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第56話 私が見えていますか?

 カオス様の声が、淡々と神族という存在を語り始めました。こんな深いお話、教典にも載っていませんわ。


「僕が全能神と言われた理由は、この世界を壊す力と権利を持っているからだ。他の神々には無理なんだよ。それほどの大きな力を振るうことは出来ないし、そもそも何かを生み出すのが神々だからね」


 ふわふわと泳ぐように移動する雲を見つめるカオス様の瞳は、どこか寂しそうでした。もしかして、唯一破壊ができる神というお立場は、孤独なのでしょうか。他の方と違う能力を持つのは凄いことですが、同時にはみ出てしまうことを意味します。


「カオス様は寂しかったのですか?」


「うん? そう、だな。寂しいのとは違うけど、他の神と距離を置いたね。僕のもつ力は大きくて、誰かを壊すのも簡単だった。何を壊しても創っても、楽しくなかったし」


 生まれながらに能力に恵まれた人間で、努力をやめてしまった人のお話を思い出しました。あれは前世に聞いたのですが、貴族学院の先輩でしたかしら。勉強も剣技も優秀でしたが、ある日「すべてが嫌になった」と無気力になったそうです。


 努力しなくてもすべてが手に入る。少しやれば人並み以上に出来た。それは才能ですが、同時にその方の未来を閉ざしてしまったのでしょう。努力してもしなくても変わらないなら、何もしたくない。そう考え、卒業後は屋敷に引きこもったと聞きました。


 あの頃、必死で王妃教育に励んでいた私にしたら、羨ましい限りです。人並み以上の努力をして、ようやく人並みの結果が伴う当時の私は、その先輩の考えが理解できませんでした。今のカオス様を見ると、才能があるのも苦しいのではないかと思います。


 才能がなく努力しても結果が伴わないのは、とても辛いことです。ですが、何をしても簡単に出来てしまい変化が見られないのも……お辛かったでしょう。


「でもね、レティに出会って僕は変わった。それに全能神じゃなくなったよ」


「もう、世界を破壊できないのですか?」


「レティが壊してと願えば、全力で応えたいけど。たぶん、もう力が足りないと思う。ヤクシとアクアを犠牲にしたら届くかもね」


 恐ろしい表現が入っていましたが、聞かなかったことに致します。私にはそのくらいしか出来ませんから。


 視線を向けた先で、空を見るカオス様の横顔が少し陰りました。気を引こうと手を振ったのですが、カオス様は気づきません。そのことに違和感を覚えました。


 さきほどのカオス様のお言葉が蘇りました。あの時――もう力が足りないと仰いましたね。それまでは足りていた力、いつ不足したのでしょうか。何の力を失ったのですか。


 伸ばした手をゆっくりと動かすと、顔の正面に近づいたところで反応がありました。私の指に気づいて掴んだ手を強く握ります。顔を見ないようにしながら、私は慎重に言葉を選びました。


「カオス様……私の今の表情、見えていますか?」


 見えていないでしょう。そう指摘することが出来ず、否定して欲しくて緊張に声は上擦ってしまいました。

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