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第26話 まずは破門から(SIDEカオス)

*****SIDE カオス




 僕は何も言わない。ただじっと彼らを見下ろした。その姿に気づいた神官長が、慌てて王太子を牢に入れるよう指示した。本来ならば王族の処罰は王族の役目だ。しかしここは神殿で、王族より高位の神に逆らった愚者を裁くのは神殿の権限だった。


「王太子リュシアン殿、本日この時をもって()()()を破門とする」


 貴殿と呼びかけるべき場面で、神官長は敬称を省いた。それは敬意を払うに値しないと神殿が宣言したに等しい。まずはひとつ――もちろん、破門程度で済ませる気はないけど。


「破門状は各国通達の上、神殿への掲示を義務付けるように」


 神官長の補佐らしき男が命令に従い、駆け出していく。口を塞がれ拘束されたリュシアンが睨みつけるのを、微笑みで応じた。転落はね、一瞬で終わらせたら勿体ないだろう? 君が後悔し、心から謝罪し、誰も同じ愚を冒さないような罰が必要なんだ。


「カオス神様、本日ご降臨くださいましたことに深く感謝申し上げます。あのような不届き者を御前に晒した非礼は、なにとぞご容赦いただきたく存じます」


「よい」


 一言で神官長の挨拶を切り捨て、僕は足を進めた。王宮内を歩く僕の足元には、ずっと花が散らされていく。別になくてもいいんだけど、これって誰が始めた風習だったかな。女神の誰かが言い出して、広がったんだよね。花びらを撒いた上を歩くの、レティは好きそうだね。それに似合いそうだ。


 女神として崇められる未来のレティを思い浮かべ、気分が上昇する。花びらに覆われた高価な絨毯を踏みしめた先で、複数の貴族が頭を下げていた。レティの父親であるラ・フォンテーヌ公爵家当主、王妃、宰相かな。他にも伯爵以上の肩書を持つ貴族が集まっているね。


 ちょうどいい。


「この国には神託を理解できない者がいるようだね」


 穏やかに口を開いた僕の声に、びくりと数人が肩を震わせた。宰相、王妃、それから王家を擁護する数人の貴族達だ。現世ではまだレティシアと関わっていないが、あの聡明だった王妃がここまで堕落するとは。誰が介入したのかな? 僕の計画を邪魔するなら潰すまでだけど。


「カオス神様、お声がけする無礼をお許しください。その……腕に抱いておられる方は、レティ……いえ、聖女様でいらっしゃいますか」


 ラ・フォンテーヌ公爵ジャン・クリストフ。この国の貴族家の中で、もっとも高貴な血筋を持つがゆえに「ラ」の尊称を名字の前に掲げる。レティシアの実父だ。ここで僕に声を掛けられるのは、彼くらいだろうね。それ以外は僕も神殿も許さない。


「そうだよ。先ほどリュシアンに嘘の通知で呼び出され、彼女は僕に助けを求めた。あまりに怖がるので、一時的に眠らせたけれど」


「……っ、リアンが!? し、失礼いたしました」


 思わず叫んだ王妃が慌てて口を押えてひれ伏す。王妃の座に就いてから、夫以外にここまで頭を下げたことはないだろう。腹を痛めて産んだ子が、神に逆らってその妻となる幼女を襲ったなんて……大した醜聞だよ。この国が亡びるくらいの騒動になるはず。


「僕が神託を出した意味を、その価値を……この国の王族は理解しなかった。ならば、この国は僕にとって不要だね。僕の愛しいレティを育てる環境なら、別の国でも構わないんだよ」


 ここまで後押しすれば、あとは勝手に転がり始める。人の世に戦乱を起こして楽しむ戦女神の気持ちが、少し理解できた気がするよ。

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