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第31話 憎悪と慈悲の抜け道

 破門される――それはこの世界から排除されることと同じでした。神様がすべての人々の頂点に立ち、偶像ではなく現実に降臨もなさいます。この世界で神様に拒まれることは、生きる権利を失うに等しいのですから。


「優しいなんて、心外だね」


 僕は厳しく罰したよ。生きる権利を奪った。そう嘯くあなた様の目は、少しも曇っていません。己に恥じる行為はないと知っているからでしょう?


「だって傷つけてはいけないのでしょう?」


「そう。簡単に死なれたら興醒めだからね」


 この方は、人当たりが良さそうな雰囲気で、どうして辛辣な言葉ばかりを選ぶのかしら。興醒めではなく、寝覚が悪いのでしょう? それに付け加える必要のない言葉もありましたわ。私の黒髪を撫でる指はこんなに優しいのに、そんな言い方では誤解されたと思います。


「殺してはいけない――そう加えられたのですよね。それは彼に生きることを強いる。つまり周囲の人は破門されたリュシアン様を生かさなくてはいけません」


 8歳の子どもが生きていく術はない。財産や権力を失ったご両親も、自分が生きるだけで手一杯でしょう。その上破門された息子の面倒はみられません。没落の原因となった我が子を、国王陛下や王妃殿下がどこまで愛せるでしょうか。


 厳しい状況ですが、愛する我が子を守ろうにも破門者への手助けは禁じられています。ただ……破門されただけならば、です。傷つけられないなら、追いかけられ石を()つけられることはないでしょう。奴隷ですら破門されない世の中で、リュシアン様を傷つけようとする人々は一定数いると思われます。貴族の方などは、今までの鬱積を晴らす意味で攻撃したかもしれません。それらは防がれました。


 私達を含め、貴族階級は労働を知りません。経験がない取り組みは、失敗も多くて実りが少ないのは当然でした。それを補うように「殺してはならない」と仰った。


「殺せないのなら、生かすしかありません。飢えて死にそうなリュシアン様を、見ぬ振りで通り過ぎれば間接的な殺人となり罪人です。ならば施さない範囲で食料を渡すことは可能でしょう?」


「へぇ。レティならどんな手を取る?」


「私なら……目の前に食料を落としますわ。貴族は落ちた食べ物を拾いません。侍従がゴミとなった食料を片付ける前に、リュシアン様が拾えば……彼の物ですわ。傷つけて取り上げる事ができません」


 貴族が落としたものは、侍従達が拾う。これはルールに近いマナーです。ただ拾うまでの時間に決まりはなく、ゆっくりでも叱られる理由はありませんね。王太子として人の上に立ったリュシアン様にとって、これは屈辱でしょう。


「彼が食べると思う?」


 そう聞いて首をかしげるカオス様の表情は、憂いを含んでいました。罰を与えるのは当然、その基準も間違っていない。だがまだ8歳なのに死ねとは言えなかった。憎悪と慈悲の間で揺れる感情が選んだのは……この結論なのですね。



「……っ、私なら食べます、わ」

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