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第42話 冷たくて怖い声でした

 カオス様をお見送りするはずが、なぜか寝かしつけられています。


「私、もう7歳ですので……一人で寝られますわ」


「お人形抱っこして眠るのに?」


「……っ、それでもです!」


 お母様の作ってくださったお人形は、毎日手入れをして大切にしています。もちろん眠るときも抱っこしていました。今は横に置いてるのに、どうしてご存じなのでしょう。ほらっと抱っこする形で胸の上に置かれて、両手で抱き締めました。


「本当は神様をお見送りして、それから眠るんですのよ?」


 順番がおかしいですと訴えたのに、カオス様は平然としています。


「ふーん。でもね、考えてみてよ。婚約者の女性に送られて僕が帰ったら、君は女の子なのに1人で部屋に戻るんだ。そんな婚約者がいる?」


「1人じゃありませんわ。騎士もばあやもいます」


 可愛くない受け答えをしてしまいました。こういう口答えは、男性に嫌われると聞きます。上目遣いで見上げる先で、カオス様はくすくす笑って肩を竦めました。


「そうだけど。僕はレティに見送られるより、君を送っていきたいんだよ」


 社交界では男性が女性を送っていくのはマナーとされています。でもそれは人間のマナーであり、神様には適用されないのでは? 疑問に気付いたカオス様が丁寧に説明してくれました。


「神の間に男女間の優劣やそれに伴うマナーはない。でもレティは人間の淑女で、まだ女神じゃないからね。僕は礼儀知らずになるのは嫌だし、レティを送って行ったり寝るまで見守るのは幸せだから誰にも譲りたくない」


 自分の我が侭だと言われてしまいました。反論しづらいです。温かな手が何度も、優しく黒髪を撫でていました。いくら精神が大人でも、体は子供のまま。昼間に神様の世界を旅して興奮した体は、眠いと訴えています。


「眠ってしまいそうです」


「眠ってくれていいんだよ」


「……先にご挨拶しておきますね。おやすみなさい、カオス様」


「うん。おやすみ、レティ」


 優しいカオス様の声を聞きながら、私は抗えずに目蓋を伏せました。その目元を手で覆われると、意識まで落ちていく気がします。


 それじゃ……邪魔者を片付けるか。


 聞こえた声は冷たくて、でも私への害意は感じません。今の恐ろしい呟きはカオス様だったのでしょうか。半分夢に意識を泳がせる私には判断がつかず、目蓋を覆う手が離れたところで完全に夢の中でした。


 今日見た枯れ木や大木が、青々と葉を茂らせて揺らす。足元の草原は柔らかな草で覆われ、白や黄色の野花が咲き乱れ、視線をあげれば美しい湖がありました。そこでカオス様と一緒にお昼寝をする夢です。夢の中でまで眠るなんて……私、よほど疲れていたのですね。


 ふわふわと心地よいまま、朝を迎えました。当然ながらカオス様のお姿はなく、ばあやがいつも通りに声をかけてきます。挨拶を交わしながら、昨夜の最後の声を思いだそうとしましたが、思いだせませんでした。あの時、冷たくて怖いと感じた声は――何と言っていたのかしら。

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