第65話 信用されてないのね
厳しい顔のカオスが呼び出したのは、ヤクシを除いた4人。原始に生まれた上位神ばかりだった。水のアクア、風のフジン、炎のマルス、大地のペルセ。懐かしい顔ぶれに私の表情が和らいだ。
「ユースティティアが蘇った……レティの体に入り込んでいる。引き剥がす方法を考えてくれ」
誰か知らないかと問わないのは正しい。だって、創始の神である私やカオスが知らない知識だものね。それにしても引き剥がすなんて、まるで私が悪いみたいじゃない。
「……目を離すと騒動に巻き込まれるのね、レティらしいわ」
困ったと声に滲ませたアクアが嘆き、ペルセも頷く。どうやら人間の王女なのに、神々と繋がりがあるらしい。もしかして聖女なのかしら。
「この子は聖女なの?」
「そうだよ」
フジンがぶっきらぼうに答えた。困ったわね、それは早くカオスに返してあげないといけないわ。
「代わりの器があれば、移動できると思うの」
たぶん……試したことないけど。その不安要素は口にしない。うっかり言霊に成長したら、私の邪魔になるもの。声にして形を与えなければ、不安はいずれ消滅するのだから。
下級神は、私やカオスの力を簡単に羨むけれど……大き過ぎる力は混乱を生むわ。言動にどれほど注意を払っているか。気が遠くなるほどの年月をかけて、大量の失敗の上に今の自分を作り上げた。この努力は、もう少し力が弱ければ不要だったの。長い時間を掛けて、失敗を復元することもなかった。
「代わりの器……人間でもいいか?」
人間ならば調達できるが、神々の誰かの魂を抜いてしまうのは問題が多い。カオスの言い分も理解できるけれど。
「人間が耐えられるかしら?」
「魂は入れ替えになる。生まれ変わらせるしかないだろう」
元の魂を抜き去り、転生させる。空になった器に私を入れるつもりね。少し考えてみたけれど、確かに変な生き物に入るのも不便だし、人ならば寿命……あら。
「寿命が短いわ。すぐに出てしまうわ」
「何度も転生し直すか、またはその間に別の器を探す必要があるな」
人間側の都合など考えない。それが神という存在だ。退屈だから雷を落とした。そのせいで何人死のうと気にも止めない。気が向いたから水害を起こし、忘れていて山を燃やし尽くす。力を持つ者ゆえの傲慢さが、神々の本質だった。
「神獣の中に長生きする種族がいただろう。その赤子に移すのはどうだ?」
マルスが提案した話は魅力的だった。素敵じゃない。それなら気軽に地上に降りられるし、長寿種族なら長く使える体が得られる。無垢な赤子はすぐに転生させれば、問題も起きないわ。何しろ柵がないんですもの。
「私は賛成よ」
手を挙げて同意を告げると、マルスが手を叩いた。
「よし、器をすぐに用意させるから動き回るなよ」
口の悪い彼を見送って、私は以前住んでいた草原を見ようと転移する。しかし妨害された。
「ここにいろ」
吐き捨てる冷たい言葉に、私は肩をすくめた。カオスの聖女の器を傷つける気はないのに、全然信用がないのね。
「……レティは、どうしてる?」
「この体の持ち主なら、底の方で眠っているわ」
ほっとした顔をするカオスが羨ましい、素直にそう感じた。




