プロローグ
「ん、っ、は、」
水がっ、息、できな、
ヴィオレット10歳。大好きな家族に囲まれあの憧れの殿下と婚約者になり毎日が楽しい日々。早く会いたいなあ。私の王子様だもん!何でも手に入り、皆私の言うことを何でも聞いてくれる。
だって私はとても可愛いお姫様だもの。王子様の隣は私みたいなお姫様って決まってる!
天気の良い日、家の近くの湖に遊びに来ていたヴィオレット。しかし、カモに気を取られ足を滑らせて湖に溺れてしまう。そんな中、ある映像が頭の中に入ってきたのだった。
日向紫織、大学生活真っ只中。花の女子大生とは無縁な私の休みの日は、大好きな乙女ゲームを楽しみながら過ごしている。そんな私に親友である美香が、語学留学を兼ねて海外に行こうと言い出した。大学生活を私より満喫する美香は4年間なんてあっという間なんだから、今のうちに楽しむの!と意気込んでいて、紫織なんて彼氏もできずに遊ばずに、干からびてしまう!ひと夏の経験でも体験しなきゃ!なんて言われてしまう始末。
結局、あれやこれやで人生初の海外へと旅立った私だが、まさかあんな事になろうとは……。
「うわぁ、綺麗!」
エメラルドグリーンの海、青い空、まさにそこは日本とは違う南国の地。リゾート地でもあるそこは多くの外国人で賑わっていた。あれだけ面倒だと思っていたが、実際に来ると何だかんだで初海外に胸をときめかせていた。
語学学校での勉強と、海水浴、ホームステイ先の家族との団らん、夜は持参したポータブルの乙女ゲームをたまにしたりなんてして、短い期間の海外を満喫。
親友の美香は同じ語学学校に通う外国人とイイ感じになっていたりする。さすが恋に生きる親友。語学も上達しているし。恋も勉強も一生懸命な美香が本当に凄いなと感心する。
「……私に彼氏なんてできるのかな」
でも、今はこのウィリアムの好感度をあげないと!ふふっ。
今ハマっているゲームを手に、顔をニヤつかせるのだった。
短期の語学留学も終盤、ナイトクルーズに行くことになった。
綺麗なサンセットを望んだり、蒼の洞窟など神秘的な場所はまるで非現実的な空間で心癒やされる。
――綺麗な星空の下、そんな穏やかなクルーズも束の間。
ドゴォーンッ!
「きゃあっ」
な、何?何かにぶつかったような音、激しく揺れる船が傾き一気に海の水が入ってくる。そして瞬く間に暗闇。
「んっ、…っは、」
――苦しい。息ができない。
大量の水が気管に入ってくる。服の重みで身体はいうことを効いてくれない。この状況にパニックを起こし、必死にもがき続けた後、私の意識は完全に途絶えたのであった。
「……さまっ!ヴィオレット様!」
途絶えた思考の奥深くで誰かを呼ぶ声が聞こえたような気がした。