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1.寂しかったので仕事帰りに野良悪魔と契約した

 今日も出社時間に遅刻してクソ上司に怒鳴られた。

 「社会人としての自覚はあるのか!」って。


 社会人として、でなく「『奴隷』としての自覚はあるのか!」の間違いじゃないか?

 なーんてことを考えていたら、「なんだその態度は」と説教時間が10分も伸びてしまった。


 そんなことを考える俺、横川智也(よこかわ ともや)は23才、ピカピカ(?)の新入社員10ヶ月目だ。

 

 こんな俺の有様をみて、「これだから平成一桁生まれのゆとり世代は、社会を舐めてる!」とか思わないでくれよ。


 昨晩(というより今朝?)の仕事が終わったのは午前3時30分だったんだ。そして、午前9時17分現在絶賛説教中。なんなら褒めてほしいくらいだ。ただ、このクソ会社の朝礼は午前7時55分だが。

 いまクソ上司の怒声に大きくなったので、いま俺が腕時計をチラ見したのもバレたかもしれない。


 いつもなら(残念ながらこれが俺の日常である)こんな徹夜確定コースの日は、そのまま会社のオフィスで爆睡してそのまま出社(?)をキメる。


 しかし今回は、昨日の営業帰りに少しでも時間を稼ごうとダッシュしたら、スーツのズボンが破けてしまったので、一度、家に帰ってスーツを着替えざるを得なかったのだ。


 俺はボロボロのアパートに一人暮らしなんだが、部屋についたら一気に力が抜けてベッドにダイブしてそのまま寝てしまった。

 この『そのまま』は、『スマホで起床用のアラームを設定しないまま』って意味な。そして寝坊してしまった。


 ぶっちゃけいまもめちゃくちゃねむい。

 話がまったく頭の中に入ってこない。クソ上司の怒号もただの鳴き声にしか聞こえない。


 そもそも最近、自分の心を守ろうとしているのか、俺の行動に対して否定的な言葉が聞こえにくくなってきた。

 歳を重ねると耳が遠くなるのは、耳それ自体というよりも脳の問題だという話を聞いたことがあるのだが、俺は23才にしてこの言葉が本当だったのだと身を以て実感している。


 人間、聞きたくないことは聞こえなくなるようにできているらしい。


 クソ上司の長話を、外面(そとづら)は神妙な顔つきを装って、内心は適当に受け流して、ようやく自分のデスクに向かうことができた。


 ああー、昨晩の時点で(から)にしたはずなのに、もうメールボックスに新着60件以上溜まってるよ。寝ぼけた頭でこれを読み進めるのキツいなあ。

 


・・・・・・



 そのあと、朝から妙に機嫌が悪いクソ営業部長から、営業資料の見出しフォント選びにセンスがないとか、遅刻した分際でなに昼飯食ってんだとか、よくわからない理由で怒鳴られたりしながらも、なんとか今日という日を生き延びることができた。


 ……この説教時間がなければもっと早くに帰れるんじゃないの?


 流石に死ぬんじゃないかと思ったのか、クソ上司が、

「疲れているだろうし、今日は早く帰っていいぞ」

 というありがたいお言葉をくださった。


 こいつの感覚だと、22時30分は帰るにはまだ早い時間らしい。

 あと、こういう言葉をパフォーマンスで言ってくるが、別に俺の仕事を手伝うわけでもないので、早く(?)帰った分の仕事ははしっかり明日の俺にのしかかる。


 しかしそれでも、とりあえず帰って寝てもいいんだ! という誘惑には逆らえなかったので、俺は急いで帰宅した。


 俺の職場から自宅までは、徒歩を合わせて片道1時間ほどかかる。

 いま自宅からの最寄駅を降りたところなので、ここから30分は歩かねばならない。


 数ヶ月前までは、8,000円で購入した格安自転車で自宅と駅を往復していたんだが、早く帰りたすぎて毎日全力でペダルを踏んでいたらチェーンがイかれた。自転車屋に行けばいいのはわかっているのだが、修理に行く時間がなかなか取れない。


 流石に寝る前にシャワーは浴びなければ体臭がキツいので、早く寝れても0時くらいになるなあ。

 

 とか考えながら下を向いて歩いていると、路上で横になって肘をついている一人の少女を見つけた。

 黒髪で褐色気味の少女だ。顔立ちは幼い雰囲気で、年齢は中学生から高校生くらいか?

 今日はそれなりに寒いはずなのだが、なぜか黒いワンピースを着ている。


 しかし、本人の表情は余裕そうだ。やせ我慢かもしれないが。


 家出娘だろうか。しかし、寝るにしても公園のベンチとかいろいろあるんじゃないか。

 女の子なのだし、それでも危ないことには変わりはないけれども。


 しかし、路上で寝るって……。

 このあたりは車通りが少ないとはいえ、黒い格好だと目立たないし、轢かれても文句は言えないぞ。


 「あの、こんなところで寝たら危ないですよ」


 とりあえず声をかけてみた。会社ではいつも敬語だから、つい敬語で話しかけてしまった。

 まあ明らかに年下に見えるが、初対面だし敬語で話しかけても普通なのかな。企業内に隔離された生活を送っており、『普通』がなんなのか最近わからなくなってきているので微妙に混乱する。


 褐色少女は口を開いた。


「おまえ、なにか叶えたい望みはあるか?」


 あっ、これR18展開だ。おじさん、おうちに泊めてくれるなら()()()()してあげるって展開になるやつだ。


 少女はそのまま続けた。

「おまえの(たましい)と引き換えに、どんな望みでも叶えてやろう」


 ただの中二病じゃねえか!


 ……あれ、もしかして俺が知らないだけで、こういう社会の裏側的なやりとりってこういう話し方するものなの? 魂ってどういう意味の業界用語ですか?


「あ、えっ、それってどういう意味で……」


「言葉通りの意味だ」


 どういう意味だよ。


「なにもないのか?」と少女は微笑む。


 よくわからないが、このまま路上に放っておくわけにもいかないよな。


 どうしたものかと考えて、俺は数秒黙っていると、再び少女は口をひらいた。


「本当になにもないのか? 本当に?」少女がだんだんと不安そうな表情になってきた。


「あ、ちょっと待って」


 段々と馬鹿らしくなってきたからか、自然と敬語が抜けた。

 あまり深く考えずに、いまの俺の望みをそのまま言えばいいか。


「じゃあさ、俺の話し相手になってくれない?」


 細かいことを気にせず即決で契約してしまうところ、就活時代からまったく成長していない。

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