第71話 我が侭を言いたいのです
やり直しする卒業のイベントは、3日後になりました。本当だったら、もう卒業して仕事場にいるはずの子供達が、わざわざ集まってくれます。遠くの仕事場へ向かう予定だった子も、旅立ちの日をずらしてくれました。眠った私の体を使うユースティティア様は、周囲に異常がバレないよう振る舞ってくれたようです。
お礼を伝えたいとカオス様にお願いしたところ、渋い顔をして「伝えておく」と約束してくれました。でも直接会うのはダメだそうです。また入れ替わると怖いと言われ、心配されて嬉しい私は頷きました。約束した以上、カオス様は必ず伝えてくれます。遠い未来で自分の口から伝えたいですが、それまでは伝言で我慢していただきましょう。
そのお話をした時、迷いながらカオス様が口にされたのは……リュシアンが私に謝罪したことでした。隠しておきたいけれど、バレて君に嫌われたくない。子供みたいに頬を膨らませて、本当に不満なのだと腕まで組んで。ふふ、なんだかラファエルくらいの子どもみたいですね。
「教えてくださりありがとうございます」
カオス様に抱き着いて、私の方から背中に腕を回しました。力を込めると、カオス様の組んだ腕が解かれて私を引き寄せてくれます。ほら優しい。隠さず教えてくれたのは、この後の学校で顔を合わせるから? 八つ当たりしたいのに、我慢してくれるのですから。神様ならもっと偉そうに振る舞っても許されるのですよ。
「カオス様、明日はラファエルやお母様と一緒にお茶をしませんか」
3日後まで大きな予定はありません。私の体調を気遣ってくれたのでしょう。空いた時間を有効に使いたいと思った時、先程のラファエルを思い出しました。前世では私が成人したのを知って、ラファエルは「お姉様」から「姉上」に呼び方を変えました。でも今生では姉上と呼ばれる前にお嫁に行ってしまいます。
出来たら、カオス様にはラファエルと仲良くなって欲しいのです。それに王族となったことで、私達家族だけの時間は減ってしまいました。今のラファエルは私との思い出が少ないから、いずれ私の存在を忘れてしまうかも知れません。
嫁ぐまでの1年を大切に、できるだけ一緒に過ごしたい。でもカオス様との時間も大事なのです。お父様は仕事があるから、お母様とラファエルだけになってしまいますが。
「……そうだね。レティの思うままに」
申し訳なさそうな表情を浮かべるカオス様の、鼻を摘んでみました。きょとんとした顔をするカオス様に笑顔を向けます。
「先ほども言いましたが、いまの私は幸せです。あなた様のお嫁さんになるんですもの。ただ……出来たら家族との思い出を持って嫁ぎたいのです」
「分かったよ、レティの願いだからね。僕が全力で叶えてあげる」
いつもの口調が戻ってきて、カオス様の表情が明るくなりました。伝わったみたいです。私は家族を捨てさせられるわけじゃない。攫われるのとも違います。自ら望んでカオス様の手を取りました。
我が侭を言いたいのです。あと1年でたくさんの思い出を作って、未来のカオス様と笑いながら話したい。そのための時間を作ってください。お願いする私の祈りは、あなた様の胸に届いていますでしょうか。




