第50話 恐怖と向き合う勇気
カオス様には内緒で、私はお父様にお願いしました。元王族の方々の行方について教えてください、と。ばあやの腰もお母様の病も、すべてがカオス様のお力で解決しました。だから王妃様の行方についても、尋ねたら教えてくれるかもしれません。
ですが、人間のことは人間が解決すべきです。あの時、カオス様は自ら破門を宣言しなかったと知りました。神殿の神官長様が口になさったのです。気を失った私は聞いておりません。破門は神官長様が口にし、カオス様は反対しなかっただけ。
最後に「傷つけず、殺すな」と命じられたそうです。これはお父様にお聞きしました。お父様は残酷に感じたそうですが、私は逆でした。カオス様にもご説明しましたが、あの方はリュシアン様が生き残る道を示されたのです。罰することを拒まずとも、死ねと命じる気はない。そんなお気持ちだったのでしょう。
許せないが殺すほどではない。私を大切にしてくださるカオス様らしい、見えにくい優しさです。それをお話ししたところ、お父様は「誤解していた」と落ち込んでしまいました。そんなお父様にお願いするのは気が引けるのですが、どうしてもご無事を知りたかったのです。
全能神であり、神々の最高位に就かれたカオス様は、いずれ私を女神になさるとおっしゃいました。ならば、私は人間ではなく神に近い存在です。私に対する、それも前世の罰を問うのは行き過ぎではないでしょうか。カオス様にそれを問う前に、あの方が望んだ罰を知りたいと思いました。
お父様に説明することが難しく、お願いだけ口にします。迷った後、お父様はご存じの範囲で教えてくださいました。きっと心配で調べさせたのでしょう。
王妃様は持ち出した宝石やドレスを手放したお金で、街のはずれに小さな家を買ったそうです。家には庭と納屋があり、庭を畑にしたと言います。きっとお野菜を育てるのですね。納屋は古いから放棄したことにして、リュシアン様にお渡ししたとか。
街の人はカオス様の指示を守り、石を投げたりは少ないと聞きました。様々な日用品を捨てていく街の人の助けもあり、生活はぎりぎりながらも営まれています。それはどれほどの優しさの積み重ねでしょうか。
前世で王太子殿下に首を刎ねられた私は、その後を知りません。お父様や弟ラファエルが無事だったかどうかも分かりません。消えてしまった未来は、今の私の過去なので知っても仕方ないでしょう。ですからカオス様も教えてくださらないのだと思います。
今の人生で、私は最上の幸せを手に入れるでしょう。それと同時に、リュシアン様や王妃様を不幸にして置いていいはずがありません。だって、それでは私がされたことと同じですもの。
寝る前にお父様にお伺いした話を思い出し、お母様のお人形を抱き寄せます。ばあやが下がった部屋の中で、柔らかいシーツに包まれながら、私は愛しい方のお名前を呼びました。
「カオス様」
「……レティは優しすぎるよ」
すべてを見通した神様の視点で、呆れたと笑う。その美しいお顔に拒む色がないことに安心しながら、私は望みを口にしました。我が侭を聞いてくださると仰ったのは、カオス様ですものね。




