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嘘……今此処で会うの?
「フィル、おめでとう」
「はあ、今来たのか?」
突如として現れた少年は殿下に対し軽く振る舞う姿に仲が良いと伺えた。だって私は知っている、この人物を。
「悪い悪い、ちゃんとプレゼント持ってきてるぜ」
「期待しないでおくよ、カイル」
カイル・セルデン。騎士団長であるセルデン侯爵の嫡男であり、カイルも騎士を目指し剣を持たない日はない。一見適当そうに感じるが、筋の通った熱い男。ちなみに将来は逞しい肉体になる。
「ん?」
すると、カイルが私に気付きこちらを見てきた。子どものカイルも素敵すぎて見とれていた。
「……あ、お初にお目にかかります。ヴィオレット・エインズワースと申します、セルデン様」
慌てて挨拶をすると、カイルも自己紹介してくれた。この日に会うのか、それもそうよね。フィルマと同い年の身分の高い少年、今日のこの場に居ないわけがない。
「ああ、よろしくな。そんな固くならなくてもいいぜ。俺の事もカイルで」
フランク過ぎる。エインズワースと並ぶ家柄ではあるが年上だ。そんな失礼な態度をとるなど恐れ多い。
「……ではカイル様よろしくお願いいたします」
兄貴肌というか、気さくな感じはこのフィルマの心をも開く人物でもある。剣の腕は強く、頼りがいのある、少し強引なカイル。
『お前が国を皆を癒やすというのなら、俺はお前だけの騎士になりずっと守ってやる』
『愛してる。俺のお姫様』
けれど一途でヒロインを大きな愛で包み込む。私が最も推していたキャラクターでもあったりする。騎士キャラって何か好きなのよね。その人物がまさに目の前にいることに心の中で興奮していた。
「へえ、」
カイルがニヤニヤしながら私達を見てくる。
「何だ」
「別に。珍しいなって」
しかし、その意味ありげな顔に私は固まった。フィルマと仲の良いカイルだ。つまりヴィオレットの悪評を知っていそうな気がする。
カイルは基本誰とでも仲良くなる人物だが、特に認めた相手への信頼や忠誠は強く騎士の鏡そのもの。その相手に害のなりうる人物は容赦なく排除しようとする。フィルマやヒロインの害となるヴィオレットがまさにそう。ヴィオレットの喉元に剣を突き刺し、冷たい瞳で見下ろすスチルはヒロインへと見せる顔と全く違う。フィルマの婚約者だろうと認めていない。嫌悪の対象であるヴィオレットへの態度は厳しいのだ。
「ふーん、プレゼントね」
ヒロインとまだ関わっていない今そんなにもヴィオレットに興味を持っているわけではなさそうだけど。ただのフィルマの我儘な婚約者くらいにしか。だけど未来は違う。推しキャラに嫌われるってどうなの。折角の大好きな世界なのに。
「お前早く行けよ」
「えー、冷たいなー。そのブローチ綺麗な色だな似合ってんじゃん。エインズワース領の物だよな」
フィルマの言葉も軽く交わし、先ほど渡したプレゼントを見てそう言ってきた。
「はい、我が領地の鉱山で採れる物です。フィルマ殿下の瞳と同じようにとても綺麗でしょう。今日までに加工も間に合って良かったですわ」
「な……」
私の言葉に若干狼狽えたフィルマに疑問を持ちながらカイルに話す。
「くっ、」
「あの、?」
いきなり笑い出すカイルに、何か変な事言ったかなと思ったが特に言ってはいない。それなのにカイルが笑いを堪えるように見てくる。
「いや、本当に綺麗だ。ただ今年はまともすぎて、」
「カイル」
そんなカイルを咎めるフィルマ。……今年はまとも?
――何故知っている。去年の、お世辞も言えないボロボロの刺繍のハンカチの事を言っているのだとすぐに気付いた。
「あ、いや、悪い。去年、知らなかった侍女がゴミだと思ってハンカチ捨てそうになって慌てて探しまくっていたフィルを思い出して」
「っ、カイル!」
え?あの、ボロボロハンカチのこと?え、どういう事?フィルマを見ると怒りながらも照れたようにしてみせ、私とは顔を合わせないようにしていた。何故だか少しだけ胸がドキドキしてくる。ハンカチ捨てて、ないの?
「やー、まあ、良かったな」
何が良かったのかは分からないけど、カイルは一人でうんうんと頷いている。
「本当にどっか行ってくれないか」
溜息をつくフィルマだが、二人は本当に良い関係なんだなあと思った。
「殿下……」
「ん?」
「私、刺繍の猛練習初めましたの」
そう言った私にカイルが堪えきれずに吹き出した。というか二人ともイメージと違う。子ども時代だから?ゲームの舞台が始まってないから?
「はあ、面白いねヴィオレット嬢。よろしければ俺と踊ってはいただけないでしょうか」
今度は落ち着いて微笑んだカイルが綺麗に礼をする。フィルマもだが本当に12歳ですか、と思うくらい優雅。少し驚いた後フィルマを見た。
「カイルは意外と上手だ。踊ってくるといい。君のダンスは素晴らしかったから」
わ、笑った……。
「おい、意外は余計だ」
「では、ヴィオレット嬢を頼む」
フィルマの微笑みにドギマギしつつ、カイルに私でよろしければお願い致しますと返した。
「……お手並み拝見、てところかな」
それは何を?ダンス?もしくは、カイルの瞳がまるで私を試しているようで、フィルマの隣にふさわしい者かそんな風に感じられた。
「……お手柔らかにお願いいたしますわ」
あ、スイーツ達がまた遠のいたな……。




