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第十一話 リスヴィの好奇心

 フーガ魔法商会を出たリズウィはエクセリンの街中で深紅ローブ姿の魔女リーザの後を追う。

 リーザとの距離は少し離れていたが、それでも真っ赤なローブ姿の彼女はとても目立つ存在で、行方を見失う事は無い。

 しばらくエクセリンの街を彷徨って、そして、彼女が終着したのは中央大通りに面した大きな宿『静かな夕暮れ』亭である。

 どうするか少し迷うリズウィだったが、結局はその宿へ入る。

 

「いらっしゃいませ。お客様はご宿泊でしょうか?」


 玄関から入ってすぐ宿の受付となっており、見知らぬリズウィにそう問うてくる。

 

「あ、あ・・・一泊したいが、部屋は空いているか?」

 

 リズウィは回答に困り、思わず宿泊客を装った。

 まさか、街中で見かけた女性をつけてきたなどとも言えない。


(ちくしょう。俺は何をやってんだよ・・・)


 まるでストーカー行為をしている自分の事を情けなく思ってしまう。

 

「はい、空いております。宿泊のみでしたら一泊六千クロル。朝夕の食事付ならば一万クロル。より快適な部屋と湯浴み付きをご希望でしたら二万クロルの部屋もございます」


 お決まりの台詞を伝えてくる宿屋の受付担当の男性。

 相場的な価格設定であり、宿の造りが立派なので、そういう意味でこの宿は割安なのかも知れないと思うリズウィ。

 

「普通の部屋、二食付きでお願いしたい」


 反射的にリズウィはできるだけ自然を装うため、そう返した。

 元々宿なんて寝泊まりできて、飯さえ食えればそれ以上の贅沢を求めないリズウィだから、豪華部屋に拘りはない。

 勇者で作戦行動中していた時の宿も贅沢しなかった。

 

「解りました」


 宿の受付もリズウィの事を特に怪しむことなく受け入れる。

 前金で宿代を請求されたが、ここでリズウィが支払ったのはボルトロール通貨のギガ。

 そのギガ通貨を目にした受付男性の眉が少し動くが、それだけである。

 両国の国王どうしで合意した和平はエクセリア国でも表向きは履行されている。

 市民感情としてはいろいろあるが、それでも公に和平は認められているのだ。

 一時不公平であったクロルとギガの取引相場だが、現在は一クロルが一ギガに再設定されて、物価の安定化も成されていた。

 宿の受付担当者もこの客はボルトロール王国からの旅人だろうと推察して、それ以上の詮索はしてこない。

 

「こちらが部屋の鍵となります。お客様の部屋は西棟になりますが、東棟は女性客専用となっておりますのであまり近寄らないようお願いいたします」

「ほう。この宿は女性専用エリアがあるんだ?」

「ええ、そうです。オーナーが女性にも泊まりやすい宿を提供したいとの考えでして」


 そんな口上に納得を示すリズウィ。

 ボルトロール王国内でも時折そんな宿は存在していた。

 やはり物騒なこの世の中、女性客の身の安全に保障は少なく、逆に言えばそんなところに商売の種はあったりするものだ。

 

「解ったよ。俺は出場亀じゃねぇ~。女性客には迷惑をかけねーよ」


 リズウィはそう言うが、実はここに来た理由は女性魔術師リーザの後を追ってである。

 特に彼女を追った事に性的に興奮するような要素は無いと本人は認めているが、その・・・ただ何となく彼女の事が気になってしまったのだ。

 この見知らぬエクセリア国の土地に来て、ようやく知り合いにでも出会えたような気がした。

 勿論、リーザと面識あるのはラゼット砦で彼女が虜囚になっていた一瞬である。

 自分の事を忘れられている可能性も高い。

 

(ホントに俺、何やってんだ・・・)


 自分の行動に呆れつつも、部屋の鍵を貰ってしまったため、夕食の時間まで仕方なく、自分の部屋で時間を潰す事になるリズウィであった・・・

 

 

 

 

 

 当のリーザも宿の東棟にある自分の部屋へ戻ってきた。

 この国に来て早いもので、もう一年になる。

 その間、戦争があったりとバタバタになっていたが、それでも彼女が定宿としているこの部屋はもう自分の家に等しい。

 元々それほど高くない宿賃だったが、今は国の英雄として認められているので、オーナーからの好意もあり大幅に値引きされていたため、長期宿泊しても資金的に全く心配する事はない。

 もし、心配があるとすれば・・・

 

「はぁ~・・・今日もつけらていたわ」


 リーザが億劫にそんな愚痴を述べるのは、最近、とある男性魔術から付き纏いを受けていたからである。

 

「きっとアレは両親の差し金ね・・・」


 何となくその正体は解っている。

 特に声を掛けられる事もなく、つかず離れずに尾行をしてくる相手。

 それは自分の動向を探る行為だ。

 その人物を少し観察した事もあるが、卑しい身なりではなく、それなりに小綺麗な格好をした男性魔術師。

 そんな類の魔術師の存在を今まで感じた事もある。

 それはリーザの出身地であるエストリア帝国ケルト領で、謹慎と言う名の軟禁を受けていた時の視線と同じものだった。

 その時の経験より、今回の付き纏い男の正体とは自分の両親から「動向を見張れ」と依頼を受けた魔術師なのだろうと推測した。

 リーザもこう見えてケルト領領主の娘エリザベス・ケルトである。

 親から命じられた結婚に不満があり、家出をしてきた身分だ。

 その追手がようやくこのエクセリア国に到達したのだろうと考える。

 

「あんな変態の元に嫁ぐなんて考えられませんわね」


 リーザは過去を思い出して、そんな愚痴を零す。

 彼女の結婚相手として用意された貴族は・・・一言で言うと変態のクソ野郎である。

 あんな男性に嫁ぐ気などさらさら無い。

 リーザ過去にアクト・ブレッタを好いていたが、今のアクトはハルの夫となっているので、その恋はもう彼女の中で諦めていた。

 アクトに対する執着以上に、リーザはハルの事が苦手なのだ。

 可能であれば、ハルとあまり関わりたくはない。

 当然、その夫となったアクトに・・・未練も少しあるが・・・それよりも彼らを避ける方が強かったりする。

 ならば、この先どう生きていけばいいのか?

 このエクセリア国で新しい恋が始まりそうな男性も見つからず、このまま無駄に時間が過ぎていくのかと思うと、少し虚しい気もする。

 

「それでも、ケルト領には絶対に帰りません!」


 自分の出生地だとしてもケルト領にまったく良い思い出が無い。

 そもそもケルト領は彼女が生まれたという事実だけしかなく、リーザは政治に忙しかった両親と共に帝都ザルツで幼少期を送っており、ケルト領が故郷という認識も少ない。

 

「はぁぁ~ 私と釣り合う良い男って、何処かにいないかしら?」


 彼女は現実的には諦めつつも思わずそんな愚痴を零してしまう。

 そして、その指が無意識に首にネックレスとして装着するガラス瓶の装飾品に伸びた。

 それは戦争で敵の策略に嵌り虜囚となってしまった時に助けて貰った男性から貰った傷薬の空き瓶だ。

 彼女の中でそれを良い思い出とし装飾品に加工して、常に肌身離さず持っている。

 後ほどにその男性が敵の勇者だと解ったが・・・

 その男性は窮地に陥った自分を救って貰った恩がある。

 黒髪、黒目で凛々しく、優しい男性。

 

「俺に惚れるなよ・・・」

 

 去り際にそんなキザな台詞を吐く彼はそれなりに格好良い男だと思ってしまった。

 

「莫迦な事を考えてないで・・・さっさと食事に行きましょう。あの男だって彼女がいたじゃない・・・」


 小柄な赤髪の女性がその男性に付き纏っていたのを思い出した。

 自分の望む事など幻想だと自らに言い聞かせる。

 この場に彼なんて現れる筈が無いのだから・・・

 


これにて第九章は終わりです。

今週中に登場人物を更新します。(オリジナル版では『週末に』と言いましたが、間に合いませんでした・・・)

次章はリズウィとリーザにスポットを当てた物語の展開となります。

お楽しみに~


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