

「・・・丸投げなんて・・・間抜けな魔法研究者達ね」


 リーザは魔法の使えない技術者を莫迦にする。

 しかし、ハルは首を振った。

 

「違うわ。彼らの本当の強みは科学技術(・・・・)論理的思考(・・・・・)。ここでの魔法はあくまで事象を改変するためのツールのひとつ。この凄さを理解して貰うには言葉では難しいわねぇ・・・トシ君、開発中のアレを見せてあげて」


 ハルの指示に頷いたトシオは壁際に張り付けた大きな設計図を見せる。

 それは魔法陣の設計図であり、紙にはいろいろと書き込まれていることから検討段階である事がリーザ達にも解る。

 リーザもアストロの優等生なので魔法陣の基本理論は理解している。

 そんな彼女が見ても、独創的な構成の魔法陣だが、正常に起動できる魔法陣だと解った。

 

「確かに、これは魔法陣として成立していますわね・・・でも独創的で、効率は悪そうですわ」


 魔法陣の構成を見てそんな感想を述べるリーザ。

 

「これは現在開発中の『人工頭脳』と呼ばれる機能を実現するための魔法陣よ。こちらの世界で馴染は無いけど、我々の世界では『コンピュータ』とか『演算装置』とか呼ばれるもの」


 ハルは先にこの魔法陣の目的について述べる。

 トシオ達の開発しているのはコンピュータ・・・特に中央演算装置(CPU)と呼ばれる装置を魔法技術で代替するものであったが、この世界にはまだ早い概念であり、説明が難しい。

 

「大きな魔法陣ね。それと、ところどころの効率が悪そうですわ。特にココとココなんかは周りくどい記述を採用しているけど、結果的に単純な動作しかできない。何がやりたいか理解に苦しみますわ」


 リーザからそんな感想が出る。

 アリスもリーザほど学識豊富では無かったが、同じ評価をしていた。

 

「そうね。確かにストレートな機能を求めるならば、この魔法陣は非効率である事を認めるわ。この魔法陣は汎用的な用途を目標としているの」

「汎用的?」


 ハルの言おうとしている事の意味が益々解らないリーザ。

 そんなハルとトシオは互いに顔を見合わせてニッと笑みを零す。

 

「この魔法陣の最大の特徴はここに記憶領域と呼ばれる部分があって、そこをいろいろと替える事で様々な機能を持たせる事ができるのよ」

「まったく意味が解りませんわ」


 理解できないリーザ。

 しかし、ここでこの魔法陣に理解を示したのは意外な人物からである。

 

「なるほど。姉ちゃん達は本当にコンピュータを作っているんだな。ソフトウェアを替える事でいろんな事ができると言いたいんだろ?」


 リズウィはトシオのグループが開発している技術を正確に言い当てた。

 現在社会に住んでいれば、コンピュータとは当たり前のツールであり、その有用性について改めて説明する必要もない。

 リズウィの学識レベルは低いが、それでもコンピュータぐらいは解る。

 それが現代人のスキルであった。

 これに眼を見開いて一番驚いているのはリーザである。

 

「・・・なんだよ。その眼は? お前、今まで俺の事を莫迦な奴だと思っていただろう!?」

「そ、そんなことないわ。リズウィはなんて頭良いのでしょうと感心していたところよ。だって、私達の解らない技術を理解しているんだもの。リズウィが良い物というんだから、きっとこの発明は良い物なんでしょうね。いいわ、私はリズウィを信頼しているから!」


 リズウィの意見に呼応して、リーザは先進魔法技術研究所の実力を高く評価する事にしたようだ。

 まったく視野狭窄に陥っているリーザであった。

 自分の恋心に捉われた彼女に諸手を挙げてしまいたくなるハルやアリス達であったが、ここで行われている研究が歴史的な発明の価値があるものと彼女達が実感するのは、少々時間が経過してからになる・・・

 

 

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