2
「んっ、……」
次に目を覚ますと、やっぱり夢で此処は天国だなんて……あるわけなくて、先ほど見た部屋の中だった。やっぱり夢じゃない。再び鏡の前に立つ。
「美少女……がいる」
これが私。性格云々としてあの両親の遺伝子を受け継いでいる。改めて確認すると金髪ロングに少しウェーブがかかり、白い肌、赤い唇、アメジストのような瞳、子どもでこれって凄いわ。第一印象だけであれば誰もが見惚れるだろう。
「どうしようかな……」
前世の記憶を思い出したことで、悲観する。ゲーム通りに事が進んだ場合命の危険が伴う。ヒロインを虐めない関わらない何とか穏便に。もういっそ婚約破棄されたい。攻略対象者のような見目麗しい男性ではなく普通の、そう、フツメンのゲーム本編とは関わりのない人と結婚したい。攻略対象者達は見てるだけが平和だ。ニマニマとヒロインとのイベントを。婚約破棄に関しては学園でヒロインと王子が出会い順調に育み、私はそれを応援する。そうすればきっと平和に婚約破棄をできるはず。
――まずはヴィオレットの腐った根性を直していかなければ。目指すは立派な淑女。ヒロインと王子を優しく見守る令嬢となってやろうじゃないか。
「ヴィオ!起きて大丈夫?」
そこへ、私の様子を見に来たのかシオンが部屋へ入ってきた。うん、可愛い。後数年すると男前度がぐっと上がる兄。フィルマの右腕となる人物だ。
「ええ、もう大丈夫ですわお兄様、心配かけてごめんなさい」
「……」
私が応えると、シオンが目を見開き驚いた表情になる。固まるシオンを見つめる私に我に返ったのか微笑みを見せた。
「どうしたの?何だかしおらしくて可愛い」
……!何その甘い笑顔。中身21歳の女子大生は12歳の少年にときめいた。決してショタコンではないが。シオンが私のお兄様。
――悪くないです。
「ふふ、お兄様はいつでもかっこいいですわ」
どうしよう愛でたい。もう一度言うがショタコンではない。ゲームのキャラが目の前に居ることに少しの興奮。最推しのキャラに会ったらどうなるのか。
「……ヴィオが素直すぎて天使度が増してる」
喜んでいいのかなこれは。
「元気になって良かった。けれどしばらく湖は禁止。さあ食事の時間だ行こうか」
シオンが私の手を取る。優しいお兄様、このシオンとの関係をゲームの様に壊したくはないなと繋がれた手を見つめながらそう思った。そして改めて決意する。
「レッスン時間を増やす?」
家族で一緒に夜の食事をとる最中、私は切り出した。学園は15歳から入学。それまでは家庭教師をつけて勉強したりするのがこの国の貴族の基本。今でも家庭教師はいるがヴィオレットはよく教師を首にしていてた。間違いを指摘、注意されるだけで首にするのだ。レッスンに対する姿勢が貴族令嬢らしからぬものだ。
「はい、今までのことを反省ししっかりと励みたいのです」
仮に穏便に婚約破棄されても、貰い手がないと困るのだ。エインズワース家の誇りにかけて、フィルマと破棄になっても縁談が舞い込むような淑女になるべく今から変えていかなくては。この甘すぎる親にほだされすぎるのも問題だわ。父親であるアルフレッドは外では物凄く厳しい宰相なのに、内では甘々なのだから。
――ギャップ萌えも悪くないけど。
こんなにも素敵な家族なのに、どうしたらヴィオレットの難な性格が生まれるのよ。……ゲーム設定って怖い。
「ヴィオは頑張り屋さんだね。そんなに、無理しなくても良いんだよ」
はい駄目。仮にも今の所は殿下の婚約者。ゆくゆくは王妃になるというのにこのままでは駄目なのに甘すぎる。破棄するとしても。
「もう貴方、ヴィオが立派な女性になる事を邪魔してはいけませんわ」
「ヴィオはまだ10歳だ。まだまだ私の可愛い天使なのに更に天使になったら下衆な男達の注目の的だよ。只でさえいけ好かな……ゴホン、フィルマ殿下の婚約者にされてしまうなんて、私のヴィオが王族に穢れてしまう」
アルフレッドが何だか残念おじ様に見えてきた。けれど婚約にそんなには乗り気ではないということね。まあ政略結婚だし。
「お父様、私もっと勉強したいのです。ダンスだって少々、いえ下手ですし、お父様の娘がそんな風に見られたくないのです。お父様のように立派な人間になりたいのですわ。それにお父様のような素敵な男性と結婚したいですもの」
「ヴィオ……」
遠回しにフィルマ殿下と結婚したくないようなことを言ってみたり。
「僕は良いと思うよ。一緒にダンスのレッスンしよう?それにフィルマ殿下の誕生日パーティーは半年後だし」
紡がれたシオンの言葉にピシッと固まった。誕生日パーティー?
そういえば、ゲームで子ども時代のフィルマ編というフィルマ視点のシーンがありその中に誕生日パーティーがあった。そこでの舞踏会で婚約者のヴィオレットとダンスをするシーンがあるのだ。義務として踊るのだが、あまりにも上手いとはいえないヴィオレットのダンス、あろうことかフィルマの足を踏んだり転倒したり。フィルマとしては自分の誕生日なのだから醜態は見せられないのにこの婚約者は足を引っ張るばかり。
――ヴィオレットに大丈夫だと優しく言うが瞳はスッと冷えて笑っていない。言葉と表情が噛み合っていない事にヴィオレットは気付かない。
「お父様、是非ダンスの練習を半年間みっちりやらせて下さいませ」
私のスパルタダンスレッスンの始まりだ。
「お兄様、また足を踏んでしまったらごめんなさい」
「くす、ヴィオにならいつでも踏まれてもいいかな」
……。ダンスレッスンを初めて早3ヶ月。このヴィオレット、まじでダンスが下手くそなのだ。紫織の時も運動神経は皆無であったが。何度シオンの足を踏んでしまったか。それでも最初の頃よりは上達したと思う。音楽ではヴァイオリンも習い初め、リズム感も身についたし、シオンの剣の授業に参加しては驚かせながらもちゃっかり混ざっては体力をつけた。体幹って大事よね。
「ヴィオ、とても上手だよ」
「お兄様のリードが素晴らしいのですわ」
シオンのダンスも更に磨きがかかっていて、麗しの貴公子は伊達じゃない。攻略対象者の中でもダンスはピカイチ。ヒロインとのダンスシーンでは至近距離で甘く囁きながらヒロインにシオンの魅力をさらけ出す。
「殿下の誕生日パーティーでも私と踊って下さりますか?」
なんならずっとシオンと平和に踊っていたい。
「もちろんだよ。殿下と踊ったら何回でも。僕のお姫様」
「私は一番最初にお兄様と踊りたいです。だって緊張もほぐれると思いますし……」
初っ端、フィルマの前に立たされるなんて地獄かも。けれどシオンは困ったように笑った。基本的にパートナーのいる者がファーストダンスをする事になっている。シオンにはパートナーとなる婚約者はいないが、ヴィオレットにはフィルマという大物がいるのだ。なので兄だからといってファーストダンスをすることは失礼にあたる。
「大丈夫、ヴィオなら上手くできるよ」
私を安心させるかのように、おでこにキスを落とすシオン。誕生日パーティーまで後3ヶ月。新たなヴィオレットとしてフィルマの前に立つまで、汗滲む日々が続いたのであった。
「ああ、あんなにも魅力的に踊るなんて、あの笑顔を見てごらんアリーシャ、10歳で他の男に見せるなどもってのほかだ」
「はあ、10歳でもレディなんですから、ふふ、化けますわよ」
「嫌だ、王妃なんて嫌だ。ずっと僕の側に置いておきたい」
「美しい蝶は羽ばたくものですのよ。私が貴方の元にきたように」
「アリーシャ……」
「それよりアル様、……お仕事は?」
「……」
兄シオン 乙女ゲームの攻略対象者
父アルフレッド 宰相
母アリーシャ 隣国の王女の身から降嫁




