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白い魔女と敬愛する賢者たち(ラフレスタの白魔女・第三部)  作者: 龍泉 武
前半編 第一章 黒い稲妻の勇者の冒険
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第九話 旅団と流行の屋台

2021年10月29日 21時

申し訳ありません。間違えてひとつ話を飛ばして投稿してしまいました。

21時に修正しました。


「どうして、アナタがここに座っているのかしら?」


 額に青筋を立てて不快を露わにしているのはアンナ・ヒルト。

 現在、朝の宿の食堂で勇者パーティメンバーは朝食を取っており、リズウィの隣には見知らぬ女性の姿が・・・

 アンナはそこが自分の特等席であると主張しかけて、その女性の顔に思い当たるものがあった。

 

「アナタは・・・昨日の昼間リズウィに絡んできた女!」

「フェミリーナ・メイリールです」


 特に何の反発も示さず自然に返す女性の声。

 しかし、ここでアンナの勘が働いて、警戒色を増す。

 

「それがどうしたのっ! 一体何の用事!?」


 早くも喧嘩腰である。

 ここで仲裁役をかったのは勇者リズウィだ。

 

「おい、アンナ。朝からうるせぇーな。この人は情報屋だ。今日、エクセリア国からやってきた旅人を案内してくれるんだ!」

「そうです。今、フロスト村で話題になっている旅人の一団がいます。私は村長から仰せつかって勇者リズウィ様をそこまで案内します」


 淀みなくそう答えるフェミリーナ。

 まるで少し前から互いに申し合わせていた台詞のように、リズウィと息がぴったりである。

 それが余計に怪しいと思ってしまうアンナ。

 ここでアンナは自分が昨日深酒してしまった事実を思い出す。

 

「あ、頭痛ぁ~。ムカムカするー」

「まったく柄にもなく、昨日はカパカパ飲みやがって、部屋まで運ぶの大変だったんだぞ!!」

「全然、記憶ないーー。ま、まさか、無防備になった私をっ!?」

「襲うかっ!」

 

 リズウィは白けてそんな事を返す。

 それはアンナの茶番だが、ここで呆れたのはリズウィだけではない。

 同じ勇者ハーティのガダルやパルミス、シオンからも冷ややかな目だ。

 

「まったく、アンナったらお酒に負けて、ぐーすか寝ていただけでしょう。これは職務怠慢ですね。昨晩の私はこのフロスト村の教会で信者相手に説法を説いてきたと言うのに」

「シオン・・・そこまで酷いこと言わないでよ。夕食以降の職務は非番扱いだから、関係じゃない」

「ええ、軍紀では確かに非番に設定されてします。しかし、私達は誉れある勇者パーティ、周りから常に注目を集める存在です。公人たる存在でもあり、私生活も気を抜いては品行方正が問われます」

「品行方正・・・確かにそうよね~。しかし、それを問うならば・・・」


 ここでアンナが示すその単語の意味より、パーティ各々からの視線がリズウィに集中する。

 自分に非難の視線が集まっているのを自覚したリズウィはここで言い訳をした。

 

「か、彼女は・・・だから、情報提供者だと言っているぞ」


 何も聞かれていないのに、狼狽するリズウィを見て、パーティメンバーはだいたいの事実を察した。

 実はこのリズウィ、各地で女性と関係を持つのは珍しい話ではない。

 それは勇者と特等臣民という立場がボルトロール王国でモテる要素満載だからである。

 つまり、彼に言い寄ってくる女性の数は多く、もし、リズウィさえ気を許せば、男女の関係に発展してしまうのは珍しい話ではないからだ。

 今回もおそらくそうであろうとパーティメンバー勘ぐり、勇者の軽率な行動に半ば呆れるばかりだ。

 

「リズウィの野郎。畜生、羨ましい。こんな美人まで・・・」

「はぁー、そうねぇ。確かに昨日は不覚だったわ。私が気を抜いたばかりに・・・」

「リズウィさん。責任を取れとまでは言いませんが、もう少し自重していただかないと、このままですとそこらの村々に認知が必要な子供で溢れかえりますよ。豊穣の神は愛ある男女の営みは否定しませんけど、無計画な子供の量産まで望まれてはいません」

「お嬢さん。リズウィは女性にダラシナイ所があってですね。もし、私で良ければ、その後の責任は取りますので・・・」


 勇者パーティの各々からそんな事を言われ続け、非常にバツが悪くなるリズウィ。

 

「・・・く、こいつら、俺がもうフェミリーナに手を出したと決めつけてやがる」


 実にそのとおりなのだが、これ以上の言い訳も苦しくなってくる・・・

 それでもリズウィは反論を続けようとした。

 そんな劣勢の状況のリズウィをフェミリーナが庇う。

 

「皆様、私はリズウィ様の事は素敵な方だと思いますが、それでもまだ閨を共にしておりません。昨日、村長よりエクセリア国から来た旅団について聞かれ、それを勇者様にお伝えするようにと、こちらの宿に移ってきた次第です」


 落ち着いて、余裕の態度で微笑むその姿に表面上の嘘は感じられなかった。

 勿論、これは事実とは異なっていたが、この白々しく嘘を通す姿・・・

 この女性の本質を密かに知って、戦慄してしまうのはリズウィだけである。

 

「なるほど。本当にこの女垂らしのリズウィとはまだ寝ていないのですね。これは失礼しました」


 ガダルはすっかり騙されていた。

 それニャッと微笑むフェミリーナ。

 ここでフェミリーナの可憐な直毛の金髪がサラサラと流れ、その姿に見惚れるガダル。


(ガダルも簡単にこの美女に騙されてやがる。コイツも単純で莫迦な奴だ!)


 心の中でそんな罵りを挙げるリズウィだが、リズウィ自身もこのフェミリーナという女性に騙されてはいけないと、少し警戒を増したのはここだけの話だ。

 

「それはそうと、私が伝えたいのはエクセリア国から来た旅団の事です」

「そうそれだ! 何処に行けば会える?」


 リズウィはフェミリーナの話題転嫁に飛びついた。

 

「彼らは昼時に村の広場で屋台をやっています」

「屋台?」

「ええ、何やら旅の路銀を稼ぐためだとか・・・しかし、そこで出されている料理がとても評判になっていて」

「おお、その話ならば昨日俺も酒場で噂に聞いたぞ!」


 ここでパルミスが話に入ってきた。

 

「ええ、私も教会で聞きました。何やらとても美味しい麺料理だとか・・・とても興味深いですよね」


 シオンもどうやら同じような話を教会で聞いたようだ。

 

「なるほど、麺料理って珍しいな。情報収集も兼ねて食べに行こう! どうせ、その旅団に用事あるんだ。少し利益を与えてやればエクセリア国の情報も教えてくれるだろう」


 リズウィはそう結論付け、気になる旅団が運営するであろう屋台へ行く事にした。

 

 

 




 そして、時間は正午になる。

 そろそろ屋台が開く頃だとフェミリーナの案内により勇者パーティ一行はフロスト村の広場へ向かう。

 そうすると、そこには屋台らしきテントの周りに椅子とテーブルが並べられ、多くの客で賑わっていた。

 

「随分と人気があるようだな!」


 リズウィはそう述べ、どこか懐かしい食べ物の匂いがして、腹が鳴った。


「うむ。これは俺の予感だが、この屋台の料理は美味いと思う!」


 早くもそんな結論を出し、開いているテーブルの席を探し、そこへドカッと座る。

 そこから周りの様子を観察してみると、そこかしこに座る客に料理を運ぶ男女の店員が忙しそうに右往左往している。

 客も我先に注文する者、麺料理を慌ただしく食べる者、と活気があって賑わっている。

 よく見れば幼い子供も料理を運んでいて、旅団の全員体制で働いているのが解った。

 

「ふーん。美味しそうね。私、麺料理を食べるのは初めてなんだけど」


 昨日の酒にやられて朝ごはんを碌に食べられなかったアンナだが、ここで食欲をそそられているようだ。

 

「俺もこちらの世界に来て麺料理は初めてだ。麺料理ってやはり珍しいのか?」

「ゴルト大陸の南部に存在すると聞いていますが・・・私も食べるのは初めてです」


 シオンはそう答えて、何を頼めばいいか迷っているようであった。

 

「何を頼んでも美味しそうな気がするが・・・とりあえず聞いてみよう」


 リズウィは店員を呼ぶ。

 

「いらっしゃいませ」

 

 現れたのは若草色のエプロンを付けた美しい細身の女性であった。

 細い身体のブロンドの女性であり、長い金色の髪から覗く綺麗な耳が素敵である。

 その耳には高価そうな白い耳飾りが付いていて、大人の女性の魅力が醸し出されている。

 その姿があまりに美しかったようで、ガダルやパルミスが口をアングリと開けて固まる姿が間抜けである。

 リズウィも彼女の顔を見て少しはトキメイタが、それでも自分がパーティのリーダであるという自覚から彼女の美しさには触れず、冷静を装って料理を注文しようとする。

 

「こんにちは。麺料理が欲しいけど、何を頼めばよいかな??」

「初めてのお客さんですね。それでしたらトマト・パスタをお勧めします」

「トマト・パスタ・・・パスタだってっ!?」


 ここでガタっと座っていた椅子を飛ばし、驚いて立上がるリズウィ。

 

「その『パスタ』って単語・・・この世界には無かった筈だぜっ!?」


 リズウィの指摘は尤もである。

 現在、彼は流暢にゴルト語を話しているようだが、実はそうではない。

 彼には翻訳魔法が掛けられている。

 魔法的にゴルト語を東アジア共通言語に同時並行で翻訳されている。

 その彼がトマト・パスタと言う単語を聞いて、我が耳を疑った。

 そんな食べ物を示す単語はこのゴルトには存在しない。

 少なくともその事は知っていた。

 彼がかつて「パスタが食べたい」とアンナに伝えて、彼女がその単語を理解できなったからだ。

 ゴルト語で存在しない単語についてはそのままの音で出される。

 それが翻訳魔法の欠点でもある。

 そうするとこの彼女が、今、喋る『パスタ』という単語が東アジア共通言語のままであると言う事を示している。

 そして、今、この広場で漂う匂いは紛れもなくバジルの利いたトマトパスタソースの香りである。

 周囲を注目してみると、他の者の食べている皿にはサガミノクニでよく見たパスタ料理が盛り付けられていた。

 皆がそれを美味しそうに食べている。

 

(オカシイ・・・まさか・・・)


 リズウィは一万分の一の可能性を感じて、厨房となっているテント棟へ目を凝らした。

 そうするとその厨房の中では三人の人物が作業しているのが解った。

 そして、賑やかな喋り声が聞こえてくる。

 

「コラッ、ジルバ、つまみ食いしないっ! アーク、次の注文は挽肉のパスタよ。肉の細断を急いでね!」


 次々と指示を飛ばす女性に着目。

 彼女は女性にしては背が高く、青黒い髪色をした女性であり、厨房の中で逞しくフライパンを振っている。

 ここでリズウィは過去のありし日々を思い出してしまった。

 それは自分の家で姉がキッチンで調理している光景・・・

 料理が得意な彼女の姿は今でも覚えている。

 それと同じタイミングで、同じ声でフライパンを振る女性が今ここに居た。

 そして、その顔がチラリと見えた瞬間、リズウィは無意識で思わずこう叫んでしまう。

 



「姉ちゃん、何やってんだっ!」



ようやく主人公が出てきました。皆さんお待たせしましたーってところで、第一章が終わりとなります。続きをお楽しみに。


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