最終話 幸せを掴みました
神獣の中に蘇った女神ユースティティア様が、あの大地を慈しんだ神様だったようです。ある日消えてしまった女神様を、皆が惜しんで悲しみました。でも誰もあの地で涙を落とさなかったのです。
神様は長い年月を生きると感情が希薄になるそうです。カオス様もそういった時期を過ごされたと聞いました。あの場で涙を流した私は、大木の中に眠っていたティティ様を起こしてしまった。だから私の中に女神様は宿られたのでしょう。
意識を失うケガがなければ、女神様は外に出なかったかも知れません。どちらが幸せか分かりませんが、ティティ様が蘇ったことにより、地上は大きく繁栄する――カオス様のお言葉に嬉しくなりました。
「では弟のラファエルの治世は安泰ですね」
国が豊かになれば、ラファエルの苦労は減ります。飢饉や戦争がない国は、国民も豊かさを享受できるでしょう。素晴らしいことです。私の涙が、思わぬ形で幸福となって戻ってきました。
「そうだね。彼女は創造だけじゃなく、正義の天秤を預かる女神だよ。神々の争いを鎮め、人々の心を癒やす。きっと穏やかな平和が訪れるだろう。それに地上に降りると言っていたし」
「降りる、のですか？」
女神様は現在神獣のお姿で……あのまま神獣のフリで地上に現れるのかしら。
「気をつけないと、弟を取られるよ」
目を丸くした私は、意味を理解して笑ってしまいました。ティティ様、ラファエルを気に入ったようです。女神様に愛される国王なら、寿命を全うして召されるまで素晴らしい政を行うでしょう。心の底から安心した私に、カオス様が提案しました。
「ねえ、家をここに移そうか」
「本当ですか？ そうしてもらえると嬉しいですわ」
この土地をいただいたのなら、ぜひ活用させていただきます。気持ちが安らぐ風景が、窓の外に見えたら素敵ですし、外でゆっくり過ごすのも素敵ですね。カオス様はすぐに願いを叶えてくださいました。
溺れるほど愛されて、心から愛して――数年後、私は一人の女の子を産みました。愛らしい赤子は黒髪に緑の瞳、顔立ちはカオス様によく似ています。ニュクスと名付けました。たくさんの神様に祝福されて生まれた我が子を抱いて、久しぶりに地上へ降りることを決めました。お父様達には初孫ですね。
首を刎ねられたあの頃と同じ、女性らしい体型になった私への溺愛は変わりなく。今も幸せは続いています。可愛い娘を抱いて降り立った部屋は、かつてカオス様と過ごした客間でした。
お父様、お母様、ラファエル。神様用の臙脂の客間で、膝を突いて待つ家族に微笑んだ私が選んだ言葉はひとつ。
「ただいま戻りました」
涙ぐんだお父様は堪えきれずに顔を手で覆い、お母様は微笑みながら頷きました。立派に成長したラファエルが、無邪気に笑います。
「お姉様、おかえりなさい」
「「おかえりなさい」」
家族の迎えに、ニュクスを披露しました。機嫌のいい孫ニュクスを抱いたお父様とお母様は笑顔が絶えません。喜んでくれる家族の間から、ひょこっと兎の長い耳が見えました。
「ご紹介します。僕と契約してくれた神獣でティアです」
間違いなくティティ様です。カオス様の仰った通り、神獣のままラファエルと契約したのですね。ティアと名乗っておられるようで、角のある兎はぷるぷると愛らしく耳を揺らしました。
ええ、わかっていますわ。正体は内緒なのでしょう？ 弟をよろしくお願いします。微笑んで頷く私へ、ティティ様は器用に片目を瞑りました。
神獣である女神様の加護があり、カオス様の庇護下にあるこの国は、数十代に渡り繁栄します。お伽噺はここで終わり――今度こそ幸せを掴んだ私は、手元に残された書物を静かに閉じました。
Fin or …….
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お付き合いいただき、ありがとうございました。無事完結となります。たくさんの読者様に支えられて書き続けることができました。また新作等を発表しますので、ぜひお付き合いくださいませ。
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2023/10/19
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ここまで支えてくださった読者の皆様に(人´・ω・｀o)感謝♪ と、ぜひ買ってください！
