第47話 変わっていく未来
着替えたのはオレンジのワンピースです。ドレス程足が隠れない長さのスカートで、膝とくるぶしの間まで覆われました。これ以上短いと、いくら子供でも王女として問題があるそうです。ばあやがふと、腰を押さえました。
「どうしたの、ばあや」
「いえ。何でもございませんよ」
穏やかに笑って誤魔化すばあやの姿に、過去の記憶が過ります。ばあやが腰を悪くして、お仕事が辛くなったのは何歳の時だったかしら。7歳の今ではなくて、もう少し後だったわ。でも新しい世界は変わり続けているわ。病を治していただいて、病弱だったお母様はすっかりお元気になられた。
ばあやの腰の痛みは、早くから始まっていたのだとしたら? 前の人生では気づけなかったけれど、本当はもう痛みがあったのかも知れない。慌てた私はお医者様を呼んでくれるよう頼みました。
「お嬢様、どこか痛いのですか?」
慌てるばあやに、どう伝えたらいいか分からず……痛みに苦しんだ過去のばあやを思い浮かべたら、何も言えなくて。唇を噛んだ私に、大急ぎでばあやはお医者様を呼んでくれた。自分が痛いのに、それを我慢するばあやが自ら呼びに行く姿に、私は混乱して泣き出す。
「ああ、お嬢様。そのように泣かれては……目が腫れてしまいます」
冷たく濡らしたタオルを差し出すばあやより早く、部屋に現れたのはカオス様でした。真っ黒な長い衣を纏い、私を抱き上げます。それから目元にキスをいくつもくれました。驚いて目を見開く間に涙は乾き、しくしく痛む目元も楽になります。
「そんな風に泣くと、目が溶けてしまうよ」
ばあやと違う言い回しで、くすくす笑うカオス様。昨夜、私が眠る枕元で感じた声の冷たさは消えていました。いつもの優しいカオス様にほっとします。あの時は少し怖かったから。
「どうしたの」
甘い声が問うままに、ばあやの体が心配なのだと答えました。お母様の時のように治してもらおう、そう考えたのは事実です。少し困ったような顔をしたカオス様は、ヤクシ様の神殿で聖水を授かって塗るように伝えました。
「カオス様は治せないのですか?」
「……奇跡はね、何度も起こすものではないんだ」
神様には神様の決まりごとがあるのでしょう。頷いた私の黒髪を撫でるカオス様の指に、小さな傷を見つけました。赤い色がついているのは、きっと傷に血が滲んだのでしょう。さきほど、ばあやから受け取ったタオルで拭きました。
「ああ、ありがとう」
驚いた様子のカオス様に微笑み、神託に感謝するばあやの腰が早く治りますように……とヤクシ様を思い浮かべてお祈りしました。
「レティが祈ってくれるなら、僕が治せばよかった」
まあ! 子供みたいなことを言うカオス様がおかしくて、私は声をあげて笑いました。そこへ飛び込んだお医者様には、事情を説明してお帰りいただきます。お呼び立てしたのに申し訳ないことをしました。反省しなくてはいけませんね。




