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入れ替わり令嬢、初めて恋を知る  作者: あさがお
第一章

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④友情と変わりゆく予感

 アンドレアが教室に戻ると、食堂から戻ってきたであろうイアンを見つけた。

 イアンは友人達と談笑していた。アルバートを見るときの彼はひどく意地の悪い顔をしているが、今は年相応の青年の顔で笑っていた。


 なぜこんなに絡んでくるのか、アルバートは心当たりがないと言っていたらしい。

 だが理由もなしに、ここまでしつこくするのはおかしいと思った。

 イアンなりの理由が必ずあるはずだ。


 こちらの視線に気がついたイアンが、また顔を歪ませて近づいてきた。

 アンドレアは先制攻撃に出ることにした。


「イアン、君はなぜ俺にこんなにもしつこく絡むんだ?何が気に入らない?」


 いつも無視をしていたアルバートがやっと声を上げたので、イアンは目を開いて驚いているようだった。


「俺は心当たりがないが、何か君が不快に思うようなことをしたなら謝りたい。もし何もなくて嫌っているなら、絡んでくることは止めて欲しいんだ」


 こちらに非があるなら謝罪すると真摯な態度も見せた。

 後はイアンがどう出るか、アンドレアはそれを待った。


「うっ……うるせー!俺はお前が気に入らないんだよ!」


「それは、ただ君の中で気に入らないというだけか?」


「そうだよ!お前の存在自体が気にくわない!見た目も、女にヘラヘラしているところも全部だ!目障りで吐き気がする!」


「なるほど、ではどうあっても君は俺に対する態度を改めることもなく、嫌がらせを続けるということかな?」


「そうだ!ずっと絡んでやるよ!嫌だったら、さっさと学園から去ってくれよ」


 話し合いは平行線だった。彼が気に入らないのはアルバートの存在で、謝っても無意味でどうすることも出来ない。


 そこで昼休みは終わり、教師が入ってきてイアンも席に戻っていった。


 どうするべきか、アンドレアは授業を受けながら、頭の中でローレンスに言われたことを何度も思い出して考え続けたのであった。



 □□



 夏も終わりだというのに、まだまだ暑い日差しが照りつけている。

 少し歩いただけで、額に汗がにじんでくるのが分かる。アンドレアは学園から少し離れたところにある、剣技場に来ていた。


 休息日は、基本的に自由に過ごせる。近くに家があれば帰れるし、寮で一日寝ていても良い。だいたいの者は町へ遊びにいくと聞いた。ルイスからは、町にはアルバートのファンがいるから、顔出さないと寂しがるよと言われたが、そこまでする義理はない。

 ルイスはお気に入りのカフェのお姉さんに会いに行くからと、楽しそうにしてさっさと出かけていった。


 アンドレアは運動服に着替えた。学園の施設はいつでも使用できるようになっている。

 体が鈍るから剣技場で運動したいと伝えると、ルイスはうへぇと気が抜けた声を出した。

 屋内の運動場なら多少生徒がいるかもしれないけど、この暑いのに外の剣技場は誰もいないよと笑われた。

 人が多いと気を使うのでその方がアンドレアには好都合だった。


 訓練用の剣を選んでから場内に入ると、誰もいないと聞いていたのに先客がいた。


 漆黒の髪をなびかせて、剣を振るう大きな男の姿があった。

 隙のない動きで、しっかりとついた筋肉が躍動する様は、見事としか言いようがなく呆然と見入ってしまった。

 さすが、学園で一番強い男の称号を得るだけあると思った。


「おい!いつまでボケッと見ているんだ。見せ物じゃないんだぞ。お前、何しに来たんだよ」


 アンドレアは声をかけられて、ハッとした。すっかり、観客になってしまっていた。


「あ、いや、失礼しました。なかなか見事な動きでしたので、感動してしまいました」


「なんだその、芝居を見た後みたいな感想は……。珍しくここに来るやつがいると思ったら、お前この間のリスじゃないか、少しは使えるのか」


 激しい運動にも関わらず、さほど汗をかいているようにも見えない。

 アンドレアを見て、面白いものでも見つけたみたいに、ニヤリと笑うライオネルの姿があった。


「お……、俺はリスではありません。独学と少し習ったくらいなので、ライオネル様の相手には力不足かと……」


「固いこと言うな!退屈していたんだ、ほら来い!」


 まさか、こんな強者と手合わせすることになるとは思わなかったので、促されるまま前に立った。

 体格差は明らかなので、無茶に突っ込んでくることはないと思った。アンドレアの強みはスピードと目だ。逆に言うとそれしかない。最初の一手で決まる。

 自分でも無謀だと思ったが、対峙してみて思ったのは、やるからには勝ちたいということだった。


「良い目をしているな、そうこなければつまらない」


 アンドレアは息を止めて、足を踏み出した。




 肩で息をして、汗が止まらない。

 手は痺れているし、もうしばらく立てそうになかった。


「おい、もう終わりか。鍛え方が足りないぞ」


 一方、ライオネルは汗一つかいていない、この炎天下で涼しい顔だった。


「化け物か、あんた……」


「一国の王子に向かって化け物かよ。まぁ俺にとっては褒め言葉だな」


 ライオネルには、子供の遊びのようなものだったらしい。

 初手をいとも簡単に防がれ、後は何をしてもかわされてしまった。

 アンドレアは一瞬でも勝てるかもなどと思った自分が恥ずかしかった。


「まぁ、体力が無さすぎるが、センスは悪くなかった。最初の一撃の後、俺の反撃をかわしたから、なかなかだよ」


 どうやら褒めてくれたらしいので、アンドレアは息を切らしながらお礼を言った。


「それで、少しは気が晴れたか?」


「え?」


 こちらを見ているライオネルの黒い瞳が揺れているように見えた。


「ここに来るときに、思い詰めたような顔をしていたからな。まぁ俺もそういう時は何も考えず、ひたすら剣を振るうときがある」


「………そうですね。少し気持ちが晴れました」


 剣を納めたライオネルが、アンドレアの横にどかっと座った。


「俺も敵わない相手がいるからな」


 学園のナンバーワンも、外の世界には敵わない相手がいることは確かだろう。

 ヒューバートは軍事国家だと聞くので、国には上をいく者がたくさんいるのかもしれない。


「おい、リス。なかなか運動になったから、俺が暇なとき呼ぶから付き合え」


 尊大な物言いも、王子であるライオネルにはよく似合っている。


「リスではありませんが、いいですよ。その代わり、少しは本気を出してください」


「バカ、俺を本気にさせたかったら、自分の剣でなんとかしてみろ!」


 そう言ってライオネルは豪快に笑った。汗だくで戦って、戦いが終われば笑い合う。

 アンドレアは男の友情というのが、羨ましくなった。



 □□



 直接抗議したからか、あれ以来イアンが大人しい。あからさまに嫌な視線を受けるときはあるが、直接暴言を吐いてくることはなかった。

 なんだか、嵐の前の静けさのようで、アンドレアは嫌な予感がした。


 週が始まってから、ここ数日。ルイスは昼食時忙しくしており、アンドレアは念のため中庭で昼食をとっていた。


 そうすると、約束しているわけではないのだが、どこからかローレンスが現れて、当然のように隣に座る。そしてアンドレアが食べ終わるのを待ってから、どちらともなく話し出すようになった。


「もしかして、ローレンスはいつも昼休みここで過ごしていたのですか?」


 いつもここで会うのは、アンドレアが占領するようになってしまったからではと思った。


「いえ、たまたま通りかかって、アルバートが見えたからお邪魔しているだけです」


「へ?あぁそうなんですね。それなら良かったです」


「ふふふっ、君と話すのが心地よくて、つい会いにきてしまいます」


「あぁ、それは俺もそうです。王子様って近寄りがたい雰囲気かと思っていたら、ローレンスもライオネル様も気さくで話しやすいし、すごく楽しいです」


 今日も天使のような微笑みのローレンスだが、気のせいか急に少し温度が下がった気がした。


「ん?ライオネルとはどこかで話しているのですか?」


 心なしかローレンスの笑顔がいつもの数倍眩しく感じた。悪いことはしていないのに、罪に問われそうなほどの威力があって体に緊張が走った。


「えっ、ええ。休みの日に剣技場で会いました。俺の稽古に付き合ってもらったんですけど……」


「そう、ライオネルは馬鹿力だから大変だったでしょう。そうですか、アルバートは剣をやるんですね。では次は私が指導しましょうか?」


 ローレンスは、いいことを思いついたみたいな嬉しそうな顔をして、一人分くらい空いていた距離を詰めてきた。


「ローレンスさ…あっ、ローレンスがですか?」


「私じゃ力不足ですか?」


「いえいえ、そんな決して……」


 いつの間にか、体が触れ合いそうな距離まで近づかれてしまい、無駄に近い距離に緊張して心臓がばくばくと鳴り出した。


「じゃあ、決まり。次の休みの日は剣技場で」


「はっ……はい」


 ローレンスはライオネルと比べると、細身だし背も低いが、ライオネルが規格外なので、アルバートよりは背も高いし、体格もガッチリとしている。

 王族は小さい頃から剣を嗜むと言われているので、ローレンスもかなり強いのではないかと思われた。


 次の休みはローレンスと、ライオネルは彼の暇なときに。

 アンドレアの練習相手は、とても贅沢に揃ってしまった。アルバートに交代した後は、転んで足を怪我でもしたということで、上手く断ってくれれば問題ないだろうと思った。


 憧れていた学生生活が送れていることに、アンドレアは幸せを感じていた。


 だが、嫌な予感は当たるもので、ついに恐れていたことが起きてしまった。






 □□□


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