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気持ち

ピピピ、ピピピ、携帯の着信音が病室中に鳴り響いた。しかし、携帯の画面は見ず電話にも出ない。理由は簡単で、それが妹からだからだ。妹はなぜか病室の前で電話をかける。なので、出ても出なくても結局はここに来るのだ。よって、電話に出るだけ無駄なので無視をしている。

その時、ドンッという大きな音とともに病室のスライドドアが勢いよく開いた。

「久しぶりだな兄貴、元気にしてたか?」

「ああ、元気にしてたよ。てか、ドアはゆっくり開けろって前も言ったろ。もう忘れたのか?」

「馬鹿言うなよ、私は兄貴より頭もよくて記憶力も優れてる。忘れるわけないだろ」

この生意気なこと言っているのは、僕の妹だ。名前は、黒木星七。中学三年の受験生だ。

では、なぜ僕が妹になめられているかというと、星七が超人だからだ。成績優秀、スポーツ万能おまけに美少女で友達も多い。「これを超人と言わずしてなんというのか」とよく父親が言っているので僕も超人と呼んでいるのだが、そこまででもない気がする。星七を見るといかにも「天才」のように見えるが本当はただの努力家だ。僕とあまり変わらない普通の人なのだ。違いがあるところはたった一つだけなのだ。

「そうだったな」

星七は、うんうんと頷きながら椅子に腰掛ける。

「そうだよ。...なあ兄貴」

星七が声のトーンを落としたことに気づいた僕は、まっすぐ妹の目を見る。

「言いにくいんだけどさ...」

星七は真剣な面持ちで僕を見つめる。ついに来てしまったか、と思った。たいてい星七が真剣な話をするときは僕にとっていい話ではないからだ。

「な、なんだよ改まって。いいから言えよ」

僕は、ベットから降りて足を伸ばした

「実はさ、受験勉強が忙しくなるから頻繁にお見舞いに来れなくなるんだ。ごめん」

「は・・・それだけ?」

「うん、そうだけど。どうした?」

僕は足のストレッチをやめ、ベットへ戻る。

「なんか変だぞ兄貴」

僕は正直、星七から「彼氏ができた」と言われると思っていた。星七は、美少女で勉強もできるのでよくモテる。だから、ついに来たか、と思ったのだ。しかし、備えはあったのだ。もし、「彼氏ができた」といった瞬間に、星七から彼氏の家の住所を聞きだした後、病室から走り出してそいつをボコボコにするのだ。そしてこう言うのだ「俺の妹に近づくな」と。

だが、よかった。そんな乱暴な備えを使わずにすんで。もし、本当に彼氏ができたときの備えにしよう。

けど、人のことなっぐたことないのにボコボコにできるのか、もしかしたら返り討ちに合うのでは...と考えていると星七から心配した声が聞こえた。

「おい、本当に大丈夫か」

僕は冷静さを取り戻し、答える。

「大丈夫だよ。まあ、僕のことは心配するな。とにかく受験勉強頑張れ」

「うん、ありがと」

そうだったなと思い出す。星七はとにかく優しいやつなのだ。昔から自分のことより他人のことを考えて行動する人間なのだ。受験勉強でお見舞いにあまり来れなくなることだって別に謝る必要なんてないのだ。しかし、星七は謝った。それは多分、自分のせいで兄貴が少しでも寂しい思いをすると考えてのことだろう。もしくは、僕たちが日本人として生まれたことで身についた和の心のせいかもしれない。

「兄貴覚えてる?兄貴の病気が今の医療じゃ治らないって知ったとき、兄貴に言ったこと」

覚えている。忘れるわけがない。人生で一番うれしかった言葉を。

「覚えてるよ。星七が将来医者になって僕の病気を治すってやつだろ」

星七は窓から雲一つない青い空を見つめながら、こう言った。

「私、本気だから」

「ありがとよ。僕も本気で期待しとくよ」

この言葉は、本気の本音だった。星七ならやってくれると心の底から思えた。そう思えたことがとてもうれしかった。

星七は、「うん」とだけあいづちをして、空ではなく、遠くに見える山のふもとを見つめた。

そこから数分間、会話のない時間が続いた。お互い何も喋らず、何もしない。時間を無駄に使っているのだ。しかし、無駄な時間にも意味があると気づかせてくれた時間でもあった。こんな日があったことを忘れないようにしようと心に決めたのだった。

「もう帰る、元気でいろよ兄貴」

それだけ言って足早に帰っていった。

星七は突然来ては、何か思いついたようにいきなり帰ってゆく。自分勝手な「超人」なのだ。だけども、星七は多くの友人から信頼されている。それは、自分よりも他人のことを思っているからだろう。人のために何かをすることを、誇るわけでもなく、見返りを求めるわけでもなく、ただその人が少しでも幸せになればいいと思って行動する。そんな星七の姿を見ている星七の友人たちは、ちょっとのわがままなんて気にならないのだろう。僕だってそうだ。星七のやさしさは「本物」だ。だから、あいつの自分勝手なんて気にならない。

やはり星七は、僕のような普通の人と変わらない。違いがあるのはたった二つだけだった。


星七が帰った少し後、外は夕日が命を燃やすように輝いていて、病室や近くの小学校を赤く照らしている。窓を開けると心地よい風が吹いていて、このまま赤い空へ羽ばたきたくなる。人間に翼が生えていないことを悔やみながら病室の真ん中に立つ。心地よい風に迎えられ、真っ赤な夕日に染められながら、僕はシャドーボクシングを始めた。





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