第73話 残せる功績をひとつ
薄く化粧をして美しく装った私を出迎えたのは、今日卒業する子ども達でした。授業料をすべて免除し、その費用は私が与えられた歳費から支払います。平民の子は働き手なので、両親がなかなか許可しないことがありました。
そのためパンを支給します。それも学校の費用として用立てました。するとパンを貰えるから学校に子どもを出す親が出てきます。徐々に話は広まり、優秀な子がたくさん通ってくれました。他国から留学してくる子の宿も、近隣住民の収入のひとつです。安く住めるようパンや支援を積極的に行いました。
私が使う歳費は年に2枚のドレスと、普段着のワンピースがあれば十分です。装飾品はお母様からの頂き物がありますし、お父様も無駄な舞踏会や夜会は開きません。それにすでにカオス神様の婚約者であるため、夜会への出席はお断りすることが出来ました。
通常、未婚の王女や貴族令嬢が夜会に出る理由は、婚約者探しです。親が決めた婚約者がいるご令嬢の中には、結婚するまで夜会に出ない子もいると聞きました。私もそれに倣ったのです。カオス様へのお願いなどを持ち込まれても、困りますし。エスコートにカオス様をお呼び出しするのは気が引けました。他の方のエスコートを受ける気がなければ、夜会に出ないのが一番です。
子ども達は溢れんばかりの笑顔で、口々にお礼とお祝いをくれます。祝われるのはあなた方の方ですよと言ったら、婚約のお祝いだそうです。ありがたく言葉を受け取りながら、花を1本ずついただきました。最後に花束になるのですね。素敵な企画です。
在学中の子から受け取った花束を抱えて、私も列の一番最後に立ちました。ここは学校で一番大きな建物の入り口です。
私と同じように花を受け取りながら歩いて来るのは、卒業する子ども達でした。彼らに私が受け取った気持ちを1本ずつ分けていきます。後ろで見守るカオス様が、花に小さな祝福を授けてくださいました。
「おめでとう」
身につけた知識を活用して、これから働きに出る子ども達に微笑みかけます。少し先でリュシアンと彼のお母様を見ました。先生として働き、今も尽力してくれています。良かった。私に謝ってくれたことも含めて、この世界への心残りが減りますね。
この学校は、私がいなくなった来年以降も継続が決まりました。私の分の歳費がそっくり浮くので、それを当てて欲しいとお父様にお願いしていたのです。ところが国としてもう少し予算を割いて、他国からの留学生を多く預かることになりました。
周辺が賑やかになり、発展することを祈ります。
「王女様、ありがとうございました」
「立派に国の役に立ちます」
いつか恩返しをすると口にした子ども達に、私は穏やかに語りかけました。
「私に返さなくていいから、ご両親や近隣の方に返してあげてください。余裕ができたら、未来の学生達にもお願いしますね」
この世界を旅立つ――その自覚が、私を年齢以上に大人びた言動に導いていました。前世の記憶があることもまた、大きかったと思います。ただ人々が幸せになってくれたら、私の頂いた大きな幸せを分けてあげられたらと一生懸命でした。




