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忘れられない男

作者: N(えぬ)

 人間とコンピュータを比較したとき、人間の欠点として目立つのは「忘れてしまう」ということだろう。コンピュータは一度得たデータを忘れてしまうことはない。「うっかりしていた」「そういえばそうだった」などとは言わない。人間が過去の膨大なデータをすべて間違いなく経験として生かせれば、それだけでもすばらしい能力になる。

 もうひとつ人間がコンピュータに劣る可能性がある点は、「感情」だろう。人間はその日そのときの気分でも発揮できる能力に差が生じる。コンピュータに「きょうは気がのらない」とか「あの上司は嫌いだから、適当にやろう」なんてことはない。

 これらのことは、コンピュータと比較しなくても、よく人間の能力として取り上げられる点だ。「経験豊富で冷静な人」などというと、いかにも仕事ができるという感じがする。言い方を変えて「決して忘れず、感情を表に出さない人」というと、少しイヤな感じ、怖い感じがしないだろうか。



 人間の脳に直接接続し、視覚聴覚で得たデータをすべて整理してデータ化蓄積する記憶補助装置が開発された。データはすべてオンラインで装置を開発した会社の巨大記憶装置管理センターに送られ管理されている。自分で経験したことがないデータも共有したり、専門的知識のデータパックも売られていて、自分の記憶として使用できる。ただ、それをすべて有効に処理できる能力がなければ、単なる記憶に過ぎない。それに、人には「忘れたい記憶」が誰でもひとつやふたつある。忘れたいのに忘れられない、それで困っている男が一人いた。


「ああ。また仕事で失敗した。どうしたらいいんだ。こういうことで気が滅入ると、ボクは余計に能力が発揮できなくなるタイプなんだ。どうにかならないものか。記憶力を補助できるのに、消去はできないなんて」

 彼はそんなことを考えながら、とぼとぼと家に帰り、よく眠れない夜を過ごし、そして朝を迎え会社に向かった。「会社で上司になにか言われるかなあ。イヤだなあ」と思っていた。

 オフィスに入ると上司がいた。「よし、ここは自分のほうから上司に話しかけて、積極的なところを見せてみるか」そう思って話しかけた。

「課長。きのうの件なのですが」

「きのうの件?なんかあったか?そもそも君、何の仕事をしていたっけ。ああ、そのことか。小さい小さい。そんなことはどうでもいいんだよ、重要じゃないんだよ」

 彼のことは記憶されていなかった。

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