第54話 神より気高い聖女だね(SIDEカオス)
*****SIDE カオス
僕のレティは、与えた称号通りの聖女になってしまった。冤罪だと知りながら首を刎させた男に、今生でも恐ろしい思いをして泣いたのに……許せるらしい。僕には到底理解できないけれど。
他人事ならいくらでも、淡々と裁いてみせる。だけど自分や、レティのことになったら話は別だった。僕の態度を神殿の神官がどう受け止めるか。それを知りながら、破門になるよう仕向けた。
非情で冷淡な男だと思われるのが嫌で、申し渡す役を神官長にやらせた。わずか8歳の子供が周囲の助けもなく生き残れるはずはない。成人男性だって数ヶ月しかもたない。だから破門は死刑宣告だった。
付け加えたのは「傷つけるな、死なせるな」だけ。これをレティは温情で優しさと受け取った。実際は違う。僕は……長く苦しめばいいと思ったんだ。あの子供の母親が手助けするのを見越していた。
足掻いて苦しんで生きて、そして最後に絶望して死ね。そう命じたつもりの言葉を、レティは綺麗に浄化してしまった。だからね。僕はよい神のフリをしていられる。優しく慈悲深い神のフリで、君の隣に立つ。本心の醜さは、僕だけが背負えばいいのだから。
破門を解除して欲しいと願った彼女に、穏やかな笑みを浮かべて了承したのは嫌われたくないから。レティが作り上げた慈悲深い全能神カオスの仮面を、僕は大切に被り続けるよ。
慈悲を施すと聞いて、お人好しな婚約者に声も出なかった。レティに与えられた予算は、衣装や飾り物に使われる。それを削って、子供達のための学校を作ると言われたら……僕は反対できなかった。その教師に元王族を起用する目的があることを知りながら、ただ見守る。
僕の本性を知る5人の上位神は呆れかえっていたけどね。そんなにいい人じゃないわ、騙されてるのよ。そう呟いたアクアの声に、僕も同意見だ。でも彼女に言ったら許さない。そう釘を刺して、眠るレティの黒髪を撫でる。柔らかな頬を包んで温もりを分け合った。
巻き戻す前の15年前は控えていたことを、これから一緒に過ごしていく。彼女が嫁ぐ16歳まで、あと8年か。時間の流れが早くなれと願ったのは、生まれて初めてじゃないかな。
くすくす笑いながら、レティのベッドの端に腰掛けた。さすがに同衾はまずいからね。ここで見守らせて。
最近は侵入してくる賊の数も増えている。君を攫って、僕を自由に操るつもりかな? それとも優しく美しい君自身を狙っているのかも。どちらの敵にも渡す気はなかった。
国王になったクリストフへの切り札として使う気なら、勝手に政権争いをすればいい。戦争の火種にしたいなら、自由に戦えばいいじゃないか。僕の美しい聖女を巻き込まないで欲しいね。ぼやきながら、今夜も月が翳ったタイミングを利用した侵入者を指先で弾き飛ばす。
「安心してお休み、僕のレティ」
君の眠りも、心の安寧も……僕に任せて良い夢を楽しんでおいで。




