導入的なもの
僕は目の前のある意味不可思議な存在に対して思いを巡らせていた。
一般的にギャルと呼ばれるその人は、選択的ボッチである僕にとっては完全に未知であった。
派手なメイク、挑発的なファッション、慎ましさを感じさせない挙動、思うにギャルというのは一種のシンボルであり、ブランドであり、そして、鎧なのだろう。
僕がボッチであらねばならぬように、彼女らはギャルであらねばならないのだろう。
そんなことを考えながら不躾な視線を注いでいると、見つめられている当の本人は人懐っこい笑みを浮かべながら
「おいおい、手止まってるぞ?あーしなんか見ててもしょうがないだろ。」
などど宣ってきた。
このギャルは何を思ったのか知らないが、放課後の教室で再追試の補填として出された課題に取り組んでる僕の前に現れたのだ。
「ギャル子、確かに僕は現実逃避をしているが、君にそれを指摘される筋合いはないだろう。」
「あーしはギャル子なんて名前じゃない、赤星聖香だ。同じクラスなんだから知っとけよなー。」
「そういう君は僕の名前を知ってるのか?」
「…メガネとか?」
「違うな。」
「真面目に否定すんなし。てかそんなことより、さっさその問題解きなよ。」
そういいながら、僕の手元のプリントをトントンと叩く。
目をそらしていた意味不明な文字列が目に入り嫌な気分になる。
はぁ。まったくこのギャルは、何もわかってない。
「解けないから現実逃避してるんだが?君はバカなのか?」
「親しくない人間に簡単にバカって言える丹力マジパネェ。じゃあどうすんの?提出しなきゃいけないんじゃないの?」
「大丈夫だ。僕に策がある。」
「へえ?どうすんの?」
「白紙で出す。」
「あんたバカだろ。」
「くっ、否定できない。」
「友達に教えてもらうとか。」
「僕はボッチだ。友達なぞいない。」
「…。せめて努力した痕跡くらいは残しなよ。」
「それができたらやっている。」
うーむと唸るギャル子。
しばし黙考していたが、なにか簡単なことに気づいたような顔をした。
「あっ、じゃあ、あーしが教えるよ。」
「…何が望みだ?」
「別に見返りとかいらないよ。」
「菩薩か?」
「女の子相手にそのチョイスはビミョい。んー、なんとなく、あんたのこと気に入ったから。それ、教えてあげる。」
そう言って、彼女は人懐っこい笑みを浮かべた。
作者はギャルについてよくわかってません。こんなのギャルじゃないとかいう感想は言われても困ります。