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第九話 リズウィとの再会


「いいですか、リーザさん。公私混同は駄目ですからね」


 現在、ハル達の住む旧ファインダー伯爵邸跡地へと移動している馬車の中でアリスから厳しく釘を刺されているのはリーザ。

 

「解っていますわ。私としてもエストリア帝国の名門貴族ケルト家の長女でしたから、国家の矜持というものは解っています。下らぬ私情で判断を誤るつもりはありません」


 莫迦にするなと反論するリーザ。

 彼女も今回の仕事はエクセリア国の上層部からの依頼であるのは解っていた。

 サガミノクニという民族の有益性と有害性について自分達が内偵となり判断する事が目的である。

 そこに私情を挟むつもりは無い。

 

「今日こそリズウィという男にガツンと言ってやりますわ! どうして私を騙したのかってね!」


 リーザはリズウィが変化(へんげ)の魔法をつかって自分に接近した事に少々腹を立てている。

 男ならばそんな姑息な手段などを使わずとも清々堂々と自分の前に現れろ、と言ってやりたい。

 そんな負けん気の強さを発揮したリーザはアリス、レヴィッタ経由で魔術師協会から要請された依頼に応えるためサガミノクニの人々の元を訪問する。







「解ったわ。まずはこちらの要請に応じて貰ったとして、感謝の意を伝えるわ」


 母屋のリビングで冷静にそう対応するのはハル。

 現在はサガミノクニ生活協同組合の長としての立場で彼女らと面会している。

 ハルの後ろではアークがリビングに併設された厨房の中で訪問した女性魔術師達をもてなす為にお茶を淹れていた。

 その姿に大いに恐縮するリーザであったが、この家ではこれが通常なのだろう、誰も驚いていない。

 リーザは目で「アクト様はエストリア帝国の名門貴族の嫡男なのよ」とハルに語っていたが、それは巧みに無視された。

 

「こちらからの要請は、エクセリア先進魔法技術研究所に二十五名、エクセリア魔道具重工業に二十五名、合計五十名ほど魔道具製作に精通した魔術師を雇いたいわ。雇金としては月当たり三十万クロルを最低賃金として、成果によってはこれに加算します。悪い条件ではないと思うけど・・・」


 ハルはそう述べて人員募集の要綱が書かれた資料を訪問したリーザ達に示す。

 その書類に改めて目を通したリーザから意見が出される。

 

「秘守契約はこれでいいの。甘くない?」


 リーザは秘守契約の項を指摘する。

 そこに書かれていた内容はエストリア帝国の常識から考えてもかなり甘い。

 しかし、ハルは首を横に振った。

 

「私達としてはそれがごく普通の範囲よ。こちらで書物として仕立てた資料を外に持ち出すのは禁止としているけど、頭の中に入れた事ならば、それを口外しても構わない。盗めるものだったら盗んでみろってのが私達の世界でそれが常識だったと思うし。我々だけで新しい技術を独占するつもりはない。新しい技術が市場に出回れば、それはそれで市場が活性化するわ・・・」

「お人好しもいいところね」

「技術とはそういうものよ。市場で自由に旅をさせれば、成長して自分のところにも戻ってくるものよ。そして、それは新たな技術へと育つわ。競争は商売の内容ですればいいの」


 ハルは市場の自由競争の原理を唱えるが、ここでリーザ達には上手く伝わらなかった。

 

「ま、ハルさん達がそれでいいというならば、私達に異論はありませんわ。その方が人を集め易いですし、正直、巷の魔道具師達はサガミノクニの人々の技術に興味があるようです」


 リーザが言うように魔道具師の業界ではサガミノクニ人々の存在は噂として既に囁かれている。

 先の戦争で最新兵器をボルトロール軍に提供したのがこのサガミノクニ人の運営していた研究施設からであるという事実はボルトロール王国の商人より噂として伝わっていたからだ。

 彼らとしてもサガミノクニの技術を盗めないかと気になっている様子だし、先に独立したフーガ魔導商会に採用された魔道具師も幾人かいるようである。

 

「一般人に加えて、私達も職場環境を監督(・・・・・・・)する意味も含めて採用して貰う事が条件ですけど・・・」

「それについてはレヴィッタ先輩より聞いているわ。職場環境だけじゃなく、私達を監視(・・)する事が主目的でしょ?」


 その言葉にギョッとなるリーザ達、ハルがいきなり話の核心を突いてきたからだ。

 リーザの厳しい視線はこの事を事前に漏らしたと思われるレヴィッタの方へと向かう。

 

「わ、私は・・・でも、ハルちゃんに嘘は通じないし・・・それ以前に私も人を騙すのは良くないかなーって、ね。アハハ・・・」


 笑って誤魔化すレヴィッタ。

 

「まったく、レヴィッタ先輩こそ、身内には甘いんですから」


 諸手を挙げるのはリーザである。

 しかし、リーザもハルが人の心を読める事を解っている。

 それは公には語られていないが、リーザが魔法薬で支配され獅子の尾傭兵団の支配下にあった時にその秘密は告げられていたし、白魔女の彼女と対峙した時に心を読むその能力をまじまじと見せつけられていた。

 魔法的に心の強化をすれば、心の読みをある程度防げるが、それができるのは一握りの魔術師だけだろうと思う。

 結局、遅かれ早かれ、自分達の企みはハル側には漏れてしまうものだと結論へ至る。

 その事が現在進行形でハルに心を読まれたのか、ハルがニャッと口角を上げる。

 

「大丈夫よ。私達は何もやましい事はしないわ。兵器の開発は禁止にしているし、開発対象物はそれ以外の人の世の役に立つものに限定している」


 ハルはそう述べて、遠慮なく内偵してくれと両手を広げてアピールする。

 そんな彼女の余裕を示す態度がウザく思うリーザ。

 

「大した余裕ですわね。私が隅から隅まで監査してあげるわ」

「お手柔らかにお願いしますね、エリザベスさん」

「フフフフ」

「オホホホ」


 互いに表面的には笑っているが、そこに友好的な雰囲気はなかった。

 会話に入っていなかったアリスとレヴィッタが軽くビビったのは余談である。

 ここで何を思い出したようなアクションをするハル。

 

「あっ、そうそう、エリザベス。ここで先に忠告しておくわ」

「あら? 何かしら?」


 売られた喧嘩は買う気満々のリーザは剣呑な応答をする。

 気が付けば、アクトがこの場から消えていた。

 

「隆二・・・リスヴィの事だけど、私から先に言っとくわ。弟と付き合うのはお勧めしない」

「何っ! どうしてよっ!」

「私は他人の自由恋愛事情を阻むつもりは無いけど、それでもあの子と付き合うのはあまりお勧めできないと言っているの」

「・・・」


 リーザの顔は怒りに変っていた。

 それを察したハルはできるだけ理知的にその理由について説明をしようと試みる。

 

「リズウィ・・・不肖ながら私の弟でもあるけど、あの子の頭の中は女の子を抱く事しか考えていないクソ野郎よ。残念ながら彼には恋愛ができないわ・・・そんなクソ野郎がアナタと付き合っても碌な結果しか生まない。ボルトロール王国でも妊娠騒ぎがあって大変だったんだから・・・それに彼は私達と同じサガミノクニ出身の異世界人。アナタと価値観が合わないわ」


 ハルはリズウィがリーザと付き合わない方がいい理由を次々と述べる。

 そこには納得できる内容もあり、すぐに反論できないリーザであったが・・・

 

「誰がクソ野郎だって?」


 リズウィ本人が現れた。

 現れた当の本人は平服姿でシャツの裾をズボンから出したラフな格好をしている。

 短く刈り込まれた黒髪は少し水に濡れていたので、まだ寝起きの湯浴み直後であると主張していた。

 ここはリズウィ達の私的生活空間も兼ねている。

 リビングから見知った声が聞こえれば、そこを訪ねる彼の行動は普通である。

 

「リズウィっ!」


 彼の突然の登場に声のトーンが上がるリーザ。

 そこに有無を言わせず、リズウィがリーザに近付き、彼女の腕を取った。

 

「俺はココで姉ちゃんに宣言してやるぜ。俺達は付き合ってやる。正々堂々とな。どうだ?」


 ここでリズウィが言葉にした「どうだ?」は誰に対してなのかはよく解らないが、それでもリーザの顔は真っ赤に染まる。

 まるで人前で愛の宣言をされたような初心な姿を晒していた。

 そして、本人から明確に聞かれていた訳でも無いのにこんな返事をしてしまう。

 

「と・・・と、当然。私はオッケーよ。大好きなのリズウィ!」

「おっ? おう、そうか・・・」


 リズウィもリーザのそんな返事に戸惑う。

 しかし、異議を唱えるのは彼の姉からであった。

 

「この大馬鹿者。エリザベスと付き合うのは禁止だって言ったでしょ!」


 ハルはここで遠慮なくリズウィの頭を捕まえてベッドロックする。

 そうするとハルの豊満な乳房がリズウィの顔へと食い込む。

 

「ぐわぁぁー。この怪力女、離せっ!」


 表面上は嫌がって抵抗しているリズウィだが、その顔を見れば姉とのスキンシップを愉しんでいるようでもある。

 その姿に何故かイラっとなるリーザ。

 

「ちょっと、ハルさん。それは駄目ですよ。いくら家族でも不謹慎な行動ですわ。離れて下さい!」


 割と本気になってリズウィを引っ張り、ふたりを引き剥がそうとするリーザ。

 そんな痴話喧嘩を見せられて呆気に捕らわれているのはアリスだ。

 そこにピシッと言ってやると意気込んできたリーザの姿はもうここにない。

 駄目だこりゃ、とアリスが諦めたのはここだけの話である。

 そして、遂にリーザはリズウィとハルを引き剥がす実力行使に出た。

 リズウィの頭の反対側を抱えて、グッと引き寄せる。

 そうするとリーザの豊満な乳房もリズウィの左頬に・・・


「ムホホホ」


 ふたりの女性に乳房に挟まれるという思わぬ役得に喜ぶリズウィの姿に本当に呆れを見せるアリス。

 アリスがリズウィへ感謝の言葉を伝えるのも諦めた瞬間であったりしたのは言うまでもない・・・

 


これでエリザベスとリズウィが付き合うことになりました。第二部からの長い伏線だったのをようやく回収できました。めでたし、めでたし、です。これにて第十章は終わりです。登場人物は別に増えていないので更新しません。あしからず。

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