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 あれから月日が経ち、私は多くのレッスンを重ね、フィルマとも手紙のやりとりやお茶会などで定期的に会い平和に過ごしてきた。良好な関係を築けてきたので今ではヴィオレットに対して嫌悪感などはないと思われる。

 そして今日、ゲームの舞台となる学園生活の始まりが訪れた。あの大好きな世界を可愛いヒロインを見れる。楽しみ半分不安半分てところだ。今の私はゲームの様なヴィオレットではない。邪魔せずにイベントスチルをこっそり見てニマニマするのだから。後は、結婚相手を探さないと。公にフィルマの婚約者だと知られてるため難しいとは思うが……。

 けれど以前、母の母国である隣国から母の友人が来た際にはフィルマ殿下の婚約者じゃなかったらうちの息子にほしかったわと言われたくらいだ。なので周りが認める淑女になってきたと思う。家柄も申し分ないし。婚約破棄になったとしても十分貰い手がある、はずだ。

 

 断罪など起きぬよう平和な学園生活を目指そう。目の前にはゲームでお馴染の学園が見えてきていた。古城のような出で立ちは映画のセットのよう。それよりも美しいけれど。




 「え?私がですか?」

 さかのぼること数日前。新入生代表の挨拶をすることになったことを父より伝えられた。

 「ああ、この間入学前のテストをしただろう?ヴィオの成績が良かったというのと、侯爵家でありフィルマ殿下の婚約者もあって名前が上がったんだ。どうかな」

 勉強に勉強を重ねてきた私は自分で言っても出来が良くなったと思う。まさかの新入生挨拶だなんて。


 ――これは、ヒロインのイベントだわ。


 「私で良いのですか?学園には貴族だけではなく平民からの成績の良い方もいらっしゃいますし、後、それに……フローレス男爵のご令嬢であるカノン様もふさわしいかと思いますが」

 

 カノン・フローレス。ゲームのヒロインであり、元は孤児で教会の孤児院にいたところ三年前にフローレス男爵の養女となる。聖なる癒やしの力を偶然フローレス男爵に発見されたためだ。乙女ゲームにはよくある様な平民の身からのシンデレラストーリー。本来はカノンが新入生代表の挨拶をするのだが。緊張するカノンに優しく声をかける生徒会に所属するフィルマ。


 「ああ、その令嬢の名前が上がったが、貴重な力の持ち主であるしな。だがフィルマ殿下やシオンもセルゲイの息子もヴィオが良いと口添えしたみたいだから。殿下直々に言われれば学校側も断れないだろうし」

 「……」

 権力の横暴だ。逆に嫌がらせかな、カイル様もだなんて。絶対面白がっている。

 「やってくれるかい?大丈夫だよヴィオなら。私もヴィオが優秀で誇らしいし、まあそうでなくても私のヴィオはいつだって素晴らしい私の天使だ」

 「ありがとうございますお父様。分かりました、お話受けさせていただきますわ」

 

 あまり日を浴びることがなかった前世と比べると自分って凄いよなあと思う。本当は変わりたいって思ってたからか、ヴィオレットを通して紫織とはまた違った人生を過ごしていることにゲームどうこうではなく実は楽しんでしまっている。

 だからこそヴィオレットを、私を、大事にしたい。死んでなるものか。


 

 「ヴィオおはよう」

 学園に着いた私を出迎えたのは、今では愛称で呼んでくれるフィルマ殿下の姿があった。あのフィルマがヴィオレットに微笑みかけているのだ。この五年間の賜物である。

 「おはようございますフィルマ殿下」

 「……」

 挨拶を返すと無言でこちらを見つめてくるフィルマ。

 「あの、」

 「フィル」

 「……フィル様」

 私が愛称で呼ばれる様に、フィルマの事も愛称で呼ぶよう言われているが、慣れない。呼び捨てなどもっと慣れないというかありえない。様付でご勘弁を。

 「ふ、制服似合っている。教室まで送ろう」

 「え、無理です!あ、いえ……」

 教室まで来られたら注目の的ではないか。只でさえ今でも他の生徒から見られているのに。フィルマは何も人の目など気にしてはいない。さすがはこの国の王子様。

 「ぶはっ、無理って、フィルにそんな事言う女性ヴィオ嬢くらいだぜ」

 「カ、カイル様!」

 後ろから声をかけてきたのは、成長したカイルだった。フィルマとは定期的に会っていたので成長する容姿を間近で見てきたが、カイルとはたまにフィルマと一緒に会うくらいで最近は会っていなかったため、ゲームと同じ姿になったカイルに思わず見とれてしまった。

 逞しい。程よく鍛えられた筋肉、肩幅も広く、胸板も厚め。服の上からでも分かる上半身の良さに見とれる私は変態、……ではない。

 「チッ」

 そんな私にフィルマが舌打ちをしていたのには気付かない。

 「俺に見とれてると誰かさんが恐いんだけど」

 「え?あ、いえ、カイル様がとても立派になられて」

 「くく、俺の母親か」 

 カイルは推しキャラだが今のヴィオレットにとって恋愛感情はない。もう一人のお兄ちゃんみたいなそんな感じだ。あんなにゲームではウハウハしていたのに。ヒロインとの絡みが見たいからだろうか。

 「ヴィオ」

 「あ、お兄様!」

 そうしていると、本物のお兄様シオンがやってきたので側に行くと頭を撫でてくれた。イケメンで甘いシオンに前世の記憶を取り戻してからは私はもう堕ちていた。ブラコンというものに。

 「ヴィオとても可愛いよ。可愛いすぎて変な虫がいるから教室まで送ってあげる」

 「おい、変な虫って俺ら?」

 「チッ」

 シオンとこの二人の関係も良好だ。さすが学園スリートップ。 

 結局、シオンに教室まで送ってもらった私だがやはり注目を浴びていたのだった。


 「ヴィオレット様ごきげんよう」

 「マーガレット様ごきげんよう」

 教室では学園に入る前に出来た友人、マーガレットが声をかけてきた。ゲームでは取り巻きの一人であったが今では仲の良い友人。この取り巻きこそが、ヴィオレット様に頼まれて!とか何とか涙ながらに訴えて裏切るのだから。自分の保身の方が大事だ。ヴィオレットに逆らえなかったからだが。

 「シオン様今日も素敵ですわね」

 ちなみにシオンファンである。マーガレットには婚約者もちゃんといるのでアイドル感覚らしい。

  「ヴィオレット様、新入生挨拶するのでしょう。さすがですわ!さすが私のヴィオレット様です」 

 ……というよりエインズワース兄妹ファンかもしれない。と薄々気付き始めてきたけどまあいっかな。根は良い子だし。

 

 しかし、この子をちゃんと躾しておけば良かったと思ったのはもうちょっと先の話。



 その後も何人かと挨拶を交わし、新しい友人も作り着々と人脈作り。そういえば、ヒロインは?カノンがまだ教室にいないのだ。

 ――は、イベント‼

 「すみません、私少しお手洗いに」

 忘れていた。フィルマとのイベントの前に起こるイベントを。教室を出ると足早に歩き、人気がなくなると慌てて走った。学園内の神殿に。

 

 神殿で祈りを捧げるカノンと出会うのは神官長の息子、ノエル。

 

 『此処立入禁止なんだけど』

 『あ、すみません、あまりにも綺麗で。それに何だか身体が暖かくなるようなそんな感じで』

 『!……彼らは歓迎してるみたいだね』


 聖なる神殿は祀りごと以外立入禁止となっているがノエルが神官長の息子ということで管理もしている。そこへ現れたカノンの力にすぐ気付き興味をもつのである。

 ノエルは一つ上だけど少し童顔天使な顔立ち。しかし生意気毒舌な性格をしている人物だ。私の好みではないけれどイベントは見たいってものよね。

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