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第三話 俺は・・・ニート

 その日のリーザとアリスによる騎士団の魔術指南は中止となった。

 リーザが騎士団へ魔術指南する事よりも、自分の盟友であるアリスを助けるために、テメール熱の特効薬『黄金ユリ』を入手する事を優先させた結果である。

 騎士団の詰所を出たリーザは『黄金ユリ』をエクセリンの街中で探した。

 しかし、老癒し手から指摘されたように、『黄金ユリ』は希少品で、普通の道具屋、薬屋では手に入らなかった。

 辺境の森の入口付近に群生する事は聞いていたので、一部の望みを託して冒険者組合にも当たってみたが、それでもやはり入手困難な状況に変わりはなかった。

 

「結局、『黄金ユリ』を手に入れるには、自らが取り行かないといけないようね・・・」


 いろいろと諦めてそんな結論へ至るリーザ。

 『黄金ユリ』は辺境の森の入口付近に群生しているとの情報を得ていた。

 

「辺境の森の入口付近ならば、南のスケイヤ村からすぐね・・・ならば、旅程は片道で馬車一日ぐらい・・・」


 移動に往復で二日、探すのに一日とすれば、黙って一週間待つよりも若干短くなる。

 素早く計算した結果、やはり、自ら採取に行くのが得策のように思えた。

 しかし・・・

 

「私って常にひとりで行動しているから・・・で、こんな時、ひとりだと些か不安だわ」


 辺境の森へ探索に行くならば、普通は数人の冒険者でパーティを組むと聞くし、魔術師ひとりで辺境の森に赴くのは自殺行為だと冒険者組合でも言われた。

 その理由は理解しているつもりだ。

 つまり魔法とは強力な攻撃手段であるが、それでも詠唱に要する時間は絶対的な隙となる。

 狡猾な魔物はそんな隙など見逃してくれる筈もない。

 どうするかと迷いながらもリーザが宿に戻ってきたのは夕暮れを迎えた頃。

 よく見知った受付を通り抜けて宿の中庭へ入ると・・・

 

「メンッ! メーーンッ!」


 リーザの目に真っ先に入ってきたのは中庭で魔術師の杖を剣に見立てて素振り続ける男性(リズウィ)であった。

 朝からずっとひとりで訓練をしていたのか、足場にしていた地面の土はかなり抉れている。

 そんな様子の男を目にして、リーザは呆れを通り越した何を感じる。

 そして、自然な感じでリーザは男に声を掛けてみた。

 

「呆れたわね。アナタ、朝からずっとこれを続けているの?」

「ああん? そうだぜぇ。 おっ!? もうこんな時間か・・・俺にしちゃ集中していたか・・・ まあ、他にやることもねぇ~ 暇人だからなぁ~! へへへ」


 陽気に笑う(リズウィ)

 彼の口上どおり、折角買った魔法の杖を木刀のように扱い、ひとりで修練を続けていたようだ。

 

「この杖、意外に具合がいいぜ。重さのバランス配分とか竹刀・・・って言っても解らねーか・・模擬剣と似ている。久しぶりにいい運動になった!」


 清々しくそう答えるリズウィにリーザはポカーンとしたままだ・・・

 

(相当の暇人ね・・・それとも頭がイカレタ男かしら? 英雄に憧れを持つあまり、自分の事を稀代の剣術士だと勘違する男もいるって噂に聞くし・・・)


 男性を怪しい目で見るリーザ。

 

「なんだよ、女? 俺に何か用事か?」

「べ、別に何も無いわ・・・けど・・・」


 慌てて否定しようとするリーザだったが、ここである閃きが起きる。

 

「ア、アナタって剣術士なの?」

「ああ、そうだ。こう見えもそれなりに腕はあるぜ!」


 絶対にそれほど腕のある剣術士のようには見なかったが、それでもリーザは、彼が伝令や護衛ぐらいには使えるのではないかと思った。

 

「そう、剣術士なの? そして、暇だと言っていたわよね?」

「ああ、それなりの暇人だ」

「ならば、私に雇われない? ちょうど腕の立つ剣術士を探していたのよ」

「何だよ。何をすればいいんだ。あと、あまりにも長期間拘束されるのは無しだぜぇ」

「何を言っているの? 暇だって言っていたじゃない!? お願いしたい事は一緒に辺境の森へ行って欲しいの。私は『黄金ユリ』という植物を探しているわ。拘束期間は・・・そうね。移動も含めて三日ぐらいかしら?」

「・・・う~ん、三日か、昨日と今日も含めて五日か・・・それならばギリギリだな」


 何がギリギリかは解らないが、それでもリズウィは頭の中でリーザからの依頼を受ける気でいた。

 

「しゃねぇ~ 付き合ってやるか!」


 あっさりと快諾する。

 もう少し男性は悩むだろう・・・少なくとも報酬の話でもめると思っていたリーザだが、肩透かしを食らった気分だ。

 

「え? 本当にいいの? 『辺境の森』よ?」

「知っているよ・・・って行ったこと無いけど、低級な魔物がわんさか沸いてくる所だろう?」


 リズウィは軽い調子でそう返すが、彼の認識に間違いはなかった。

 

「目的地は辺境の森の入口付近だけど、状況によっては命の危険さえもあるわ」

「大丈夫だ。浅いところだろ? 姉ちゃんやおっさんに聞けば、森の深い所は本当に星の数ほど低級な魔物が溢れて大変(・・)だったと聞くが・・・浅いところならば俺でも余裕だぜ!」

「アナタのお姉さんって何者よ・・・でもまぁ良いわ、言わなくても・・・きっと冒険者なのね」


 リーザは勝手にそうだと決めつける。

 このエクセリア国では冒険者家業が盛んだ。

 それは近くに辺境の森があるためであり、そこも探索して日々の生活の糧を得る、それが冒険者の稼業である。

 そんな仕事に素性や資質はあまり関係がない。

 高い実力と運だけが支配している仕事。

 故に冒険者稼業に従事する者は品の無い者が多いとも聞く。

 リーザも少しだけそんな冒険者と戦争では一緒に戦ったことがあるので為人は解っている。

 そこから学んだのは冒険者と元貴族である自分とはソリの合わない事が多い人種だと言う事だ。

 そんな経験をしてきたので、この男の家族の稼業についてもこれ以上問わない事にした。

 

「姉ちゃん、俺は冒険者じゃねーけど、強ぇ事は強いぜぇ! まあ、別にこの話はいいか・・・よし、引き受けてやろうじゃねーか。面白そうだし!」

「取り敢えず、依頼を請けてくれる事に感謝するわ。報酬は一日万クロル、三日間で三万クロルよ。悪くないでしょう?」


 ここでリーザ提示するのは相場の二倍の報酬である。

 男が絶対に断らない条件を提示したつもりであった。

 しかし、リズウィは・・・


「へん。格安の報酬だな。かつて似たような魔物討伐の依頼を受けた時の百分の一だぜ・・・だけど請けてやろうじゃねーか。リーザ嬢からの依頼だから、特別サービスだ・・・あ!?」


 ここでリズウィは不意に相手の女性の名前を口にしてしまい、どうしてその名前を知っているのかと問われた場合の事を失念していた。

 しかし、相手のリーザからは自分の名前を呼ばれた事にあまり不自然さを感じていなかった。

 それは彼女の名前が既にこのエクセリアで有名になっていたからだ。

 それよりも、ここでリーザが気になったのは別の事である。


「それは・・・格安の報酬で申し訳なかったわね・・・でも請けてくれるのね? そもそもアナタの名前を聞いていなかったわ?」

「俺の名は・・・」


 ここでリズウィは回答に困る。

 流石に自分が『リズウィ』と言う名前を出してしまうのは変化(へんげ)の魔道具を使う上で、不都合が生じるような気もした。

 だから彼はここで苦し紛れに思いついた偽名を口にしてしまう。

 

「俺は・・・ニートだ」


 引き籠り生活を続けていた自分を自虐的に表現する単語であったが、その単語が真っ先にリスヴィの脳裏に思い浮かんでしまったので仕方がない。

 

「解ったわ、ニート。それでは明日の朝に、ここから出発しましょう」


 特に違和感なくリーザは男の名を『ニート』と認識し、明日の出発時間の事を伝える。

 彼女がそんな矢継ぎ早に手続きを済ませたかったのは、報酬が少ないと駄々を捏ねられては面倒だと思ったからである。

 こうして、急遽、魔術師リーザと剣術士ニートの辺境探索パーティが結成された瞬間であった・・・

 


おおっ! 剣術士と魔術師の冒険者パーティ編成が結成されました。

ようやく異世界転移物のテンプレ物語が描けるぞ!(筆者大喜)


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