第83話 名実ともに妻となりました
神々の世界というのは、どこまでも自由でした。家という概念はないそうですが、私のためにカオス様が用意してくださいました。
美しい装飾品が並べられた家は、不思議な空間です。外から見ると建物はなくて扉だけなのに、開くと部屋がありました。眠るためのベッドや並んだ家具は、私の嫁入り道具です。こんなところに活用なさったのですね。
柔らかなベッドに腰掛けた私は、これからの生活に不安と期待が入り混じっていました。ですが……考える必要はなかったようです。
「レティ、やっと僕だけのレティになった」
両手の指を絡めて握ったカオス様に押し倒され、ベッドに沈みました。驚いた私の顔にいくつもキスが降って、それから見つめ合った後で唇が重なります。私の名を呼びながら首筋や胸にも……ドレスはカオス様のお力なのか、勝手に私から離れてしまいました。
恥ずかしさに身を捩り、思わぬ場所に触れたカオス様に混乱し、気持ちよくなって途中で痛みに泣いて。頭では理解したつもりの妻という立場を、しっかり体の隅々まで教えられました。包まったシーツの中から出てこない私に、カオス様は困ったと笑います。
幸せそうな声に釣られて顔を覗かせると、微笑んだカオス様に口付けをたくさん頂きました。
「嬉しくて我慢できなかった」
カオス様の囁く声に、小さく頷きます。恥ずかしくて顔を合わせられない私に合わせ、後ろから腕を回したカオス様の胸に背を押し当てていると……いつもより早い鼓動が心地よくて目を閉じました。カオス様でも緊張したりするのでしょうか。
「体は痛くない? 苦しかったら言ってね」
気遣ってくださるのは嬉しいですが、口に出来ない場所なので痛いのは秘密です。後でアクア様かペルセ様に、いつまで痛いのか聞いてみましょう。そう思った私に先回りするように、カオス様が恐ろしいことを仰いました。
「新婚だからね。10年くらい、この部屋に閉じこもろうか」
10年、ですか? そんなに長いと、お父様達に忘れられてしまいます。焦った私は腕から逃れようと動き、腰の奥の痛みに小さく呻きました。何か出てきちゃう気がします。どうしましょう。混乱して涙が滲んだ私に、カオス様が小声で謝りました。
「ごめんね。レティを妻にしたのが嬉しくて、止まれなかった」
「いえ、私も嬉しかったので……でも10年は困ります」
ぼそぼそと返答したところ、カオス様は安心なさったようです。私が言葉で返事をしないので、機嫌を損ねたと思ったのですね。顔が見えない状態なのを忘れて、申し訳ないことをしました。夫婦は隠し事をせず、なんでも話せる間柄でいなさい――お父様の教えは、このことを示しておられたのかしら。
「どこが痛いの? 治そうか」
「治さなくていいですから……向かい合って抱き締めてください」
お顔が見えないと寂しいのです。我が侭を口にした私に、カオス様はすぐに叶えてくださいました。抱き締めあってキスをして、それから目を閉じます。疲れからか、私の意識が夢の中に落ちていきました。
少しだけ……そうしたら起きますから。呟いた声は届いたでしょうか。




